「少年と自転車」という映画を見に行った。
日本の児童養護施設での話が映画の着想になっているらしい。
「親が迎えにくるのをず~と屋根の上で
待ち続けていた子どもの話が元になっているらしいよ」
いつもは私が映画に行くと言っても興味を示さなかった母が
自分も行きたいと言い出した。
映画館に行くのは数十年ぶりだという。
着ていく洋服をうれしそうに選び、小さな手提げバッグを持った。
説明的な描写はほとんどない映画だった。
そのうちバッグの持ち手を握りしめる (キュー、キュー)
という音が聞こえてきた。
ラスト近くになるとその音が強くなった。
上映が終わり灯りがつくと
「とても、いい映画だった」と母は言った。
わたしも「いい映画だったね」と答えた。
帰りしな映画館の受付嬢に母は「ありがとうございました」とお辞儀をした。