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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「パラダイス・ナウ」

2007-05-09 20:47:21 | 映画(は行)


2005年度作品。フランス=ドイツ=オランダ=パレスチナ映画。
イスラエル占領地のヨルダン川西岸地区。そこで暮らすパレスチナの若者、サイードとハーレドは自動車修理工として働いていた。そんなとき彼らと親しいパレスチナ人組織から自爆攻撃遂行の指名を受ける。自爆テロ犯の48時間を描き、各国で論争を巻き起こした問題作。
2006年度ゴールデングローブ賞最優秀外国語作品賞受賞。
監督はハニ・アブ・アサド。
出演はカイス・ネシフ。アリ・スリマン ら。


自爆テロをパレスチナの視点から描いた作品だ。そこで描かれているのは、闘争の士としての英雄的な自爆テロではなく、一般人による迷いながら行われる自爆テロの様子である。

パレスチナ問題は表面的なことしか知らないわけだが、パレスチナ人なりの主張が聞かれて興味深い。
彼らにはユダヤ人から土地を奪われ、西岸地区から出たことがない人間も存在し、それに対して牢獄のようだとも、抑圧されているとも感じている。それに対する怒りはしっかりと伝わり、違和感はない(もちろんその怒りを暴力に転化するのは容認しないけど)。

しかし彼らだって迷いがないわけではない。
主人公のうち一人がイスラエル側に忍び込み、自爆テロを試みるが、幼児を見てそれをためらっている。自爆テロという殺人を選択しようとも、彼らは普通の人間であることに変わりないのだ。
そして死に対する恐怖だってある。テロの前の撮影のシーンで、フィルタのことを語るシーンが興味深い。その言葉の中には紛れもない生への未練が仄見えるからだ(ついでに言うと、このシーンは日常と非日常との落差の描写もおもしろかった)。

しかし彼らのうち一方は自爆テロを決意する。
だがそれはイデオロギー的なものではなく、個人的な意地みたいに見える。つまり密告者の息子としての、後ろめたさが自爆テロへの道を決意させているのだ。
それが僕としては非常に生々しく感じる。
基本的に人間を動かすのは論理性ではなく、感情である。たとえテロルでもそれは変わりないのだ、ということを観ていて思った。

ラストは個人的には気に入らないし、中盤以降の構成に物語の都合上で人物を動かしたというわざとらしさがあったのが引っかかる。
だが、硬派で真摯にテーマを伝えようという気概を感じる作品だ。良作といったところだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「ブレイブ ストーリー」

2007-05-06 10:07:57 | 映画(は行)


2006年度作品。日本映画。
小学生のワタルは謎の転校生ミツルが願いを叶えるため、異世界ビジョンに行っていたことを偶然にも知る。父親が離婚により家を出て、母親が倒れるという不幸の中にあったワタルは、自分の運命を変えるためビジョンへ向かう扉を開ける。
監督は千明孝一。


「土曜プレミアム」で鑑賞した。
テレビ放映用に多少編集されていたのかもしれないが、実に粗の目立つ作品だった。

たとえば旅の道連れとなるは虫類っぽいキャラの扱いが中途半端だし、ネコの娘も取ってつけたような感じがする。ネコの娘がラストの方で主人公にキスをするのだが、描き込みが足りないためそういった甘酸っぱいはずの描写にも何の思い入れももてない。
またハイランダーとかいう女の首領が主人公を救うシーンや、ドラゴンがやってくるシーンも説明が足りないため、ご都合主義以外のなにものでもなかったのはきわめてイタイ。
その他にも説明不足によるつっこみどころは多く、いちいち指摘していたらキリがないだろう。
原作は未読だが、文庫本で三冊という作品、それを2時間でまとめることはどだい無理だったのかもしれない。

しかしエピソードが多く、見せ場もあるため、つまらないとまでは感じなかった。
主人公の成長物語としてもまとまっているのが好印象である。不幸をも自分の運命として受け入れてようという選択は共感をもって見ることができた。願いもパターン通りと言ってしまえばそれまでだが、悪くはない。
不満な面は多いが、それなりに楽しめる作品といったところである。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「ハンニバル・ライジング」

2007-04-23 20:46:20 | 映画(は行)


2007年度作品。フランス=イギリス=アメリカ映画。
「羊たちの沈黙」をはじめとしたシリーズで圧倒的存在感を示すハンニバル・レクターの過去を描き、レクターがなぜ人喰いハンニバルになったかを少年時代から映し出す。
監督は「真珠の耳飾りの少女」のピーター・ウェーバー。
出演は「ロング・エンゲージメント」のギャスパー・ウリエル。「始皇帝暗殺」のコン・リー ら。


好みが分かれそうな映画である。
基本的にレクターを主人公にしているだけあってなかなかグロく、特に殺人のシーンはどれも猟奇的である。レクター博士らしいと言えば、彼らしい行動だろう。彼のパーソナルな部分はその行動の中に現れている。

しかし「ハンニバル」のときにも感じたが、果たしてこれは必然性のあるグロさなのだろうか?
そのグロさのせいで、「羊たちの沈黙」のときに感じた底の知れない不気味さはレクター博士から失われてしまい、ただの異常犯罪者に堕してしまったような気がする。
いまとなってはだけど、このシリーズは「羊」を撮った時点で、あるいは「レッド・ドラゴン」のリメイクをつくるだけで終わらせるべきだったのだ。
もちろんその後のレクターを語る上で、興味深い面は多いけれど(特に妹)、見終えた後、僕はそんな気がしてならなかった。

映画そのものはプロットがうまく組み立てられているので、つまらないことはない。エンタメとしてはよくできた映画であり及第点である。
若き日のレクター演じるギャスパー・ウリエルとコン・リーが実にいい存在感を出していたのも目を引く。

積極的に誰かに薦める気にはなれないが、それなりには楽しめる作品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・コン・リー出演作
 「SAYURI」
 「マイアミ・バイス」

「ブラックブック」

2007-04-15 10:10:57 | 映画(は行)


2006年度作品。オランダ=ドイツ=イギリス=ベルギー映画。
1944年オランダ、ユダヤ人のラヘルはナチスの手から逃れるため、オランダ南部を目指すが、密告により家族を殺される。復讐のために彼女はレジスタンスのスパイとして諜報部将校に近寄るが…
監督は「氷の微笑」のポール・バーホーベン。
出演は「ネコのミヌース」のカリス・ファン・ハウテン。「ミッションブルー」のトム・ホフマン ら。


上質のエンタテイメントである。
物語は二転三転して予想外の展開が続いて飽きさせないし(ご都合主義的で、いくつかつっこみたい面はあるけど)、爆撃や銃撃戦といった派手なシーンも随所に盛り込まれており、観客へのサービス精神はきわめて旺盛である。演出の妙が際立った作品という印象だ。
戦争を舞台にした作品であるが、戦争映画というより、サスペンス映画といったほうがいいだろう。
罠にはめた人間は最後に明かされ、そのカタルシスは見事だし、ラストに若干戦争の連鎖を感じさせるシーンを入れる辺りが演出としてはなかなか憎い。

関係なく見えるかもしれないが、この映画を見ていて僕は「麦の穂をゆらす風」を思い出した。
たとえば被支配者だったオランダ人が、解放後、ナチに協力していたとはいえ同じオランダ人を糾弾するシーンがある。その構図はどことなく「麦の穂をゆらす風」を思わせる。
だが、本作ではそこはさらりとしか描かれず、主人公を悲劇に追いやる一エピソードというだけで終わっている。
もったいないと言えばもったいない気もしなくはないのだが、戦争が持つ悲劇を描くことではなく、観客を楽しませるというのが監督の姿勢ということだろう。

その姿勢と思いは映画から存分に伝わってきた。満足のいく時間を送ることができる見事な作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・セバスチャン・コッホ出演作
 「善き人のためのソナタ」

「ブラッド・ダイヤモンド」

2007-04-08 14:27:09 | 映画(は行)


2006年度作品。アメリカ映画。
1999年アフリカ、シエラレオネ。反政府軍のRUFに連れさらわれたソロモンはダイヤモンドの採掘をしているとき、巨大なダイヤを見つける。その話を聞きつけたダイヤ密売人のアーチャーは彼に近付き、そのダイヤを手にするため動き出す。
監督は「ラスト・サムライ」のエドワード・ズウィック。
出演は「タイタニック」「アビエイター」のレオナルド・ディカプリオ。「ダーク・ウォーター」「ビューティフル・マインド」のジェニファー・コネリー ら。


社会派アクションと言ったところだろう。
反政府軍とかっこよく名乗っているが、ただの殺し屋集団の衝撃的な映像で幕を開ける本作。そこではダイヤを巡る人間たちの黒い欲望と、暴力で人間を支配し、暴力ですべてを片付けようとする人間たちの行動が描かれており、僕はのっけから打ちのめされて、引き込まれてしまった。
アフリカにはいくつかの矛盾点や問題点があることはよく知っているが、闇のダイヤモンドを巡る話はまったく知らなかったために、その世界の血生臭さに唖然とするばかりである。現実にこういうことは行なわれていたのだろうか。
いくつか誇張はあると思うが、だとしても人間ってやつは救いがたいな、なんてこういう作品を見ると思ってしまう。

本作はその他にも黒人同士の殺し合いや、少年兵の問題、家族の物語と実に多くのテーマを盛り込んでいる。
それをバイオレンス風味のアクションで飽きさせずに見せており、考えさせられると同時に一級のエンタメとしても仕上がっている。満足のいく一品だろう。

ただ贅沢を言うと、本作はそういった事実を伝えているだけに終わっているところが、不満と言えば不満だ。
できればそれに対する解決策なりを提示してくれたら良かったが、さすがにそこまで望むのは酷だろう。

ちなみにジャイモン・フンスーが実に良かった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・レオナルド・ディカプリオ出演作
 「ディパーテッド」

「パフューム ある人殺しの物語」

2007-03-12 18:22:59 | 映画(は行)


2006年度作品。ドイツ=フランス=スペイン映画。
18世紀パリ。悪臭立ち込める魚市場にグルヌイユは産み落とされる。一切の体臭を持たない彼は驚異的な嗅覚の持ち主でもあった。ある時、彼は街で偶然出会った女の香りに魅せられ、その香りを閉じ込めたいと調香師に弟子入りする。
監督は「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ。
出演はベン・ウィショー。「レインマン」のダスティン・ホフマン ら。


グロテスクな映像の映画である。
たとえば冒頭のグロテスクな映像。魚やらウジやらの映像を見ているだけで、画面の向こうから明確な臭気が伝わって来るような気がした。パフュームというタイトルをつけるだけあり、匂いに対してかなり挑戦的な映画という印象を受ける。

また匂い以外でも、グロテスクな面が本作は多い。
特にラスト付近の映像はどうだろう。そのシーンのときには思わず笑ってしまったが、どこか生々しく、狂気じみている。まさにこれぞグロテスクの極みではないだろうか。
そういう観点からもおもしろい映画だと思った。

個人的に興味を持ったのはこの映画の主題とも言うべき点だ。
主人公は匂いにとりつかれた男の物語だが、これは言ってしまえば、愛を求める男の映画だろうという気がする。
彼が匂いを求めるのも、自分のアイデンティティを求める形になっているし、最後の行動も、表面的な匂いしか自分は再現できず、内面にはだれにも達してくれないという絶望から来るものだ。
その描き方がどこか文学的で、個人的には好みである。

ラストの展開が伏線なしなので、唐突な感じがして不満だったが、予想通りの展開をラストで完全に壊した点など目を引く部分も多い。良質な作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・アラン・リックマン出演作
 「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」

「ボビー」

2007-03-07 20:22:52 | 映画(は行)


2006年度作品。アメリカ映画。
1968年、ロバート・F・ケネディ暗殺の日。暗殺現場となったアンバサダーホテルには人種、年齢、境遇等が異なる22人の人間たちがいた。彼ら22人に視点を照射し、彼らのそれぞれの運命を描く。
監督はエミリオ・エステヴェス。
出演はアンソニー・ホプキンス。デミ・ムーア ら。


群像劇である。
個人的に、多くの人間が登場する群像劇で一番重要なことは、映画の中になにかひとつテーマを打ち出すことだ、と思っている。そうしなければ映画全体の印象が散漫になりかねないからだ。

だが、この群像劇では途中まで、そのテーマ性をはっきりと見出すことができなかった。
共通項と言えば、ロバート・ケネディの暗殺現場に居合わせたというだけ。そのため、どのエピソードもバラバラで、ただダラダラと羅列したようにしか見えず退屈ですらあった。たしかに当時のアメリカの状況を知ることができる部分は、興味深くはあるけれど、それだけではどうにも時間を持て余す。

しかしラストのラスト、ボビーが暗殺され、彼の演説が流れたことで、ようやくすべての意図を理解することができた。
そこに至るまで、ずいぶん長くていらだつこともあったが、引っ張りに引っ張っただけあり、かなり感動的なシーンに仕上がっている。

ラストで流れたボビーの演説は人種なり宗教なりの差異に対する手段として、暴力を使うのはまちがっている、同じ人間なのだから、という内容のものである。
その演説とラストの映像、ボビー暗殺の現場は見事なまでにマッチしていた。
ボビー暗殺の巻き添えを食らった人びとこそ、この映画でダラダラと描かれた人たちだ。そして彼らの状況を描いたことで、その暗殺現場の悲惨さがより明確に浮かび上がるようになっている。
そこで銃撃を受けた人たちは、ときにはだれかを愛していたし、憎んでいた。そこには地味なりに、いろんなドラマがあったのだが、彼らがその地道に積み上げていったものを、暴力は残酷に奪い取ろうとする。
その映像を見せられたからこそ、ボビーの言葉には説得力がある。そしてその言葉の意味の深さに心打たれずにはいられないのだ。

幾分まわりくどい面はあり、不満もある映画だけど、ラストシーンの感動と、強烈な問題意識はなかなかのものだ。力作である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「墨攻」

2007-02-10 11:22:26 | 映画(は行)


2006年度作品。中国=日本=香港=韓国映画。
酒見賢一/森秀樹の同名マンガを映画化。2000年前の中国、落城寸前の梁に墨家の男、革離が現れる。彼は攻め寄せる大軍を前に、城内の兵を率いて戦うことに。
監督は「流星」のジェイコブ・チャン。
出演は「インファナル・アフエア」の香港の名優アンディ・ラウ。「シルミド」の韓国の名優アン・ソンギ ら。


アクションシーンは○、ドラマシーンは△といったところである。

舞台は中国、小国を救いにやってきた墨家の男の姿を描いた映画である。
目を引くのは攻城シーンだ。人を多く使っているために、その映像は迫力がある。集団で押し寄せる敵を、緻密に回避し、立ち向かっていく姿が勇ましい。知略というほど派手ではないが、革離なりに知恵を使っており、戦う場面はそれなりに見応えがある。
それに弓がこの映画ではよく使われていて、それを扱う男たちが個人的にはかっこよく見えた。

でもドラマシーンはいまひとつパッとしない。つうか中途半端な恋愛要素は個人的にはいらなかった。それに戦いの間でゆれる平和主義者としての革離の姿も充分に描きこまれているとはいえない。
そのためにどうしても全般に薄味の印象を受ける。印象に残ったのはビターテイストのラストくらいか。

だが攻城シーンがいいので、それなりに楽しめることは確かだろう。時間が余ったときのひまつぶしにはちょうどいい感じである。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「パプリカ」

2006-12-16 18:21:39 | 映画(は行)


2006年度作品。日本映画。
筒井康隆の同名原作を映画化。他人の夢を共有できるという”DCミニ”、それが何者かに盗まれる。やがて研究所の関係者は奇怪な夢を見、精神を侵されていく。
監督は「東京ゴッドファーザーズ」の今敏。
声の出演は林原めぐみ、江守徹 ら。


はっきり言ってわけのわからない映画というのが、見終わった後の第一印象だ。
その最たる原因はプロット的にごちゃついているからだろう、と思う。特にラストの展開などは(メタファー的な深読みは置いておいて)整合性がほとんどなく、むちゃくちゃと言ってもいいだろう。もちろん夢だからという理由付けは可能だけど、それで簡単に納得するのも少し癪な気もする。
その他にもプロット的には、刑事の夢の部分が構成的にわかりにくく、しかも中途半端な感じがして気になった。そういう点において、本作にはいくつも不満が残る。

しかし、にもかかわらず本作は非常におもしろい作品であった。
それは作り手がとにかくエンターテイメントを作り上げようとしているからだろう。プロット的には確かにごちゃつき、わかりにくくなっているが、とにかくエピソードを短い時間にバンバンつぎ込んでくるという姿勢を変えることはない。そのため飽きるということはなかった。その姿勢はいろんな留保は付くけれど、ともかくも気に入った。

それに何と言っても映像である。
あのむちゃくちゃで恐ろしく混沌とした夢のシーンは、見ていてもおもしろかった。とにかく支離滅裂なイメージの奔流はすさまじく、そのユーモラスなイマジネーションが楽しい。絵が美しいこともあって、非現実の世界に違和感なく存分に浸ることができた。

確かに不満や文句は付くけれど、映像的な面を含めて一級のエンタメである。そのイマジネーションの波の鮮やかさが印象に残る一品であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「武士の一分」

2006-12-02 18:59:16 | 映画(は行)


2006年度作品。日本映画。
藤沢周平原作・山田時代劇三部作の最後を飾る作品。
藩主の毒見役を務める新之丞はその毒見により失明をするに至る。絶望を抱えながら生きる彼を妻の加世は健気に支える。そんなとき妻にある疑惑が浮上する。
監督は「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」の山田洋次。
出演はテレビドラマを中心に活躍するSMAPの木村拓哉。元宝塚歌劇団娘役トップスターの檀れい ら。


僕は藤沢修平が原作の山田洋次監督作品はそれほど好きではない。「たそがれ清兵衛」も「隠し剣 鬼の爪」も僕にとっては平凡で退屈ですらあった。
単純に言えば、僕の趣味ではないのである。じゃあ何でこの作品を見に行ったんだってところではあるけれど、次こそはと無駄かもしれない期待をどうしてもしてしまうのだ。

で、本作を見た印象としては、三作の中では一番楽しめる作品だった、というところである。しかし何かが物足りないのも否定できない。

毒見役の武士が盲目になるという設定自体はおもしろくユニークだ。
しかし本作はそこからの展開が基本的にベタである。時代劇ではよくある風景ってところだろう。そのためそれほどの驚きはなく、プロットとしての妙味はあまり見られない。しかし丁寧なつくりのため、破綻がなく無難に楽しめるつくりとなっている。
だが総じて言えば、つまらなくはないが、凡庸の一言に尽きる。際立って優れたところもなく、際立って悪いところもない。
良かった点はラストの戦いの雰囲気だろうか。すこしドキドキする感じがして悪くはない。しかしそれだけでしかない。

やっぱり、僕はこの監督の作品とは肌が合わないのだろう。残念としか言いようがない。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「ブラック・ダリア」

2006-10-18 20:27:36 | 映画(は行)


2006年度作品。アメリカ映画。
『L.A.コンフィデンシャル』の原作者、ジェイムズ・エルロイの「暗黒のLA四部作」1作目を映画化。1947年に実際に起きた「ブラック・ダリア」事件、バッキーとリーの二人の刑事はその事件にのめりこんでいく。
監督は「アンタッチャブル」「ミッション・インポッシブル」のブライアン・デ・パルマ。
出演は「ブラックホーク・ダウン」「パール・ハーバー」のジョシュ・ハートネット。「サスペクト・ゼロ」「サンキュー・スモーキング」のアーロン・エッカートら。


個人的に好みの映画である。
ストーリーは入り組んでいてわかりにくいけれど、素直におもしろいと感じられる作品であった。

タイトルがブラック・ダリアとなっているけれど、本作ではブラック・ダリア事件を含めて、三つの事件が絡み合う形で進行する。
そしてその三つの事件が解きほぐされていくことで、アーロン・エッカート演じる、リー・ブランチャードの人物像が浮かび上がってくるという構図になっている。

リーは傍目に見れば明るく、みんなから好かれるタイプの刑事だろう。しかしそういった好人物も、裏であくどいとしか思えない行為を行なっている。金を受け取ったり、脅した人間を射殺したりとやることはえげつない。
しかし彼を単純に悪と片付けるだけですべては終わるわけではない。
なぜならブラック・ダリアの事件にのめりこんだのは(描写としては不十分と感じたが、恋人役の発言からして)、彼自身のつらい記憶とも結びついているからだ。そこにあるのは善良なそれゆえに悪を憎まずにはいられない人間の姿である。そして同時に悪と善を抱え込む、多面体としての人間の姿だ。そしてこの複雑怪奇な姿こそ、人間の業のようなものだろう。
LAで事件を隠蔽することが平気であるように、悪を行ない、同時に悪をも憎む。そしてどちらも行なう側にとってはそうせざるを得ない行為なのだ。
その業のようなものの描写が、僕の趣味に合った。

基本的に本作は内容を詰め込みすぎて、プロットをわかりにくくしている面がある。それにつめこみが過ぎるあまりに人物像の描き込みが不十分と思われる面も少なくはない(リーは勿論のこと、ラストでバッキーがケイのもとに向かうのも納得いかない)。欠点は否定しようもないくらいに多い。
しかし骨太な力作であることはまちがいない。そのノワールの確かな手応えが心地よい作品であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「フラガール」

2006-09-30 21:19:59 | 映画(は行)


2006年度作品。日本映画。
常磐ハワイアンセンターの実話をもとに映画化。閉山間近の炭鉱町を舞台に、素人集団である炭鉱娘と東京から来たダンサーの奮闘を描く。
監督は「69 sixty nine」の李相日。
出演は松雪泰子、「花とアリス」などの蒼井優 ら。


邦画ははっきり言ってそんなに好きではない。最近はそうでもなくなっているが、往々にして過剰でわざとらしい演技や演出が見られるからだ。洋画でもそういう面はあるにはあるけど、日本語がわかってしまう分、邦画の方がそういった演出が気になってしまう。
もちろんコメディだったらわざとらしくてもいい。だけど、シリアスな場面でまで、それをやる必要はないと僕は思う。そういう演出を見ると、どうしても引いてしまい、そのため物語の中に、僕は入っていけなくなるのだ。

本作「フラガール」はそういった邦画の悪しき部分が多く見られる作品であった。いちいち細かくは言わないけれど、いろんな部分で演出上の粗と過剰が仄見えて、まったくもって気に食わない。
しかもプロットもありきたりっちゃあ、ありきたりで特に心を動かされる物もない。全然物語の中に入っていけなかった。
それにエピソードの中には泣かせようという意図が丸見えのものが散見されて鼻につく。周りには泣いている人も多かったが、そういう風にまわりの人が鼻をすする音を聞くたびに心が冷めていくのが自分でもわかった。

そういったわけでエピソードやプロット的には全く評価できそうにない作品なのだけど、ラストのラストで見事に挽回をする。ラスト付近での蒼井優のソロのダンスシーンや、全員でのダンスシーンは迫力充分だったからだ。見ていて鳥肌が立つものがあった。よくぞ出演者はここまで練習を重ねたものである。
「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」でもそうだったが、この手の映画はプロットではなく、素人集団のパフォーマンスがメインなのだよな、とつくづく思い知らされた次第であった。
不満は多すぎるくらいに多いけど、鑑賞後の印象が爽やかであることはまちがいないだろう。

ところで、この作品がアカデミー賞の日本代表と聞いたが、いまひとつ納得いかない。映画としての質、周囲の評判、そしてミニシアター系ではあるが客の入りなどから判断して「ゆれる」の方が適切だと思うのだが。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「バッシング」

2006-08-13 22:15:55 | 映画(は行)
2005年度作品。日本映画。
2004年に起きた日本人イラク人質事件をヒントに映画化。帰国後、周囲から激しい批判を浴びる女性が葛藤を通して再び中東へボランティア活動に向かうまでを描く。
監督は「歩く、人」などの小林政広。
出演は占部房子。田中隆三 ら。


見ている最中、バッシングの描き方がどうしても納得できなかった。
たとえばコンビニでおでんを買った主人公が襲われるシーン、そして主人公の父親が解雇を迫られるシーンなど、事件から半年も経つのに(って、セリフの中にあったはず)、あのような一連のバッシングがいつまでも起こるとはどうしても思えなかったのである。

それに久々に会った恋人がいきなり彼女を責めるシーンにも納得がいかなかった。
たとえ正義感があったとしても、市役所に勤め、会おうと言い出すほどの人物が会って早々に人を非難するだろうか(しかし彼の主人公の人物評はきわめて的を射ていた)。

それらはみんな細かいことだ、と言われれば反論もできない。人間なんてそんなものだと言われれば言葉もない。
しかし本作は、バッシングという状況を描こうと意気込むあまり、不必要な誇張が入りすぎているという印象を受けてならなかった。そのせいで今一つ映画に入り込むことができなかった。

しかし、これだけ批判しておいてなんだが、この映画はつくられる意義のある映画だと僕は感じた。
たとえばこの映画で描かれた理不尽さ、他人を不必要に排除しようとする雰囲気、そしてその周りにある生きにくさ、そして周りの人間が叫ぶ「みんな」という言葉の空虚さ。そういったものを真正面から捉えようとする姿勢はすばらしいと僕は思った。

おもしろかったのは彼女がボランティアで海外に行く理由が他人からの認知欲求と、ある種の自分探しであるという点だ。そういう点でも、この作品は時代性というものを掬い取っているのではないだろうか。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「ハチミツとクローバー」

2006-07-23 18:43:42 | 映画(は行)


2006年度作品。日本映画。
羽海野チカの人気コミックを映画化。美大生5人の全員片思いという切なく甘酸っぱい恋模様を描く。
監督は高田雅博。
出演は嵐の櫻井翔、「花とアリス」の蒼井優 ら。


ある一つの作品があって、それを映画化しようとする。そのとき往々にして聞かれるのは原作のファンからの否定的な意見だ。
原作に思い入れがあるほどの人だったら自分の頭の中に自分が作り上げたイメージというものがある。それが映像化したことで、頭の中のイメージが大きく損なわれるということはそんなに珍しいことではないだろう。

僕個人の考えで言うと、原作と映画はまったく別物だと考えている。なぜなら作り手が違うからであり、作り手が異なれば感性も異なる。あくまで映画は原作という入れ物を借りているだけでしかないわけで、そこに同一性を求めること自体に無理が生じるのは必然というほかないだろう。
しかしあくまでそれは理性の話でしかない。感情として納得できるかと問われれば、そう簡単に割り切れるものではなかったりする。

何か前置きが長くなった。こんなことを書いたのは映画を見終わって、映画館を出ようとしたとき、原作ファンと思しき女性客から否定的な意見が聞こえてきたからだ。
僕は原作既読だし、「ハチクロ」はおもしろいマンガだとも思うけれど、本作のファンというほど思い入れがあるわけではない。
その程度の認識ではあるのだけど、その女性客の否定的な意見には多少納得せざるを得なかった。なぜならキャラのつくりが原作と幾分異なっていて、若干の違和感を感じたからだ。
たとえば森田は根本的に違っているし、真山もオリジナルとは少しずれているような気がしてならない。ストーリーも改変がなされていたことも大きいだろう。そのためもあり、見ながら僕はもどかしい気分を抱いたのは事実だ。

しかし僕個人はこの作品を青春映画として優れていると感じた。原作とは違うけれど、原作とは異なる映画独自の世界観をしっかり打ち出せていたように思う。

はっきり言って僕は原作では感じられた切なさを映画では見出すことができなかった。しかしこの映画の中では青春期のもやもや感が描かれていて、それがこちらによく伝わってきたように思う。
例えば主人公の竹本は日本建築が好きで、美大に来ている程度でしかないような学生だ。言うなればどこにでもいる平凡タイプである。そんな彼が二人の天才に囲まれたとき、感じる焦慮、そして自分が好きな人に何もできないという無力感の様子に、画面を通して彼の苦悩が伝わってきて、それが心に響く。
他のキャラとしても絵が描けなくて苦しむはぐみ、失敗作がビジネスになることに苛立つを募らせる森田、行き場をなくしてどうしていいかわからない恋愛を抱え込む真山とあゆ、といったようにそれぞれがもやもやとした心を抱えている様子が存分に伝わってくる。
その悩んでいる姿が青春群像劇として心に届くものがあるのだ。このもやもやとした鬱屈と恋に人生に葛藤する様は一級の青春劇として優れていると評してもかまわないと思う。

若干音楽が邪魔な気もしたが、これも一つの愛敬だろうか。とにかく最近の邦画の勢いを改めて感じさせられた良作であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」

2006-07-16 22:46:39 | 映画(は行)


2006年度作品。アメリカ映画。
ディズニー・ランドの人気アトラクションを映画化した海洋アドベンチャーの続編。
海賊ジャック・スパロウがかつてデイヴィ・ジョーンズと交わした契約により、魂を狙われることに。運命はウィルとエリザベスを巻き込み加速する。
監督は前作と同じくゴア・ヴァービンスキー。
出演は前作同様ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム ら。


先に言い訳をしておくと、僕は前作のファンではない。前作はアクションは楽しめるけれど、それだけだなという程度の感想しか沸いてこなかった。
そういうこともあって、前作の内容は大まかには覚えているけれど、細かい部分は完全に忘れていた。

そういう状態で見た本作。
やはりというか細かいキャラ設定を忘れてて、細かいところでついていけなかった。それにそのキャラを前提としていろいろ話を進めていくので若干のストレスはかかる。それなら最初から見るなって話で、そう言われても否定はしないのだが。

それでも、基本的には楽しめる。ジョニー・デップの個性的な味わいは楽しく、特に原住民を前にしたあたりのジョニーの行動はエキセントリックで最高に愉快だ。
コメディチックな演出は細かいところで笑えるし、アクションもそういった笑いの要素を前面に出していておもしろい。映画としてはそれなりに楽しめるだろう。

でもストーリー自体は特に心を動かされない。だから何なんだって気がしてしまう。しかもラストもそう来るのって感じがして、かなりげんなり。結局前作のファンでない僕はこの物語はあまり好きになれそうにないってことだろう。
多分、この作品の続きは映画館ではなく、レンタルで見るのだろう。その程度の映画でしかない。

評価:★★★(満点は★★★★★)