【Fuku】
今週の一枚「Hourglass」James Taylor 1997
すみません。また"そばにあった一枚"ですが、もう何十年も大好きなJames Taylor(JT)の作品の中でも特に好きなヤツ、1997年の「Hourglass」。
James Taylorは以前にもDVDを紹介しましたが、まさに私にとっては青春期にそれこそ擦り切れる位に聴き込んだシンガーソングライター。70年代の「Sweet Baby James」、「Mud Slide Slim and the Blue Horizon」から「One Man Dog」、「Gorilla」、80年代の「Dad Loves His Work」、「That's Why I'm Here」、90年代のライヴアルバムから2002年の「October Road」、最近作の「One Man Band」までいつでも傍にいたアーチストです。
なかでも、30年以上の彼のキャリアの中でもちょっと低迷期に陥っていたかと思わせていた90年代中期に、以前と変わらずのJTの世界を豪華なゲスト陣のプレイと共に届けてくれた「Hourglass」は特にお気に入りです。
よく言われることですが、JTの最大の魅力はその声です。まるで独白のような、穏やかで優しいその声に初めて触れた時、私は正直言ってそれまで聴いてきた所謂ロック系の歌い手とは全く違った印象を受けたと同時に、なんとも気持ちの落ち着く独特の世界に誘い込むような不思議な声に魅了されました。しかし、その後何年かかけて彼の歌声を聴いていくうちに、その穏やかな声の裏に深い絶望が宿っていて、青春期に受けたドラッグ中毒や精神衰弱により絶望の淵を彷徨った経験がその裏にあることに気づかざるを得ませんでした。幾多の困難期を経て発表された「Sweet Baby James」は、静かに心の傷を癒すようなジェイムズの歌声により、"愛と平和"を旗頭にした60年代のロックの挫折を経験した当時の人々の胸にことさら優しく響き、かつてのロックの激しさとは一線を画す素朴な歌を歌う彼のような自作自演歌手は"シンガー・ソングライター"(SSW)と呼ばれ、そのブームは一世を風靡しました。
この「Hourglass」は、そんな時代を等身大で実体験したアメリカの世代に大いに受け入れられて、97年のメガヒットとなりましたが、ややポップにはなりながらも基本的にはアコースティック・ギターの弾き語りをベースにしたその牧歌的なサウンドと共に、いつの時代も変わらない彼の声は30年間変わることなく我々の胸に優しく響き続けています。
アルバムの内容は別にこれといった新展開はなく、安心して聴けるいつものJTワールド。Yo-Yo Ma、Stevie Wonder、Branford Marsalis、Michael Brecker、Sting、Shawn Colvinといった豪華なゲストを多数迎えながら、それらはあくまでも曲の引き立て役程度の起用にとどめ、JTがリスナーに語りかけるように物語を歌うという、30年間変わらないいつものお馴染みのスタイル。この世界をマンネリとかワンパターンとか言い放ってしまうのは簡単だけど、いつの時代も気の抜けたものになったりせずにクオリティを保ち、確実に存在する聴衆に作品を届けることを継続しているその姿勢には頭が下がります。あと、このアルバムですが、当時としてはまだ珍しかったEnhanced CDでCD Extraには彼のインタビューが収録されています。そういった新たな試みに挑戦する姿勢もまたJTらしさとも言えます。
以前に紹介したアメリカで行われたライヴの模様を収めたヴィデオなどを観ると、JTは単なるナツメロ歌手として観客に受けているのではなく、彼と同時代を過ごした観客達がおそらく多く占める客席から、一緒に成長した友人、愛すべき人、という感じで、声援が送られているようにも見えました。一言でナツメロとかワンパターンと評価してしまうことは簡単ですが、単に懐かしむも良し、また還暦を超えてもますます盛んな活躍を続ける偉大なるアメリカのSSWが続ける新しい挑戦を快く受け止めるも良し、そういう存在は特にこういった時代には不可欠なのかもしれません。少なくとも私にとっては"JT"は永遠です。
James Taylor Hourglass
1 Line 'Em Up
2 Enough to Be on Your Way
3 Little More Time With You
4 Gaia
5 Ananas
6 Jump up Behind Me
7 Another Day
8 Up Er Mei
9 Up from Your Life
10 Yellow and Rose
11 Boatman
12 Walking My Baby Back Home
Columbia Records CK67912 1997年05月19日
今週の一枚「Hourglass」James Taylor 1997
すみません。また"そばにあった一枚"ですが、もう何十年も大好きなJames Taylor(JT)の作品の中でも特に好きなヤツ、1997年の「Hourglass」。
James Taylorは以前にもDVDを紹介しましたが、まさに私にとっては青春期にそれこそ擦り切れる位に聴き込んだシンガーソングライター。70年代の「Sweet Baby James」、「Mud Slide Slim and the Blue Horizon」から「One Man Dog」、「Gorilla」、80年代の「Dad Loves His Work」、「That's Why I'm Here」、90年代のライヴアルバムから2002年の「October Road」、最近作の「One Man Band」までいつでも傍にいたアーチストです。
なかでも、30年以上の彼のキャリアの中でもちょっと低迷期に陥っていたかと思わせていた90年代中期に、以前と変わらずのJTの世界を豪華なゲスト陣のプレイと共に届けてくれた「Hourglass」は特にお気に入りです。
よく言われることですが、JTの最大の魅力はその声です。まるで独白のような、穏やかで優しいその声に初めて触れた時、私は正直言ってそれまで聴いてきた所謂ロック系の歌い手とは全く違った印象を受けたと同時に、なんとも気持ちの落ち着く独特の世界に誘い込むような不思議な声に魅了されました。しかし、その後何年かかけて彼の歌声を聴いていくうちに、その穏やかな声の裏に深い絶望が宿っていて、青春期に受けたドラッグ中毒や精神衰弱により絶望の淵を彷徨った経験がその裏にあることに気づかざるを得ませんでした。幾多の困難期を経て発表された「Sweet Baby James」は、静かに心の傷を癒すようなジェイムズの歌声により、"愛と平和"を旗頭にした60年代のロックの挫折を経験した当時の人々の胸にことさら優しく響き、かつてのロックの激しさとは一線を画す素朴な歌を歌う彼のような自作自演歌手は"シンガー・ソングライター"(SSW)と呼ばれ、そのブームは一世を風靡しました。
この「Hourglass」は、そんな時代を等身大で実体験したアメリカの世代に大いに受け入れられて、97年のメガヒットとなりましたが、ややポップにはなりながらも基本的にはアコースティック・ギターの弾き語りをベースにしたその牧歌的なサウンドと共に、いつの時代も変わらない彼の声は30年間変わることなく我々の胸に優しく響き続けています。
アルバムの内容は別にこれといった新展開はなく、安心して聴けるいつものJTワールド。Yo-Yo Ma、Stevie Wonder、Branford Marsalis、Michael Brecker、Sting、Shawn Colvinといった豪華なゲストを多数迎えながら、それらはあくまでも曲の引き立て役程度の起用にとどめ、JTがリスナーに語りかけるように物語を歌うという、30年間変わらないいつものお馴染みのスタイル。この世界をマンネリとかワンパターンとか言い放ってしまうのは簡単だけど、いつの時代も気の抜けたものになったりせずにクオリティを保ち、確実に存在する聴衆に作品を届けることを継続しているその姿勢には頭が下がります。あと、このアルバムですが、当時としてはまだ珍しかったEnhanced CDでCD Extraには彼のインタビューが収録されています。そういった新たな試みに挑戦する姿勢もまたJTらしさとも言えます。
以前に紹介したアメリカで行われたライヴの模様を収めたヴィデオなどを観ると、JTは単なるナツメロ歌手として観客に受けているのではなく、彼と同時代を過ごした観客達がおそらく多く占める客席から、一緒に成長した友人、愛すべき人、という感じで、声援が送られているようにも見えました。一言でナツメロとかワンパターンと評価してしまうことは簡単ですが、単に懐かしむも良し、また還暦を超えてもますます盛んな活躍を続ける偉大なるアメリカのSSWが続ける新しい挑戦を快く受け止めるも良し、そういう存在は特にこういった時代には不可欠なのかもしれません。少なくとも私にとっては"JT"は永遠です。
James Taylor Hourglass
1 Line 'Em Up
2 Enough to Be on Your Way
3 Little More Time With You
4 Gaia
5 Ananas
6 Jump up Behind Me
7 Another Day
8 Up Er Mei
9 Up from Your Life
10 Yellow and Rose
11 Boatman
12 Walking My Baby Back Home
Columbia Records CK67912 1997年05月19日