りおんの本棚 Shoji Rion

庄司利音の作品集 詩とイラストと朗読ライブ

詩 「グランドキャニオン」

2017-10-20 15:54:09 | 

ガラス張りのエレベーターは

屋上へ向かって昇っていく


他のボタンは押されていない


僅かな作動音が、瞼を重くする

顔面の片側が熱い


周囲に林立するガラスの塔たちが

西陽を互いに刺し合って

悲鳴が

乾いたシャワーとなって落ちてくる



泣き続ける赤ん坊をあやす父親

飴玉を嘗めるように自分の舌を動かし続ける老人

長い髪をゆすって バッグの中身をかき回している女

天井を見つめ瞬きを繰り返す小学生

私と

偶然 乗り合わせた 見知らぬ あなたたち


背後のガラスにもたれ 猫背ぎみに立つ私 と

違う地層に立つ あなたたち



透けていく心象

思い出か、夢なのか


キューブに閉じ込められた残光に

人の影が浮いている


誰にも属することができないまま

70億枚

ペラペラと



境目の無い記憶が

その影に絡みつき

水草のように 漂っている




あなたたち


1マイクロの断崖



あのとき、

いや、あのとき・・・


多重にも重なる いくつもの後悔



落ちて

落ちていく


「そうか、こういうことだったのか・・・」


あたかも、答えは出現するが

侵食された心意に到達することはない



そして

躊躇なく

まっさかさまに


私は

あなたたちは

落ちて

落ちて

落ちていく




落ちて

落ちて

落ちながら

昇っていく



行先ボタンが

他にない