庄司利音の本棚

庄司利音の作品集
Shoji Rion 詩と物語とイラストと、そして朗読

短編 「蜘蛛とわたし」 その2

2015-04-20 20:11:29 | 短編や物語
「蜘蛛と私」は、その1、その2、その3、その4で完結する短編です。
これは、その2です。初めてのかたは、その1から順番にお読みください。 

「蜘蛛とわたし」つづき その2

・・・本文・・・


黒柳徹子さんというのは、あの「玉葱頭」の、あのユニセフの、あの「徹子の部屋」の徹子さんである。

「動物っていうのはね、人間の言葉がわかるんですのよ。わたくしね、そう思っておりますのよ」

黒柳徹子さんがほんとにそんなことを言ったかどうかは、この際、それは問題にしないでもらいたい。

とにかく、私の頭の中に浮かんでくださった徹子さまは、そうおっしゃった。

私がさっきキナコに言ったあの悪魔の囁きを、蜘蛛が聞いていた! かもかも?

とにかく、徹子さまがおっしゃるように、もし、蜘蛛が私の言葉をわかったならば

そうだとするならば、蜘蛛は私をどうする気だろう?

私がターゲットだとするならば・・・

あと数センチでも蜘蛛が私に近づけば、私の精神の均衡は失われるに違いない。

いや、すでにそうなのかもしれない。

さっきの徹子さまの声は、神のお告げのように、私の頭の中で何度も繰り返されている。

そうだ!

私の言っていることがわかるなら・・・・

そうだ、そうだ、そうなのだ!

素直で純真な女の子?に育ててくれた両親に、私は、このとき心から感謝した!

つまり、何がそんなにそうなのかと言えば、私は奴に、いや、蜘蛛さんに話しかけることにしたのだ。

笑わないでもらいたい。私にとって、唯一の選択だったのだ。私は、真剣だったのだ!

私は覚悟を決めた。

めちゃくちゃどうしようもない、映画の「ダイハード」だって、とどのつまりは、なんとかなってる。

あ、だいぶ古い・・・。

が、この際、明るい未来を夢見よう。

まずは・・・蜘蛛さんに、こちらの善人たるところを理解してもらわなくてはならない。

さっき言った失言で生じた誤解を、解かなくてはならない。

そうなのだ。私は、それほどの悪人ではないのだ! 私は善人だ!

あら、どこか遠くで「えっ、うっそぉ!」なんて高い声が聞こえてきたような気がしたが、ヘン! 知るもんか!

「あ、あのね、わたし、根は悪い人間じゃないんですよ。さっきは確かにキナコに失礼なことさせてしまったけれど、ほら、あなたがあんまり大きいから、私、あせっちゃったの。」

人間土壇場になると、結構、やれるもんだ。私は徹子さまが乗り移ったかのようにしゃべり続けた。

「今までだって、むやみに生き物を殺したりしたことはなかったのよ。

あなたより小さな蜘蛛は、ティッシュ、やわらかいほうのティッシュね、

それに包んで外にそっと出したりして。

あの子は、もしかして、あなたのお子様だったのかしら? 

今頃、新しいお家でお元気にお育ちと思いますわ。

わたし、自分で言うのもなんですけれど、けっこう、やさしいのよ。

アリンコだって、踏みそうになって、ギリギリ気がついて、ぐっと踏ん張って、ちゃんとよけたこともあったわ。

腰ひねって、あとで筋肉痛になったけど、アリンコの命のためですもの。」

ん?あったかな? そんなこと?

ま、ちょっとの脚色は許してもらおう。

「あの、提案なんですけど、私としては・・・希望としては・・・ここから、っていうか、私の家から

あなたに出て行っていただきたいわけで・・・。

も、もちろん、今まで私とあなたの間になんのトラブルもなかったことは、承知しております。

そりゃもう、あなたが、紳士だったからだわ」

私は勝手に蜘蛛のことをオスと決めている。

女の武器を有効に使うためには、この際、蜘蛛さんには男であってもらおう。

アハ?

あたしの女の武器ってどれ?

どれだ?

この問いに関する思考は、銀河の果てまで行って、収穫ゼロで、一瞬にして地球に帰還した。

気を取り直そう。

「あのね、今日ね、こうしてね、互いに顔を合わせてしまって、今、この状況下なわけでね・・・今までのようには行かなくなったってことは、わかるわよね? あ、わかる? 

わかってくれる? そうなのね、知らなきゃ済むことも、知ったあとは、そうはいかないわよね。

あなたが気持ち悪いとか言っているんじゃないのよ。」

と言いつつ、そう言ってる私の口は、気持ち悪そうに歪んでるだろうけど。

「なんて言ったらいいのかしら・・・そうね、人にはそれぞれ生き方というのがあって」

あぁ、蜘蛛は人間じゃぁない・・・

「この家を気に入っていただけてそりゃ、うれしい気持ちも、多少なりともないわけじゃないけど。

良い家でしょ。

建て増し建て増しだけど、私も愛着あるわ。

でも、たとえ今日、あなたとの出会いを、私の記憶から抹殺したとしても、

次回の出会いは、あり得ないの。無理なのよ。

いや、ごめん、この際、はっきり言うわ!

私の人生にあなたとの同居は考えられないんです!」

どこかのメロドラマのせりふみたいだ。

でも・・・

ん?どうだ? どんなかんじだ? 

不思議なことに、蜘蛛はまるで私の話に耳を傾けているようにピクリとも動かないのだ。

これはひょっとしてひょっとするかもしれない。

よ~しっ、もう一押し

「お願い、私はこれから先、けっして蜘蛛は殺さないわ。どんな蜘蛛に出会っても、あなたのこと思い出すわ。

だから、お願い! 出て行ってぇ~」

おぉ!私の瞳には、今、少女マンガのキラキラがいっぱいなはずだ。

過去、いかなる状況に陥ろうとも、窮地に陥れば陥るほどに、毅然と立ち向かうこの血筋、母方だ! 

この母方譲りの眼力の効果は、はたして?




作:庄司利音  「蜘蛛とわたし」その3へ続きます。





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