あまりに大きなテーマに押しつぶされそうですが、近年の異常気象を体験して
いる原因は、温室効果ガス(CO₂など)増加による地球温暖化が進行しているから
に他ならないのです。
COP11(2005年、第11回気候変動枠組み条約締結国会議)の京都議定書に基づいた、
COP21(2016年)パリ協定の発効を受けて、昨年開催のCOP26 (2021年、英国グラ
スゴー)では、1.5度目標(産業革命前と比べた世界の平均気温上昇を1.5度以下
とする)を実現する努力をすると明記され、いよいよ各国における温室効果ガス
排出削減の実現に向けた具体的な取り組みが始まっていますが、2030年頃には、
この1.5度を超えそうな予測があります。(現在で、すでに 1.1~1.2度上昇)
実際、COP26においても、温室効果ガス(CO₂など)削減に向けた目玉である、
石炭火力発電の取り扱いについても、成果文書作成の直前で原案の「段階的廃止
(phase out)」から、中国、インドらの意見で「段階的縮小(phase down)」
に大きくトーンダウンしてしまっている状況なんですね。 日本などのCO₂削減を
図った石炭火力発電などにも非難の矛先が向けられているといいます。
以上に見るように、どの国も今や、温室効果ガス排出を削減する必要性、重要性
は認識されているにもかかわらず、現実的な経済成長・発展のトレンドにあっては
なかなか実現に踏み切れないようです。 CO₂排出の国際ルールによる取引価格が
高騰している現状は、総合的なCO₂削減に繋がっていないことを示していると見る
こともできるのです。
昨年(2021年)8月に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第1作業部会
(自然科学的根拠)の第6次報告書が公表され、今年(2022年)2月に第2作業部会
(影響・適用・脆弱性)、4月に第3作業部会(気候変動の緩和)の報告書が公表
されました。これらの統合報告書は今年9月に公表される予定となっています。
第1作業部会では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことに
は疑う余地がない。」と明記され、すべての原因は人為的であると結論付けられ
ました。
(IPCCネット画像より)
(自然だけの温度変化(青)と人為的活動を加味した温度変化(赤))
第2作業部会では「人為起源の気候変動は、極端現象の頻度と強度の増加を伴い、
自然と人間に対して、広範囲にわたる悪影響と、それに関連した損失と損害を、
自然の気候変動の範囲を超えて引き起こしている。」強い危機感と反省を促して
います。
陸域における極端な高温(IPCCネット画像より)
(左図、10年に1回の現象、右図、50年に1回の現象)
(温暖化が進むと発生頻度が増え、その度合いも高くなる)
第3作業部会では「我々は、温暖化を1.5℃に抑制する経路上にない。今後数年間
が正念場になる」と現状認識と今後の取り組みが示されているのです。
地球の歴史の中であまりにも急激な温度上昇
(IPCCネット画像より)
このIPCCの報告書は、5~7年に作成することとされ今回の報告に至りましたが、
IPCC自体は研究機関ではなく、途上国を含む66か国の200人以上の執筆者が集まっ
て、14000本の論文を引用し査読を繰り返し、世界中の専門家からの7万8千件のコ
メントを精査して作成された厳密で透明性の高いつくりとなっているのだそうです。
どこかの国が、あるいは誰かが提唱しているといったものではないのです。
IPCCでは、パリ協定が目指す1.5度目標の「非常に低い」シナリオ(SSP1-1.9)、
現在各国の目標合算に近い「中間」シナリオ(SSP2-4.5)と、「低い」「高い」
「非常に高い」の5つのシナリオについて、どのような状況になるかを推定してい
ます。
5つのシナリオによる2015年からのCO₂排出量(予測)
(IPCCネット画像より)
(パリ協定が目指す「非常に低い」シナリオは図の最下(青)グラフ)
このような背景を踏まえて、今後何をどの様にすれば良いのか?しなければい
けないのか?について、種々考察されています。
IPCC報告書の執筆者の一人である江守正多氏(国立環境研究所地球環境研究セ
ンター温暖化リスク評価研究室室長)の解説によれば、報告書を4つのポイントに
整理されています。①地球が人間の影響で温暖化していることに疑う余地はない。
②いくつかの異常気象に人間活動が影響していることも疑う余地がない。③世界
の気温上昇幅は1.5度を超える見通しである。④可能性は低いが、起きたら影響が
大きい事態も考慮に入れる必要がある。
これらを踏まえてなすべきことは、先ずは「脱炭素」を目指すとし、気候変動
は国際的な人権問題、あるいは将来世代との間の人権問題であり、気候変動を止
めることには倫理的に大きな意味があり、私たちはそれを目指すべきだという納
得感をもっと共有してほしいと述べられています。 具体的には石炭火力発電を
いかになくして行けるか。また、大きくは、「システムチェンジ」を図ることだ
として、メガソーラーの自然破壊を是正したり、バイオ燃料と食料の競合を防い
だりすることが必要だとしています。リサイクルやシェアリングをうまく進め、
大量生産・大量消費ではなく、格差が少なく、教育水準が高く、国家間関係も良
好という世界に変革して行くべきではないか・・と提言されています。
つまり個人個人が、省エネや省資源に配慮することは勿論ですが、それよりも
社会の仕組み、社会のシステムを変えることが重要ではないかと述べられていま
す。 30年前には、インターネットも、スマホもペットボトルもなかったですが、
現在これらが存在しない日常は考えられるでしょうか? つまり、30年で、人々
の常識・ライフスタイルが変化しているということで、CO₂削減が、ガマンの結果
であるというのではなく、それを達成していても不自由を感じない、むしろ快適
と感じるような社会システムを構築して行くべきではないかと謳われているので
すね。
昨年(2020年)に発売された「人新世の資本論」(齋藤幸平氏、東京大学大
学院総合文化研究科准教授)にも、現状大量生産・大量消費、市場経済中心の資
本主義を見直す「システムチェンジ論」が展開され反響を呼んでいますが、手元
の会報には、斎藤氏の講演録(2022.3.10)『人新世の環境危機と二十一世紀のコ
ミュニズム』と題した記事が掲載されていました。
斎藤氏は、1987年の生まれといいますからまだお若い方で、東京大学に入学して
3か月在籍してアメリカの大学に留学、2009年に卒業後ドイツ・フンボルト大学の
博士課程を修了した異色の秀才で、マルクス思想から、今後を見据えた持続可能
なポスト資本主義社会について研究されています。
氏の論点からすれば、そもそも新型コロナウイルスの発生も、人類による森林
伐採や大規模農場の開発により、野生動物との距離が縮まり、奥地迄開発したこと
によってこのような事態を招いたと見、気候変動もコロナ禍に似ていて、人類が
経済成長を求めて地球の奥地まで行って化石燃料を掘り返し大量のCO₂を排出した
結果、気候危機を招いたとしています。 しかし、この両者には大きな違いがあり、
コロナ禍はワクチンで終息するかもしれないが、気候変動は不可逆で悪化の一途
をたどるのです。
コロナ禍は、このような人類のあくなき成長を求めた歪を可視化した危機の一つ
であるとも述べられています。いま世界では「資本主義は環境破壊や経済格差を
限界まで推し進めた。もう一度リセットして、持続可能で平等な社会をつくろう」
と言われ始めているが、岸田政権の「新しい資本主義」や中国の「共同富裕」な
どは、この考えに似ているとも思われる。また、欧米の「緑の資本主義」も同様
で、化石燃料から再生エネへ、ガソリン車から電気自動車へ大きな転換がはから
れ、新しい需要が生まれ産業が育ち雇用が生まれる・・新しい資本主義の緑化が
加速するというのです。
しかし、氏はこれらの対策では不十分だといっています。緑の資本主義を加速
しても2030年頃の気温1.5度の上昇を抑えることは難しいと推測されているのです。
また昨年、欧州環境庁(EEA)が発表した「経済成長なき成長」の報告書は、「技
術開発だけでは脱炭素は実現できない。消費行動を改め、生活の質を変えて行こう。」
と提案しているものであり、いわゆる「脱成長」を示唆しているというのですね。
氏はさらに、経済成長を求めるあまり、気候変動と格差を深刻化させたことを
思えば「脱成長」だけでは不十分で、際限なき自由な経済活動に強い規制をかけ
るくらいの対策が必要ではないかと言及しています。
これらから考えますと、経済成長路線の延長上で、技術開発やエコ活動だけで
は到底実現が難しいと考えられることから、大きな「社会システムの変革」が必
要との論調になりますが、しかし、この「社会システムの変革」は本当に実現で
きるのでしょうか、どのようにすればよいのか、やはり大きな壁を感じるところ
です。しかもそんなに時間をかけることもできないのですね。
このままでは、地球温暖化は確実に進んで行くのです。先の拙ブログの「食糧
危機」と並んで、これまでに経験したことのない地球規模における「人類危機」
に向かっているのですね。人類の英知によってこの危機を脱することが出来るで
しょうか?
Michel Legrand 映画「華麗なる賭け」 The Windmills Of Your Mind