庄司利音の本棚

庄司利音の作品集
Shoji Rion 詩と物語とイラストと、そして朗読

詩 「 夏 」

2017-05-13 12:47:18 | 





なぜ、今が、夏なのだろう


高窓から差し込む西陽の刃先は

私の左腕を 肘より深く切り落としていった・・・


私から分離したその腕が

風呂の残り湯に

豆腐のように沈んでいく


きらきらと

ゆらゆらと

生ぬるく

感覚が

消えていく



なぜ、今が、夏なのだろう



たくし上げたスカートのひだの奥で

秋を過ぎた女は 午睡したまま

夢の中で 空騒ぎを繰り返している



人肌を過ぎて冷めはじめたバスタブの水面に

不確実な感情が

一筋の髪のように浮かんでいる




カエルの卵は 億の目玉で この夏を見た!



知ろうともしなかった

夏の儚さ


なぜ、今が、夏なのだろう


諦めと執着が 排水溝へひきずられ

それでもやはり、

今は夏なのだ

今は夏

その言葉を反復しながら

あの夏が

渦を巻いて 消えていく



水垢の付いた光景は

擦りガラスにオレンジ色の影を残し

ピエロの涙のように笑っている



欠けたタイルがひんやりと光って

その眩しさに

時計の針は たじろいでいる



さぁ、バスタブに栓をして

蛇口から新しい水を出そう



流れ落ちる本当の時間


今は夏・・・


どの夏も

あの夏も

過ぎ去ってなお、今は夏・・・


今は夏・・・


今は夏・・・




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