遺伝子産業革命 最前線報告シリーズ4, 田原総一朗, 文春文庫 356-5, 1986年
・テレビ番組の司会者としてのイメージしかない著者ですが、こんな仕事もしていたのですね。学問的(生化学・遺伝子工学等)な部分については、ほんのさわり程度で、遺伝子産業の流れと実際に人々の生活にどう関わる技術なのか、に焦点をあてている。 遺伝子研究・産業関係者へのインタビューが豊富。知識ゼロの状態で全く未知の分野に飛び込んで、これだけあちこち飛び回り、たくさんの人に話を聞く、そのバイタリティには感心する。 「英語は苦手」の言葉と、参考文献に洋書がないのは意外。
・「「遺伝子工学の学者や技術者たちが、いま、最も大きな標的の一つにしているのはガンの研究です。そしてもう一つは、石油に代わるエネルギーづくりだ。いずれも数年で、誰かがゴールインして、輝ける栄冠、多分ノーベル賞と、数百億の金を獲得することになるでしょう」」p.36
・「遺伝子。ロバート・クックは、「遺伝子とは全編成のオーケストラの楽譜に似ている。もっとも楽譜だけではなく、各楽器がどのようにつくられ、オーケストラのどの場所に置かれ、どう調律され、使い古すまでにどれくらいかかるかまでを指定する」と書いている。」p.68
・「日本の大学では、教授や先輩に睨まれたら終りで、しかも睨まれる最大の原因は、羨望、嫉妬を買うことだという。だから、魅力的な研究テーマは教授や先輩に譲り、ひたすら、その下働きに徹する。日本で学者の階段を登るために必要なのは学問的業績を上げるのではなく、教授たちの機嫌取りに精を出し、学者としての能力ではなく、秘書的能力を発揮しなければならないのだ、と。(中略)"研究をするなら絶対にアメリカで、日本に帰ったら何もできませんよ" これは、アメリカで会った日本人学者の平均的意見である。」p.97
・「(谷口維紹)「スイスの五年間は、ぼくには強烈な衝撃の連続でした。何というか、イタリアまでのぼくは、たとえば赤と黄を混ぜたら緑になる、へえー、そんなことがあるのか、面白いな、一体、どうやって混ぜればよいのか、と。そのいわば。受け身の驚きと、混合の技術の習得とが、つまり科学だと思っていたのですが、ワイスマン教授のやり方は、赤と黄を混ぜて緑になるのは絶対におかしい。そんなことはあり得ない、徹底的に究明せよ、とね。何というか、現象面から入るのではなく、まず、自分の頭の中で論理的な構築をして、その論理が正しいかどうかを追求する。そのために実験する。つまりはじめに論理ありきなのです。これが、実は、遺伝子工学の世界のトップクラスの学者たちの思考方法でして、そのことをワイスマン教授から学んだ。これがぼくの最大の収穫です。」」p.124
・「ところが、利根川の研究論文は、「高等動物(真核生物)と細菌のような下等生物(原核生物)とでは、遺伝子に書かれた生命暗号、つまり文字は同じでも、ことば遣いがちがう」ことをあきらかにしていた。」p.128
・「医薬品は厚生省、農産物・畜産物は農林水産省、筑波学園都市のP4施設などは科学技術庁、大学関係は文部省と、それぞれ縄張りがあって、通産省が、開発の全体ビジョンなどつくったら越権行為になる。だから、そんなことをできるはずが無い、というわけだ。」p.156
・「そこで、彼(磯野直秀)は言葉を切り、「よかれかしのつもりが人類絶滅を招きかねない。そこが遺伝子操作の恐ろしさだ」とくり返し強調した。」p.168
・「(福本英子)進化とは突然変異、つまり遺伝子の複製のまちがいによって起こるもので、となると、人間とはいちばん大きな複製ミスの産物なのです。生物学的には、いちばん"滅び"に近づいた生きものなのです。」p.169
・「内田(久雄)は、大腸菌をはじめ、遺伝子組み替え実験に使われる生物は実験室以外では生きられず、人体の中で繁殖する、などということはあり得ないのだ、ともいった。」p.171
・「"きわめて従順で真面目なサラリーマン技術者" これが原子力推進の学者や技術者たちを取材して得た率直な印象だった。(中略)それと酷似した印象を、実は遺伝子工学の学者や技術者に対しても持った。」p.178
・「恐るべき、"両刃の剣"遺伝子工学なる新技術を暴走させないように制御するには、人類の叡智を総動員させなければならず、しかもそれを委ねるべき専門家はいない。それこそ、わたしたちの誰もが自分自身の問題として、じっくりと考えねばならないわけだ。」p.182
・「内田久雄をはじめ、遺伝子操作に携わる学者たちの「欧米の国々は、すでに大幅に緩和しているのに、日本だけが時代錯誤の厳しいガイドラインに縛られていたのでは、そうでなくても立ち遅れている研究・開発が決定的に遅れて、世界から取り残されてしまう」との強い危惧、苛立ちがついに具体的な行動となったもので、」p.189
・「(渡部格)「ゴールが見えない。どこに向って走ってよいのやらわからない。だから困ってうろうろしている。これが、いってみれば日本の遺伝子産業界の現状ですよ」(中略)日本の学者たちには、もちろん官僚や企業の技術者たちはいうにおよばずですが、そもそも遺伝子組み換えの何たるかがわかっていない。理解していない」(中略)ところが、その生命も物質だとわかった、そして、他の物質と同様に操作可能となった。これは文字通り革命的な出来事で、これまでの人類の文明、価値体系への挑戦なのです。大へんなことなのだ。だが、そのこと、この大へんさを、日本の学者たちは、実は理解していない。遺伝子工学も従来技術の延長で、ただ便利なものが見つかった、ぐらいの認識しかない」」p.193
・「(渡部格)実は、人類が開発した新技術というものは、医学、原子力、宇宙開発、エレクトロニクスなど、全て軍事研究によるものだが、唯一、遺伝子操作だけは違う」(中略)「つまり全く予想されぬ技術だった、ということです。」p.195
・「(渡部格)日本も経済大国になったことだし、いまこそ、ファーストランナーとして走るための態勢づくり、基板づくり、そして何よりも、その認識を持たないと、これまでのセカンドランナーのつもりで突っ走ったのでは、とんでもない暴走を演じてしまうことになりかねない……」p.202
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?コスモポリタン(英cosmopolitan) 1 コスモポリタニズムを奉ずる人。世界主義者。 2 国籍、国民感情などにとらわれない人。世界的視野をもち、世界的に活躍する人、外国人との交際の多い人、また、祖国を忘れて世界をわたり歩く人などをさしていう。
?ほうはい【澎湃・彭湃・滂湃】 水や波がはげしくみなぎりさかまくさま。転じて、盛んな勢いでもりあがるさま。強く起こりひろがるさま。「澎湃たる海原」「澎湃たる気運」
・テレビ番組の司会者としてのイメージしかない著者ですが、こんな仕事もしていたのですね。学問的(生化学・遺伝子工学等)な部分については、ほんのさわり程度で、遺伝子産業の流れと実際に人々の生活にどう関わる技術なのか、に焦点をあてている。 遺伝子研究・産業関係者へのインタビューが豊富。知識ゼロの状態で全く未知の分野に飛び込んで、これだけあちこち飛び回り、たくさんの人に話を聞く、そのバイタリティには感心する。 「英語は苦手」の言葉と、参考文献に洋書がないのは意外。
・「「遺伝子工学の学者や技術者たちが、いま、最も大きな標的の一つにしているのはガンの研究です。そしてもう一つは、石油に代わるエネルギーづくりだ。いずれも数年で、誰かがゴールインして、輝ける栄冠、多分ノーベル賞と、数百億の金を獲得することになるでしょう」」p.36
・「遺伝子。ロバート・クックは、「遺伝子とは全編成のオーケストラの楽譜に似ている。もっとも楽譜だけではなく、各楽器がどのようにつくられ、オーケストラのどの場所に置かれ、どう調律され、使い古すまでにどれくらいかかるかまでを指定する」と書いている。」p.68
・「日本の大学では、教授や先輩に睨まれたら終りで、しかも睨まれる最大の原因は、羨望、嫉妬を買うことだという。だから、魅力的な研究テーマは教授や先輩に譲り、ひたすら、その下働きに徹する。日本で学者の階段を登るために必要なのは学問的業績を上げるのではなく、教授たちの機嫌取りに精を出し、学者としての能力ではなく、秘書的能力を発揮しなければならないのだ、と。(中略)"研究をするなら絶対にアメリカで、日本に帰ったら何もできませんよ" これは、アメリカで会った日本人学者の平均的意見である。」p.97
・「(谷口維紹)「スイスの五年間は、ぼくには強烈な衝撃の連続でした。何というか、イタリアまでのぼくは、たとえば赤と黄を混ぜたら緑になる、へえー、そんなことがあるのか、面白いな、一体、どうやって混ぜればよいのか、と。そのいわば。受け身の驚きと、混合の技術の習得とが、つまり科学だと思っていたのですが、ワイスマン教授のやり方は、赤と黄を混ぜて緑になるのは絶対におかしい。そんなことはあり得ない、徹底的に究明せよ、とね。何というか、現象面から入るのではなく、まず、自分の頭の中で論理的な構築をして、その論理が正しいかどうかを追求する。そのために実験する。つまりはじめに論理ありきなのです。これが、実は、遺伝子工学の世界のトップクラスの学者たちの思考方法でして、そのことをワイスマン教授から学んだ。これがぼくの最大の収穫です。」」p.124
・「ところが、利根川の研究論文は、「高等動物(真核生物)と細菌のような下等生物(原核生物)とでは、遺伝子に書かれた生命暗号、つまり文字は同じでも、ことば遣いがちがう」ことをあきらかにしていた。」p.128
・「医薬品は厚生省、農産物・畜産物は農林水産省、筑波学園都市のP4施設などは科学技術庁、大学関係は文部省と、それぞれ縄張りがあって、通産省が、開発の全体ビジョンなどつくったら越権行為になる。だから、そんなことをできるはずが無い、というわけだ。」p.156
・「そこで、彼(磯野直秀)は言葉を切り、「よかれかしのつもりが人類絶滅を招きかねない。そこが遺伝子操作の恐ろしさだ」とくり返し強調した。」p.168
・「(福本英子)進化とは突然変異、つまり遺伝子の複製のまちがいによって起こるもので、となると、人間とはいちばん大きな複製ミスの産物なのです。生物学的には、いちばん"滅び"に近づいた生きものなのです。」p.169
・「内田(久雄)は、大腸菌をはじめ、遺伝子組み替え実験に使われる生物は実験室以外では生きられず、人体の中で繁殖する、などということはあり得ないのだ、ともいった。」p.171
・「"きわめて従順で真面目なサラリーマン技術者" これが原子力推進の学者や技術者たちを取材して得た率直な印象だった。(中略)それと酷似した印象を、実は遺伝子工学の学者や技術者に対しても持った。」p.178
・「恐るべき、"両刃の剣"遺伝子工学なる新技術を暴走させないように制御するには、人類の叡智を総動員させなければならず、しかもそれを委ねるべき専門家はいない。それこそ、わたしたちの誰もが自分自身の問題として、じっくりと考えねばならないわけだ。」p.182
・「内田久雄をはじめ、遺伝子操作に携わる学者たちの「欧米の国々は、すでに大幅に緩和しているのに、日本だけが時代錯誤の厳しいガイドラインに縛られていたのでは、そうでなくても立ち遅れている研究・開発が決定的に遅れて、世界から取り残されてしまう」との強い危惧、苛立ちがついに具体的な行動となったもので、」p.189
・「(渡部格)「ゴールが見えない。どこに向って走ってよいのやらわからない。だから困ってうろうろしている。これが、いってみれば日本の遺伝子産業界の現状ですよ」(中略)日本の学者たちには、もちろん官僚や企業の技術者たちはいうにおよばずですが、そもそも遺伝子組み換えの何たるかがわかっていない。理解していない」(中略)ところが、その生命も物質だとわかった、そして、他の物質と同様に操作可能となった。これは文字通り革命的な出来事で、これまでの人類の文明、価値体系への挑戦なのです。大へんなことなのだ。だが、そのこと、この大へんさを、日本の学者たちは、実は理解していない。遺伝子工学も従来技術の延長で、ただ便利なものが見つかった、ぐらいの認識しかない」」p.193
・「(渡部格)実は、人類が開発した新技術というものは、医学、原子力、宇宙開発、エレクトロニクスなど、全て軍事研究によるものだが、唯一、遺伝子操作だけは違う」(中略)「つまり全く予想されぬ技術だった、ということです。」p.195
・「(渡部格)日本も経済大国になったことだし、いまこそ、ファーストランナーとして走るための態勢づくり、基板づくり、そして何よりも、その認識を持たないと、これまでのセカンドランナーのつもりで突っ走ったのでは、とんでもない暴走を演じてしまうことになりかねない……」p.202
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?コスモポリタン(英cosmopolitan) 1 コスモポリタニズムを奉ずる人。世界主義者。 2 国籍、国民感情などにとらわれない人。世界的視野をもち、世界的に活躍する人、外国人との交際の多い人、また、祖国を忘れて世界をわたり歩く人などをさしていう。
?ほうはい【澎湃・彭湃・滂湃】 水や波がはげしくみなぎりさかまくさま。転じて、盛んな勢いでもりあがるさま。強く起こりひろがるさま。「澎湃たる海原」「澎湃たる気運」