とてもシリアスな問題です。
根本原因も解明されるには至っていないようですし、したがってその治療法も確立され ていないまま、罹症者数は次第に増加しているという。
これまで、最近物忘れがひどくなった、私も認知症の始まりなのかな~とか、とにかく、 認知症という言葉はよく知っているし、これは大変だなぁ~、何とか認知症にならないで いて欲しい・・などと勝手なことを考えたりしますけれども、いうなれば、認知症という “池”の周りを巡っているだけで、正直殆ど何も理解していなかったのでした。
いつも届く会報にも、「認知症最新研究」(柳澤勝彦、国立研究開発法人国立長寿医療 研究センター研究所長、2016.9号)や今年に入って、「生活習慣と認知症の発症予防」 (清原裕、九州大学大学院教授・久山生生活習慣病研究所代表理事、2017.1号)の2つの 記事があり、内容は難しいですが、この際思い切って“認知症の池”の周りではなく、 池の中に入ってみようと思いました。
認知症患者は、いったいどのくらいの数なのか? 厚生労働省が行った全国調査に よれば、2012年で認知症患者数は約462万人で、今後高齢人口増加と共にその数はさらに 増え続けると予想されています。下のグラフは、各年齢層の認知症有病率が2012年以降も 上昇すると仮定した場合の推定ですが、昨年(2015年1月)に厚生労働省は、「全国で 認知症を患う人の数が2025年には700万人を超える」との推計値を発表しました。 つまり、約10年で1.5倍にも増える見通しで、65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が 認知症に罹患する計算となります。このため、厚生労働省はこの結果を踏まえ、認知症 対策のための国家戦略を急ぎ策定することとしています。
(http://www.nounow.jpより)
さらに、次の図に示されていますように、これらの認知症患者のいうなれば予備軍とも 言われる「正常と認知症の中間=軽度認知障害=MCI」人が、400万人にも上っている のです。 どんどんと自分に迫ってきているようで、嫌というか 恐ろしい感じですが、 介護・支援のための莫大な社会的費用がさらに増大することになります。
(http://www.nounow.jpより)
また、世界的に見てどうなのか? ウイキペディアに次の表がありました。
日本は、東アジアに属していますが、2012年の世界の認知症患者数が3560万人とありま すから、日本は世界の認知症患者のざっと12%を占める、“認知症大国”といわれるの ですね。上の表からもわかります通り、高年齢になると有病率が急激に高くなっています。 超高齢化社会が進む日本は、さらに認知症大国になって行くのでしょうか。
(栗田主一ほか:平成19年度厚生労働科学研究費補助金研究分担報告書より)
以上には、数的な面を見てきましたが、認知症とはどういうことか? 本題を見てみる ことにします。
認知症は、大きくアルツハイマー型(60%)、脳血管性(20%)、レビー小体型(20%) が3大認知症と呼ばれていて、この他にも多数の種類があるようです。3大認知症の症状 は、ネット「みんなの介護」に次のように整理されていました。
●アルツハイマー型 軽度:日時が分からなくなる、不必要な買い物をするようになる
中度:場所の認識が出来なくなる、暴力や俳諧など問題行動が起きる
重度:家族や身近な人が分からなくなる、被害妄想や幻覚が頻繁に出る
●脳血管性 半身まひ症状が起きる、自発的意欲が低下する、歩くことが困難、 頻尿・失禁
●レビー小体型 幻覚や幻視幻聴を起こす、人間関係や環境に無反応になる、睡眠障害
ここで、最も多いアルツハイマー型の軽度をみると、日時が分からなくなるなどがあり ますが、最近物忘れが激しい・・“二階にものを取りに来たのに、何を撮りに来たのか?” や、“今日のお昼は食べたが、何を食べたのかすぐに思い出せない”などは、多くの場合 問題ないそうです。 “お昼を食べたことも覚えていない”となると、問題のようですね。 さらに、実行機能障害というのになると、“カレーライスを作りたいのに、何人分作るか、 どんな食材がどのくらい必要か、肉や野菜はどの順番で鍋に入れるか”などの段取りが 出来なくなるそうです。 蓼科の畑で、農作業をしたり、自炊をしたりしているのは、 正常なんですね。 単なる物忘れと認知症を比較した、以下のような表がありました。
(自治医大HPからまとめたnikkeibp表より)
また、認知症の症状は、記憶障害を中心とする 中核症状 と、認知症で問題となる行動・ 心理状態をさす 周辺症状 の二つがあります。 中核症状は、いわゆる欠落症状で、記憶 障害、見当識障害、実行機能障害、理解判断力障害、計算力障害などで、周辺症状は、 行動・心理症状で、感情障害、うつ、暴言、幻視・幻聴などです。
で、このような認知症の原因は何か? 認知症の原因は様々ですが、一口に言えば、 “脳内細胞の変性・死滅”なのだそうで、そのメカニズムは、認知症の種類によって異 なっていて、アルツハイマー型では、アミロイドβという蛋白質が何らかの異常で蓄積し、 大脳の神経細胞が傷つき脱落する。 大脳全体が委縮し脳機能が低下して行く・・。 また、脳血管性認知症の場合は、脳内の血管に障害が起きることで神経細胞が壊れて 発症し、レビー小体型では、脳内にレビー小体という蛋白質が蓄積して神経細胞を破壊 することで発症する、とされています。
そして、それらの治療に当たっては、中核症状の薬物は現在 4 種類があるそうですが、 残念ながら、症状を 改善するのではなく、遅らせることが目的であるとされています。 周辺症状に対しては、向精神薬が主体となるのですが、眠気・ふらつきなどの副作用が あるため、これらに注意しながら治療を進めて行く・・とあります。
また、アルツハイマー型について、前出の「最新研究」では、その治療に当たっては、 上で述べたアミロイド蛋白質の蓄積を捉えて、これを何とかすれば良いとなるのですが、 アミロイドが蓄積を始めて発症するまでに20年もかかるということだそうで、そうで あれば、認知症を発症してからでは既に遅く、蓄積が認められ始めた時点でこれを止める 処置(薬剤)をする必要があるわけですが、残念ながら認知症発症前にアミロイドの蓄積 を発見することは大変難しく、脳脊髄液検査や血液検査等で、これまで成功していない というのです。 ようやく最近、蛋白質の「質量分析」を活用した血液検査によって可能性が期待できる と「認知症最新研究」(前出)にありました。 また、この最新研究では、アミロイドの 蓄積そのものを止める治療薬の開発が進められているとありました。
一方、これらの認知症の原因やそのメカニズムについて直接的な研究のほか、認知症の 発症例を統計的にとらえた、他の症状との関連や予防に対してどのような点に注意を払え ばよいかなど事例的な研究が進められています。 後者に対する長期的な調査研究が、前出論文記事にあります「久山町研究」です。 幸いネットにもその研究成果が発表(「我が国における高齢者と認知症の実態と対策」 2014.10.29 清原裕氏)されていましたので、グラフなどを引用させていただいて、ここ に紹介します。 なお、久山町研究というのは、福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口 約8,400人)の住民を対象としたものであります。
調査の前提として、対象としている久山町の住民は、40歳以上の年齢構成や、産業別 就労人口割合などについて 1960年、2010年を全国と比較してほぼ全国と同様であり、 “日本人を代表するサンプル集団である”と位置付けています。次の図にありますように、 40歳以上の男女約3000人について、1961年から2012年までの50年以上の追跡をした結果が 報告された貴重なものであります。(以下の図表は、発表論文から転写しました。)
これらの調査によって、判明した事項について、以下に図を中心にして紹介します。
まず、65才以上を対象とした認知症発症者数の推移が以下のように、高齢者の増加と 共に認知症患者数も増加しています。 またその次のグラフでは、65才以上の認知症 有病率の推移が示されていますが、時代と共に有病率は急激に高くなっています。
また、認知症のタイプ別有病率の時代推移は、次のグラフに示されています。
ここで注目すべきは、アルツハイマー型認知症の急激な増加であります。 “痴呆”と 呼ばれていた頃には、あまり問題視されなかった、アルツハイマー型認知症が、このまま 推移するとすれば、その増加が急激であることから大きな社会問題となっているのですね。
また、高血圧や糖尿などの既存の症状と認知症との関連を調査した結果が以下の図に 示されています。
血圧レベルと認知症との関連では、当然ながら血管性認知症との相関が強く、血圧 レベルの上昇と共に急増することが分かります。 一方、アルツハイマー型には、血圧 レベルはあまり関連がなさそうです。
糖レベルでは、アルツハイマー、血管性とも相関があり、糖尿病に罹っている場合は、 約2倍の危険度があると示しています。
この他持病ではなく、生活習慣との関連での調査結果が、下の図に喫煙レベルとの相関 でとらえた結果が示されていますが、喫煙していると、認知症のパターンに関係なく、 そうでない人に比して、2~3倍近い危険度が高いということです。
さらに、生活習慣との関連では、グラフはありませんが、論文からいくつかの調査結果 が示されています。
運動 久山研究では、世界に先駆けて余暇時の運動あるいは中等度以上の強度の仕事が アルツハイマー発症のリスクを有意に低下させることが判明したとあり、その後、海外の 追跡研究でこの成績が追試され、現在では“運動が認知症の有意な防御因子である”こと が定説となっているとあります。 運動によって、アルツハイマー型のリスクが45%減少するとされているそうです。
食事パターン いくつかの食事パターンのうち、大豆・大豆製品、緑黄色野菜. 淡野菜、海藻類、牛乳・乳製品の摂取量が多く、米の摂取量が少ないという食事パターン が、その傾向が強い程認知症(アルツ、血管共)リスクが有意に低いことが認められたと あり、この食事パターンには、さらに、果物・果物ジュース、イモ類、魚の摂取量が多く、 酒類の摂取量は少ないという傾向が見られたと付言されています。 しかし、米を単品で 見ると、その摂取量と認知症発症との間に明らかな関連は無いということで、つまりは、 一定の摂取カロリーの中で、米(ごはん)の量を減らして、他の食品(おかず)の量を 増やすパターンが良いと示しているのです。 米に偏らない野菜豊富な日本食に牛乳・ 乳製品を加えた食事が認知症予防に有効であると述べられています。
最後に、認知症予防について総合的な所感をまとめてみますと、これまで言われてきた、 「頭を使う」「体、特に指を使う」「規則正しい健康な生活を送る」などは確かに有効 だとありましたが、久山町研究にあるように、高血圧や糖尿病を予防する、そのような 生活習慣を維持することが、すなわち認知症予防にも効果的であることがわかり、さらに、 適度な運動や食事パターンについても一般に言われている事柄をきちっと守って行くこと に他ならないということが分かりました。逆に言えば、特効薬はまだない・・ということ なんですね。 しかし、これほど急激に増加している現実には直視して気を引き締める必要がありそう です。
難しい問題で、資料(ネット情報)がありすぎて、そして、原因などになると専門的な 用語が多く、にわか勉強ではなかなか理解が行かず、長い記事になった割には、まとめ きれず申し訳ありませんでした。
疲れましたので、優しい音楽でもいかがでしょうか・・。
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