昼食に寿司屋に入った。カウンターに座って前を見ると壁に水槽が置いてあり、中に何匹かの海魚が泳いでいる。アジが3匹、タイが1匹、名前は知らない朱色の魚が1匹、ハゲが1匹、カレイが1匹いた。水槽の中には金属製の四角い籠が取り付けてあって、中にクルマエビらしいのと、サザエがいる。
近頃水族館には行っていないから、魚が泳いでいる姿を久しぶりに見たので、注文した寿司が運ばれてくる間、茶を飲みながらその様子を眺めた。アジは鮮魚店などで見るのと違ってきれいに輝く白銀色をしている。胸鰭を広げてゆっくりと泳ぎ回り、尾鰭を見せて少し底の方に向かっている後姿は着陸しようとしている旅客機のように見える。その中の1匹は時々風船ガムを膨らませるように、口から得体の知れない丸い袋のようなものを出してはすぐに吸い込む。タイは水槽の中ほどを泳いでいたが、やがて底に敷いてある小石の上に体を置いてガラスに凭れ、鰭だけを動かしている。尾鰭や鱗の一部が白っぽく傷んでいるようで、何かぐったりとして弱っているように見えた。ハゲは青い色の鰭を動かしながら水槽の中央に空中停止しているようにしている。口がひどく突き出た面白い顔をしていたが、ウマヅラハギと言うのだろうか。朱色の魚は浮いたり沈んだりしていた。カレイは鰭を波打たせながら底で横たわっている。どの魚も大きな丸い目で、瞼がないから瞬きはしない。無表情なようなびっくりしたような顔つきで、見ていると朝の電車の中で前に立った、目がひどく大きな若い娘の顔を思い出した。
じっと観察しているうちに寿司が運ばれてきたので食べながら見続け、この魚たちはいったいどこで捕らえられてここに運ばれてきたのだろうかと考えた。最近は生きたまま運搬する方法が発達しているから、案外遠くの漁場で数日前に水揚げされ、いくつかの経路を経てこの店に運ばれてきたのかも知れない。そうして偶然に同じ水槽に同居することになったのだろうが、つつき合ったり、体をぶつけ合うこともなく、と言って仲が良さそうでもなく、勝手気ままにゆっくりと狭い空間を泳いでいる。熱帯魚などの飼育と違うから、空気は送り込んではいるが餌をやっている様子はない。いずれ近いうちに寿司のタネにされて、目の前にあるガラスケースの中に並べられるのだろう。そう考えると何かしら哀れにも思えてきた。その癖、あのアジやカレイを活け作りにしたらさぞ旨かろうなどと想像したりもするのだから、いい加減なものだ。
1人で食事をすると、いつもならそそくさと済ませてしまうのだが、目の前で泳いでいる魚を見てあれこれ考えながら食べたものだから珍しくゆっくりしたけれども、魚に気を取られて食べた寿司の印象はあまり残らなかった。
近頃水族館には行っていないから、魚が泳いでいる姿を久しぶりに見たので、注文した寿司が運ばれてくる間、茶を飲みながらその様子を眺めた。アジは鮮魚店などで見るのと違ってきれいに輝く白銀色をしている。胸鰭を広げてゆっくりと泳ぎ回り、尾鰭を見せて少し底の方に向かっている後姿は着陸しようとしている旅客機のように見える。その中の1匹は時々風船ガムを膨らませるように、口から得体の知れない丸い袋のようなものを出してはすぐに吸い込む。タイは水槽の中ほどを泳いでいたが、やがて底に敷いてある小石の上に体を置いてガラスに凭れ、鰭だけを動かしている。尾鰭や鱗の一部が白っぽく傷んでいるようで、何かぐったりとして弱っているように見えた。ハゲは青い色の鰭を動かしながら水槽の中央に空中停止しているようにしている。口がひどく突き出た面白い顔をしていたが、ウマヅラハギと言うのだろうか。朱色の魚は浮いたり沈んだりしていた。カレイは鰭を波打たせながら底で横たわっている。どの魚も大きな丸い目で、瞼がないから瞬きはしない。無表情なようなびっくりしたような顔つきで、見ていると朝の電車の中で前に立った、目がひどく大きな若い娘の顔を思い出した。
じっと観察しているうちに寿司が運ばれてきたので食べながら見続け、この魚たちはいったいどこで捕らえられてここに運ばれてきたのだろうかと考えた。最近は生きたまま運搬する方法が発達しているから、案外遠くの漁場で数日前に水揚げされ、いくつかの経路を経てこの店に運ばれてきたのかも知れない。そうして偶然に同じ水槽に同居することになったのだろうが、つつき合ったり、体をぶつけ合うこともなく、と言って仲が良さそうでもなく、勝手気ままにゆっくりと狭い空間を泳いでいる。熱帯魚などの飼育と違うから、空気は送り込んではいるが餌をやっている様子はない。いずれ近いうちに寿司のタネにされて、目の前にあるガラスケースの中に並べられるのだろう。そう考えると何かしら哀れにも思えてきた。その癖、あのアジやカレイを活け作りにしたらさぞ旨かろうなどと想像したりもするのだから、いい加減なものだ。
1人で食事をすると、いつもならそそくさと済ませてしまうのだが、目の前で泳いでいる魚を見てあれこれ考えながら食べたものだから珍しくゆっくりしたけれども、魚に気を取られて食べた寿司の印象はあまり残らなかった。