[高野公彦選]
○ 生きゆくに多くはいらぬ去りゆくにひとひらのはなあればうれしい (高槻市) 門田照子
本作の作者・門田照子さんは御年何歳におなりなのでしょうか?
と申しても、評者とて人並みの常識を弁えた人間であるから、それほど若年とも思われない女性・門田照子さんのご年齢を無理矢理知りたいという訳ではございません。
要は、「生きゆくに多くはいらぬ」という一見諦観めいたご意見も、「去りゆくにひとひらのはなあればうれしい」というささやかな願望も、ある程度のご年齢に到達なさった方が、ご自身の半生を振り返ってみた時に、初めて口にすることの出来るご感慨であろうと思ったからの質問なのである。
先週の金曜日の夜に、大阪に単身赴任中の長男が我が家を訪れ、久し振りにお酒を飲み交わしたのである。
その際、我が妻・翔子が長男に向かって、「先日の朝日新聞の記事によると、サラリーマン世帯に於いては、年収六百数十万円を分岐点として、それ以後は幸福度が減少して行きこそすれ、増大することはあり得ない、ということであった。ところで、お前の家の幸福度はどうなっているのだろうか?」などと質問した。
すると長男は、その質問に直接返答することこそしなかったのであるが、一呼吸置いてから、「つい先日、長女の雪菜に『今年のクリスマスにサンタさんから何をプレゼントして貰いたいか』と電話で訊ねたら、雪菜はさも面倒臭そうな声で、『居りもしないサンタさんからプレゼントして貰いたいものなんて何もありません。私はお家で蝦蟇蛙を飼いたいと思っているから、もし出来たら、サンタさんになり代わって、パパが大阪の淀川から蝦蟇蛙を捕まえて来て欲しい!』なんてことを言うんだ。まだ三年生だというのに、家の中で蝦蟇蛙を買いたいなどとふざけたことを言う。最近の小学生は、一体何を考えているんだろうか?」などと、まるで溜息を吐くようにして漏らしたことであった。
我が孫娘の雪菜は、未だ小学三年生なのに、本作の作者・門田照子さんとそれ程変わらないような<諦観的人生観>に到達しているのでありましょうか?
祖父たる評者としては、嬉しいような侘しいような哀しいような、何か複雑な気持ちがする。
〔返〕 季節柄蝦蟇を飼うのは少し無理茶釜磨きでもしたらどうかな 鳥羽省三
昨日また、妻の妹宅の愛犬<クロちゃん>が<わんちゃん美容院>にお出掛けになったそうだ。
此方からは何の連絡もしなくても、四十日に一回は必ず、玄関先にお迎えの自動車が横付けになるのだそうだ。
その費用は、一体いかばかりか?
○ おふくろの味になじみし日は遠く妻の味すでにおふくろの味 (八王子市) 青木一秋
聴きたくないことを聴いてしまった。
今晩は耳の中を洗浄しなければならない。
一昔前のテレビドラマなどに、新婚早々の自分の妻を自分の母親の前に連れて行って、無理矢理頭を下げさせ、「お母さん、この<馬鹿嫁>に<おふくろの味>を仕込んでやって下さい。こいつったら、お味噌汁も碌々作れないんですよ」などとのたまう<馬鹿夫>が登場したが、本作の作者・青木一秋さんは、その残党でありましょうか?
〔返〕 どうせなら未婚のままで居たらどうおふくろの味いついつまでも 鳥羽省三
○ 真夜中に子宮の海を泳ぎたる子に「もうねんね」諭す喜び (東京都) 内藤麻夕子
ここの辺りまでは、マザコン<高野公彦選>の入選作らしく、いかにも嫌みったらしい作品ばかりが並んでいる。
内藤麻夕子さんよ。
未だ繭篭り状態のお腹の中の子に「『もうねんね』と『諭す』」も何も無いでしょう。
こんな作品ばっかりに目を奪われているから、高野公彦氏は、<山寺の五大堂>を<松島の五大堂>と間違えたりするのである。
今や、実力以上の位置に押し上げられてしまった高野公彦氏であるが、彼は自分の無能振りを何処まで曝せば、気が済むというのだろうか?
<力蒟蒻>でもばっちり食べて、もっともっとお腹に力を入れて選集に当たりなさい。
〔返〕 真夜中にバイク噴かして町内を騒がす輩を諭す苦しみ 鳥羽省三
○ 阿蘇谷の野より山より水気立ち昼はま白き秋雲となる (熊本市) 高添美津子
私が横浜で教師生活をしていた頃、学区内に<深谷台>という地名が在って、その地区から通学して来る女子生徒を、「君の住んでいる町内は<深谷台>という地名であるが、一体、其処は深い谷の底に位置しているのか?それとも高台になっているのか?そんなわけの解らない所から通って来るから、君はいつもいつも遅刻してばかりいるのだ。いっそのこと、今の家を売って、何処か別の所に引っ越したらどうだ!」などとからかったことがあった。
それから間も無く、彼女らは校門を巣立って行ったのであるが、卒業後一年程経ってから、彼女は同級生仲間と私の家に遊びに来たのであるが、その際の彼女の挨拶の言葉が、「お蔭さまで私の家は、あの<深谷台>から、横浜の中心に近いところに引越しましたが、でも、其処の地名は<三ツ沢台>なんですよ!だから、せっかく卒業したというのに、またまた先生の頭を悩ませることになりました。御免なさい」というものであった。
作中の「阿蘇谷」は、地名から察すると、其処は峡谷であって、「野」や「山」が在ろう筈が無いと思われるのであるが、いかがなものでありましょうか?
本作の作者・高添美津子さんには、真にお気の毒ではありますが、詠い出しの一句が「阿蘇谷の」となっているから、それに続いて「野より山より水気立ち」とするのが、何か馬鹿げた感じがするのである。
地名を折り込んだ歌を詠む場合は、よくよく注意しなければならない。
本作を評して、選者の高野公彦氏は「美しい自然詠である。水気はスイキと読みたい」などと仰るが、そんな精一杯の評言は泣かせる。
〔返〕 木曽谷に飼ひたる駿馬駆り立てて義仲一党上洛すとふ 鳥羽省三
○ わがこゑも聴こえぬだろうと思へども死にゆく君に子守歌唄ふ (仙台市) 田中勢津
「こゑ」「思へ」「唄ふ」などとし、<古典仮名遣ひ>及び<文語短歌>への志向が認められる。
ならば、二句目の「聴こえぬだろうと」は<聴こえざらんと>にするべきではないでしょうか?
〔返〕 子守唄聴いて死にゆく君ならばいっそ産まずもあらましものを 鳥羽省三
○ 土地争ひ続く角地の角の尖いま彼岸花競ひ咲き立つ (相模原市) 角田 出
その「土地争ひ」が「角地の角の尖」の所有権を巡っての「土地争ひ」ならば、それは個人と行政側との「土地争ひ」と理解した方が自然かと思われる。
更に申せば、その「土地争ひ」が「続く」「角地の角の尖」に、「いま彼岸花」が「競ひ咲き立つ」のであるから、察するに、その土地は住宅やビルなどの建築には相応しく無い、利用価値の低い土地かと思われる。
坪単価十万円にも満たないその土地の所有権を巡って、地主と称する者と行政とが争うとは、これ亦、見苦しい「土地争ひ」ではある。
いっそのこと、所有権を主張している者と行政とが話し合いの場を設けて、徹底的に話し合い、妥当な価格で行政側が買収し、交差点を拡張することにしたらどうでしょうか?
〔返〕 めでたくも土地争いの解決し幅十メートルの四つ角となる 鳥羽省三
○ 公害の象徴なりし四日市曼珠沙華咲く川美しき (高松市) 菰渕 昭
今から四十年前、私は友人の運転する自動車に乗って、「四日市」市内を通り抜けたことがありました。
その時は、深夜だというのに四日市の空は真っ赤に焼け焦げていて、私は<此の世の地獄>を見てしまったような気持ちで、奈良方面に向かいました。
あの頃は、四日市に限らず、日本中の何処の都市の空気も澱んでいました。
<四日市喘息>や<川崎病>などという病名が一般化したのもあの頃でありましょうか?
〔返〕 公害の街と言われた川崎の街路樹美(は)しと佇みて居り 鳥羽省三
○ 優しきひと神は選みて障害児授け給ふと医師は語れり (東大阪市) 大川純子
と言うよりも、「神」によって選ばれて、「障害児」の親の役を引き受けてしまった人々は、ひとりでに「優しきひと」にならざるを得なかったのでありましょう。
〔返〕 選ばれて優しき役を引き受けつ神のみが知る我の苦しみ 鳥羽省三
○ とくとくと備前の徳利音のよしままかり酢漬けありてなほよし (岡山市) 光畑勝弘
「音のよし」としたところが宜しいし、「ままかり酢漬けありてなほよし」としたところが更に宜しい。
〔返〕 とくとくと徳利傾けお神酒注ぐ駆け付け一升まず召し上がれ 鳥羽省三
○ 熱が出て一日ずーとお布団でモゾモゾたまにあめちゃん食べて (富山市) 松田わこ
「あめちゃん」こそ「食べ」なかったのですが、今日の評者は、「熱が出て一日ずーとお布団でモゾモゾ」して居りました。
夕刻から少しずつ快方に向かいましたので、今、午後八時三十五分、こうしてパソコンのキーを叩いているのです。
〔返〕 姉さんの制服出来て来ましたか? 今度は姉妹揃って入選 鳥羽省三
○ 生きゆくに多くはいらぬ去りゆくにひとひらのはなあればうれしい (高槻市) 門田照子
本作の作者・門田照子さんは御年何歳におなりなのでしょうか?
と申しても、評者とて人並みの常識を弁えた人間であるから、それほど若年とも思われない女性・門田照子さんのご年齢を無理矢理知りたいという訳ではございません。
要は、「生きゆくに多くはいらぬ」という一見諦観めいたご意見も、「去りゆくにひとひらのはなあればうれしい」というささやかな願望も、ある程度のご年齢に到達なさった方が、ご自身の半生を振り返ってみた時に、初めて口にすることの出来るご感慨であろうと思ったからの質問なのである。
先週の金曜日の夜に、大阪に単身赴任中の長男が我が家を訪れ、久し振りにお酒を飲み交わしたのである。
その際、我が妻・翔子が長男に向かって、「先日の朝日新聞の記事によると、サラリーマン世帯に於いては、年収六百数十万円を分岐点として、それ以後は幸福度が減少して行きこそすれ、増大することはあり得ない、ということであった。ところで、お前の家の幸福度はどうなっているのだろうか?」などと質問した。
すると長男は、その質問に直接返答することこそしなかったのであるが、一呼吸置いてから、「つい先日、長女の雪菜に『今年のクリスマスにサンタさんから何をプレゼントして貰いたいか』と電話で訊ねたら、雪菜はさも面倒臭そうな声で、『居りもしないサンタさんからプレゼントして貰いたいものなんて何もありません。私はお家で蝦蟇蛙を飼いたいと思っているから、もし出来たら、サンタさんになり代わって、パパが大阪の淀川から蝦蟇蛙を捕まえて来て欲しい!』なんてことを言うんだ。まだ三年生だというのに、家の中で蝦蟇蛙を買いたいなどとふざけたことを言う。最近の小学生は、一体何を考えているんだろうか?」などと、まるで溜息を吐くようにして漏らしたことであった。
我が孫娘の雪菜は、未だ小学三年生なのに、本作の作者・門田照子さんとそれ程変わらないような<諦観的人生観>に到達しているのでありましょうか?
祖父たる評者としては、嬉しいような侘しいような哀しいような、何か複雑な気持ちがする。
〔返〕 季節柄蝦蟇を飼うのは少し無理茶釜磨きでもしたらどうかな 鳥羽省三
昨日また、妻の妹宅の愛犬<クロちゃん>が<わんちゃん美容院>にお出掛けになったそうだ。
此方からは何の連絡もしなくても、四十日に一回は必ず、玄関先にお迎えの自動車が横付けになるのだそうだ。
その費用は、一体いかばかりか?
○ おふくろの味になじみし日は遠く妻の味すでにおふくろの味 (八王子市) 青木一秋
聴きたくないことを聴いてしまった。
今晩は耳の中を洗浄しなければならない。
一昔前のテレビドラマなどに、新婚早々の自分の妻を自分の母親の前に連れて行って、無理矢理頭を下げさせ、「お母さん、この<馬鹿嫁>に<おふくろの味>を仕込んでやって下さい。こいつったら、お味噌汁も碌々作れないんですよ」などとのたまう<馬鹿夫>が登場したが、本作の作者・青木一秋さんは、その残党でありましょうか?
〔返〕 どうせなら未婚のままで居たらどうおふくろの味いついつまでも 鳥羽省三
○ 真夜中に子宮の海を泳ぎたる子に「もうねんね」諭す喜び (東京都) 内藤麻夕子
ここの辺りまでは、マザコン<高野公彦選>の入選作らしく、いかにも嫌みったらしい作品ばかりが並んでいる。
内藤麻夕子さんよ。
未だ繭篭り状態のお腹の中の子に「『もうねんね』と『諭す』」も何も無いでしょう。
こんな作品ばっかりに目を奪われているから、高野公彦氏は、<山寺の五大堂>を<松島の五大堂>と間違えたりするのである。
今や、実力以上の位置に押し上げられてしまった高野公彦氏であるが、彼は自分の無能振りを何処まで曝せば、気が済むというのだろうか?
<力蒟蒻>でもばっちり食べて、もっともっとお腹に力を入れて選集に当たりなさい。
〔返〕 真夜中にバイク噴かして町内を騒がす輩を諭す苦しみ 鳥羽省三
○ 阿蘇谷の野より山より水気立ち昼はま白き秋雲となる (熊本市) 高添美津子
私が横浜で教師生活をしていた頃、学区内に<深谷台>という地名が在って、その地区から通学して来る女子生徒を、「君の住んでいる町内は<深谷台>という地名であるが、一体、其処は深い谷の底に位置しているのか?それとも高台になっているのか?そんなわけの解らない所から通って来るから、君はいつもいつも遅刻してばかりいるのだ。いっそのこと、今の家を売って、何処か別の所に引っ越したらどうだ!」などとからかったことがあった。
それから間も無く、彼女らは校門を巣立って行ったのであるが、卒業後一年程経ってから、彼女は同級生仲間と私の家に遊びに来たのであるが、その際の彼女の挨拶の言葉が、「お蔭さまで私の家は、あの<深谷台>から、横浜の中心に近いところに引越しましたが、でも、其処の地名は<三ツ沢台>なんですよ!だから、せっかく卒業したというのに、またまた先生の頭を悩ませることになりました。御免なさい」というものであった。
作中の「阿蘇谷」は、地名から察すると、其処は峡谷であって、「野」や「山」が在ろう筈が無いと思われるのであるが、いかがなものでありましょうか?
本作の作者・高添美津子さんには、真にお気の毒ではありますが、詠い出しの一句が「阿蘇谷の」となっているから、それに続いて「野より山より水気立ち」とするのが、何か馬鹿げた感じがするのである。
地名を折り込んだ歌を詠む場合は、よくよく注意しなければならない。
本作を評して、選者の高野公彦氏は「美しい自然詠である。水気はスイキと読みたい」などと仰るが、そんな精一杯の評言は泣かせる。
〔返〕 木曽谷に飼ひたる駿馬駆り立てて義仲一党上洛すとふ 鳥羽省三
○ わがこゑも聴こえぬだろうと思へども死にゆく君に子守歌唄ふ (仙台市) 田中勢津
「こゑ」「思へ」「唄ふ」などとし、<古典仮名遣ひ>及び<文語短歌>への志向が認められる。
ならば、二句目の「聴こえぬだろうと」は<聴こえざらんと>にするべきではないでしょうか?
〔返〕 子守唄聴いて死にゆく君ならばいっそ産まずもあらましものを 鳥羽省三
○ 土地争ひ続く角地の角の尖いま彼岸花競ひ咲き立つ (相模原市) 角田 出
その「土地争ひ」が「角地の角の尖」の所有権を巡っての「土地争ひ」ならば、それは個人と行政側との「土地争ひ」と理解した方が自然かと思われる。
更に申せば、その「土地争ひ」が「続く」「角地の角の尖」に、「いま彼岸花」が「競ひ咲き立つ」のであるから、察するに、その土地は住宅やビルなどの建築には相応しく無い、利用価値の低い土地かと思われる。
坪単価十万円にも満たないその土地の所有権を巡って、地主と称する者と行政とが争うとは、これ亦、見苦しい「土地争ひ」ではある。
いっそのこと、所有権を主張している者と行政とが話し合いの場を設けて、徹底的に話し合い、妥当な価格で行政側が買収し、交差点を拡張することにしたらどうでしょうか?
〔返〕 めでたくも土地争いの解決し幅十メートルの四つ角となる 鳥羽省三
○ 公害の象徴なりし四日市曼珠沙華咲く川美しき (高松市) 菰渕 昭
今から四十年前、私は友人の運転する自動車に乗って、「四日市」市内を通り抜けたことがありました。
その時は、深夜だというのに四日市の空は真っ赤に焼け焦げていて、私は<此の世の地獄>を見てしまったような気持ちで、奈良方面に向かいました。
あの頃は、四日市に限らず、日本中の何処の都市の空気も澱んでいました。
<四日市喘息>や<川崎病>などという病名が一般化したのもあの頃でありましょうか?
〔返〕 公害の街と言われた川崎の街路樹美(は)しと佇みて居り 鳥羽省三
○ 優しきひと神は選みて障害児授け給ふと医師は語れり (東大阪市) 大川純子
と言うよりも、「神」によって選ばれて、「障害児」の親の役を引き受けてしまった人々は、ひとりでに「優しきひと」にならざるを得なかったのでありましょう。
〔返〕 選ばれて優しき役を引き受けつ神のみが知る我の苦しみ 鳥羽省三
○ とくとくと備前の徳利音のよしままかり酢漬けありてなほよし (岡山市) 光畑勝弘
「音のよし」としたところが宜しいし、「ままかり酢漬けありてなほよし」としたところが更に宜しい。
〔返〕 とくとくと徳利傾けお神酒注ぐ駆け付け一升まず召し上がれ 鳥羽省三
○ 熱が出て一日ずーとお布団でモゾモゾたまにあめちゃん食べて (富山市) 松田わこ
「あめちゃん」こそ「食べ」なかったのですが、今日の評者は、「熱が出て一日ずーとお布団でモゾモゾ」して居りました。
夕刻から少しずつ快方に向かいましたので、今、午後八時三十五分、こうしてパソコンのキーを叩いているのです。
〔返〕 姉さんの制服出来て来ましたか? 今度は姉妹揃って入選 鳥羽省三