庄司利音の本棚

庄司利音の作品集
Shoji Rion 詩と物語とイラストと、そして朗読

詩 「 張り紙の店 」

2018-01-30 14:38:16 | 

<手のり セキセイインコ 有ります >


藁半紙に 黒マジックで 一行

右横に 赤の波線 二本

この店には いつも 手乗りセキセイインコが <有る> という


バス通りに仰け反るように居座っている 茶色いガラス戸の その店は

たぶん、ほんとは 打楽器屋


マラカス、ティンパニ、タンバリン、雨樋、敷居、柱時計

暗がりに 店主のドクロが 膝をスイングさせている


手のりセキセイインコのさえずりを

聞いた者は まだ いない


詩 「 観覧車 」

2018-01-21 14:13:53 | 

新月に 鉄骨を ビスで留め

時空の行き止まりから 行き止まりまで


がん らんらん

がん らんらん

かき回せ!

かき回せ!

観覧車・・・

観覧車・・・



一度 だけしか 乗れないよ

一周 きりで 降りるんだ


巡る 巡る

誰も みんな

いつか 必ず

降りる時が やって来る

つないだ手を 離すときがやってくる



がん らんらん

がん らんらん

かき回せ!

かき回せ!

観覧車・・・

観覧車・・・



窓の明かりが 一つ消えるたび

昼間 息をひそめていた 隠れた心が呼吸をはじめる


届かなかった願い・・・

失った愛情・・・

多くの悲しみと 消えない苦しみ

そして 僅かに 確かに きらめいた

幸福と安らぎの記憶



隠された心は 隠したまま

言葉にしなかった思いはそのままに

闇の素粒子にまぎれ

南風に乗って

蜂蜜の糸を引きながら 旅立っていく



遠く遠く時は流れ

けれど振り返れば

一瞬だった



一人 降りれば

また別の悲しみが 乗ってくる

一人 降りれば

次の苦しみが また乗ってくる


ゴンドラは 巡る

人は巡る

心は巡る


がん らんらん 

がん らんらん

かき回せ!

かき回せ!

観覧車・・・

観覧車・・・



もしも、あの時

もしも、あの時・・・


がん らんらん  がん らんらん 

がん らんらんらん・・・

詩 「雨の朝」

2018-01-12 15:40:41 | 

雨の朝

立っているポスト


走りぬける女の子

信号待ちのワゴンから聞こえる早口の歌声

銀色の空を見上げるスーパーの店員さん

ジェット機を追いかけるカラス

そして・・・

アスファルトのヒビ割れに吸い込まれる一滴の雫

深呼吸をするカタバミの黄色


くるくると咲いて 行き交う 花びらたち


雨の朝

立っているポスト

詩 「ヒトリリ自画像」

2018-01-07 15:32:38 | 

・・・繰り返し 繰り返し

パッキンが磨り減った蛇口から ぴとぴと落ちる雫の尻尾が

ずりずり繋がる同じひとつの鎖のようにして

ぞぞぞ動きつづける ムカデ足のご一家が

いそいそ 出かけて行った その後で・・・



ちょうど 彼らが朝食で

赤と緑のタータンチェックのテーブルクロスの その上に

紅茶を入れた歪な形の陶器のカップが置かれたあとの 楕円の皺が

蓮の葉っぱが浮くように

そろそろ ひんやり冷める時分で・・・



ウサウサ 日当たりの悪い北側の

寝室の壁にかかった額縁のなかの自画像は

自分の出っ張った鼻を 少しばかり気にかけて・・・

羽飾りのつば広帽子を 深めにかぶり直してから

そのゴムベラのような両眼を さもモッタイナイと言いたげに

もあもあ ぐるりと 一周させはじめる・・・



今日も何やら 言いたいことでもあったふうで

それでも 自分の口は関わりないと言いたげに

決して口角はゆるめず 奥ゆかしく・・・


どうこう説明しても どーもこーも

一滴 一カケ 誰の誰にも わかるまいと

あざけるように慈悲深く微笑みながら・・・


弛んだ喉の途中の内壁に

クルミの殻が引っかかったと クツクツながーい言い訳にして

むず痒そうにカラカラ響かす「R」と「L」の発音が お気に入りで ぬくぬくで

優越感の引っ掻き傷の カサ蓋を

ひりひり気持ちよさそに撫で付け撫で付け・・・


胡散臭い息の臭いを ピンクの舌で ホフホフ 転がすように味わって

モザイク模様の衣服に付けた じゃらじゃら理性と秩序の端布を

ザザザ誇らしげに揺すってみる・・・・



今日もどうやら三角顎を ツクツク突き出し

蛇腹模様の天窓から トトト慌てて降りてきた斜めかげんの西陽に向かって

「あっちさ!」「こっちさ!」と じれったそうに器用に指図し

自分の尖った鼻から伸びた紫色に尖った影を ひらひら 丁寧に折りたたませて

ふくふく ほっと安心する



「ふんフン、おぉ、なんと私は私らしい!!!」


出かけて行ったムカデ足のご一家の ムカデ小足のお子さんたちが

忘れて行った空っぽの キャラメルの箱の 一箱を

ベットの下の ウザウザとした絨毯に ほれほれ 目ざとく見ぃつけて

「おやおや、あの子たちったら、まぁまぁまぁ・・・」

と目尻の端で哀れんだりしてみせて・・・



ムカデ小足のお子さんたちが 帰ってきたら

カラカラポッポその箱を ぴくぴく目ざとく見ぃつけて

伸びた目玉が るくるく輝き

うぞむぞ うぞむぞ 暗い中身を覗きこむのを

「おぉ、さぞや がっかりするだろに・・・

中身は空っぽ! 空っぽだよ!!!

私は知ってる! 空っぽさあ!!」


自画像は 確信に満ちて予想しながら うずうずじれじれ

ムカデ足のご一家が 早く早く

ムカデ小足のお子さんたちが 早く帰ってこないかと

待ちわびて待ちわびて

自画像は 自分の愛しい顔が歪むのを

塗りつぶして押し殺して・・・

うくうく ぜぇぜぇ

耳の後ろで ちぇしゃしゃ笑って・・・



さてと・・・


今日もどうやら自画像は

壁に張り付きヒトリリリ

埃と一緒にヒトリリリ


リリリリリリリリ


・・・繰り返し 繰り返し


ところで、

ムカデ足のご一家は まだ トンと帰ってきそうにない・・・ようで 

ニッ!