臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の「朝日歌壇」から(12月5日掲載分・其のⅡ)北方四島以南、本日堂々特出し大公開!乞う、ご期待!

2016年12月18日 | 今週の朝日歌壇から
[高野公彦選]
○ 初めての町にいつものコンビニがあっていつもの弁当を買う (長崎市)牧野弘志

 山陰のどこかの県が「スタバの無い県」として有名になっていたのでありましたが、この頃はその評判を聞かなくなりましたから、あのどうしようも無い「スタバ」さえも日本全国に行き渡ってしまったのでありましょう。
 そういう次第で、「初めての町」にだって「いつものコンビニがあって」「いつもの弁当を買う」事が可能です。
 今は〈坂の街・長崎〉にお住まいの牧野弘志さんよ、御地のコンビニ弁当のお味は如何でしたか?
 [反歌] 初めての女にも必ず何が在りいつも通りになになにするね


○ 暇なのか忙しいのか歩きつつスマホをなぞる街の人たち (神戸市)康 哲虎

 今更、かつての鉄腕ボクサーの康哲虎さんがお詠みにならなくても宜しいような、極めて有り触れた光景を詠んだ極めて月並みな作品である。
 選者の高野公彦氏は、作者の鉄腕に恐れをなしてやむを得ず、斯かる凡作を入選作となさったのでありましょうか?
 [反歌] 兆なのか億なのかは知らねどもオリンピック施設は金かかるもんだ


○ いのこずち誰が袖につくどんぐりの不作に泣きし熊の背に付く (東京都)松本知子

 「不作に泣きし熊」に疑義有り。
 本作の作者・松本知子さんは、件の「熊」が「どんぐりの不作に泣」いていた現場を実見した上で、この過去のご自身の実見に基づく回想作品をお詠みになったのでありましょうか?
 もしもそうでなかったならば「いのこずち誰が袖につくどんぐりの不作に泣いた熊の背に付く」となさった方が宜しいかと存じます。
[反歌] いのこづち誰の背に付くプーチンにおちょくられた安倍の背に付く


○ 誕生日十二月八日兵士等の餓死を悼んで断食をせむ (三郷市)木村義煕

 何を今更、彼の女性防衛大臣顔負けの斯かる武張った作品をお詠みになる必要があるのでありましょうか!
 第一に、飽食時代と呼ばれる現代日本社会に於いては、一日や二日、断食した程度では「兵士等の餓死を悼ん」だ事にはなりませんぞ!
 そこの辺りのところをよくよく注意して掛かれよ!
 三郷市にお住まいの木村義煕さん!
 [反歌] 開戦日十二月八日真珠湾の犠牲者悼んで食べる海鮮丼


○ 毎日が日曜だからこそわかる眠りに落ちる時の恍惚 (東京都)青木公正

 今は亡き城山三郎氏に『毎日が日曜日』というタイトルの極めて有名な小説があります。 
 そうした小説が既に書かれ、今も文庫本として売られて以上は、作中に「毎日が日曜」というフレーズを含む作品を詠む事は、法律で禁止されてはいないものの、作者としては、ある種の禁忌を犯しているような震えを感じるのではありませんか?
 それはそれとして、「眠りに落ちる時の恍惚」感を一度や二度経験した事の無い歌詠みは、この世の中で皆無だろうと私は推測している次第であります。
 [反歌] 日曜が週に三日も在るならば塾経営も採算取れる


○ ふるさとの海鳴りの音懐かしむ友より塩賜われば (碧南市)島谷春枝

 倒置法という極めて古典的な手法に成るこの作品の上の句と下の句とを逆転させて読めば、「友より塩賜われば」「ふるさとの海鳴りの音懐かしむ」となりますが、斯くしてみると、この作品の作者の島谷春枝さんは、なんだか、歌詠みでありながらの〈功利主義者〉のようにも思われます。 
 いえ、いえ、決して、決して、「功利主義」を体系化した、イギリスの哲学者学〈ジェレミ・ベンサム氏〉の謂うところの学問的な「功利主義」では無くて、もっともっと卑近で吝嗇な「功利主義」、即ち、「粟島から薩摩芋が送られて来たから一時だけ粟島の喜多さんを懐かしむ」式、「秋田からハタハタが送られて来たから一晩だけ秋田を懐かしむ」式の、あの極めて世俗的な「功利主義」なんですよ!
 [反歌] 功利主義とはよくも名付けたり!塩を送ればひとまづ休戦


○ 洞窟の蝙蝠のごと両肘を畳みてそっと収まるB席 (可児市)前川泰信

 一口に「B席」と言ってもさまざまであり、例えば、私のよく行く東京ドームにも「B席」なる名称の席が在り、その裡の「三塁側B席エリア」は「巨人応援席」となっているがゆえに、あまりにも騒々しくて、私は絶えてその席に座った事がありません。
 だが、私と同様に野球好きな若葉台の峰松さんの話に依りますと、例え「B席」と言えども、その面積は他の席と同等の広さであり、「洞窟の蝙蝠のごと両肘を畳みてそっと収まる」といった事は無い、との事であります。
 可児市にお住まいの前川泰信さんの仰る「B席」なる席は、一体全体、如何なる交通機関、或いは公共施設の「B席」なのでありましょうか? 
 [反歌] 洞窟に閉じ込められた山椒魚さへ時来れば娑婆に戻れる


○ 今年また蕾のこさず咲きくれし庭の小菊にとぎ汁ふるまふ (羽村市)草間暁男

 「今年また蕾のこさず咲きくれし庭の小菊」に「とぎ汁」を「ふるまふ」とは、何と亦、豪盛かつ古典的な〈お礼肥〉でありましょうか?
 「とぎ汁」一つで咲いたり咲かなかったりするとは、羽村市にお住まいの草間暁男さんのお庭の「小菊」も亦、なかなかの〈功利主義者〉である。
 [反歌] とぎ汁を振る舞へばこそ花も咲く庭の小菊に下肥やらむ 


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