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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ダウト ~あるカトリック学校で~」

2009-03-16 06:51:16 | 映画(た行)

2008年度作品。アメリカ映画。
カトリック学校の厳格な校長アロイシスは、ある疑惑を抱いていた。それは進歩的で生徒にも人気があるフリン神父が、学校で唯一の黒人生徒と不適切な関係を持っているのではないか、ということ。純真な新人教師シスター・ジェイムズの目撃談によって芽生えた小さな疑惑はやがて、フリン神父に対する激しい敵意へと変貌していく。
監督はジャン・パトリック・シャンレー。
出演はメリル・ストリープ。フィリップ・シーモア・ホフマン ら。


フィリップ・シーモア・ホフマンという役者が結構好きだ。個性派俳優にふさわしく、何とも言えない存在感があるところがいい。
本作でも彼の存在感は抜群である。特にすばらしかったのは、その存在そのものにつきまとう、胡散臭さにある。
彼が演じる司祭は、疑惑がかかっているせいもあるけれど、本当に胡散臭く見えてならなかった。たとえば校長との会話の折に見せるちょっとしたためらい。その何気ない演技を見ていると、この人には何か裏があるんじゃないかと見えてしまうのだ。だがそれでいて、場面によっては、生徒に信頼される進歩的な善人のようにも見えるからおもしろい。
そんな彼の胡散臭さは演出の効果による面もあろう。だが当然、その演出に応えるだけの彼の演技力の力も無論大きい。その力量には感心するばかりだ。

もちろんガンコで意見を曲げず、執着心の激しい校長を演じるメリル・ストリープも、初々しさと純真さをもった新米シスター演じるエイミー・アダムスもすばらしい演技を見せていた。
三人が三人とも、演技だけで、それぞれのキャラクターや性格までも適切に伝えている。本当にそれはすごいことだ。

物語で言うなら、やはり司祭と校長シスターの対立がおもしろい。
物語中、校長は司祭を徹底的に排除しようとしている。校長の立場からすれば、規律を重んじるのは当然のこと。その結果、非寛容になっているらしい。
だが理由はもっとシンプルで、校長は司祭の存在に対して虫が好かないという一点に尽きると見ていて思った。実際校長だって、規律だけを重んじる人ではない。目が悪くなった同僚を、不正に目をつぶってでも守ろうとしている。
ただまじめで伝統重視の保守的な校長と、ネアカな気質で進歩主義的な司祭とでは、どう見ても反りが合わない。
その人間的な不信が疑いを生み、それを理由に司祭を排除しようという極論的な行動を取る結果になってしまったのだ、と僕は見た。
それは疑いにより自縄自縛になってしまったように映り、どこか苦々しい。結果的にそのような行為は、誰にも何も生まないままで終わっている。その辺りにも苦みを見る思いがした。

ラストを含め、いくらか物足りなさがあることは否定できないが、その苦みと俳優たちの演技力が光っている。それなりの佳品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・メリル・ストリープ出演作
 「大いなる陰謀」
・フィリップ・シーモア・ホフマン出演作
 「M:I:III」
 「カポーティ」
 「その土曜日、7時58分」

「チェンジリング」

2009-03-08 19:51:48 | 映画(た行)

2008年度作品。アメリカ映画。
シングルマザーのクリスティンは、9歳の息子ウォルターに愛情を注ぎ、電話会社に勤めて生計を支えていた。そんな中、クリスティンの勤務中に、家で留守番をしていたウォルターが失踪する。誘拐か家出かの判別もつかない行方不明の状態が5ヶ月続く。そんなときウォルターがイリノイ州で見つかったという朗報がもたらされる。だがクリスティンの前に現われたのは見知らぬ少年だった。
監督は「ミリオンダラー・ベイビー」のクリント・イーストウッド。
出演はアンジェリーナ・ジョリー。ジョン・マルコヴィッチ ら。


総括から先に書くなら、非常に優れた作品だと言ってもいいだろう。
必ずしもイーストウッドのベストではないが、水準以上の作品に仕上がっている。

ストーリーを要約するなら、失踪した息子の再捜査を警察に要請するために母親が奮闘する、といったところだ。
そういう流れということもあり、見る前はもう少しこじんまりしたストーリーかと思っていた。だが、少しずつ政治的かつ社会的なテーマへとシフトしていくので、いい意味でだが、いくらか驚いてしまう。

だがどのようにテーマ性やストーリーがシフトして行こうとも、主人公である母親は徹頭徹尾、息子を探すという一点のために行動していく。その徹底的かつ意志的な姿が、この映画では強烈な光を放っていたように思う。

そんな彼女が息子のためにけんかを売るのは、権威を守るためなら手段を選ばない警察だ。警察は自己のメンツを守るために、母親を精神科病棟へと強引に収容し、人権を無視するような仕打ちをする。
そのような仕打ちを受けては、心だって折れてもおかしくないだろう。
だが息子を探してもらうという目的のためなら、彼女はどんな苛酷な状況でも決して一歩も引こうとはしない。希望だってまともにない状態の中でも、息子を探すことをあきらめることはしないのだ。

何でそこまでできるのだろう、と僕としては思ってしまうのだけど、ベタな言い方だが、それこそが母なる者の強さなのかもしれない。その姿は非常に印象に残り、感銘も受ける。

だが強く、意思的であることは本当に幸福なのだろうか、という気もしなくはない。
母親は最後まで息子探しをあきらめなかったことが、エンディングで紹介されているが、それは本当に良いことなのだろうか。
ラストの希望は希望なんかではなく、希望の形をした悲劇という見方だってできはしないだろうか。それはどう見ても生殺し状態ではないか。
そんな細い糸にすがるならば、新しい人生を歩み出した方が、長い目で見れば幸福なのではないだろうか。

もちろん他人が彼女に言い聞かせたところで、息子探しをあきらめることはできないだろう。
個人の幸福を決定するのは、個人の主観でしかない。ラストの希望が悲劇的に見えても、彼女の主観では紛れもない確固たる希望なのだ。きっと彼女からすれば、僕の意見など、うざいだけのおせっかいでしかないのだろう。

実際、彼女は息子を探すことをあきらめ、新しい人生を歩み出す機会がないわけではなかった。だが彼女は、いくつかの要因はあったけれど、最後まで息子を探すことを人生の目標に据えて進み続けている。
それは彼女も納得ずくの選択なのだ。だけどやっぱり僕には、その姿は悲壮なものに見えてならない。
そのため、ラストのトーンは明るく、母親の表情も晴れやかなのに、僕には少しだけ悲しく感じられてならなかった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・クリント・イーストウッド監督作
 「硫黄島からの手紙」
 「父親たちの星条旗」
・アンジェリーナ・ジョリー出演作
 「グッド・シェパード」
 「Mr.&Mrs.スミス」
・ジョン・マルコヴィッチ出演作
 「リバティーン」

「ディファイアンス」

2009-02-23 20:41:23 | 映画(た行)

2008年度作品。アメリカ映画。
1941年8月、両親を殺されたユダヤ人兄弟、トゥヴィアらは小さなころから遊んでいた森に逃げ込んでいた。これからどうするかを話し合っていたところに、森を逃げ惑っていたユダヤ人が次々と合流していく。食べ物や武器がない中、移動人数が多くなることに困惑する兄弟たち。数十人の大所帯となった共同体は少ない道具を使い、森の中に家を建て始める。そして銃で武装。ドイツ軍への攻撃もしばしば繰り返していく。
監督は「ラスト サムライ」のエドワード・ズウィック。
出演はダニエル・クレイグ。リーヴ・シュレイバー ら。


戦争って本当に嫌だよね、っていうのが結局のところ、戦争映画を見終わった後に大概感じることだ。
もっとも世の戦争映画はそう観客に思わせるためにつくられているわけだし、そもそも人が人を殺す姿を見せられて、そう思わない人間は少ない。
当然、映画を見終わった後に受ける印象は総じて暗く重いのだが、それにより考えさせられる部分も少なくはない。

本作を見終わった後に受ける印象は、多くの戦争映画で受ける印象と同じである。
そういう意味、強烈なオリジナリティはないのだが、戦争映画らしい戦争映画だな、と感じさせる仕上がりにはなっている。

主人公はユダヤ人で、ナチスから逃れるために森にかくれており、ほかのユダヤ人を救うために、キャンプを築き彼らをかくまっている。言うなれば愛他精神の持ち主だ。
そのために、ユダヤ人以外から物盗りも行なうが、それは必要悪の最小限の行為であり、命を盗るようなことまではしない。全体を守るために、非情な手段を取ることもあるが、基本的には優しい奴だ。

だが、苛酷な時代を生きるには、それでは生ぬるいという見方もできなくはない。そのため映画内でも、主人公に反発する人物はいる。
その急先鋒は主人公の弟だ。弟の方は自分たちの身を守るために、ある種の切り捨ても仕方ないと考えている節がある。実際兄の愛他精神により、危険に陥る場面も出てくるからだ。

僕個人は兄の意見にも、弟の意見にも、両方に納得がいくのだが、こういうことはどちらが正しいと言えるレベルの問題ではないのだろう。そもそも、そこには正しい答えなどは存在しないからだ。
最終的には兄弟で力を合わせて、ユダヤ人同胞を守ることになるが、このような決断を迫られるという異常な状況自体が問題なのだろう。
やっぱり、戦争って本当に嫌だよね、って思ってしまう。

映画そのものに関しては、語りたい焦点がぼやけているためか、いくらか散漫な印象を受ける。時間の流れを漫然と追っているだけという感じが強い。
だがこういう人物もいたんだと知ることができた点はおもしろかったし、戦争映画らしく、平和について思いを致すことができる。それなりの佳品と言ったところだ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


そのほかの製作者・出演者の関連作品感想
・エドワード・ズウィック監督作
 「ブラッド・ダイヤモンド」
・ダニエル・クレイグ出演作
 「007 カジノ・ロワイヤル」
 「007 慰めの報酬」
 「ミュンヘン」
 「ライラの冒険 黄金の羅針盤」
・ジェイミー・ベル出演作
 「キング・コング」
 「父親たちの星条旗」
 「ディア・ウェンディ」

「チェ 39歳 別れの手紙」

2009-02-08 21:51:23 | 映画(た行)

2008年度作品。アメリカ=フランス=スペイン映画。
1965年3月、チェ・ゲバラは忽然と姿を消した。様々な憶測が飛び交う中、カストロはキューバ共産党中央委員会の場で、チェ・ゲバラの”別れの手紙”を公表する。チェ・ゲバラはキューバでの地位や市民権をすべて放棄し、再び革命の旅への準備を進める。
監督は「トラフィック」のスティーヴン・ソダーバーグ。
出演はベニチオ・デル・トロ。デミアン・ビチル ら。


個人的には前作の方が好みである。多分それは作品の背景がまったく異なっているからというのが大きいのかもしれない。

前作の「28歳の革命」では、キューバ革命という成功することがわかっている状況を描いていた。そのような設定もあってか、若く理想家肌のゲバラの特質が、昂揚感あふれる状況の中から強く浮かび上がってくるように感じられた。
一方の本作「39歳 別れの手紙」は、ボリビアでのゲリラ行動が描かれている。それが成功せず、彼が最終的に殺されることは最初からわかっている状態だ。別の言い方を使うなら、待っているのは理想家の挫折。そのためか映画全体のトーンも暗く見える。
そういった微妙な違いに好みが出たらしい。

史実のくわしいことは知らないので、映画の情報だけで判断するが、見る限りでは、ゲバラの行動は実際あまりうまくはいっていない。
ボリビアの兵士たちのモチベーションは低く、軍隊において、規律が重要なものなのにもかかわらず、それが浸透せず、逃亡者も出る始末だ。加えて、外国人ということもあり、ゲリラ兵から素直に受け入れられているようには見えない。
ゲバラは理想を持って、ボリビアに乗り込んだのだが、現実は苦々しいな、とそれらの場面を見ていると思ってしまう。

そのようなこともあってか、ゲバラのゲリラ隊はどんどんと不利な状況へと追いやられている。
民衆はゲリラを信用しておらず、密告なども重なり、ゲバラの活動は実を結ぶことはない。情報戦に完全に敗北しているように見えたが、それが大きいのだろう。
理想主義なゲバラの姿が好きだっただけに、容易ならざる現実の前に、どんどん袋小路に迷い込んでいく姿に、何か切なさが湧いてくる。しかしそれがまた現実でもあるのだろう。

政府側に拘束されたゲバラはそれでも反骨精神を見せ、処刑を前にしては、なかなか雄々しい表情を見せる(処刑の様子が事前知識と違っていたが、あれでいいのだろうか)。
そこにあるのはまぎれもなく、一人の男としてのカッコ良さだ。理想を持った人間として、実に気高く生きているな、と強く感じさせられる。

本作が、ゲバラの魅力を十全に伝えているとは思えないが、それでもゲバラ初心者には彼の人間性を伝える作品に仕上がっているとは感じた。
個人的にはそれなりに満足である。

評価:★★★(満点は★★★★★)


前作の感想
 「チェ 28歳の革命」
製作者・出演者の関連作品感想
・スティーヴン・ソダーバーグ監督作
 「オーシャンズ13」
 「チェ 28歳の革命」

「誰も守ってくれない」

2009-01-30 21:54:09 | 映画(た行)

2008年度作品。日本映画。
ごく平凡な四人家族の船村家。ある日突然、その一家の未成年の長男が、小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕される。東豊島署の刑事・勝浦と三島は突如、その容疑者家族の保護を命じられる。一体何から守るのか分からないまま、逮捕現場の船村家へ向かう勝浦と三島。二人はそこで、容疑者の家を取り囲む報道陣、野次馬たちを目の当たりにする。彼らの任務は、容疑者家族をマスコミの目、そして世間の目から守ることだった。
監督は「容疑者 室井慎次」の君塚良一。
出演は佐藤浩市、志田未来 ら。


この映画を見た後、ミスチルの「タガタメ」という曲を思い出した。
「でももしも被害者に、加害者になったとき、出来ることと言えば…」という歌詞の歌だ。
言うまでもなく名曲なわけだが、その歌詞にはこの映画のテーマと非常に近しいものがあるな、と感じられた。
もしも家族が加害者になったとき、何ができるというのだろうか。そういうことである。

映画の中では、家族が幼児殺傷事件の加害者になり、加害者の妹はマスコミからバッシングを受けている。普通の日常を送っていた少女は、加害者の家族だったという理由だけで迫害されてしまう。
ヒステリックな正義感とのぞき見趣味的なマスコミと視聴者が妹をひたすら追い詰めていく姿はなかなかえぐいものがある。15の少女にはキツイ、という感じのセリフがあるが、30の僕でもこの環境はキツイだろうな、と思わせられる。

とはいえ、そこにはいくらかつくりすぎの部分もあることはある。
現実にああいう事件が起きたとき、あそこまでみんなは過剰な行動を取るものだろうか、という気もするし、ネットの暴走で理性的な声は出ないのかとも思うし、根本的な部分でもツッコミどころはまだまだたくさんある。物語をおもしろくするために、無理を重ねすぎている。
だが映画の中の異常性も、ある一面においては、現実でもあるのだ。
映画の中にもあったが、そういう点、加害者の妹である彼女も被害者なのだろうなという気がしなくはない。

だが実際に犯人に殺された被害者の家族からしたら、そんな妹ですら、犯人の妹でしかないのである。その意味が実に重たい。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いということわざがあるが、被害者からしたら、犯人が憎ければ、その周辺のすべてをも憎みたくなるのかもしれない。たとえそれが理不尽なことだと、心のどこかで気付いていたとしてもだ。

被害者には家族があり、加害者にも家族がある。そしてその間を克服するのは容易なことではないのだろう。ひょっとしたら不可能なのかもしれないのだ。
そこにはわかりやすい解決は皆無と言っていい。そもそも解決など出しようがない。

「タガタメ」という曲では、加害者になったときの一つの答えとして、「相変わらず性懲りもなく愛すこと以外にない」という風に歌っている。
そのような状況が起きたら、きっと自分と自分の周りを守るだけで手一杯になるのだろう。

そして映画の中でも、誰も守ってくれないから、家族で守り合うんだと言っているように見える。それがすなわちは、人間にできる限度なのかもしれない。
それはまったくもって解決ではないし、その先には、償う、とかいろんな問題が生じるはずだ。
だけど、まずその基本を押さえなければ、前へすら進めないのかもしれない。そんなことを考えさせられた。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・佐藤浩市出演作
 「秋深き」
 「暗いところで待ち合わせ」
 「THE 有頂天ホテル」
 「ザ・マジックアワー」
 「天然コケッコー」
 「闇の子供たち」
・松田龍平出演作
 「アヒルと鴨のコインロッカー」
 「長州ファイブ」
・佐々木蔵之介出演作
 「アフタースクール」
 「憑神」
 「虹の女神 Rainbow Song」
 「20世紀少年」
 「間宮兄弟」

「007 慰めの報酬」

2009-01-23 22:28:08 | 映画(た行)

2008年度作品。イギリス映画。
愛したヴェスパーに裏切られたジェームズ・ボンドはMとともにミスター・ホワイトを追求するうち、その裏に潜む予想もしなかった複雑かつ危険な悪の組織の存在を知る。捜査を進めるうち、内部の裏切り者と配置の銀行口座の関連が判明。そこでボンドは人違いにより、美しく、気性の激しいカミーユに出会うが、彼女もある復讐を胸に抱いていたのだった。
監督は「チョコレート」のマーク・フォースター。
出演はダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ ら。


冒頭から派手なアクションが展開されて、一瞬のうちに映画の世界に引き込まれてしまう。
今回は(多分)特にアクションシーンに力を入れているらしく、冒頭に限らず、すべてのアクションが派手であり、見応えも抜群である。カーチェイスに、ガンアクション、市街戦に空中戦と、よくもまあ、ここまで飽きさせず、しかも高いレベルでアクションシーンを描けるものだと感心してしまう。
幾分映像が見づらくもあるけれど、スピーディでハラハラと見せる演出はなかなかだ。

プロットもそれなりにおもしろい。
次々とテンポよくエピソードを挿入しており、観客を飽きさせないつくりで、感心することしきり。映画の世界に惹きつけるのが上手いなと感心してしまう。

ただ個人的には、幾分ストーリーがわかりにくいかな、という気がしなくはない。もちろんメインの流れも、充分に理解できるし、ついていけないわけではないのだが、細かい部分がよくわからない。
一番わからないのはカナダ諜報員の立ち位置。伏線は張られていたように記憶するけれど、頭の回転が遅い人なので、彼女の行動理由がどうもわからなかった。

と、いくらかは不満もあるが、勢いがあるので、細かいことも気にならなくなってくる。勢いにだまされていると言えるのかもしれないが、トータルで見れば満足のいく作品だ。
アクションシーンが優れているので、血の騒ぐ作品が好きな人には楽しめるだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


そのほかの007シリーズの感想
 「007 カジノ・ロワイヤル」

製作者・出演者の関連作品感想
・マーク・フォースター監督作
 「君のためなら千回でも」
・ダニエル・クレイグ出演作
 「007 カジノ・ロワイヤル」
 「ミュンヘン」
 「ライラの冒険 黄金の羅針盤」
・オルガ・キュリレンコ出演作
 「薬指の標本」
・マチュー・アマルリック出演作
 「潜水服は蝶の夢を見る」
 「ミュンヘン」
・ジュディ・デンチ出演作
 「あるスキャンダルの覚え書き」
 「007 カジノ・ロワイヤル」
 「プライドと偏見」

「チェ 28歳の革命」

2009-01-13 22:42:27 | 映画(た行)

2008年度作品。アメリカ=フランス=スペイン映画。
1955年7月、メキシコ。持病の喘息を抱えながらも、ラテン・アメリカの貧しい人々を救いたいと願うアルゼンチン人の医師エルネスト・ゲバラと、故国キューバの革命を決意するフィデル・カストロは出会う。たった82人の革命軍を率いてキューバに上陸するカストロの作戦に、参加を決意するゲバラ。いかにして彼らは、革命を成し遂げたのか?
監督は「セックスと嘘とビデオテープ」のスティーヴン・ソダーバーグ。
出演は「トラフィック」のベニチオ・デル・トロ。「ウェルカム!ヘヴン」のデミアン・ビチル ら。


僕はチェ・ゲバラという人物をそれほどよく知っているわけではない。
わかっているのはウィキペディアで得られる、通り一遍の知識と、「モーターサイクル・ダイアリーズ」を通して知ったことと、Tシャツのデザインに使われているということくらいだ。情報としては中途半端である。

だが映画の中の彼を見る限り(映画がどれほど正確かはわからないけれど)、なぜ彼がいまに至るまで、いろいろな人物に取り上げられ、映画にもなり、著作も出版され続けているのか理解できる。
一言で言えばそれは、彼がかっこいいからだ。

チェ・ゲバラという人物は非常に高い理想を持った人物だ。
実際、正義感の強い彼は世の不正に対して変革を行なおうと外国人の身でありながら、キューバに上陸し革命を起こそうと企てる。そして最初軍医として活動する彼は、戦傷者を見捨てようとしないし、捕虜は決して殺さない。
「真の革命家は愛によって導かれる」と語る彼は、その言葉だけを抜き出せばロマンチストのようにすら見える。
だが映画で見る限り、彼の行動は有限実行そのもので、そのあくなき行動力はロマンチストという言葉では語りつくせまい。

だが彼はただ理想を語るだけの男ではない。革命による狂気を認め、規律のために個人主義を否定し、軍規を犯した者を処刑することも辞さない。
ある意味ではリアリストで、厳しさもある。

だがその厳しさは自分自身にも課している。
あらゆることに対して誠実に動き、私利私欲には走らず、理由のない卑劣な殺人は犯さず、武器のない者は戦争には参加させない。ある点、とことんなまでに優しい。
だが、そんな彼ゆえに部下にも同じような誠実さを求める頑なさはある。多分近くにいる人間は息苦しいと感じることもあるのではないか、と思わない面もないではない。

だがそのストイックで、言葉通りに生き、恐ろしいほど精力的に行動する姿は、いくつかの欠点を認めつつも、魅力的であることは否定できない。
少なくとも僕は完全にチェ・ゲバラという男を好きになってしまった。

その強烈な個性を再現したソダーバーグの手腕と、デル・トロの存在感も優れていた。2時間ちょい越えの作品なれど長さはまったく感じなかった。
世間的な評価はともかく、個人的には結構ツボにはまった作品である。次作がいまから楽しみだ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・スティーヴン・ソダーバーグ監督作
 「オーシャンズ13」

「天国はまだ遠く」

2008-12-28 06:36:50 | 映画(た行)

2008年度作品。日本映画。
仕事も恋もうまくいかないし、ひとりでがんばるのにも疲れた。OLの千鶴は、都会生活から逃げるように、小さな町を訪れる。人生に迷う彼女をゆっくり休息させて、たっぷり栄養を与えるのは、山奥で静かに暮らす青年、田村。出会うはずのなかった2人が出会い、互いの止めていた時計がゆっくりと動きだしていく。
瀬尾まいこの原作を映画化。
監督は「夜のピクニック」の長澤雅彦。
出演は「いちばんきれいな水」の加藤ローサ。チュートリアルの徳井義実 ら。


自殺をするため山奥にやって来た女性が自殺に失敗し、そこで出会った男性と一緒の生活を過ごすことで癒されていく。
そういう基本ストーリーゆえか、物語の速度は非常にゆるやかだ。
あっ、物語が動き出した、と個人的に感じたのは、始まってから30分経過したとき。別にスピーディに進める必要もないが、少し遅すぎるかなという気がするし、映画自体の余白が(しかも特に想像力をかき立てられない余白が)多すぎる気がしなくはない。

だが田舎での生活は丁寧に描かれているし、何と言っても、食事がおいしそうなのはいい。特に最初の食事の魚は非常においしそうだし、そばも美味そうで、そういうシーンを丁寧に積み重ねていくのは好印象だ。

そして本作のメインでもある、心を病んで人生に疲れた女性と、恋人の死により心に傷を負った青年との擬似恋愛めいた雰囲気も非常に心地よいものがあった。
恋愛とまではいかないけれど、離れすぎない適度な距離感を保っていたのが何よりも良い。

そんな二人の関係性の描き方でもっとも良かったのはラストではないだろうか。
そのラストシーンで男はあえて女を突き放すように、自分の街へ帰ることを勧める。本当は女性にずっと自分の近くにいてほしかったであろうにもかかわらずだ。
その行動には昔の恋人のことも関係しているのかもしれない。

だが僕個人はそこに男性なりの父性的な優しさを見た気がした。
彼女がいるべき場所はここではないのだ、という思いから、あえて自分の思いを殺して、突き放す。そういうやせ我慢的な優しさである。
その解釈が合っているかは知らないが、男の選択は個人的にツボであり、地味なこの作品に強い余韻を残している。

評価:★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・長澤雅彦監督作
 「夜のピクニック」
・加藤ローサ出演作
 「夜のピクニック」

「トウキョウソナタ」

2008-11-30 18:13:09 | 映画(た行)

2008年度作品。日本=オランダ=香港映画。
東京の線路沿いの小さなマイホームで暮らす四人家族。リストラされたことを家族に言えない父、ドーナツを作っても食べてもらえない母、アメリカ軍に入隊する兄、こっそりピアノを習ってる小学六年生の弟。何もおかしいものなんてなかったはずなのに、気づいたら家族みんながバラバラになっていた。
監督は「CURE」の黒沢清。
出演は「ゆれる」の香川照之。「空中庭園」の小泉今日子 ら。


現代的なテーマというべきか、この映画に登場する家族の心はそれぞれバラバラで、別の方向を向いている。
父は家父長的な強い父親を演じようとし(しかしクビになっている時点でその行動は破綻している)、母は自分の役割を果たしながらも孤独を覚え、子どもたちは自分の関心の持つものにばかり興味を向けて家族から遠ざかりたいと思っている節すらある。
その様がいくらか黒い笑いを交えて描かれている点が興味深い。

彼らの状況を一言で説明するなら閉塞感だろう。仕事を得られない状況や、家庭というせまい環境の中に埋もれてしまっている状況などから、必死で逃れようとしているが、うまくいかない。
一番近しい家族とは、互いに情報を開示しないために、相手のことを慮ることもできず、すれちがいばかり起きている。そこには出口がない。
人間と人間が関わり合っていくことの難しさをそこから考えさせられるし、近しい者同士なら、その難しさはなおさら強くなるのだろうな、とつくづく思い知らされる。

だがバラバラの家族であっても、彼らの帰る場所は結局のところ、家庭の中にしかないところがおもしろい。
それは決して救いではなく、とりあえず、仕方ないから帰ってきたという雰囲気すらある。出口を求めているが、出口がないから戻るだけの仮の宿、ってな感じだ。
その安易に家庭を是、としないところが個人的には良かったと思う。

と誉めているが、この映画には欠点もないわけじゃない。
アメリカ派兵のときのインタビューはどうも違和感があるし、子どもの釈放で身元引受人がいないのも変だ。車に轢かれて無傷ってのも嘘っぽいし、ほかにもやりすぎだろう、と感じるところはある。
だがトータルで見れば、その欠点もまだ許容範囲かもしれない。
言いたい不満はあれど、なかなかの佳作である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・黒沢清監督作
 「叫」
・香川照之出演作
 「キサラギ」
 「嫌われ松子の一生」
 「ゲド戦記」
 「ザ・マジックアワー」
 「14歳」
 「憑神」
 「20世紀少年」
 「バッシング」
 「花よりもなほ」
 「HERO」
 「ゆれる」
・小泉今日子出演作
 「空中庭園」
 「転々」

「ダークナイト」

2008-08-23 20:18:32 | 映画(た行)

2008年度作品。アメリカ映画。
ゴッサム・シティーにジョーカーと名乗る凶悪な男が現れた。街を守るバットマンは新任の地方検事デントの支持を受け、徹底的な犯罪の撲滅を誓う。ジョーカーは、正体を明かさなければ、市民を殺す、とバットマンを脅し、警視総監、デント、デントの恋人のレイチェルを暗殺のターゲットに選んでいく。
監督は「バットマン ビギンズ」のクリストファー・ノーラン。
出演はクリスチャン・ベール。ヒース・レジャー ら。


雰囲気のいい映画だ。
「ダークナイト」というタイトルが示すようにダークな空気が漂っていて、その世界を堪能することができる。

そのダークな側面をあぶり出すのに、悪役のジョーカーが大きな役割を果たしている。
仲間を仲間と思わない冷酷さや、クレイジーと言っていいほど壊れたキャラクターは存在感抜群。ジャック・ニコルソンばりに役をつくり上げた故ヒース・レジャーの思いをそこからうかがうことができる。

バットマンの立ち位置も良かったと思う。単純な正義の味方でなく、周りから嫌われているという設定は「スパイダーマン」を始め最近はよくあるが、それを徹底して描いているあたりが良い。
個人的にはカーチェイスに笑ってしまった。そりゃ、そこまで街の人に迷惑かければ、嫌われるだろうよ、とツッコミたくなるほど無茶で破壊的な暴走を行っており、その容赦のなさがいい。

ラストに向けてさながらジェイムズ・エルロイ原作の映画のような展開に進んでいくが、そこで描かれたアーロン・エッカート演じる刑事の狂気は(やや「ブラック・ダリア」を思わせるが)凄味があるし、メイン級のキャラに対する死の描き方にも妥協はない。
そして「光の騎士」に対し、「暗黒の騎士(ダーク・ナイト)」として生きていくことを決めたラストの選択にも悲壮感が漂っていたのが良かったと思う。

ととりあえずいい点を列挙してみたが、残念ながら僕の趣味ではないため、そういったいい点を認めつつも、僕の心には響いてこなかった。アメコミ特有の設定が、物語世界に没入するのを妨げているように思う。早い話、引いてしまうのだ。どうも僕はアメコミのヒーローものとの相性がよろしくないらしい。
そのため素直に評価はできないが、こういう作品が好きな人もいるのだろう、と納得できる一品だったことは確かである。

評価:★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・クリストファー・ノーラン監督作
 「プレステージ」
・クリスチャン・ベール出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「ニュー・ワールド」
 「プレステージ」
・ヒース・レジャー出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「ブロークバック・マウンテン」
・アーロン・エッカート出演作
 「サンキュー・スモーキング」
 「ブラック・ダリア」

「となりのトトロ」

2008-07-19 18:11:22 | 映画(た行)

1988年度作品。日本映画。
昭和三十年代、田舎に引っ越してきた草壁一家。幼い姉妹のサツキとメイは大きなクスノキがある森の中で、ふしぎな生き物トトロと出会い、ふしぎな体験をする。
監督は「崖の上のポニョ」が近く公開される宮崎駿
声の出演は日高のり子、坂本千夏 ら。


金曜ロードショーで久しぶりに鑑賞する。

僕がいまさら多く語る必要もないのだが、やはりこの作品はまぎれもない傑作である。

田舎を舞台にし、豊かな自然を描いていることもあってか、叙情性が漂っていて心を洗われるようだ。それに幼い姉妹とトトロとの交流というファンタジックな展開は優しさが感じられ、胸にじんわり響いてくるものがある。
サツキとメイのキャラクターは明るく元気一杯で、彼女らが見せる子供らしい言動や健気さを見ていると、二人を応援したいようなそんな気分になってくる。
物語には笑いもあるし、微笑ましく感じられる部分もあるし、ほろりもさせられる部分ありとでサービス満点。とにかく観客のエモーショナルな部分に訴えかける力は半端じゃない。

この時期の宮崎駿はつくる作品すべてが傑作だった。この人と同じ時代に生まれてよかったと心から思う次第だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


そのほかのスタジオ・ジブリ作品感想
 「おもひでぽろぽろ」
 「ゲド戦記」

「つぐない」

2008-05-18 15:33:20 | 映画(た行)

2007年度作品。イギリス映画。
1930年代、イギリス。政府官僚の長女に生まれたセシーリア。兄妹のように育てられた使用人の息子ロビーを、身分の違いを超えて愛しているのだ、と初めて気づいたある夏の日、生まれたばかりの二人の愛は、小説家を目指す多感な妹ブライオニーのついた悲しい嘘によって引き裂かれることになる。
イギリスの作家イアン・マキューアンの『贖罪』を映画化
監督は「プライドと偏見」のジョー・ライト。
出演は「パイレーツ・オブ・カリビアン」のキーラ・ナイトレー。「ラストキング・オブ・スコットランド」のジェイムズ・マカヴォイ ら。


この映画に登場するブライオニーは想像力豊かな文学少女で、思春期特有の潔癖さを抱え持っている。性的な言動をする男性に嫌悪感を持っている姿は、この時期の少女にはありがちな光景であろう。
だがその潔癖さが、いとこの強姦事件で、犯人をロビーだと断言し、ロビーと恋仲になりかけていた姉のセシーリアの運命を狂わせていく様は何とも恐ろしい限りである。

ブライオニーがロビーという人物を誤解するに至るのは、恐らく彼がブライオニーの初恋の相手ということも関係しているだろう。その初恋の相手が汚い言葉を使い、姉と性的な関係を持っているということに、彼女なりにショックを受けているのは想像に難くない。
そこには彼女なりの嫉妬や復讐心も生まれるのだろう、と推察できる。しかしだからと言って、それですべてが許されるわけではない。

実際、引き裂かれたロビーとセシーリアに待っているのは悲惨な時間だ。
男は戦争に投げ出され、せっかく再会した恋人とも満足に時間を共有することだってできない。そして最終的な運命だって、救いがあるとは言えない。
だからこそ、つぐなう手段を失われたブライオニーがラストで救いを明示しようとした姿勢には、選択肢が残されていないだけに胸に迫るものがあった。

ただ原作既読者として不満を上げるならば、ラストが若干言葉足らずかな、という気がしなくはない。
原作と映画とは分けて論じるべきとは思うのだが、せめて原作にあった「神が贖罪することがありえないのと同様、小説家にも贖罪はありえない」に類する言葉が必要だったのではないだろうか。
映画のラストを見ると、小説を通してしか私はつぐないを果たせず、小説を通してしか彼らに怒られるしかなかった、と言っているように見えて、ただの小説家の自己弁護にしか映らず、やや不満である。

しかし全体で見れば、非常に格調高く描かれていて、作曲賞を取っただけあり、タイプライターの音も心地よく概ね満足の一品である。一見の価値があることは確かだろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


原作の感想
 イアン・マキューアン『贖罪』

制作者・出演者の関連作品感想:
・ジョー・ライト監督作
  「プライドと偏見」
・キーラ・ナイトレイ出演作
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」
 「プライドと偏見」
・ジェームズ・マカヴォイ出演作
 「ナルニア国物語 第1章 ライオンと魔女」
 「ラストキング・オブ・スコットランド」

「テラビシアにかける橋」

2008-01-28 19:10:45 | 映画(た行)

2007年度作品。アメリカ映画。
絵の得意な少年ジェスは隣に越してきたレスリーと出会う。共に学校でいじめを受ける二人は親友になり、森の中に、二人だけの王国、テラビシアを空想する。やがて二人は現実の世界にも立ち向かう勇気を持つことになるが…
監督はガボア・クスポ
出演は「ザスーラ」のジョシュ・ハッチャーソン。「チャーリーとチョコレート工場」のアナソフィア・ロブ ら。


ストーリー自体は幾分だれる部分が多い。
テラビシアのファンタジーと現実が交差するシーンは見せ方のせいか、説得力に欠けるし、ファンタジーの描写も同じことをくりかえしているようにしか見えず、平坦で盛り上がりに欠ける。
現実を乗り越えるためにファンタジーの力を求める、という部分は「パンズ・ラビリンス」に似ているが、あちらの方が見せ方などあらゆる面でセンスがあった。

しかしその展開もラストで意外な方向に進み、いきなりおもしろくなる。正直なところ、盛り上がるのが遅すぎたきらいはあるが、この急展開は非常に驚かせていただいた。

しかしラストの展開は下手をすれば、安っぽいものになりかねないものだ。
それを上手く前向きな感じにまとめ、ファンタジーの力を前面に押し出していたのが好ましい。

物事に固定観念を持たず、明るい側面に目を向ける溌剌さがあり、何より妄想力(?)のある、ある意味ふしぎちゃんというレスリーのキャラもふくめ、少年少女向けのほほえましい作品になっている。
欠点はきわめて多いが、及第点レベルの作品であることは確かだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「中国の植物学者の娘たち」

2008-01-27 16:53:35 | 映画(た行)

2005年度作品。カナダ=フランス映画。
孤児院で育ったミンは湖の孤島にある植物園に実習生として赴く。そこには封建的な植物学者の教授とその娘のアンがいた。ミンとアンはすぐに仲良くなり、やがて恋愛関係へと発展する。
監督は「小さな中国のお針子」のダイ・シージエ。
出演はミレーヌ・ジャンパノワ。「かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート」のリー・シャオラン ら。


映像の美しい映画だ。
大自然の山々に植物園の植物、土のにおいの漂ってきそうな自然の映像は詩情にあふれ、女性二人の撮り方は耽美的で美しい。特に湯気の使い方は幻想的で、裸が出てくるとかそういうのとは関係なしに、映像の中に色気があったと思う。

ストーリーは同性愛という設定を除けば普通のラブストーリーだ。
二人に困難が襲い、それを乗り越えることで二人の距離がさらに縮まるという点はよくあるパターンだ。二人の関係は壊れることが前提であるが、その予感の構図もそんなに珍しいものではない。
しかし見せ方と感情描写が上手いためか、二人の関係にやきもきし、ハラハラし、心を打たれるものがある。見事な構成である。

ところで二人が恋愛関係になったのには、閉鎖された空間で、抑圧する存在(父)がいたことが大きい、と思う。それによって孤独を覚えた二人が互いの存在を求め合ったのだ。
見ようによっては、それはある種の逃避である。
しかしどこまでもそのような関係で逃げるわけにもいかない。それは既に壊れることが前提の関係だからだ。
だからラストでああいう展開になるのはわからなくはない。

しかし個人的な趣味から言うと、あの展開はなしだ。
中国の裁判のひどさはともかくとしても、あのようなオチに持っていくのは気に入らない。しかもそこから湖でのシーンに向かうとあってはがっくり来てしまう。
別にハッピーエンドであろうが、バッドエンドであろうが、かまわない。だが、あんな二人だけの世界で完結するようなオチでまとめてほしくはなかった。
ラスト以外は完璧だっただけに、惜しい限りだ。

しかし点数はラスト以外がすばらしかったので、それに敬意を表し、★5を付ける。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「転々」

2008-01-06 20:13:15 | 映画(た行)

2007年度作品。日本映画。
80万近い借金のある文哉は、借金取りの福原から、俺の言うことを聞けば、100万あげて借金を帳消しにしてやると言われる。出された条件は霞ヶ浦までの東京散歩。文哉は疑念を抱きながらもその申し出を受け入れ、東京の街中を歩き始める。
監督は「イン・ザ・プール」「時効警察」の三木聡
出演は「メゾン・ド・ヒミコ」のオダギリジョー。三浦友和 ら。


三木聡らしいと言うべきか、小ネタが満載だ。
カバンの中にだるまがいっぱいとか、訪れた神社に立っている幟が呪い祭りとか、予想外のところで石原良純が出てくるとか、どうでもいいところでどうでもいいネタをつぎ込み、くすりと笑わせてくれる。それをゆるいオフビート調で描いているのが、目を引く。

そういったタッチは決してきらいではないし、ほんわりした感じがして良い。
しかしそういった良さを認めつつも、まったりしすぎていて、いまひとつ映画のリズムに乗ることができなかったことも否定できなかった。これは個人の感性の違いというほかないだろう。

しかし親に捨てられたオダギリジョー演じる青年が、借金取りの男と心を通わせていく過程は好印象だ。
特に最後で擬似家族がつくられるあたりは暖かさがあふれている。そして借金取りの男に父を重ねている姿にどこか切なさが感じられる。
その感情の動きからあるからこそ、ラストが少しビターで、ちょっとした悲しみが感じられた。余韻は悪くない。

こういう映画も好きな人はいるだろうし、その良さもよくわかる。
僕は映画のテンポもあって、必ずしもはまれなかったが、良作であることだけはまちがいないだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想:
・オダギリジョー出演作
 「THE 有頂天ホテル」
 「叫」
 「ゆれる」
・小泉今日子出演作
 「空中庭園」