
2005年度作品。フランス=ドイツ=オランダ=パレスチナ映画。
イスラエル占領地のヨルダン川西岸地区。そこで暮らすパレスチナの若者、サイードとハーレドは自動車修理工として働いていた。そんなとき彼らと親しいパレスチナ人組織から自爆攻撃遂行の指名を受ける。自爆テロ犯の48時間を描き、各国で論争を巻き起こした問題作。
2006年度ゴールデングローブ賞最優秀外国語作品賞受賞。
監督はハニ・アブ・アサド。
出演はカイス・ネシフ。アリ・スリマン ら。
自爆テロをパレスチナの視点から描いた作品だ。そこで描かれているのは、闘争の士としての英雄的な自爆テロではなく、一般人による迷いながら行われる自爆テロの様子である。
パレスチナ問題は表面的なことしか知らないわけだが、パレスチナ人なりの主張が聞かれて興味深い。
彼らにはユダヤ人から土地を奪われ、西岸地区から出たことがない人間も存在し、それに対して牢獄のようだとも、抑圧されているとも感じている。それに対する怒りはしっかりと伝わり、違和感はない(もちろんその怒りを暴力に転化するのは容認しないけど)。
しかし彼らだって迷いがないわけではない。
主人公のうち一人がイスラエル側に忍び込み、自爆テロを試みるが、幼児を見てそれをためらっている。自爆テロという殺人を選択しようとも、彼らは普通の人間であることに変わりないのだ。
そして死に対する恐怖だってある。テロの前の撮影のシーンで、フィルタのことを語るシーンが興味深い。その言葉の中には紛れもない生への未練が仄見えるからだ(ついでに言うと、このシーンは日常と非日常との落差の描写もおもしろかった)。
しかし彼らのうち一方は自爆テロを決意する。
だがそれはイデオロギー的なものではなく、個人的な意地みたいに見える。つまり密告者の息子としての、後ろめたさが自爆テロへの道を決意させているのだ。
それが僕としては非常に生々しく感じる。
基本的に人間を動かすのは論理性ではなく、感情である。たとえテロルでもそれは変わりないのだ、ということを観ていて思った。
ラストは個人的には気に入らないし、中盤以降の構成に物語の都合上で人物を動かしたというわざとらしさがあったのが引っかかる。
だが、硬派で真摯にテーマを伝えようという気概を感じる作品だ。良作といったところだろう。
評価:★★★★(満点は★★★★★)