りおんの本棚 Shoji Rion

庄司利音の作品集 詩とイラストと朗読ライブ

シンバルのサル

2019-09-11 14:24:47 | 


さっきまでの音

生きていた音

今はもう失われた音たち・・・


降り積もった巨大な静寂

シンバル

シンバル

シンバルの音が 抵抗している

シンバルのサルが 抵抗している


失速する十字架

投げ落とされた 鉛色の夜の塊

あの一瞬に 殺された街

ねじ切られた セロファンの花束たち・・・


さっきまでの音

生きていた音

今はもう失われた音たち・・・


シンバルのサルよ、シンバルを打ち鳴らせ!

押しつぶされた数億の鼓動

押しつぶされた数億の未来

彼ら一人一人に成り代わり、

シンバルのサルよ、シンバルを打ち鳴らせ!


音が無い、声が無い、耳を持たない静寂に抵抗し

シンバルのサルよ、シンバルを打ち鳴らせ!


二重螺旋の回廊に咲く、次の世代の花束たちへ、

果てることなく注がれるはずだった、やわらかな愛情たちよ・・・


笑うように笑い

詩うように歌い

生きるように生きていた

彼ら一人一人に成り代わり


シンバルのサルよ

シンバルを打ち鳴らせ!


張り詰めたおまえの鼓膜には、彼らの呼吸が 今も 脈打っているはずだから

閉じないおまえの両目には、あの静寂の正体が 見えているはずだから


だから


シンバルのサルよ、

シンバルを打ち鳴らせ!


おまえの打ち鳴らすシンバルが

唯一、彼らの墓標だから


おまえの打ち鳴らすシンバルが

残された者の心に届くから


いつかきっと、

数億の鼓動と、数億の未来と、数億の愛情たちが

再び、ミツバチのように飛び交って

羽音を奏でる 穏やかな春が 来るのだから


いつかきっと、

おまえが 打ち鳴らすシンバルのその音にも

安息のときが 訪れるはずだから


だから

シンバルのサルよ、そのときまで

シンバル・・・

シンバル・・・

シンバルを

詩 「 放浪の蝶」

2018-06-24 17:54:06 | 

空に向かって

蝶は 飛んでいるのだ

窓の向こうの空へ行こうと

飛んでいるのだ

空を信じて

飛んでいるのだ

指紋のついた空を 空と想う蝶よ・・・


死にかけの太陽から剥がれ落ちた 網膜のように

はめ殺しの水晶体に

カラカラ 影を飛翔させる蝶よ


花びらの炸裂(さくれつ)を飛びわたり

求める思いを 蘂(しべ)の柱へ向けて 発信し

ねじれて行く風の道筋に

おまえの符号の明滅を残し


おまえの心は必ず、

冬を突き抜ける!

さぁ、今、

亜熱帯の海を渡れ!


そこにはギザギザの大空が

おまえを待ちうけて

どこまでも どこまでも

黙ったままで

浮いている


詩 「樹になった人(新緑の思い)」

2018-05-25 13:59:23 | 

ぜかぜかと歩きつづけ

いつから歩きつづけてきたのかも わからない

しかし 私は突然に

私の留まる場所を見出した



ここだ

私はここに立ち止まり

私はここに立ち続ける

ここなのだ



硬くなった両足の裏から 太い根が生えて

地中に向かって ずんずん進んでいく

がっしりと自分を支える根本

安堵感



両腕は枝となり 天へ向かって伸びていく

やがて小鳥が巣をつくる

太い胴からは 甲虫が蜜を吸う

命が 私のまわりで華やかに生きている



生きろ

命をリレーしつづけろ


あぁ、

どこまでも 空が ある

どこまでも この世界がある



思いをゆだねる

満ち足りる

すべての理を受け入れる


風が 吹き渡る




詩 「アマリリス」

2018-04-21 17:20:25 | 


はじめに画家は 空の色を描き出した


空の色

空の色

空の色


画家のごつごつと折れ曲がった鼻に

澄み渡る空の色が吸い込まれた



それから画家は 土の色を描き出した


土の色

土の色

土の色


画家のざらざらとひび割れた爪に

湿った土の色が染み込んだ



最後に画家は自分自身を描こうとした



自分の色

自分の色

自分の色



画家の深い眼差しが 遠い時の流れを 追い求めた



眉間の皺がいっそう深く刻まれた


風は静かに彼を見守った



彼は絵筆の先に、彼のすべてを

力強く注ぎ込んだ




空と


土と


・・・そして



花火のような


アマリリス




詩 「カラス」

2018-03-21 13:35:50 | 


カラス・・・

カラス・・・

檻の中にいるカラス

じっと動かぬカラスよ


私はお前を

決して好きではないけれど

何故か お前の鳴く声が


私の からだに しみ込んで

にじんで ぽたぽた 溜まるのは

おまえの心の暗闇が

ほんとに ほんとに 深いから・・・


私がおまえにしてやれるのは

そうなんだね、と

遠くから

時折 おまえを 見るだけだけど



詩 「 赤犬と月 」

2018-02-19 13:40:16 | 
            

黒土の表面で 赤犬が眠っている


空気の抜けたドッヂボールのような腹が動いている


落っこちかけの月がその頭の上にいる


アルミ鍋の底のような ベコベコの月だ


赤犬のねっとり湿った鼻面の真下には

土より黒い水溜りがある


その水溜りの表面には もう一つの月が浮いていて

さっきから、赤犬をにらんでいる



さて、赤道直下の高熱が一滴

水溜り目掛けて、シャボリと突き刺さった



水溜りの薄皮で一枚はがれた月が ニヤニヤと笑いはじめる


すると、赤犬が 大仏のように眼をあけた


しかしその眼は 月を見るつもりはない



赤犬は夢現(ゆめうつつ)に水溜りの底を見る


水溜りの底に 折り重なった ごぼごぼの窪み


海蛇のようなバイクの轍(わだち)


駄菓子色のミミズの死骸


何も買えない十円玉ふたつ


滑って踏ん張った片方の靴跡




なんともたまらなくなったのか、頭上の月がゲップをした


「ぐげぇっ」


水溜りの月も おんなじようにゲップする


「ぐげぇっ」


赤犬の両耳は どちらの音も しっかりと捕らえたが

そ知らぬふりをして 再び眼を閉じた



ベコベコの月の下に ニヤニヤの月がいて

何も言わない赤犬が一匹、挟まっている



上下の月のゲップは、しばらく止まりそうにない



赤犬の腹からは、ゲップすらも

出そうにない

詩 「 イマ時代 」

2018-02-17 09:45:11 | 

なんで イマ なんだ?


私が生まれた時代が イマ なんだ?


こともあろうに イマ なんだ?


生きるには


あまりに どこもかしこも 不自由じゃないか !


こんなページは グダリと破いて スッ飛ばしてしまえばいい !


無かったことには


出来ないか ?

詩 「 路地の陽だまり 」

2018-02-10 08:10:05 | 

お婆ちゃんが育てたアロエの鉢と

最近よく来る黒猫が

路地の隅っこで冷戦状態



軒下に差し込む細っこい日差しを取り合って 

真剣勝負のにらめっこ



ちょっとばかり

黒猫のほうが後ずさり



二階の窓から手鏡かざして

猫の背中に橙色のポカポカを

思う存分

さあどうぞ

詩 「 春 」

2018-02-02 14:11:48 | 

空から 雲のかけらが 舞い降りる


その着地は 存在しないかのように

笙の一音の 永遠のように


私の 手のひらの 春に

春よ

私の手のひらに

春よ



燕が空を削いでいく


あぁ

動けぬ山のごとく 覚悟して

さぁ

春を

迎えよう



舞い降りる 舞い降りる

白く 白く

産声のごとく 白く


私の手のひらの 春に

春よ

詩 「 張り紙の店 」

2018-01-30 14:38:16 | 

<手のり セキセイインコ 有ります >


藁半紙に 黒マジックで 一行

右横に 赤の波線 二本

この店には いつも 手乗りセキセイインコが <有る> という


バス通りに仰け反るように居座っている 茶色いガラス戸の その店は

たぶん、ほんとは 打楽器屋


マラカス、ティンパニ、タンバリン、雨樋、敷居、柱時計

暗がりに 店主のドクロが 膝をスイングさせている


手のりセキセイインコのさえずりを

聞いた者は まだ いない