りおんの本棚 Shoji Rion

庄司利音の作品集 詩とイラストと朗読ライブ

詩 「あかい海になった海のお話」

2017-04-30 12:55:13 | 
「 あかい海になった海のお話 」

あの日・・・

海は多くの命を引き受けて

あかい海になりました・・・


それでも海は 精一杯、

海は海として生きつづけました



月光だけが 海のやるせなさを知っていたので

海のすべてがあからさまにならないようにと

海の表面をオブラートのように覆って滑っていくのでした



そんな夜は 海もひととき安堵して 遠い昔の自分を想うのです



海は 精一杯、

海は海として生きつづけています



それは海の強い意志なのです

だから人間の瞳には今も海は青いまま

海の色に見えるのです



引き受けた命の願いを受け継いで

海は海でありつづけています



けれど 引き受けた命があまりに多かったので

もう 海は、自分がほんとうには青かったあの頃に戻れないことを知っています



それでも、海は海として 今日も波を繰り返します



あぉくあぉく・・・あぉくあぉく・・・

青い海へと・・・

詩 「 いつもの朝 」

2017-04-01 13:27:05 | 
「いつもの朝」




目が覚める

プレパラートにひろげられたアメーバーのような目覚め・・・

朝陽は この部屋を塗りつぶしている生ぬるい空白を切り取っていく
全てが線であり、厚味は無い

勝者の無い行き止まりの感情が
半音上がって蒸発していく 

ふたたび目を閉じて 眠りにつくほどのしたたかさも無い
だから私は、壁をつたってでも 起き上がってしまう

巨人兵のように立ち上がれば、
すぐさま 両足の根元から 甘たるい匂いが湧き上がってくる

あぁ、私の 私自身への感情が 毎朝こうして ゆらゆらと立ちのぼってくるのだ
こんな感情は 畳に擦って こそげ落とすしかない
今までの生きカスが 畳の目の狭間で窒息する

蛇口をひねれば いつまでも透明なままの水がしぼりだされる
流れる音は すぐさま排水溝にがぶ飲みされる
水垢が付いた鏡の向こうに 私の姿は映らない

代わりに 
植物のような子供が一人 
こちらを見てじっとしている
迷子になったのかい?
私は優しい大人じゃないよ・・・

口をつぐんだまま笑う私に
その子はなにを見ているのだろう

疲労したゴムのように伸びきった腕を 
真っ白なシャツに流し込む

さぁ、私は今日も 陽炎のような一日をやり過ごさなくてはならない

他の誰もがそうしているように
そうしなくてはならないのだ

ただ、この部屋を出ればいい
いつものように 誰もがそうするように、そうすればいい

扉は重いが、開けてしまえば、さしてその重さに意味は無い

右足の次に左足を前へ出し、
よろける前に また右足を前へ出せばいい

そして いつものように自分自身に言い聞かせる

今朝も食事は必要ない
私は生きていないのだから
生きていない人間が、あたかも生きているかのように
諾々と 一日を振舞うのだ!


ドアから押し出される四角い光が 私の体を鋳ぬくのだ!


毎朝のこの圧死

あぁ、
今日もまた、あいつが目覚めてしまった


死ぬ直前の蝉の大群

クラクションは鳴り行進する

いや
そうではない

誰もが動かず、誰もが留まらない


さぁ、
行くとしよう

これが最後の一日かもしれないのだから

いつもの朝から
いつもの朝へ

そしてまた

目が覚める