庄司利音の本棚

庄司利音の作品集
Shoji Rion 詩と物語とイラストと、そして朗読

詩 「ヒトリリ自画像」

2018-01-07 15:32:38 | 

・・・繰り返し 繰り返し

パッキンが磨り減った蛇口から ぴとぴと落ちる雫の尻尾が

ずりずり繋がる同じひとつの鎖のようにして

ぞぞぞ動きつづける ムカデ足のご一家が

いそいそ 出かけて行った その後で・・・



ちょうど 彼らが朝食で

赤と緑のタータンチェックのテーブルクロスの その上に

紅茶を入れた歪な形の陶器のカップが置かれたあとの 楕円の皺が

蓮の葉っぱが浮くように

そろそろ ひんやり冷める時分で・・・



ウサウサ 日当たりの悪い北側の

寝室の壁にかかった額縁のなかの自画像は

自分の出っ張った鼻を 少しばかり気にかけて・・・

羽飾りのつば広帽子を 深めにかぶり直してから

そのゴムベラのような両眼を さもモッタイナイと言いたげに

もあもあ ぐるりと 一周させはじめる・・・



今日も何やら 言いたいことでもあったふうで

それでも 自分の口は関わりないと言いたげに

決して口角はゆるめず 奥ゆかしく・・・


どうこう説明しても どーもこーも

一滴 一カケ 誰の誰にも わかるまいと

あざけるように慈悲深く微笑みながら・・・


弛んだ喉の途中の内壁に

クルミの殻が引っかかったと クツクツながーい言い訳にして

むず痒そうにカラカラ響かす「R」と「L」の発音が お気に入りで ぬくぬくで

優越感の引っ掻き傷の カサ蓋を

ひりひり気持ちよさそに撫で付け撫で付け・・・


胡散臭い息の臭いを ピンクの舌で ホフホフ 転がすように味わって

モザイク模様の衣服に付けた じゃらじゃら理性と秩序の端布を

ザザザ誇らしげに揺すってみる・・・・



今日もどうやら三角顎を ツクツク突き出し

蛇腹模様の天窓から トトト慌てて降りてきた斜めかげんの西陽に向かって

「あっちさ!」「こっちさ!」と じれったそうに器用に指図し

自分の尖った鼻から伸びた紫色に尖った影を ひらひら 丁寧に折りたたませて

ふくふく ほっと安心する



「ふんフン、おぉ、なんと私は私らしい!!!」


出かけて行ったムカデ足のご一家の ムカデ小足のお子さんたちが

忘れて行った空っぽの キャラメルの箱の 一箱を

ベットの下の ウザウザとした絨毯に ほれほれ 目ざとく見ぃつけて

「おやおや、あの子たちったら、まぁまぁまぁ・・・」

と目尻の端で哀れんだりしてみせて・・・



ムカデ小足のお子さんたちが 帰ってきたら

カラカラポッポその箱を ぴくぴく目ざとく見ぃつけて

伸びた目玉が るくるく輝き

うぞむぞ うぞむぞ 暗い中身を覗きこむのを

「おぉ、さぞや がっかりするだろに・・・

中身は空っぽ! 空っぽだよ!!!

私は知ってる! 空っぽさあ!!」


自画像は 確信に満ちて予想しながら うずうずじれじれ

ムカデ足のご一家が 早く早く

ムカデ小足のお子さんたちが 早く帰ってこないかと

待ちわびて待ちわびて

自画像は 自分の愛しい顔が歪むのを

塗りつぶして押し殺して・・・

うくうく ぜぇぜぇ

耳の後ろで ちぇしゃしゃ笑って・・・



さてと・・・


今日もどうやら自画像は

壁に張り付きヒトリリリ

埃と一緒にヒトリリリ


リリリリリリリリ


・・・繰り返し 繰り返し


ところで、

ムカデ足のご一家は まだ トンと帰ってきそうにない・・・ようで 

ニッ!


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