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今週の一枚:「Flaco's Amigos」Flaco Jimenez 1989

2006年10月23日 | Fuku-music
【Fuku】

日本人でこの人の音楽に触れたのは、ライ・クーダーの1975年に発表されたチキン・スキン・ミュージックというアルバムからという方が多いと思います。私も、テックス・メックスという音楽自体を知ったのもここからで、ライはロックのリスナーにテックスメックスの巨匠"フラコ・ヒメネス"を紹介し、我々に鮮烈な印象を与えてくれました。

そのフラコが、ライとの共演を含んで本来の自分のフィールドであるテックス・メックスの真髄を聞かせてくれるアルバム「Flaco's Amigos」を今日はご紹介。
日本では哀愁を表現するような場合が多い楽器アコーディオンを、フラコはリード楽器としてロックのフィールドに持ち込み、その力強さと表現の豊かさを世界中に広めたことで高く評価されています。

テックスメックスという音楽はその名の通りテキサスに住むメキシコ系の人の(勿論昔テキサスはメキシコだった)音楽で、メキシコでは「北の音楽」を表す"Musica Nortena"(ムシカ・ノルテニャ)とも言われます。その音楽にアコーディオンがもたらされたのはケイジャン同様に前世紀の終わりごろドイツ系の人によってだと言われており、そのためメキシコ系の音楽であるにも関わらずドイツ系のポルカを思わせる所もあります。
テックス・メックスで演奏されるリズムはヨーロッパのダンスビートであるポルカ、ワルツ、ショーティッシュなどに加え歌入りのランチェラ、クンビア、ボレロ、ワパンゴ(3拍子系)等ラテン系のものもあり実に多彩です。
演奏されるバンドのスタイルは、小編成(アコーディオン、バホセストorギター、ベース、ドラム等)の「コンフント・スタイル」とその編成にホーンセクション等を加えた「オルケスタ・スタイル」に大別されますが、このアルバムでは、フラコの一番の信頼できる仲間との基本的なコンフント・スタイルと、それに"永遠のミュール・スキナー"ことブルーグラス畑の巨匠"Peter Rowan"をゲストに迎えたセッション、それに最大の理解者ともいえるライ・クーダーと彼のいつものお仲間であるジム・ケルトナーのドラムス、ヴァン・ダイク・パークスのピアノ、マイケル・クルーズのパーカッションなどを迎えたバンド編成のセットの3セットの演奏が楽しめます。

フラコは酒を愛し女性を愛し、それ以上にアコーディオンを愛していて、彼の人生はアコーディオンを弾いているか、酒を飲んでいるか、このどちらかに費やされているんじゃないかという声もある位に音楽にのめりこんでた人で、オフの時間でもアコーディオンを手放さないが、決して芸術家肌ではなく、人のいい気配りのおじさんで、来日した際のステージングで彼の人柄の良さがよく判りました。アコーディオンは人柄をしめす様に暖かくスィートでかつノリがいい。フラコのアコーディオンは世界中どこを探してもないような音を出すと言われています。また、フラコは、フレディ・フェンダー、今は亡きダグ・サーム、オーギー・メイヤーズという超大物の四天王バンド、テキサス・トルネードスとしても活躍して、最高のテックス・メックスの真髄をロックのフィールドに無理やり引き込んで、我々を魅了しました。

このアルバムの白眉は、やはり気心の知れたライとの共演で、ヴァン・ダイクのお馴染みのメロディアスな電子ピアノに乗せて、優雅なボレロのリズムで美しいアコーディオンの調べを聴かせるインストの「Poquita Fe」で、途中でライの抑え目のスライドギターと絡む場面は最大の聴き所です。

もう10数年以上前ですが、日本でもワールド・ミュージックとか言って、所謂ロックとは別フィールドの音楽をひとまとめにして紹介して、無理やりに流行っているかの印象を与えるような愚行が横行した時期がありましたが、世界の音楽には様々なものがあり、アメリカ国内の音楽といってもまたありとあらゆる種類があります。それぞれのジャンルの音楽はちゃんとそれぞれ個別にその出自から紹介すべきであり、正しい紹介をしないと、間違った理解のままで後世に伝わってしまうという危険性があります。ライ・クーダーの一番の業績は、そうした様々な世界の音楽を自分自身が演奏してみることによって自分で理解して、それを世に伝えるという非常に手間のかかることを自分が好きでやっているということだと思います。

そのライが一番理解していると思うフラコ・ヒメネスのテックス・メックス、聞いてると自然とテキサスはサンアントニオの黄色い砂混じりの光景が目に浮かんできます。

Flaco's Amigos Flaco Jimenez 1989 plane88675 ,Cooking Vinyl
Distributed in Japan:PCD24101, 1999 P-Vine, 株式会社ブルース・インターアクションズ