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好事家の世迷言。(初代)

※はてなブログ『好事家の世迷言。(続)』へ移転計画中。

調べたがり屋の生存報告です。

グロテスクの展示会。

2025-04-04 | 物語全般
『肉食屋敷』(by小林泰三)、読了。

全4話収録の短編集。

ほぼ全編にわたってグロテスクでおぞましい小林泰三作品群。
けれど読後感は逆に清々しかったり、伏線の収斂が美しすぎたりして、目を離せない。

『肉食屋敷』
タイトルで想像したオチがある種そのまま当たる話。
どう足掻いても絶望。この世界は滅ぶ。
畜生、いつの間に……。

『ジャンク』
人体が資源として使い倒されてる世界。
ひたすら腐臭に満ちる展開にくらくらするが、読み終わるととてもロマンティック。何だこれ。

『妻への三通の告白』
全部読んでから、今度は逆に最後の段から読み直すと意味が通る。
ところで磯野と野原って名字って、やっぱし作者狙ってる?(サザエさんとしんちゃん)

『獣の記憶』
サスペンスと思ったらホラーと思ったらミステリと思ったら最後に混乱。
いわゆる多重人格ネタや、「××役が真犯人」をこう転がすとは。驚いた。

それでは。また次回。


※当記事以外に最近読んだ本たち。
『ミラーマンの時間』(by筒井康隆)(角川)
『風葬の城』(by内田康夫)
『ピンクとグレー』(by加藤シゲアキ)
『絵のない絵本』(byアンデルセン)

映画制作、激動の時代。

2025-03-17 | 物語全般
書きそびれていた話題。

映画『雨に唄えば』を劇場へ見に行く。

『午前10時の映画祭』での、本年度の我が本命だった。
体調不良などから時間を取れずにいたが、奇跡的にタイミングが合った。

本作については、恥ずかしながら未見だった。
どしゃ降りの雨の中で登場人物が歌い踊る様子を色んな機会に見かけた、という以外、予備知識ゼロ。
そんな状態で見に行ったおかげで、かなり楽しめたし、興味深かった。

1952年作。
作中の舞台は、1920年代。
映画制作が、サイレントからトーキーへ変移する激動の時代。
現場は大混乱に陥りつつ、試行錯誤のすったもんだを繰り広げる。

内容については、既に語り尽くされていとると思うから譲る。

私の印象に残ったのは、女優リナの描写だ。
初めて見たのに、このキャラに強い既視感があった。
最後に手痛い目に遭う、いわゆる「ざまあ展開」ってやつを見て、思い当たった。

テンプレ悪役令嬢の婚約破棄じゃん。

権威はあっても実力が伴わず、腹いせに正ヒロインをいじめて、終いに婚約者に捨てられる。
こんな昔からある王道なのね。

ところで、先達のレビューに『時計じかけのオレンジ』よりは先に見ろという意見が少なくなかったのが気になっている。

幸いにして、私は『時計~』も未見。
今後の『映画祭』で取り上げられるらしいという話を耳にしたから期待したい。

それでは。また次回。

変名小説。

2025-03-06 | 物語全般
『K体掌説』(by九星鳴)、読了。

タイトルだけで読んでみた。

変わったタイトルである。
一時期流行った「ケータイ(携帯電話)小説」のパロディだ、と今では説明が必要だろう。
「小説家になろう」や「カクヨム」から読む今のスマホ時代には、そういった説明が必要かもしれない。

作者の名前は「いちじく せいめい」。
「一字の九」だから「いちじく」と知識では知ってるが、ずいぶん変わった名前だなぁと思いながら図書館で借りる。

いざ手にとって、一見でネタが割れた。
夢枕獏氏の別名義による連載短編集った。
裏表紙にあった「21世紀の星新一」というような触れ込みに期待したが、自分の好みにはあまり合わなかった。
2行で終わる詩歌のような作品や、半ばエッセイのようでオチのない作品も少なくない。
最初の『落ちる首』は印象深い。
『おかあさんたいへん』シリーズはホラーだった。

それでは。また次回。

食人植物によって、終わる世界。

2025-02-24 | 物語全般
『トリフィド時代』(byジョン・ウィンダム)、読了。

1951年作。
知ったきっかけは、とある漫画から。
「植物が襲ってくるホラー作品の一例」と目にして、図書館で借りた。

正直なところ、序盤は退屈だった
特異な状況に説得力ある設定を説明し尽くすための部分がなかなか長い。

タイトルにある「トリフィド」とは、人類に(当初は)有益な謎植物の名前。
その様相については文庫表紙のイラストが一番助けになる。
三本の根によってゆっくりと移動できる。
そして先端にある鞭状の触手で、補食する相手の弱点を的確に攻撃する。
つまり、何らかの形の知性を持つ(可能性がある)
主人公は、そのトリフィドを研究する学者。

だが、実を言うと、このトリフィドの脅威は、物語のアクセントの一つに過ぎない。
寧ろ大きい悲劇は、「一夜にして全世界の大半の人間が全盲になってしまう」という点だ。
主人公たちは偶然その悲劇を免れ、生き延び、文明文化を立て直そうと努力する。
有り体に言えばフリーセックスによって遺伝子の枯渇を防ごうとする新体制の団体と出会い、その後はキリスト教に則って慎ましい現状を保とうとする旧体制の団体とも出会う。

その日その日をしのぐ毎日を経て、さてこの作品の世界はどう移り変わったか……については、さして描かれずに終わる。
悲劇の原因についても、開発され過ぎた衛星兵器の暴走か?と匂わされるに留まる。
連載打ち切りのような形で終わってしまっているのは、個人的には残念だ。
今この私の生活は、薄氷の上に成り立っているという事を改めて考える機会にはなったと思う。

それでは。また次回。

京都×ホームズ×メタミステリ。

2025-02-03 | 物語全般
『シャーロック・ホームズの凱旋』(by森見登美彦)、読了。

かかりつけの病院の待合室で、少しずつちびちび読んで楽しんだ。
関係ないけど、「森見登美彦」って名前、一発変換できるのね。
今時のスマホすごい。

ホームズシリーズのパロディと呼ぶにはペダンチックで、パスティシュと呼ぶにはブッ飛んでる作風。

何せ舞台は、「ビクトリア朝京都」とゆー、ミョーな世界。
作者お得意の京都ローカルネタが満載。

そんな世界で、原因不明のスランプに陥っているホームズと、彼に振り回されるワトソンのとたばた模様。
モリアーティがご近所さんのお友達だったり、ワトソンの妻・メアリとアイリーンが意気投合してたり。

そんな彼らが、心霊現象にまつわる開かずの部屋の謎に挑むところから、物語は激しくメタ展開へ変貌する。

ドイルが創ったCANONの世界と、森見氏が創った世界とが並び立つ。

ほのぼのとしたハッピーエンドで終幕するので読後感は非常によろしい。
相性が合えば、これくらいの厚みの小説もスムーズに読み通せるんだな、まだ今の自分。

それでは。また次回。

科学者の繰り出すホラ話、の話。

2024-12-10 | 物語全般
『白鹿亭奇譚』(byアーサー・C・クラーク)、読了。

全15話収録の連作短編集。
書籍の初出は1957年。

「積ん読」を消化してから最初に図書館で借りた。
短編集ならスムーズに読めるだろうと考えて。

とあるパブに集まった人たちが語る不思議な話、という裏表紙の紹介は、半分正解で半分間違い。
というのは、その不思議な話を紹介する人物は、ハリー・パーヴィスただ一人。

そも、パーヴィス氏は何者か。
彼の話題は、工学生物化学物理と異様なほぼ幅広い。
あらゆる音を消し去る機械、あらゆる動物を操る機械、あらゆる感覚を再現する機械、あらゆる計算をこなす機械などなど、飛び抜けて奇妙なアイテムの発明とその顛末について述べられている。

このパーヴィス氏がとにかくひたすら喋り倒している。
聞き手の掛け合いどころか、相づちさえ、ほぼ入らない。
「~したんだ」「~なんだよ」の語尾の一本調子に、読んでて正直眠くなった。
中には(何故か)ト書きの入った三人称になってる編も幾らかあるが。

個人的に印象深かったのは、『隣の人は何する人ぞ』。
シロアリの人為的進化については、『2001年宇宙の旅』や『幼年期の終わり』などを連想した。

それでは。また次回。

「積ん読」を消化しました。

2024-11-04 | 物語全般
書き溜めしていた本の感想を全てアップロードし終えた。

書き溜めを消化している間、自室の書棚で長らく「積ん読」になっていた文庫本を読み尽くした。

『アイの物語』(by山本弘)
『あなたをつくります』(byフィリップ・K・ディック)
『火星に住むつもりかい?』(by伊坂幸太郎)
『偶然世界』(byフィリップ・K・ディック) 
『クリムゾンの迷宮』(by貴志祐介)
『世界から猫が消えたなら』(by川村元気)
『ダレカガナカニイル……』(by井上夢人)
『斜め屋敷の犯罪』(by島田荘司)
『七匹の大蛇』(旧訳版)(byスティーブ・ジャクソン)
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(byジョージ・ガイブ)(同名映画の小説版)

この他、学術書やビジネス書の類にも、ちょこちょこ手を出した。
雑学の本も、先日1冊読了した。

正直なところ、驚愕している。
集中力が随分落ちたと思っていたのに。
「感想を書かなければならない」という強迫観念を捨てて読めば、こんなに速度が戻るのかと。

実を言えば、目に見える「積ん読」を消した事のほか、「いつか読もうと思ってる本リスト」メモのデータを消してしまった事も、読書速度の上がった原因かもしれない。

世間で話題だから、レビューで褒められてるから、文学史に勉強として読むべきだから……などの理由は、本当の読みたい理由ではない。
ただの義務、苦行になってしまっていた。
全部いったん忘れて、それでも尚、読みたいと思い出す物が、今の自分が本当に求めてる作品なんだろう。

今回挙げた本たちの感想も、一旦は横に置く。
書くかもしれないし書かないかもしれない。
さて、次の本を探そう。
感想を書くためでなく。
まず読んで、後から感想を書きたくなったら、そこで初めて書く、そんな気持ちで。

それでは。また次回。

「何でもあり」の極限を目指す。

2024-10-29 | 物語全般
『夢の木坂分岐点』(by筒井康隆)、読了。

1987年初出。
「何でもあり」の筒井作品の頂点かもしれない。
メタフィクションの極み、という言葉では生易しい奇妙な話。

本作の主人公は、とにかく設定がぴょこぴょこ変わっていく。
職業どころか名前や家族構成さえも。
まるで、全ては泡沫、夢、妄想、即ち虚構の世界のように。
あるいはカウンセリングにおける心理劇(サイコドラマ)の中のように。
何せ、台詞のかぎかっこが終わらないまま、異なる設定の話へ進んで動いてしまう。

『脱走と追跡のサンバ』(1971)、
『虚人たち』(1981)、
『虚航船団』(1984)などを経た当時の作者が至った、(生身の人間でないメタ的な)主人公の成長物語、とでも言えばいいだろうか。
だがしかし、この先でも作者は、
『朝のガスパール』(1992)、
『邪眼鳥』(1997)、
『残像に口紅を』(1989)、
と、ますます複雑怪奇な、けれど興味深い話を弾き出すのだから、底が知れない。

ところでこの本、小説初心者はモチロン、筒井作品初心者が読んだら混乱するんじゃないかな。
せめて前述した本を読了してないと、私は無理だったかも。

それでは。また次回。

神=造物主=作者からのメッセージ。

2024-10-03 | 物語全般
『モナドの領域』(by筒井康隆)、読了。

筒井氏いわく、最後の長編にして、最高傑作。
確かコレ、世に出た直後はミステリとして紹介されてた記憶。
だが実態は寧ろ、説話集、法話集と呼んだ方がいいように思った。

ストーリーは、良く言えばシンプル、悪く言えばやや平坦。
不気味なバラバラ殺人事件が描かれそうで描かれない、もどかしい状況がしばらく続く。
静かな町のパン屋さんでの、ややセンセーショナルな出来事を境に、話は動き出す。
大学教授に憑依したナニカ、自ら名乗るは「GOD」が語り始めてからが本番。
公園で話して、裁判に出て、テレビに出て、そうしたらもうラストシーン。イベント少ない。

結局この話は何なんだろうと読み返して、ふと悟った。
これは、アバターを通した作者による、今まで産んだキャラ達への感謝状であり、ラブレターだと。
虚構の虚構による虚構のための、虚構だけで創られた虚構論、それの体現。
筒井氏の他作品をあらかた読んでから手に取って良かった。
これから読む人は、せめて『文学部唯野教授』を読んでからの方がいいかもしれない。
実際問題、「GOD」の思想論は、文字のみではかなり難解。
作中キャラは、悟性で理解させてもらえていて羨ましい限りだ。

それでは。また次回。

良き物語は古びない。

2024-09-25 | 物語全般
『東海道戦争』(by筒井康隆)、読了。

全9話収録の短編集。
因みに中公文庫。出版は1978年。

中公文庫の裏表紙には、筒井氏の処女作品集とある。
そのじつ最初期の作品群であり、読んで、ある意味、全盛期の氏の作品を浴びる事となった。
既読作も幾らかあるが、今まで作品集などで見かけた、どれも尖った作品たちだ。

本命は表題。1965年初出。
何の理由も根拠もなく、突如として勃発した、東京と大阪の戦争。
オリンピックの盛り上がりをもう一度という軽薄なノリで始まるも、実際の戦闘は当然ながら酸鼻の極み。

後もう一つ強烈だったのが『堕地獄仏法』。
とある宗教に統率された日本。
物質面では極めて満たされた一方、言論の自由がまるで無い世界。

どちらも、実は今の時代こそ読んでみた方がいい作品かもしれない。
意義のある時間を持てました。

それでは。また次回。