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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「母たちの村」

2006-07-02 16:49:17 | 映画(は行)
2004年度作品。フランス=セネガル映画。
アフリカ地域でいまも行なわれる女子割礼。その割礼から逃れる4人の少女がコレの元へ逃げ込み、コレは彼女らを保護することに決める。これに保守的な村人が反発、騒動が持ち上がる。
第57回カンヌ国際映画祭 ある視点部門グランプリ。
監督はアフリカ映画の父とたたえられるウスマン・センベーヌ。


もう少し短くできる内容の映画だ。特に前半は冗長で、若干退屈にさえ感じられた。しかし村長の息子が村に帰ってくるあたりからだいぶおもしろくなってくる。エンタメという視点からすればそれで及第点だろう。

さて、この映画のテーマは女子割礼に対する警告である。
割礼は下手したら出血で死ぬこともありうる危険な行為だが、一般的な村の女性たちは疑問には思っていても、それに対して行動するわけでない。コレも、ラジオという文明の利器がなければあそこまで積極的に活動していたかは疑問だ。しかし経過はともあれ、コレは因習に立ち向かうために行動を起こしている。

コレの行動を理解してくれる人間は、少数だ。実際危険に接している女性陣も、昔から続いているという概念にしばられて、疑問に思っていてもコレと同じように行動することはできないでいる。主人公のコレにとっては、味方の少ない大変な戦いだ。
でも自分が負けてしまったら、今後も割礼という疑問の多い風習が残り続けることに気付いていたのだろう。それゆえ彼女の行動と、その意志に敬意を抱かざるをえない。

特にムチで打たれるシーンは感動的だ。そのシーンからは彼女の信念と勇気が仄見えて胸を打つ。人間の尊厳を感じさせる麗しい場面だ。
そしてそんな彼女の行動が、他人の心を変えていく様は何ともすばらしい。

因習の中には理不尽なものだって存在するものだ。しかし伝統があるという理由でみんなが疑問をもちながらも口に出して反攻できないことだってある。しかしそういった理不尽に立ち向かい、悪しき習慣を断ち切るのは最後は人間の力と勇気に因らざるをえない。
本作は行動するという勇気の美しさを伝える、すばらしい一品だと感じた。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「初恋」

2006-06-19 20:43:48 | 映画(は行)


2006年度作品。日本映画。
日本犯罪史上最大のミステリー、三億円事件の犯人は女子高生だった。そんな大胆な仮説をもとに描いた中原みすずの原作を映画化。
監督は塙幸成。
出演は「NANA」、「好きだ、」の宮崎あおい。「パッチギ!」の小出恵介 ら。


目立って良くもないし、目立って悪くもない。普通としか言いようのない作品である。

本作で真っ先に気になったのは前半のテンポの悪さだ。
人物自体はいろいろな面々が揃っているのに、その描き込みは極めて中途半端で、物足りない。一応主人公のみすずは孤独であるということは伝わってくるし、主犯となる岸がなぜ権力に反発するのか、という理由も全体を見れば何とはなく理解できる。だがその描写は薄くて、心に響いてこない。
一番ひどいのはみすずの兄だろう。全く描きこみが足りず、一体彼は登場する意味があったのか疑問に思う。

良かった点は三億円を強奪するくだりだろうか。それなりに緊迫感もあったし、ハラハラしながら見ていることができる。
それにみすずと岸の関係の描き方も心に染み入るようだ。
ラストの詩はあざといというか、古典的で若干ひいたけれど、それでも全体を見たときにそこはかとなく漂う、「初恋」というタイトルの意味が伝わってきて麗しいものがあった。

パンチとしては弱い作品という気もする。まったり味わう分には良いのかもしれない、といったところであろうか。

蛇足だが、元ちとせの歌が心に響いた。この映画の雰囲気にマッチしていたと思う。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「花よりもなほ」

2006-06-05 20:39:24 | 映画(は行)
2006年度作品。日本映画。
元禄時代、父の仇を討つべく江戸に出てきた侍と、彼の住む貧乏長屋の住人とで繰り広げられるコメディタッチの人情ドラマ。
監督は「誰も知らない」の是枝裕和。
出演は「東京タワー」「フライ,ダディ,フライ」の岡田准一。「たそがれ清兵衛」の宮沢りえ ら。


個人的にはツボである。
いくつか余分なエピソードがあったり、人物が多すぎるせいもあり、やや散漫な印象を受けるけれど、そういった部分も含めて、この作品にはまってしまった。

一応、仇討ちが主眼として取り上げられているけれど、この中で刀を使ったチャンバラは登場しない。その姿勢は仇討ちに対する向き合い方という本作のメインテーマにも繋がってくるものだ。
これを見ていて思ったのだが、是枝監督という人は基本的にいい人なのだろう。人間に向ける視線は優しいし、人を傷つけるという行為に対して基本的に否という態度をこの作品を通して示している。そして当たり前のことを誠実に伝えようとする姿勢をこの中に見出す。

人間は人間との付き合いの中で大事な何かを受け取っているのだろう。
何かが起きたとき、怒りという行為に全てを転化するのではなく、もっと根本的なパーソナルなつながりの部分に目を向けるべきだということを謳っているように僕は受け取った。
基本的に僕はこの意見に対して賛成だ。そしてそれこそが故人に対して真摯に向き合うことになるのだ、と僕自身も思う。

テーマ以外の部分に目を向けると、何と言っても登場人物がいい味を出している。実に濃い面々を集めたものだ。
例えば、古田新太の飄々とした存在感、キム兄のちょっと抜けているような味わい、へっぴりで変にあくの強い香川照之、怒っている姿がキュートな田畑智子、その他の出演陣もどれも存在感抜群。
彼らの楽しい雰囲気が見ているこっちの側にまで伝わり、楽しい気分になってくる。何度も笑えるシーンがあっていい意味で力が抜けていた。

加えてセットもすばらしい。
あのいかにも崩れそうな貧乏長屋が冒頭に登場した途端に、僕はこの映画の世界観に引き込まれてしまった。あれだけでこの映画の主要なテーストを表現できていたのではないか、と思う。

何か散漫になったけれど、とにかく楽しく、少し心が温かくなれる作品だ。一見の価値はあり。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「ぼくを葬る」

2006-05-08 19:34:18 | 映画(は行)
2005年度作品。
余命3ヶ月と宣告された写真家、残された時間の中で自分自身と向き合う姿を描く。
監督は「8人の女たち」のフランソワ・オゾン。
出演はメルヴィル・プポー。ジャンヌ・モローら。


小品といった感じの作品である。90分未満の短い上演時間を考えればその印象も妥当なのかもしれない。

テーマ自体はありきたりだ。死を前にした主人公が最初自分の苛立ちを周囲にぶつけるけれど、やがて自分の死の準備を始めるというもの。よくある話である。しかし、そんなありきたりの話を飽きさせずに見せる手腕はなかなかだ。
誰かに対する苛立ちや、親しい人を遠ざける感覚もわかるし、そこから和解したいという思いも観ながら僕は自然に受け入れることができた。それは撮り方が丁寧なためなのだろう。おかげで、まるで緩やかな川に身を任せるように主人公の心情を追体験することができる。

観終わった後で思ったのだけど、この主人公が子供を残せなかったとしたら、ここまで穏やかな心境で死を受け入れられたのだろうか、という気がした。そういう風に考えると、この作品はおとぎ話と言えるのかもしれない。
しかしそのおとぎ話は暖かで、心地よいものがあった。

主人公の少年期と思われる少年など、いくつかわからない面もあるが、なかなかに味わい深い作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「ブロークン・フラワーズ」

2006-05-07 18:50:46 | 映画(は行)
2005年度作品。
差出人不明の手紙で息子の存在を知った男が昔の女をたずねて回るロードムービー。2005年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。
監督は「ナイト・オン・ザ・プラネット」のジム・ジャームッシュ。
出演は「コーヒー&シガレッツ」でコンビを組んだビル・マーレイ。「シリアナ」のジェフリー・ライトら。


個人的に主人公には疑問が残った。
この男、えらい無口で表情に乏しくて、喜怒哀楽も少ない。とても近い時期に4人の女とつきあっていたように僕には見えなかった。というかあの歳で結構若い女ともつきあっているのも今一つ納得がいかない(ふられているけど)。
彼にはそんなセックスアピールとなる点はあったのだろうか。僕にはどうしてもそうは見えなかった。あるいはそれは僕が男で、加えてルサンチマンが入りまくりのせいで、そんな歪んだ見方になってしまうのだろうか? 女性には彼のような男は魅力的に見えたのだろうか? それとも僕がビル・マーレイをよく知らないせいか?
とりあえず僕にはそもそもの設定から今一つ納得がいかなかった。

本作はロードムービー・タッチで描かれていて、そこはかとなく哀愁が漂っている所が好みである。
僕としては、ラスト近くの墓の前のシーンの雰囲気などはわりに好きだ。
しかし息子と思しき青年との出会いなど、心に訴えかけるものは僕としては少ない。そのために、単調で、雰囲気はいいけど退屈な映画という感じがした。

評価:★★(満点は★★★★★)

「プロデューサーズ」

2006-04-15 21:24:33 | 映画(は行)


2005年度作品。
トニー賞史上最高の12部門を受賞した大ヒットミュージカルを映画化。必ずコケるミュージカルをつくればお金が手に入るという発想から巻き起こるコメディ。
監督は舞台版の演習を手がけたスーザン・ストローマン。
出演は舞台版でも主役を演じたネイサン・レイン、マシュー・ブロデリックら。


ミュージカルはそんなに好きな方ではない。もちろん例外はあるけれど(「ムーラン・ルージュ」は面白かったし大好きだ)、基本的にミュージカルでツボにはまった作品はあまり多くなかった。
この映画は数少ない例外に入るのではと期待して観たのだけど、はっきり言って僕の好みではなかった。

ミュージカルでコメディ、そうなったらある程度、演技が大げさになるのは当然である。僕も最初の方はコメディということで、そういった過剰な演技を許容して笑って観ていた。けど、時間が経つにつれてその演技が鼻につくようになってきた。
もちろん理由の一つは笑いのツボが日本とアメリカで若干ずれているということにある。そのため、多分アメリカ人は笑って観ているのだろうな、と思える過剰な演技が段々食傷気味になってくるのである。

日本とアメリカの違いと言えば、文化的バックボーンの違いから来るわかりにくさがこの映画にはあった。
例えばこの映画にはミュージカルや演劇、文学等の知識がふんだんに使われている。向うの人にはこういったネタは日常的に接するものかもしれないけれど、日本人の僕にはそういった点がわかりにくく、上滑りをしているように思えた。
それにイントネーションの部分も中学レベルの英語しか使えない僕には何が面白いのかわからなかった。

プロットの面でも不満は大きい。
特に致命的だったのは、この映画の最大の肝である、ミュージカルがこけたら大金が手に入るという理屈がわかりにくかった点だ。一応、公式サイトに行ってその理屈を復習してみたけれど、これだけでも不十分だし、なぜヒットしたら払う金がなくなるのか、逮捕されなければいいのかがよくわからない。そのどしょっぱつの肝の部分がいきなり消化不良のため、物語にすんなり入り込めなかった。
その他のプロットの面でも、ラストで友情を語るのが取ってつけた感があって、僕は納得がいかなかった。

というわけでこの映画、全く楽しむことができなかった。やはり基本的に僕はミュージカルやハリウッドのコメディは合わないのかもしれない。

評価:★(満点は★★★★★)

「ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ」

2006-04-04 21:14:40 | 映画(は行)


2005年作品。
チャーリーという想像上の友人について語り始めた娘と心理学者をめぐるサスペンス・ホラー。
監督はジョン・ポルソン。
出演はオスカー俳優ロバート・デ・ニーロ、名子役ダコタ・ファニングら。


ネタ的にはオーソドックスである。そのため、先が読めるといえば読める展開だけど、それなりに楽しめるつくりになっている。
とはいえ、何かが突き抜けて面白いというわけでもない。ストーリーに意外性があるわけでもないし、ホラーとしてもそこそこという程度だし、猟奇性という点においても際立っているわけでもない。デ・ニーロとダコタ・ファニングという有名どころを押さえているにも関わらず、彼らの魅力が生かされているわけでもない。
要は無難にすぎるのだ。そのため、いまひとつ心に響かない。

結局、ヒマつぶし映画ということなのだろう。時間が余っているときには見れば損はない、そういうタイプの映画である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「ブロークバック・マウンテン」

2006-03-19 21:43:31 | 映画(は行)
1960年代、アメリカを舞台に互いに家庭を持ちながら、男同士の許されない関係を続ける二人の男性の姿を描く。アカデミー賞で3部門を受賞。その他にも各界で評価を受けている。
監督は「グリーン・デスティニー」のアン・リー。本作でアカデミー賞監督賞を受賞。
出演は「ブラザーズ・グリム」のヒース・レジャー。「ジャーヘッド」のジェイク・ギレンホールら。


正直言って見終えた後は、上手いし手堅い映画だけど、それ以上ではないなという印象を持った。
個人的にはそれはエンディングの持っていき方に失敗したからだと思っている。ラストの方が若干だれたし、もっと違った描き方もあったろうにとプロットと演出上もどかしいものを感じたのだ。

しかしこの映画は、後からじわじわと心に来るものがある。それは二人の関係を丁寧に描いているからだろう。
二人は肉体関係もあり、互いが求め合っているのだけど、その関係を貫き通せるわけではない。共に家庭を持っているし、社会的なしがらみなどがついて回り、決してそれから逃れることはできない。実際、二人が会える機会はそうそうは無い。
しかしそんな人生の荒波にもまれながらも、二人は互いの思い出をいつまでも胸に秘め、いとおしい物として抱きしめながら生きている。その二人の姿が印象深く、麗しく、その思いのひたむきさゆえに、ゆっくりと心に響いてくるものがあった。

不満はあるがなかなかの良作である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「ホテル・ルワンダ」

2006-03-19 21:20:13 | 映画(は行)
1994年に起きたルワンダ内戦、民族間の争いからフツ族によるツチ族の大虐殺が起きる。そんな中、虐殺者たちから避難民を救ったホテル支配人の行動を実話を元に描く。
監督は「父の祈りを」で脚本を手がけたテリー・ジョージ。
出演は「オーシャンズ11」のドン・チードルら。


政治的なテーマとエンターテイメント性が融合した、良作である。

主人公は人道的な信念から人を救ったわけではない。彼にとっては家族が第一であり、他人はその次の存在でしかない。だが普通の人なら大体そうであろう。
そう主人公はあくまで普通の人なのだ。ただ接客業向きで話術が上手いというだけでしかない。しかし一旦、巻き込まれた以上は懸命に、家族をそして他のツチ族の人間を救おうと彼は行動をする。

彼がもっているのは機転と話術。それだけでついさっきまで人を殺していた相手に対して立ち向かう。その過程は実に緊迫感に満ちていて、ハラハラさせられる。
普通の彼にとって、こんな状況ははっきり言って酷だろう。しかし苦悩しながらも、必死で彼なりにより良い道を探そうと模索する。その姿は美しく感動的でさえあり印象深い。

感動的といえば、この映画にはいろいろ感動的な場面が多い。映画で泣いたことがない僕ですらじーんと来るものがあった。
個人的にはエンディングの歌がすばらしかった。激しい訴えと熱意を含んだ歌詞に熱くこみ上げてくるものを感じた。

本作のテーマであるルワンダ内戦、およびフツ族によるツチ族の虐殺を僕はほとんど知らない。もちろんそんな事ニュースで言っていたな、ってのは覚えているけれど、その程度でしかない。
映画の中に、その虐殺を報道し、世界中の人々がひどいことだと思っていても、結局みんな、それに対して何かするわけでもなく忘れてしまう、というニュアンスのセリフがあった。
この言葉には、胸を突き刺された。僕はルワンダで起こったことをまったく知ろうとすらしなかったのだ。身につまされる思いだ。
多分、これを観た人はこの虐殺をひどいと思うだろうし、当人同士ですら民族の違いをすぐにわからないのに、なぜ殺しあうのだろう、と思うだろう。だが、それは思うだけでしかないのだ。多分、ほとんどの人は。それは何たる偽善だろうか。
しかし、たとえそれが偽善だとしても、その偽善を見据えるためにも、こういった映画は必要なのだろう、と僕は思う。
そして、何もしなかった世の多くの国々と同じように、深い反省をする事が大事なのだろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「ブレイキング・ニュース」

2006-02-25 23:02:06 | 映画(は行)
犯人と警察、双方のメディアを巻き込んだ情報戦、心理戦、そして銃撃戦を描く。
監督は「ザ・ミッション 非常の掟」などを手がけた香港ノワール界の巨匠ジョニー・トー。
出演は「冷静と情熱のあいだ」のケリー・チャンら。


実にスリリングな映画だ。
まず冒頭の銃撃戦からひきつけられてしまった。その息をもつかせぬ展開に、一瞬のうちにして映画の世界へと浸ることができる。その後、物語は犯人と警察の総力戦に突き進むのだが、その話の展開にも終始緊張感が漂っていて、目を離す事ができない。
途中その緊張感を意識してか、食事を取るシーンが挟まるのだが、そのあたりが個人的には面白く、かなり憎い演出をしてくれる。場面に緩急をつけるそういった手際の良さに喝采を送りたい気分だ。

もちろん本作の良さは緊張感だけではない。映画の根幹とも言えるプロットも実に優れた出来になっている。話がどこへどのように転がるか、観ている最中、はっきり言って全く読めなかった。その巧妙な展開は全くもってすばらしい限りである。

また、メディア戦略という現代的なテーマも映画によい刺激となっている。互いが自分たちに都合のよさそうな情報を流してマスコミを煽ろうとする姿勢に面白さと若干の怖さを感じた。

というわけで、本作はテーマ性、プロット、映画そのものが醸し出す雰囲気、どれをとってもすばらしいものに仕上がっている。こういう作品こそ、一級のエンターテイメントと呼ばれるべきであろう。そう心の底から僕は思った。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「PROMISE」

2006-02-13 22:21:32 | 映画(は行)


真の愛を得ることができないと定められた女を巡り、三人の男たちが翻弄される。アジア発のエンターテイメント。
監督は「さらば、わが愛/覇王別姫」のチェン・カイコー。
出演は日本から真田広之、韓国からチャン・ドンゴン。香港からセシリア・チャン、ニコラス・ツェーとアジアの名優が集う。


真っ先に印象に残ったのは、色鮮やかなその映像だ。
真田広之の引き連れる軍団の赤、ニコラス・ツェーが引き連れる軍団の白、雪国の男がまとう黒、王宮の黄色など印象に残る色が多い。
しかしその映像美には同時に既視感も覚える。その色に対する演出は、チャン・イーモウの「HERO」を思い出させるのだ。
そしてその既視感は色に対する演出ばかりではなく、そのほかの面でもいくつかかぶっていることによる。

チェン・カイコーがどのような意図でこの作品をつくったかは知らないけれど、本作はチャン・イーモウの「HERO」と「LOVERS」を想起するものが多い。CGを駆使したアクションシーンや映像美、ワイヤーアクションなんかはまさに似ているというものであろう。

その映像自体は完全にギャグの世界になっている。冒頭のチャン・ドンゴンの疾走シーンを始め何度か苦笑してしまう場面があった。そんなギャグばかりのアクションシーンの中でニコラス・ツェーの扇子さばきや艶やかな表情が光っていたと思う。

プロット的には整合性がない。
例えば、チャン・ドンゴンが去ったり、都合いい場面で現れたりする部分や、黒い服の男も何の前触れもなく、チャン・ドンゴンの前に現れたりする部分等、どうもシーンの繋がりに説得力がない様な気がしてならなかった。その他にも登場人物が都合よく動かされていて、納得のいかない面が多々あった。
本作は物語としての骨格にガチッとしたものが欠けていたのではないだろうか。そのため、僕としてはいま一つ物語に入り込むことができなかった。

映像やCGに凝る前にもっと追及すべき問題があるのでは無いだろうか、とえらそうに思う。とてもじゃないが、過去のチェン・カイコー作品には及びもしない出来であった。

評価:★★(満点は★★★★★)

「フライトプラン」

2006-01-30 21:52:05 | 映画(は行)


高度1万メートルの上空で幼い娘が失踪、旅客機という密室を舞台に繰り広げられるアクション・サスペンス。
二度のオスカーを獲得したジョディ・フォスターが母親役を熱演。
監督はドイツの新鋭、ロベルト・シュヴェンケ。


何てアホな飛行計画なんだ、観終わった後の印象はそんな感じである。
詳しいことを書くのは控えるけれど、この計画は他人の行動を過度に期待した穴だらけのものでしかない。だから当然説得力は無い。映画そのものの説得力もそれによって霧散してしまった。

プロットだけでなく、キャラ設定も微妙に気に食わない。
例えば母親。いくら娘のためとはいえ、あそこまで騒ぐと鼻につく。結果オーライにはなったけれど、あれでは観客は母親を応援する気にはなれないでしょう。そうなるとカタルシスに欠けてしまう。あるいはそう思うのは子供を持たないゆえなのだろうか。

何か貶してばかりなので、良かった点も。
ミステリタッチのため、謎解きなどの点でそれなりに盛り上がるものはある。それなりには面白い。加えて時間も短く、そんなにくどさもないのも好ましい。

結局、この映画は時間潰しの作品だ。その程度に考えればもっと楽しめるかもしれない。

評価:★★(満点は★★★★★)

「博士の愛した数式」

2006-01-28 22:56:03 | 映画(は行)


「本屋大賞」を受賞した小川洋子のベストセラーを映画化。80分しか記憶のもたない数学者と家政婦親子の交流を描く。監督は「雨あがる」の小泉堯史。出演は寺尾聰、深津絵里ら。


巧い、そしてそれなりに面白い、だが物足りない。いきなり結論を書くと、この映画の印象はそんな感じになる。

この映画では数学者の博士と家政婦、そしてその息子のルートとの絆が一つのテーマになっているのだが、その一つ一つの積み重ねが丹念に描かれている。
そしてその絆を描くに当たって、数学というものがかなり大きな役割を果たしている。
ことに友愛数やオイラーの公式の使い方は見事だ。オイラーの公式は、冷静に考えればかなり説明が厄介のはずなんだけど、それを素人でもわかりやすく、しかも深い意味を隠しているという事を丁寧に説明している。そしてそのエピソードが淡い感動を呼んでいるのが印象深い。

なんとも暖かい連帯を感じさせる、優しい作品だ。しかし全体的にトーンが地味なためか、インパクトに乏しいというのも偽らざる思いである。その辺りが残念だ。

以下は蛇足になるし、細かい点なのだが、吉岡秀隆が数式を説明するシーンが若干くどく感じられた。また中学校教師が簡単には準備できないマグネットを使って説明している事にどうしても違和感を覚えてしまった。わかりやすさのためとはいえ、やはりある程度のリアリティはほしいと思う。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「プライドと偏見」

2006-01-25 20:57:49 | 映画(は行)


ジェイン・オースティンの往年の名作を映画化。製作スタッフは「ラヴ・アクチュアリー」を手がけたワーキング・タイトルである。出演は本作でゴールデン・グローブ賞ノミニーとなったキーラ・ナイトレイ。監督はジョー・ライト。


この作品を観て思ったのだが、思った以上に僕はオーソドックスな恋愛物が嫌いであるらしい。誰と誰がくっつくかあからさまにわかっているお約束の映画を見せられても、展開がわかっているだけに幾分興醒めしてしまうのだ。

とはいえ、映画自体は丁寧なつくりなだけに、それなりには楽しめる。
個人的にはやはり18世紀のイギリスの習慣や衣装、世界観が心地よかった。
また牧師と結婚する女性のエピソードが個人的には良かった。好きな相手と結婚するというのがロマンスが王道だし、それこそ本作の主眼でもあるけれど、それだけにこのエピソードが異質でリアルで目を引いた。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」

2006-01-05 16:51:43 | 映画(は行)


人気シリーズの第4作目。今回はハリーの最大の敵、ヴォルデモートの復活に直面する。監督はシリーズ初のイギリス人、マイク・ニューウェル。出演は前作同様ダニエル・ラドクリフらがつとめる。


「ハリー・ポッターなんて何で見るの」と先日アンチハリーポッターの知人に聞かれたのだが、そのとき、僕はうまい返答をすることができなかった。
僕は「ハリー・ポッター」シリーズは決して質の高い作品とは思ってはいない。映像などは金をかけているだけになかなかの出来だとは思うものの、エピソードは詰め込みすぎだし、それゆえに説明不足になっている感は否定できない。

それでも見続けてしまうのは、結局の所、惰性でしかない。とりあえず流行っているし、これまでずっと見続けてきたから見る。その程度の消極的な理由による所が大きい。

今回の「炎のゴブレット」だが、これまでの「ハリー・ポッター」シリーズの感想を引き継ぐような出来栄えとなっている。映像は相変わらず、CGを駆使して派手に作られているし、物語自体もエンタメらしく、それなりに楽しめるようにはできている。

しかしストーリーの粗は多い。もっとも僕が前作までの内容を奇麗に忘れているということもあるのだけど。
またストーリーが詰め込みすぎのため、物語に溜めが無いのも気になる(無駄にあるのも問題だけど)。だから物語が薄っぺらい感じがしてしまう。
例えばロンが不機嫌になるシーン。それはわからなくもないけれど、もう少し丁寧に描いてしかるべきだったのではないだろうか(もっとも全てを丁寧に描いたら、前編と後編に分けるしかない。それもファンではない人間には困ってしまうのだが)。

結論を書いてしまえば、多分僕はこのシリーズに飽きてきているのだろう。だから細かい粗にばかり目が行ってしまう。今後もまだシリーズは続く。最後まで見通したほうがいいのか、若干悩み始めている。

評価:★★(満点は★★★★★)