心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

ポップポップこんにちは~だってMY BOOM IS MODE~

2006-04-07 12:07:30 | 基礎心理
 心理学の業界(?)で,間違いなく主要な人物の一人なのに,出版社からどうアプローチしたらいいか迷う人ランキングのかなり上位にいると思われるのがサトウタツヤ先生ではないだろうか。「ひらがな派」の巨頭(?)「やまだようこ」先生に比べても,サトウタツヤの輪郭がいまいち分からない……。そんな私のために(お前のためかよ!),少し調べてみました。


 謎その1・いつからカタカナ名になったのか。
 これは比較的はっきり判明。福島大学時代から『心理学ワールド』に連載していた「ぐらふぃっく日本心理学史」の第10回(2000年7月?),前回まで「佐藤達哉」だった表記がこの回から「サトウタツヤ」に。著者紹介欄には「今回から名前をカタカナ表記にします。漢字は読むのがタイヘン,書くのも大変[原文ママ]。カジヒデキのファン(笑)。そんな程度の理由です」とある(カジヒデキ……懐かしすぎる。ま,時代というヤツですか)。ちなみに,あの「ギョーカイメガネ」になるのは,上記の連載の第4回(98年)から。


 謎その2・結局,なにをやってる人なのか?
 知能指数・IQ論,心理学史,法心理学など? 心理学史研究者なのか,質的心理学,現場心理学,「ボトムアップ心理学」というような本に必ず顔を出すところを見ると,心理学研究方法論研究者ということになるんだろうか……。


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 謎その3・「モード論」とは,何なのか。
 心理学には研究と実践の2つのモードがある,とか,人間の性格はふるまう場面のモードによって違うとか……,ごくごく当たり前な話だろうと,普通の人なら誰もが思うことを,こんなに力説しているのは,一体なぜなのだろう。我らがリスペクトする『psiko』3号の読者は,「性格は変えられる」というサトウエッセイを,最初の1行読んで,学者というのはこんな当たり前のことを言うのかと,その後は絶対読み飛ばしたはず。「あたりまえじゃん」。

 「正統」心理学者からはキワものに近い扱いを受け,かといって一般社会にもウケはいまいちのように見えるサトウ・モード論。その核心は一体どこにあるのか? ちょっと悪目立ちしたがる癖がこの人にあるのはほぼ事実だとして,しかし,随所に見え隠れするこの人のマジメが,どうも気にかかる。


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 『法と心理学のフロンティア』で,他の執筆者がやれ目撃証言だ,相談技法だと浮かれているなかで,サトウ先生は歴史を振り返る形で,法(司法)と心理学は,歴史上接点をもちつつも,本来的には他者であることを説く。「あたりまえじゃん」? でも,この点に本書の他の書き手はだれも気がついていないか,それが大した意味のあることだとは思っていない。司法のサービス化と結託した心理主義化の危うさに気づくのは,本当はこの前提からに違いないのに。

 そのほかにも,サトウ先生の議論の矛先は,よく見ると,「知能検査(指数)」,“アイデンティティ”であるかのような「性格」,“基礎”とか“科学的”と称する心理学,等など,フィクションであるにもかかわらず実体のふりをする「制度としての心理学(=ギョーカイとしての心理学)」と,それを構成する概念に向いている。基礎心理学,発達心理学,○○心理学,どの心理学分野もそれ自体で貫徹しないばかりか,大抵の研究者はこれらを「適宜使い分け」をしている。心理学の数々の「モード」を決めているのは,論理的な必然でも,個々の人間の心的な事実や体験でもなくて,心理学の“外部”が決めているにすぎない。『psiko』の読者には「あたりまえ」だと思うことが,心理学者には思考ができない。サトウ先生の力説がたまに怒りのように見えるのは,この感覚がギョーカイで共有されないことの苛立ちゆえではないか。


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 といいつつも,サトウ先生はあのメガネルックで心理学ギョーカイを,つとめて軽快に闊歩しようとする。サトウ先生の議論は,突き詰めれば,心理学ギョーカイは虚構だという結論に逢着せざるを得ないだろうと私などは思うのだが,それにもかかわらず彼自身順応的にみえることとのギャップを,どう考えるか。実はギョーカイが好きなのか,それとも「参与観察者」がフィールド・エントリーする際のマナーに過ぎないのか? 今後の展開に(やはりしばらくアプローチはしないで)注目していよう。


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