goo blog サービス終了のお知らせ 

私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「タロットカード殺人事件」

2007-12-17 19:28:23 | 映画(た行)

2006年度作品。イギリス=アメリカ映画。
ジャーナリスト志望の学生サンドラは、マジックショーに参加しているとき、敏腕ジャーナリストの幽霊と遭遇。彼からロンドンで発生している連続殺人の犯人を聞かされる。サンドラは事件の真相を解き明かそうとする。
監督、出演は「アニー・ホール」のウディ・アレン
出演は「ロスト・イン・トランスレーション」のスカーレット・ヨハンソン、「X-MEN」のヒュー・ジャックマン ら。


設定に難のある映画だ。
死神や死者が現世に現れて犯人を教えるという設定はともかくとしても、スカーレット・ヨハンソンがウディ・アレンと組む過程はいかにも強引だし、タロットカードを見つけて犯人だ、と思う部分も証拠としてはいささか弱い。
それはプロットを進めるためのご都合主義にしか見えず、いささか引いてしまう。

しかし作中にただようとぼけた雰囲気は楽しく、ところどころでくすりとさせられる。ラストで、映画のお約束に対する皮肉が効いているのも悪くはない。
それに説得性がなくとも、構成がいいのかなんだかんだで、プロットに興味をかきたてられる。そのためもあり退屈することはなかった。さすがはウディ・アレンといったところだろう。
積極的にすばらしいとは思わないが、優れた作品であることはまちがいないだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・ウディ・アレン監督作
 「マッチポイント」
・出演作
 「ブラック・ダリア」
 「プレステージ」
 「マッチポイント」
 「理想の女」
・ヒュー・ジャックマン出演作
 「プレステージ」

「椿三十郎」

2007-12-03 21:31:07 | 映画(た行)

2007年度作品。日本映画。
黒澤明の代表作のひとつをリメイク。
朽ちた社殿に集まった若侍たちは次席家老の汚職を糾弾するために今後の打ち合わせをしていた。大目付に話を聞いてもらえそうだという話に盛り上がる彼らだが、その話を聞いていた浪人は大目付こそ怪しいと言う。その後、社殿は大目付に襲われたが、浪人の機転で難を逃れる。浪人は若侍たちの行動に手を貸すこととなる。
監督は「阿修羅のごとく」の森田芳光。
出演は「踊る大捜査線」の織田裕二、「八つ墓村」の豊川悦司 ら。


既存の映画をリメイクすることにどれだけの意味があるのだろう?
それに対して人それぞれ意見はあろうが、少なくとも優れた作品が映画として存在しているのならば、あえて同じ土俵に立つ必要などないと僕は思っている。単純に古い方を見ればいいだけの話だからだ。
このリメイク版を見ている時点で、その意見に説得力はないかもしれないけれど。

本作は黒澤の代表作のひとつのリメイクである。古い記憶なので心許ないがおおむねオリジナルに忠実であったと思う。
オリジナル同様、エピソードは起伏に富んで盛り上がりがあるし、そこそこ笑いもあるし、殺陣のシーンは素直にカッコいい、と思える。
早い話、おもしろい。しかしこの作品がおもしろいのは森田芳光のおかげではない。黒澤のオリジナルが優れているからだ。

森田版の「椿三十郎」は冒険をしていない。
独自の視点で描いたり、独自のエピソードやシーンを追加しているわけではない。あくまでオリジナルのストーリーをなぞり、それを画面におさめているだけだ。そのせいかは知らないが織田裕二の演技も三船の真似をしているように見えてしまう。
あからさまに違うのはラストの対決のシーンくらいだろう。120分の作品もあるのに変化があるのはそれだけだ。

既存の映画をリメイクした作品のひとつに「ディパーテッド」がある。僕はあの作品を素直に評価できなかったが、それでも「ディパーテッド」はしっかり冒険していて、独自色を出そうという努力はしていた。
リメイクをする以上、それくらいのことをするのがオリジナルに対する礼儀ではないだろうか? 森田版の方もそれくらいのことはしてほしかったと僕は思う。
映画自体、おもしろかったのは事実だが、あえて星ひとつ下げて4点としたい。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・森田芳光監督作
 「間宮兄弟」
・豊川悦司出演作
 「日本沈没」
 「フラガール」
・松山ケンイチ出演作
 「男たちの大和/YAMATO」
 「DEATH NOTE デスノート 前編」
 「DEATH NOTE デスノート the Last name」

「題名のない子守唄」

2007-11-06 20:09:17 | 映画(た行)

2006年度作品。イタリア映画。
イタリアにやって来た異国の女イレーナは金細工工房を営むアダケル夫妻の家庭に近付き、あらゆる策を尽くしてその家のメイドになる。イレーナはやがてアダケル夫婦の信頼を得て、夫妻の一人娘テアの心もつかんでいく。しかし彼女にはその家に近付く重大な理由があった。
監督は「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」のジュゼッペ・トルナトーレ。
出演はロシアの実力派女優クセニア・ラパポルト。ミケーレ・プラチド ら。


予告編を見たときは人情ドラマのような話かと思っていたのだが、ミステリタッチで物語が進んでいくので正直驚いてしまった。しかしそのつくりによって物語が俄然おもしろくなっていた。
主人公の女がひとつの家庭に近付く理由と、主人公の女の過去というふたつの謎を冒頭に持ってくることで、先を期待させるつくりになっているのが何よりも上手い。予告編を見ているので、一方の謎の答えはある程度わかっているのだが、エンタメ志向の構成もあり、それでも充分楽しめるようになっているのが好印象だ。

この映画にはエンタメを意識した演出が随所に見られる。サスペンスタッチの演出には観客をハラハラさせるものもあり、緊迫感を読み取ることができる。
しかし音楽の使い方なども含め、その演出に若干あざとすぎる面が見られたことは事実だ。確かにそれによっておもしろくはなっているけれど、やりすぎという感じも受けなくない。

そういった過剰なつくりこみは演出に限らずプロットにも散見される。確かに謎をあおる構成は上手いが、それによって明らかになった物語の全貌はいかにもつくりものめいていて、物語にのめりこむまでには至らない。
主人公のイレーナの過去は悲惨だし、少女に近付く動機も充分にうなずける。けれど、わざとらしさが感じられたためにその物語によって心が揺さぶられることも、感銘を受けることもなかったことは残念としか言いようがない。

そういった中で個人的に印象に残ったのは少女との交流の姿だ。
特に少女の体を縛ってのエピソードは印象深い。そのシーンを見たときはなんていやな女だ、と思ったが、その中には少女をしっかりと思う女の感情が仄見える。
つくりものめいたエピソードを積み重ねるより、そういった心情の機微を追求した方がもっとすばらしい作品になったのではないだろうか。実際、ラストシーンは美しい余韻を生んでいた。
エピソードの構成が悪くない作品だけに、なんとも惜しいという思いを個人的には抱いた。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「長江哀歌」

2007-09-25 19:54:36 | 映画(た行)

2006年度作品。中国映画。
長江の景勝地、三峡。三峡ダム建設により沈む運命にあるその町に、サンミンは16年前に別れた妻に会いに来た。一方で、2年間、音信不通の夫を訪ねてシェン・ホンもやってくる。長江ほとりを舞台に、2人のそれぞれの運命と、そこに生きる人々の姿を描き出す。
2006年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。
監督は「世界」のジャ・ジャンクー。
出演は「プラットホーム」のチャオ・タオ。ハン・サンミン ら。


困ったことに久しぶりに映画を見て、当惑してしまった。
というのも、この「長江哀歌」という作品は僕にとって、よく理解できない映画だったからだ。

理解できない理由は大別すると、ふたつだ。
まず映画には二人の主人公がいるが、なぜ二つのエピソードを流すかわからない。このエピソードの出す順番も意味不明で、てっきり僕は最初の人と、途中の女性のエピソードが最後にリンクする、と思い込んでいただけに、肩透かしを食らってしまった。

また、ここでは三峡ダム建設に翻弄される人々の暮らしが描かれているが、それを見ても何を思えばいいのか、わからず混乱する。
もちろん、映画の中にもあったが、二千年の歴史ある街が二年で沈むことに対する批判が含まれていることはわかるし、移住をすることになる住民の混乱、街を破壊する様子のどことない物悲しさ、その中で営まれる愛のすれ違いなどのささやかなドラマ、といった部分の良さは伝わってくる。
しかしそれを見ても、僕の心に響くまでには至らない。だから何だ、という気がして、うまく楽しむことができないのだ。

この映画を良い、と言う人は何人もいるのだろう、とは思う。
しかし僕はこの中に流れる繊細さを理解することはできなかった。そういう点、この映画は大人の映画であり、玄人好みということなのだろうか。
十年後に見たら、印象も違っているのかもしれない。しかしいまの僕では、退屈なだけの作品としか映らなかった。

評価:★(満点は★★★★★)

「デス・プルーフ in グラインドハウス」

2007-09-04 19:18:28 | 映画(た行)

2007年度作品。アメリカ映画。
テキサスの田舎町で、女性DJのジャングル・ジュリアたちは友人らと、行きつけのバーで他愛もない会話に興じていた。その店に、デス・プルーフ(耐死仕様)をほどこした車に乗ったスタントマン・マイクが現れ、彼女らの動向をつぶさに観察し始める。
監督は「パルプ・フィクション」のクエンティン・タランティーノ。
出演は「バック・ドラフト」のカート・ラッセル。ゾーイ・ベル ら。


B級映画を愛したタランティーノだけに、映画そのもののノリもB級っぽさが出ている。
変にグロテスクだったり、無駄にアクションがあったり、音楽の使い方もチープだったり、変にマニアックなネタがあったり、ときに無茶苦茶にも見える部分もある。ガールズ・トークも性的な話題に集中しており、ある種、下世話なのぞき見趣味っぽいところがくだらない。

しかしそういったB級テーストが実にいいのだ。
もっともガールズ・トークは長くて少しかったるくはあるのだけど、スタントマンが本性をあらわにするところから物語の勢いが変わり、ストーリーに引き付けられていく。車の爆音や派手なアクションなどはカタルシスを感じ、見ていてぞわぞわするし、興奮もする。
ラストで仕返しをするあたりは、いかにも勧善懲悪的で、やりすぎ感はあるけれど、何だかんだですかっとして気持ちがいい。「THE END」を出すタイミングも含めて、ときに笑い、わくわくさせてくれる。

これはこれで楽しめる作品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・カート・ラッセル出演作
 「夢駆ける馬ドリーマー」
・ロザリオ・ドーソン出演作
 「RENT レント」

「天然コケッコー」

2007-08-21 21:00:14 | 映画(た行)

2007年度作品。日本映画。
くらもちふさこの同名マンガを映画化。中二のそよが暮らすのは山と田んぼに囲まれた田舎町。その町の総生徒数6人の分校に、東京からイケメンの転校生がやってくる。少しとっつきにくいその転校生だが、そよは彼のことが気になり始める。
監督は「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘。
出演はCMやドラマで活躍の夏帆。若手俳優の岡田将生 ら。


田舎の小中学校を舞台に、子供たちの姿が淡々と描かれている。
その描写のそこここに挟み込まれるほのぼのした笑いが見ていて実に愛らしく思えた。押し付けがましくもなく、日常の中にありえそうな笑いの情景を適切に切り取っているところがうまい。

それにそれぞれのキャラが微笑ましいのも好印象だ。主人公のそよなどは優等生タイプで、雰囲気がよい。キスシーンの淡白さや(むしろあれは男がかわいそうだ)、ちょっとした失敗で落ち込むシーン、涙を流す場面など、そよの性格を示すようで、心に残る。
そしてそういった等身大のキャラをしっかりと演じきった夏帆の演技を褒め称えるべきであろう。
また、主人公の男の子も心に残っている。特に橋の上でさりげなく女の子を花の場面から遠ざけるところは、この少年の人柄を伝えるようだ。それでいて考えの足りない発言をする10代男子の生態もよく伝えており、(やや少女マンガの男役っぽく見えなくもないが)なかなかリアルである。

ただ惜しむらくは物語が断片化しすぎていて、全体の印象が淡くなってしまったところだろうか。そのためワンパンチ足りない感じもするが、それもまた一つの愛嬌だろう。

笑いやキャラ、そして映画全体の雰囲気などを含めてほのぼのした味わいが全体的にうまく散らばっている。
派手な作品の夏映画のシーズンなだけに、こういった雰囲気の作品もまた必要なのである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・夏川結衣出演作
 「ゲド戦記」
 「花よりもなほ」
・佐藤浩市出演作
 「暗いところで待ち合わせ」
 「THE 有頂天ホテル」

「トランスフォーマー」

2007-08-19 09:23:32 | 映画(た行)

2007年度作品。アメリカ映画。
遠い過去、惑星からの来訪者たちは地球に侵入し、テクノロジー機械に姿を変え社会に入り込んでいた。ある日、侵略者たちはロボットの形に変形し、人間たちに牙を向いた。
監督は「アルマゲドン」のマイケル・ベイ。
出演は「コンスタンティン」のシャイア・ラブーフ。ミーガン・フォックス ら。


ハリウッドらしい作品である。派手なアクションがあり、安直な恋愛話があり、最後は悪が打ち滅ぼされる。いかにも王道中の王道の展開だ。
そのため映画自体はわかりやすいものになっているのだが、わかりやすいながらも、完全にベタとまではなっていない。三つのラインのストーリーの人物が一堂に会するというような構成を含め、王道ながらもプロットはちゃんと練られているのがよくわかる。
また、トランスフォーマーたちの変形の様子などは合体ロボで遊んだことのある人なら、ツボであろう。変形の過程などは普通にかっこいい。

しかしそういった面を認めつつも、僕はこの映画をうまく楽しむことができなかった。
確かに構成はよく練られているし、かっこいい部分はあるし、アクションも見応えある。しかしストーリーの筋にさほど心を惹かれるものはなく、ああそう、勝手にやってくださいという程度の感想しか湧いてこない。
理由としては、結局のところ、ベタとまではいかないものの、王道の展開に頼りすぎなところが気に食わないからだ。トランスフォーマーたちのアクションシーンは確かに見応えがあるけれど、それ以上に画面がごちゃついて見辛くなっていたのも個人的にはマイナス点である。

早い話、僕好みの作品ではないということだ。こういう作品が好きな人がいるだろうが、僕はその仲間に入ることはできなかった。

評価:★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・シャイア・ラブーフ出演作
 「ボビー」

「ツォツィ」

2007-07-02 21:39:06 | 映画(た行)


2005年度作品。イギリス=南アフリカ映画。
南アフリカのスラム街、ツォツィ(不良)と呼ばれる少年は仲間と窃盗をくりかえしていた。ある日、カージャックをした彼は奪った車の中に、赤ん坊を見つける。彼はためらった末、その赤ん坊をつれて帰る。
2006年アカデミー賞外国語映画賞受賞作。
監督はギャヴィン・フッド。
出演はプレスリー・チュエニヤハエ。テリー・フェト ら。


すさんだ生活を送る少年が、盗んだ車の中で赤ん坊を見つける。
その大雑把なストーリーを聞けば、どういう風に話は展開するかは大筋では想像できる。そして果たせるかな、基本的にはこちらの予想通りに物語は進んでいった。早い話、本作はパターンにのっとった映画なのだ。
だがそれゆえベタなつくりになっているいうのではなく、どちらかと言うと手堅い作品に仕上がったという印象を受けた。

そう感じたのは丁寧に少年の行動を追っているからだろう、と思う。
個人的には少年の眼差しが徐々に変化していく姿が心に残った。生きるためスラムの犯罪生活に身を落とし、それに適応しているツォツィだが、彼にだって人間的な優しい感情がないわけではない。そのことをその瞳の変化が如実に知らしめ、エモーショナルな部分に訴えかけてくる。
そして少年の心の奥にしまってあるそういった優しい感情を赤ん坊が揺り起こす様が流れとして受け入れることができる。きわめてわかりやすいがこれはこれで悪くない。

ツォツィは母への愛を渇望しながら、それが果たされることがなかった少年だ。赤ん坊に執着するのは心理学的に見るなら、代替行為のようなものだろう。あるいは家族的なものに対する憧憬もあるのかもしれない。
そういった部分にややつくりめいた感じを受けなくもないが、瑣末なことに過ぎない。
伝えたいことをしっかり伝える。その重要な部分がしっかり心に響くのならば、揚げ足取りは野暮なだけだ。本作はそう思わせる映画である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「ダイ・ハード4.0」

2007-06-30 21:56:07 | 映画(た行)


2007年度作品。アメリカ映画。
大人気アクションシリーズの第4弾。
NY市警刑事のジョン・マクレーンはハッカー容疑の青年の任意同行を求めに行った所、謎のテロリストに遭遇する。そして事件はやがて全米を巻き込んだサイバーテロへと発展する。
監督は「アンダーワールド」のレン・ワイズマン。
出演は前作に引き続きブルース・ウィリス。ジャスティン・ロング ら。


これぞまさしく This is Hollywood! である。
ど派手なアクション、勧善懲悪、わかりやすいストーリー。何もかもが王道中の王道だ。

だがそれは裏を返せばベタと紙一重でもある。
たとえば冒頭に娘が出てきた時点で、その娘がどんな使われ方をするかわかるし、悪党たちの目的もこういう作品ではこうだろうな、という予想の範疇で進む。相棒役の行動も期待を裏切らないし、主人公は決して死なないことがわかっている。
加えてとにかく派手に派手に行こうとしているためにいくつかのつっこみどころも多い。
一番根本に関わるつっこみどころとしては、悪役は自分たちの目的を果たすためならば、何もアメリカ全土のシステムを狙う必要はないという点である。それはリスクが高まるだけで何のメリットもない。

だがそういった矛盾まみれで、ベッタベタであろうとも、おもしろいと感じさせてくれるからハリウッドはすごい。
アクションは派手で勢いがあり(ラストの戦闘機は大笑いだけど)、物語のテンポも良くてまったく飽きさせることがない。そして何だかんだ言って主人公がかっこいいのである。これをハリウッド的エンタテイメント言わずして何としよう。

この映画は、多分一ヶ月もすれば、おもしろかったという記憶を残すのみで、僕の中に残るものはほとんどないだろう。
それでもおもしろかったという記憶を確実に残るだろうし、見ている間もそう感じさせてくれる。それだけでも充分にこの映画は賞賛に値するのである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・ブルース・ウィリス出演作
 「ラッキーナンバー7」

「憑神」

2007-06-25 20:20:55 | 映画(た行)


2007年度作品。日本映画。
時は幕末、秀才の誉れ高いもののうだつの上がらないままの武士、彦四郎は出世を祈願し、稲荷にお参りする。しかしその稲荷は貧乏神や疫病神を呼び寄せるものだった。
監督は「鉄道員」の降旗康男
出演は「ジョゼと虎と魚たち」の妻夫木聡。「ピンポン」の夏木マリ ら。


はっきり言ってあまり楽しむことができなかった。

だがそうは言っても、この映画はおもしろくなる要素はいくつもあったように思う。
たとえば登場人物のキャラ、これは実に立っていたと思う。貧乏神の西田敏行ははっちゃけていたし、兄貴役の佐々木蔵之介もおもしろい。
また、前半部のムードも個人的には良かったと思う。コメディタッチで物語は進み、笑えない面も多いけれど、少なくとも映画全体の雰囲気が明るくなっていたのは好印象だ。

だがそういった部分的な面が良くとも、映画の肝と言うべき、プロットに心が惹かれることはなかった。その理由は、映画のメインがぼけてしまったことが原因だと思う。
結局、最終的にコメディタッチで行きたいのか、人情話で行きたいのか、武士の意地で行きたいのか、さっぱり見えてこなかった。だからすべての印象が散漫で、全体的に物足りないものになってしまったように思う。

キャストもそろっていたし、素材単品もいくつか良かった。それだけに、この結果は残念と言う他ない。

評価:★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・降旗康男監督作
 「単騎、千里を走る。」
・妻夫木聡出演作
 「どろろ」

「大日本人」

2007-06-03 17:46:39 | 映画(た行)


2007年度作品。日本映画。
一般社会で普通の生活を送る大佐藤。しかし彼は体に電流を流すことで巨大化する六代目大日本人だった。彼はその巨大化した体で、突如現れる巨大な「獣」と戦う。
監督はこれが映画監督デビュー作となる、ダウンタウンの松本人志。
出演は松本人志、竹内力 ら。


松本人志、初監督作品である。
その知名度のために全国公開されているが、どちらかというとミニシアター向きな映画という感じがした。

映画はドキュメンタリータッチで進み、しかもわりにマジメな部分もあるので(コマーシャリズムの批判と受け取ってもいいのだろうか)、どんな着地をするのかと不安になったが、徐々に雰囲気を崩してきっかり笑いの方向に走っている。

松本らしいシュールな笑いがポイントポイントで効いてくる。
細かいところでは、神主の儀式の撮り直しのシーン、大きいところでは板尾とのやり取りだろう。板尾のところは完全にテレビのコントで、映画でやることじゃないだろう、と思いながらもきっかり笑ってしまった。板尾を出すのは反則である。
そのシーン以降は基本的に笑いの方向に走っているという感じがした。童の獣や四代目の死などが個人的にはおもしろい。

そして本作でもっとも良かったのは何と言っても最後の実写だろう。
ああこう来るんだ、これどう見てもコントだよ、と思いながらもそのシュールさにやっぱり笑ってしまった。
一応ここは北朝鮮の脅威に何もできず、おびえる日本にアメリカが手を差し伸べるという政治的なアイロニーを含んでいると思うのだが、そのギャグっぽい雰囲気ですべてを茶化している感じがして、個人的には好きだ。
スタッフロールの映像は映画として見れば最低かもしれないが、これもありだ。

本作にはいろいろ欠点はあることはまちがいない。だが、新人監督としては上出来な部類だろう。
こんな感じで松本人志には映画を撮っていってほしい、と個人的には思う。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「ドリームガールズ」

2007-02-25 15:42:56 | 映画(た行)


2006年度作品。アメリカ映画。
トニー賞で6部門を受賞したミュージカルの映画化。60年代、3人組のコーラスガールはメジャーになるため、オーディションの日々。そんな彼女らに目をつけたカーティスはマネージャに就任、彼女らの夢の後押しをする。
監督は「シカゴ」のビル・コンドン。
出演は「Ray/レイ」のジェイミー・フォックス。デスティニーズ・チャイルドのビヨンセ・ノウルズ ら。


ミュージカル映画である。
そのため映画全編に歌があふれまくっている。最初から最後までつらぬかれるそのR&Bテーストの音楽に、見ているこっちはノリノリであった。音楽がバチッと映画にはまったときは、すごい相乗効果を生むんだな、とつくづく思い知らされた次第だ。
特にジェニファー・ハドソンの歌はすばらしいの一語である。

物語はいわゆるアメリカンドリームものだが、その中では様々な起こりえそうな事件が描かれており、その中でうまくエンターテイメントとしてまとめている。そのプロットはベタと言えばベタだけど、安心して見ていられるのは大きい。
音楽だけで終わっていないところが好印象だ。

しかし人が夢を持って生きるというのは実に困難だ、とあらためて思う。
人は何かしらの目標があるわけで、それが通らなければくやしいのは当然だ。夢を持っている以上、自己主張することは避けられないと思う。でもそれがあまりに激しすぎると、周囲の圧力により挫折に追い込まれることもあるかもしれない。
しかし夢が叶ったからと言って、それが幸せとは限らない。ベタな言葉ではあるけれど。その結果は自分の願いとはかけ離れているかもしれないし、ただのお人形で成り下がるかもしれない。
難しいものだなと思う。
でも最後に納得するのは自分自身だ。自分の思う道を進むしかないのかもしれない。見終わった後にはそんなことを思った。

しかしこの映画は本当の意味での悪人が出てこないと思う。たしかにジェイミー・フォックス演じる男は悪人っぽいけれど、完全な悪役とは言いがたい。互いの夢のぶつかり合いが起こっただけの結果に過ぎないのだ。
しかしそんな中で、和解の予感が描かれたラストが極めて印象深く映った。

なにはともあれ、感動的な作品。個人的にお薦めだ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

制作者・出演者の関連作品感想:
・ジェイミー・フォックス出演作
 「ジャーヘッド」
 「マイアミ・バイス」

「長州ファイブ」

2007-02-11 18:20:46 | 映画(た行)


2006年度作品。日本映画。
攘夷と開国に揺れる幕末の日本。そんな中、命がけでロンドンに渡ろうと決意した五人の長州藩士がいた。彼らはそこで西洋文明を学び、「生きたる機械」となって日本に帰国することを誓い、英国行の船へと乗り込んでいく。
監督は「地雷を踏んだらサヨウナラ」の五十嵐匠。
出演は「青い春」の松田龍平、山下徹大 ら。


高校時代、司馬作品を愛読してきた者としては、こういうテーマはドツボである。当然のごとく、見に行った。

この渡航した五人では、どうしても伊藤俊輔と井上聞多に注目してしまう。僕に限らず大抵の人はそうだろう。実際、映画の中でも日本を離れるまでは、渡航のため積極的に行動する聞多の方に視点が注がれているように思う。
しかし丁寧に描いているのは明らかに知名度が低く地味な山尾庸三の方である。その作り手の姿勢に、個人的に好感を抱いた。
歴史は偉い人間がつくるが、それを支える大多数は地味な人間なのだ。忘れられている人間にだってドラマはある。そんなことを思わせられる。

登場する五人に共通するのは国を憂う思いだ。その彼らの思いは純粋で、ひたすらまっすぐである。
たとえば山尾の場合だと、国の工業化には人材を育てていくことが大事だと真剣に考え、彼なりにどうすべきかを考えている。山尾という人物は画面を通じて見る限り、寡黙で若干不器用そうな男だ。だからこそ、彼の行動と思いには、真剣で切実なものが感じられて、見ているこちらの胸を打つものがある。
そのほかにも伊藤がロンドンの街の貧困を見つめる視線に、将来政治家になる人間の予兆が感じられて、胸に響くものがある。

僕ははっきり言って、憂国なんて感情を持ってはいない。
しかし、それでも彼らのなにかを思い、それを成し遂げたいと願う、青臭い感慨は、印象深い。どんな形であれ、それは普遍的なものであるし、その真剣さゆえに、見ている側の心に直接訴えかけてくるものがあった。

本作ははっきり言って地味な作品だ。だが、まっすぐすぎるくらいまっすぐな人の思いを丁寧に描いた力作だと思う。必見の映画だろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「どろろ」

2007-02-05 21:56:45 | 映画(た行)


2007年度作品。日本映画。
手塚治虫の同名マンガを映画化。体の48ヶ所を妖怪に奪われた百鬼丸は、自身の体を取り戻すため、妖怪たちと戦う。そんな旅の中、ひょんなことからどろろと名乗る泥棒と旅を共にすることとなる。
監督は「黄泉がえり」「カナリア」の塩田明彦。
出演は「ウォーターボーイズ」「ジョゼと虎と魚たち」の妻夫木聡。「GO」「メゾン・ド・ヒミコ」の柴咲コウ ら。


B級映画である。しかもまったく楽しむことのできないB級映画である。

素材からして、てっきり伝奇テーストかと思って見ていたのだが、どちらかと言うと、怪獣アクションに近いものがあった。まあそれ自体はいい。
問題は映画の肝ともいうべき、アクションの部分がしょぼいという点である。そのため、物語にいまひとつよい印象をもてなかった。つうか単純にセンスというものが感じられなかった。
アクションの「動き」自体はいいのである。だが、クリーチャーのCG映像にしろ、映像の見せ方にしろ、テンポにしろ致命的になにかが足りない。
途中からそのセンスのなさっぷりに見ながら、半笑いになってしまった。ああ、これは妻夫木くんがかっこつけてもそれが浮いてしまうことを笑う映画なのだ、と途中から考えを変えるほどのひどさである。でもそれにしたって、笑う部分はあまり多くなかったから救いがないのだけど。

アクションがダメなら、肝心のストーリーはどうかと言うと、そのストーリーもいまひとつである。
ストーリー自体は料理次第ではなんとかなったかもしれない。たとえば親と子の関連、それを百鬼丸とどろろで対照的に描き出す手法もアイデアとしては悪くない。しかしどうもその辺りが際立っていないように感じられる。テンポが悪いから余計にそのあたりが目立ったように思う。
どろろと百鬼丸を恋愛関係にもっていかない姿勢は好印象ではある。だけど、じゃあなぜ原作の、どろろは子供、という設定を変えてしまったのか、それはそれで納得がいかない。もちろん柴咲コウ効果で、客を呼ぶためとはわかるのだけど、それではあまりに原作に対するリスペクトがなさすぎる。

結論的には全般にセンスがない映画という風に感じた。金をかけた割りに、それに見合うだけの出来に達していない。残念なことだ。

評価:★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・柴咲コウ出演作
 「嫌われ松子の一生」
 「日本沈没」
・瑛太出演作
 「嫌われ松子の一生」
 「空中庭園」
 「好きだ、」
・中居貴一出演作
 「単騎、千里を走る。」
 「寝ずの番」

「ダーウィンの悪夢」

2007-02-04 14:28:59 | 映画(た行)


2004年度作品。フランス=オーストリア=ベルギー映画。
かつて"ダーウィンの箱庭"と呼ばれたタンザニアにあるヴィクトリア湖。そこで捕らえられる外来魚ナイルパーチが巻き起こす悪夢の連鎖を描いたドキュメンタリー。
各国の映画祭で賞を獲得。
監督はフーベルト・ザウパー。


これはつくられる意味のある作品である。
舞台はタンザニア、ヴィクトリア湖畔で、そこで行なわれるナイルパーチ漁を描いている。その魚にクローズアップすることでアフリカが抱える現実が浮かび上がる。
そこにあるのは貧困である。ナイルパーチ漁で工場は潤うが、その町の住民は貧しいままで、食べるのもうじのたかったナイルパーチの頭部などでしかない。貧困から女は売春を行ない、AIDSが蔓延している。それによって男が死に、残された女が売春で生活を稼ぎ、AIDSが途絶えないという悪循環に陥っている。そしてナイルパーチを積むための飛行機はヨーロッパや旧ソ連から武器を運び、それによって戦乱が混迷の度合いを深めるという悲惨な構図が浮かび上がってくる。

はっきり言ってこれは実に理不尽かつ不条理な話だ。
平和で飽食の国に住む人間が言うのも、後ろめたいのだけど、グローバリズムと南北問題の典型的な問題点が丁寧にあぶりだされている。
この悪循環としかいうほかにない悲惨で残酷な状況を告発したという点で本作は意味がある。日本人に問題意識と後ろめたさを呼び起こす意味でも、自分たちの暮らしの裏で起こっている事実を知る上でも一見の価値はある作品であった。

と、テーマ性に関しては、100点に近いのだけど、映画として見るなら、本作はつまらない。それはテーマが重いからではない。単純に構成が悪いからだ。
まず冒頭でタンザニアで起こっている事例をほとんどアトランダムに提示していく。そこに貧困があるのは見て取れるが、つながりが見て取れず、きわめてわかりにくかった。中盤以降で、ようやくいろんな問題がリンクしていくのが見えてくるのが、そこに至るまでが遅すぎるような気がする。そして監督が伝えたいことがようやくラストで見えてくるが、それもなんとなく、という程度でしか提示していないのが不満だった。

僕は基本的に、伝えたいことを観客に説明して理解させる作品よりも、観客にそれとなく悟らせる作品の方が好みである。だが、この場合はもう少し説明があってもよかったのではないか、と思った。
テーマ性ゆえに一見の価値はある。だがともかく映画としてはあまり評価できない作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)