+20

Real Jeans & McCOYSTA Millennium Special

今週の一枚:「BOOKING OFFICE」 いとうたかお 1976

2006年10月30日 | Fuku-music
【Fuku】

昨日もテレビで見たけど、最近は我々みたいなオジサン達の間で、"フォーク喫茶"ならぬ"フォーク酒場"ってのが結構流行っているそうですね。なんでもボトルキープならぬ"ギターキープ"で自分のギターを置いてもらって、チャージを払って順番に自分でお得意としているナンバー(この場合オリジナルではなくて70年代のカバーが殆ど)を唄い、ハーモニカまで吹いて日々の憂さを忘れるというシロモノだそうで、昨日見たテレビでは、かの"なぎらけんいち"氏がゲストではなくて自分でチャージを払って唄ってました。
このところ、こういった中年向けのロック酒場とかフォーク酒場が流行ったり、オヤジロックバンドが雨後の竹の子のごとく一杯出てきたり、中年の方々が当時は買えなかった高価なギターを買って久々に自分で弾いてみる悦に入る、なんてことも結構ウケているそうです。まあ、私はあまりフォーク酒場に行って唄う気はちょっとないけど、当時影響を受けた唄とかをこの年齢になってあらためて聴いてみるってのは結構やっています。ここで紹介しているのもそんなアルバムばっかですが。

ということで、今回も70年代に一部のコアなファンの間では受けたけど一般的には殆ど名も知られなかったシンガー・ソングライターのアルバムですが、名古屋を拠点として故高田渡氏や加川良氏に続く当時のフォーク第3世代ともいうべき連中の先陣をきっていたと評価される"いとうたかお"氏の2ndアルバム「BOOKING OFFICE」です。

彼は、ここでも以前に紹介した名古屋のグループ"センチメンタル・シティ・ロマンス"の連中と当時は一緒に行動することが多くて、このアルバムでも全面的にバックをつとめていて、非常に南部的な乾いたサウンドにいとう氏のなんともやるせない歌声が良く似合ってます。いとう氏は高田渡のアルバム「系図」で取り上げられた70年代の吉祥寺フォークを代表する名曲「あしたはきっと」の作者として知られていますが、本来はあの曲にあるような軽めの詩よりももっと深く当時の若者が誰でも心の中に抱いていた心象風景を非常にブルージィな曲に合わせて唄うことが特徴で、彼の詩に現れる非常に鋭角的な言葉の数々は、当時の若者達には非常に好意的に受け入れられて、名古屋だけでなく、関西や東京でも一部のコアなフリークを生み出したほどでした。

とはいえ、彼自信は非常に朴訥ながらも明るい性格の人で、ステージの思いつめたような歌いっぷりとは違ってオフステージでは非常に気さくな一面ものぞかせていました。

この2ndアルバムでは1stアルバム「いとうたかお」で表現された巧みな言葉遣いをさらに完璧なものとする一方でサウンド的にもその後の展開を示唆するようなロックっぽい面をかなり全面に押し出しているところが特徴で、特にザバーズのロジャー・マッギンの名曲「I'm So Crisis」をカヴァーした「こんなに不安なんだよ」とか、サビのところでザバンドに影響を受けたと思われるもの凄いグルーヴを生み出す「行きたいところがあるんだ」などは当時の若者が誰しも抱いていたような将来への漠然とした不安とそれからの逃避を非常によく表現していて、彼の代表曲として今も唄われています。

フォーク酒場で唄うにはちょっとマニアックかもしれません。コピーしやすい唄ってのも確かにありますけど、誰が唄っても彼の唄は絶対に完璧にはコピーできないと思います。彼の唄が生み出すグルーヴはやはり作った本人でないと生み出せないものですから。

いとう氏はいまも現役です。名古屋近郊でご自分のお店を経営して、そのかたわらで今もギターを持って全国を回ってうたっています。自主制作ですが、CDもリリースしています。あの時代を経験して今も活躍されている方って以外と多いです。皆さんもう50も半ばを過ぎた方々ばかりですが、やはりあの時代を潜り抜けてきたパワーってのはいつまでも枯れることはないんでしょうね。


BOOKING OFFICE いとう たかお 1976 ニューモーニング、日本フォノグラム,
Re-issued on CD :TKCA-72500, 2003 ,TOKUMA JAPAN COMMUNICATIONS