日経が報じていた。植物がCO2から酸素や糖分を合成しているがこれを人工的に応用しようという王ロジェ区とがいくつか進んでいるという。
CO2を原料にしている最も理想的な反応は、植物の光合成だ。太陽光を受けて水とCO2から酸素と糖を作る。この反応をまねる「人工光合成」は科学者の夢だ。実現はまだ難しいが、期待を抱かせる成果が出ている。三菱ケミカルなどの研究グループが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で試作した、メタノールを合成する小型プラントだ。
光触媒で水を分解して発生させた水素とCO2を原料にしている。糖の代わりにメタノールを作る。収率は最大で9割に達した。
このメタノールからエチレンやプロピレンなどの化学原料を合成する技術も開発した。従来、合成反応と同時に発生する高温の水蒸気が触媒を劣化させる問題があった。研究を率いる三菱ケミカルの瀬戸山亨フェローは「常識を覆す不死身の触媒を開発、メタノールを生かす道を切り開けた」と解説する。
慶応義塾大学の栄長泰明教授は、CO2を原料として生かす方法に、人工ダイヤモンドの電極を使う方法を研究している。微量のホウ素を加えて化学反応を起こしやすくしたのが特色で、この電極を取り付けた装置にCO2を溶かした水を流し込むと、水の中の水素とCO2が結合してギ酸ができる。余剰電力の活用法になるとみて東北電力が協力する。
金属電極にはみられない面白い反応を起こすダイヤモンド電極の活用法が研究テーマで、CO2から有用な物質を作る新技術が重要になると考え、数年前からこの実験を始めた。ギ酸は最も簡単な構造をした酸で、水素を液体として貯槽する際の有力な候補であり、燃料電池を動作させる燃料として直接使うアイデアもある。次世代のエネルギー源として注目を集める。
1時間に電極1平方メートルあたりにできる量は100グラムと、まだ基礎的な段階だ。栄長教授は「合成効率を高め数年後には実用を見込める技術にしたい」と話し、規模を大きくした装置で実験を続ける。
また、東北大学の冨重圭一教授は東京理科大学の杉本裕教授らと共同で、アルコールの仲間のジオールとCO2を交互につないで樹脂にする触媒を開発した。植物を構成する成分、セルロースからジオールを作る方法はすでにある。冨重教授は「将来、空気と植物から樹脂を作る時代が訪れるだろう」と展望する。
樹脂や医薬品など化学品の骨格には、炭素原子が連なった場所がたくさんある。その原料として工場などから多量に出るCO2を活用できれば、石油など化石資源の節約につながる。そんな反応を開発する研究の歴史は長い。
CO2は1個の炭素原子の周りに2個の酸素原子が結合した物質で、化石資源を大量消費し、大気中の濃度は年々高まっている。赤外線を吸収して熱を蓄える温室効果があり、地球温暖化の原因になる。水に溶けると酸性になる。大気中で増えたCO2が海水に溶け込んで海洋の酸性化が進むと、サンゴや貝類などが成長しにくくなる。有効に活用できれば、厄介者のイメージも解消されるだろう。
しかし、反応を進めるため多くのエネルギーを投入して逆にCO2の発生が増えてしまったり、特性のよい物質を合成できなかったりする課題がつきまとい、実用的な技術の開発は難航した。安定で他の物質と反応しにくい特性をもつためだ。
建材などに使われるメラミン樹脂の合成などでCO2を原料にする方法は実用化されていたが、さらに革新的な触媒や特殊な電極などを駆使して他の物質との反応を活性化させ、有用物質を作る見込みのある新技術が出始めた。
セラミックスを焼き固めるときに加える特殊な樹脂の原料にする方法や、自動車や家電などに広く使われるポリカーボネート樹脂を合成する方法など、産業界でも応用を目指す動きが出ている。
化石燃料を使い現代社会は発展してきたが、際限なく使えるわけではない。触媒を利用する化学反応に詳しい、東京大学の野崎京子教授は「化石資源を持続的に使う技術の開発は、科学者の使命といえる」と説く。燃料や化学原料を賢く作る技術の開発を急がなければいけない。