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好事家の世迷言。(初代)

※はてなブログ『好事家の世迷言。(続)』へ移転計画中。

調べたがり屋の生存報告です。

大平原への脱出劇!

2023-06-18 | 物語全般
映画『大脱走』を劇場へ見に行く。

以前、家でDVDで見たその時には、途中で挫折した。
いつか全部見ようと考えていた中、「午前10時の映画祭」での上映を知って飛び込んだ。
今一つの体調で、当初はへろへろぼんやり見ていたが、最後まで見て悟った。

これ、劇場の大スクリーンで見ないとダメなやつなんだ、と。

そもそも私の場合、登場人物の顔と名前がなかなか一致してなかった。あと国。
実話が元になっているため、大半の人が逃げきれないという顛末も、受け入れがたかった。
兵士としては、収容所から逃げ出してみせる事自体が、敵の戦力を割かせる攻撃なんだという事を、理解できなかった。

逆に言えば、それらの点をクリアした上で見れば、評価は逆転する。
なんと丁寧で興味深い作品なんだろうと。

ヒルツ&アイブス、ヘンドリー&ブライス、ダニー&ウィリー、バートレット&マックといったコンビそれぞれ注目ポイント多々。
味方も敵も基本的に、頭の回転も速く行動力もある上で、密かな攻防戦を繰り広げる。
3時間の長丁場は確かにキツイが、ヒルツとアイブスの脱走失敗など、省くべき場面はバッサリ切っている。即落ち2コマレベル。
ギャグも用意されてる。飛び乗ったベッドの底が抜けるシーンは笑える。

そして、私がかつて挫折した辺り、2時間過ぎてから、実はこの映画の本領発揮
狭いトンネルを抜けた先。広大な草原をバイクで駆け抜ける。長大な線路を列車が走る。遠大な川を、海を、船で巡る。
確かにラストは切ないが、再収監されたヒルツの、ふてぶてしい笑みは救いでもある。
きっと彼はまたすぐに、大脱走を企てるだろう。
失われていく仲間たちの思いも背負って、何度でも。

それでは。また次回。

短編の断片のSF映画。

2023-06-11 | 物語全般
『いれずみの男』のDVDを見る。

TSUT○YAの「発掘良品」のラインナップ。
因みに1969年作。

ブラッドベリ作品の映画化、そして発掘良品ならハズレはあるまい、と思ったのだが。
あんまりよくわかんなかった。

あらすじはシンプル。
ヒッチハイクでアメリカを旅する青年・ウィリーの前に、全身に入れ墨(作中では肌彩画と言われる)を施された男・カールが現れる。

カールはウィリーのコーヒーや寝床に勝手に割り込みながら、自分に入れ墨をした女・フェリシアを殺すために探していると語る。
カールの入れ墨を見た者は「物語」を白昼夢に見るという。

危険なVR遊具に囚われた子供たちの話。
豪雨の止まない異星で遭難した探検隊の話。
世界の終わりの日を迎える家族の話。

ウィリーは、そんな「物語」を垣間見た後、最後に、カールが自分を殺す「物語」を見て錯乱する。そんな悲劇。

何が何だかサッパリ分からん、と思って、調べて知る。
どうも本作は、ブラッドベリの短編集を、オムニバスの形式で映画化した物のようで。
つまりウィリーが見た「物語」がそのまま短編なんだろう。
「物語」同士の関連、まるで分からんかったものなぁ。
いずれ、きちんと原作を読もうと覚書。
楽しみが増えたと思おう。

それでは。また次回。

ポーランド製ショートショート群。

2023-05-31 | 物語全般
『所長』(byスワヴォーミル・ムロージェク)、読了。

ショートショートを読みたくて、図書館で借りた。
因みに1960年初出。

ムロージェクはポーランドの作家。
1968年チェコスロヴァキアでの「プラハの春」事件を機に、パリへ実質的亡命。
本作は、主にラジオ番組での話を活字にした物との事。
(巻末の解説より)

本作で扱われるのは、社会主義国家における(ブラック)ユーモアである。
……の、はずなのだが、どことなく何となく、日本の話に思える部分も実はあったり。
(特に昔の)日本の「お役所仕事」ネタが多いのだ。
タイトルにもあるように、本作にはほぼ毎回、何らかの施設だろう「所長」が出てくる。
その所長が理不尽な要望や提案をし、周りの部下は絶対さからえないというのが基本構造。
未処理の書類の山に挑んだ結果、書類の雪崩で死んじゃうとかが日常茶飯事。

ただ、日本だったら湿っぽくなりそうな話題なのに、雰囲気は明るい。
常に物不足、人不足、金欠に苦しんでいるものの、まあ困ったら取りあえずウォツカ飲んでれば何とかなるだろうという楽観主義。
(もっとも、そのアルコールさえ不足しており、靴クリームやら香水やらを摂取してる描写がある)

そんなぶっ飛んだ話が毎度、3ページくらいで次々に繰り出される。
身体障害者のネタとかも普通に出てくる。

読んでいる内に、なるほどコレは筒井康隆さん好きそうだなと、しみじみ感じた。
氏の短編『ムロジェクに感謝』の「ムロジェク」の元ネタを知れたという日記でした。

それでは。また次回。

バブル時代について勉強する映画。

2023-05-30 | 物語全般
映画『マルサの女』のDVDを見る。

午前10時の映画祭、で見る時間を取れなかったため、家で見た。
考えてみれば、今まで見そびれていたから、これを機会に勉強として。

1980年代、バブル時代の日本を描いた有名な作品。
子供の頃、でっかいカバン型携帯電話を使ってる人の映像と、あのBGMを、浴びるほど見聞きしていた記憶。

PG12という但し書きから、何があるかと身構えていたが、冒頭から襲ってきたのは、生々しいエロネタだった。
その後もセックスネタがばりばり出てきて焦りまくった。
ある意味、映画館で見なくて良かった。「うへえ」と変な叫び声出ちゃったから。

見終えて振り返ってみれば、税金という取っつきにくい専門職の世界を、非常に取っつきやすく分かりやすく描ききっている、確かに快作だ。
あの聞き慣れたBGMも、重要シーンでこそ流れるように計算されているのだろう。
実例を立て続けに紹介される場面が一番目を惹いた。
まさかそんな形で財産を隠すのか。そしてそれをまさかそんな形で暴くのか。
この作品のヒットが、世間で専門職を扱ったドラマや映画が増えたきっかけだったんだろうな。

ただ、私の場合、この作品を見るのは少しばかり遅かったかもしれない。
屋敷のあの“どんでん返し”、何となく予想できてしまったから。
(むしろ、ロックかかってなかった事に驚いた)
予備知識なく、リアルタイムで見れた観客が羨ましいなぁ。

それでは。また次回。

『2001年』映画版VS小説版。

2023-05-17 | 物語全般
『2001年宇宙の旅』(byアーサー・C・クラーク)、読了。

映画を見て分からない部分については、小説を読めば理解できる。
小説を原作としている映画なら、その道理が通る。

ただ、今回は事情が少々異なる。
『2001年宇宙の旅』において、映画と小説は同等。
この小説は、映画と同時期に書かれた、もう一つのバージョンなのだ。
よって、あくまで小説版は小説版独自の設定と見なす事。

上記を前提とすれば、映画版のある程度の補完として、やはり小説版は優秀だ。

まず、人が最初にモノリスと会った経緯については、非常に詳しく書かれている。
その後、1940年代に真空管による初期のAI登場、1960年代に実用AIの理論構築、1980年代に学習できるAI登場、そして2001年に音声認識&自律思考できるHALが登場する。
(因みにこの本は1968年初出)
1時間ごとにニュースが更新される電子パッドが流通してたりする。

地球の人口は約60億人、うち中国が20億人。
人口爆発による世界的な食糧難が発生しており、アメリカでも肉を食べられない。
核保有国が38に及び、中国が核兵器を売っている。そんな世の中。

HALが壊れた理由、そしてボーマンが至った「星の門(スター・ゲイト)」や「星の子(スター・チャイルド」)についても、本当に分かりやすい。

その一方、登場人物たちの死は実にあっさり。HALの死もせいぜい2ページ。
この辺の迫力は、映画版の方に軍配が上がるだろう。
映画を見たら小説を読んだら、また映画を見たくなった。どちらも傑作です。

それでは。また次回。

繰り返される、時の檻。

2023-05-10 | 物語全般
『秋の牢獄』(by恒川光太郎)、読了。

全3話収録の短編集。2006年初出。

本命は表題の『秋の牢獄』。
区切られた時間の中を繰り返す、いわゆる「ループもの」。
ある年の「11月7日の水曜日」の1日を、延々と繰り返す事になった主人公。
何をしても、それは日付の終わりを境に、「11月6日に見ていた夢」として処理され、11月7日の朝へ戻る。
『恋はデ・ジャヴ』辺りのイメージに近いか。

本作の独自性は、そういった人々が大勢登場する事。
作中でリプレイヤーと呼ばれる彼らはグループで行動し、各地を旅する。
そして主人公が、謎めいた存在と出会ったところで、話は切られる。
結局、リプレイヤーとは何だったのか。穏やかな一日を繰り返す情感を味わうべき作品。

自分としては、他の2編の方が、より印象深い。
『幻は夜に成長する』は、幻想をもたらす“魔法”に翻弄される女性の半生。
ただ、これもラストは寸止め。
組織に囚われた復讐を果たそうとする直前で切られる。

『神家没落』が最も好み。
厳格なルールに基づいて日本中をさまよう家屋。
途中で刑事事件が起こるなど波乱を経ての劇的な終焉までが描かれる。
SCPオブジェクトを連想した。

世のレビューを読むと、同作者の『夜市』の評判良いのでいつか読みたい。

それでは。また次回。

昭和ロマンの短編集です。

2023-04-21 | 物語全般
『都市伝説セピア』(by朱川湊人)、読了。

全5話収録の短編集。
2003年初版であり、作者は2002年に『フクロウ男』でデビューしたとの事。
(作者名は「しゅかわ みなと」と読みます)

知ったきっかけは『昨日公園』。
時間移動ものとして秀逸と聞き、図書館で借りた。
因みに『世にも奇妙な物語』で改変してドラマ化されているそうで。

個人的に印象に残ったのは、『昨日公園』よりも寧ろ『フクロウ男』だった。
都市伝説の当人になるという願いに取り憑かれた男の物語。
最後に驚かされる、「ミステリとして」心地よい作品。

ところで、作者は1963年生まれとの事で、作品たちはどれも、同年代の人ならば馴染み深いだろうモチーフが取り上げられている。

『アイスマン』は見世物小屋。
『昨日公園』は仮面ライダー。
『フクロウ男』は口裂け女。
『死者恋』はビートルズ、ファントムオブパラダイス、札幌オリンピック、連合赤軍、アイドルの飛び降り自殺。
『月の石』は大阪万博、そしてタイトルそのもの。

上記の語に興味を持った方は、一読をオススメする。
作中に一段と入り込めるはずだ。

それでは。また次回。

小松左京の純文学の世界。

2023-04-12 | 物語全般
『地には平和を』(by小松左京)、読了。

自分には小松作品は合わないと感じつつも、世間で名作と評されている事から、せめてもう少し読もうと足掻いている今日この頃。
今回はデビュー作を読んでみようと図書館で借りた。
阿部出版という聞き慣れない所から出版されていた。
商業デビュー前、同人誌で発表された作品群をまとめた本との事。

全6話収録の短編集、なのだが。
私はこの度、初めて知った。
小松氏は純文学作家として活動した後に、SF作家になった事を。
そんな私だから、最終話の『地には平和を』に至るまで、ひたすら面くらい続けた。

犯された女が老人に説教されて殺される『慈悲』。
いゆわるBSS(ぼくがさきにすきだったのに)的な恋愛を思い返す『最初の悔恨』。

男性四人の事情を描く『溶け行くもの』は、時系列が前後しまくって非常に混乱した。
男の一人が自殺しようとするのを、他の三人が止めるも、結局その男は虫垂炎の悪化で死んでしまう。

比較的長編の『失敗』に至っては、大学を出た主人公が人生に行き詰まって餓死に至るまでが克明に書かれ、読んでいて何度も気分が悪くなった。

そこまで耐えて読んだ『地には平和を』は、確かに私のよく知る小松作品の色だった。
1945年秋に戦争の続く日本で、14歳の少年は、5000年後から来た未来人から「この歴史は間違っている」と言われ、その時間軸は消滅する。どこかの剪定事象みたいな話だった。

それでは。また次回。

蒼き水と紅き炎が神話になった、物語。

2023-04-02 | 物語全般
映画『RRR』を劇場へ見に行く。

・「ナートゥ」という架空の踊りが出てくる
・3時間かかる
・拷問のグロ描写あり
・男性コンビの友情の話

以上の予備知識のみで見に行った。
結果、世間様の評判ほどには、自分はテンション上がってはいない。
イギリスによる植民地時代のインドにおける闘争という、私としては非常に苦手なテーマだったから。
やっぱり自分は、暴力とか戦争とか差別とかいった内容は、見ていて辛い。お子様です。
ただし、この映画は、当時の史観を元にしていても、史実を描いているわけではない。
異なる立場の男性コンビが対立と和解を繰り返しながら、「二人一緒にわるもんをやっつける!」エンターテインメントへ、大いに舵を切っている。
つまり、非常に面白い!

3時間という長丁場だが、無駄な引き延ばしは無い。むしろ縮めて3時間だ。
件の「ナートゥ」も、意義ある要素として機能している。
それに、序盤を含め、だいたい1時間ごとに、ストーリーの見せ場が入る。
「赤い炎」と「青い水」をはじめ、キャッチーなモチーフが繰り返し登場するなど、いっそ模範的な姿勢の作劇のため、没入しやすい。

見る前に、トイレに行かないおまじないとして、あらかじめ大福食べたが、もしかしたら必要なかったかもしれない。
でも個人的には、あの「インターバル」表示の時に、10分くらい空けてもらいたいかな。
そうすれば、もっと気軽に見に来る人も増えると思うんだが。

それでは。また次回。

リポグラムの極致atフランス。

2023-03-19 | 物語全般
『煙滅』(byジョージ・ペレック)(訳:塩塚秀一郎)、読了。
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フランスのペレックなる作家が手がけたこの創作物。
好事家らから目を向けられながら、読むチャンスの多からぬ、ある観点からのスーパーレア。

主(おも)たるプロットはこうだ。
スタートは、あるキャラクターが姿を消すところ。
他のキャラクターらは、彼を探すが報われず亡くなって、現場を去る羽目になる。
本当の事を明かせば、彼らは全て、長く受け継がれた、呪われた者。
それ故、ラストの頃は誰も残らず、幕は下ろされる。

と、顛末を反芻すると、何と鬱々たる事かと驚く。
我が遍歴──かつて触れた傑作とは感覚のかけ離れた、絶望の世だ。
普段なら、まず読む事はなかろう。
そう。こんなのを読んだのは、この本独特の言葉の戯れに、かかずらってやろうと思ったからだ。
この本では、テクストをそのまま和訳するのでなく、パズルの如く複雑な翻訳がなされ、結果、原語とは少なからぬ齟齬が見られる。
本当なら6個ある物が、8個(はっこ)まで増やされてる場面が複数ある。
4ダースとか、カナブンとかの要素がやたら取り上げられてる。エトセトラ。
そのほか、キャラクターらの名前など、まるで別物。
例えばムーオン・カナヌークとか、なかなか笑える。
「スファンクス」「ハンプテーダンプテー」「モベーデック」など、仏語の発音優先で訳された単語も散見する。
アルファベットの文は、殊更、翻訳の苦労を痛感させられる。全く別の文を載せてるんだもの。
その目的は、斜めの縦棒が二つ並んだ図柄である、“それ”を隠すためだけ……。
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以上。
破線内に限っては、日本語版『煙滅』のルールに抵触しないように気をつけて書き散らしてみた。
重い、暗い、虚しい物語だけれど、非常にイイ面も多いから、一度と言わず手に取ってほしい作品でした。

それでは。また次回。