映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

『ソルトバーン 〜Saltburn〜』

2024年05月27日 | 映画~さ~
2023年 イギリス・アメリカ映画






アマゾン・プライムで視聴しました。



まず最初に驚いたのが、日本ではこの映画は劇場公開はされずにプライムでの配信のみだったということ!


これほどまでの作品・豪華な俳優陣でも、配信のみということがあるんですね。…いや、他にも配信のみの良作はたくさんあることはわかっているのですが、あまりに素晴らしい作品だったのであらためてそれに驚きました次第です。





オックスフォード大学で知り合った社会階級の異なる学生が出会うところから物語は始まります。


富裕層の学生が集まるそのカレッジでは、奨学金で入学し古着を着るオリバーはどこか見下げられています。
この始めのシーンをみていて、歌手のリナ・サワヤマもケンブリッジ大学で心理学を専攻していた時に階級や人種で差別を受け、メンタルのバランスを崩したと言っていたのを思い出しました。(*もちろん、ケンブリッジやオックスフォードでは差別が当たり前ということではありませんが、残念ながらそういう経験をした人たちもいるということです。)


イギリスは、階級(クラス)がかなりはっきりと分かれており、それぞれに生活の仕方が異なります。念のために言っておきますと、どの階級が良い悪いでは全くありません。大雑把に言えば収入の差によるのですが、実際はそれだけではなく、趣味や余暇の過ごし方、食べ物や話し方、業種、住んでいるエリア、出身など様々なカテゴリーがあり、それらを総合的に見てクラスは分けられます。また、クラスは固定ではなく流動的でもあります。


労働者階級で両親は依存や薬物の問題を抱えた家庭出身、奨学金でオックスフォード大学に進学したオリバーは、貴族家系のフェリックスと出会います。


フェリックスの家は、ほぼお城。
何人もの執事を抱えるお屋敷で、風変わりなフェリックスの家族と夏休みを過ごすことになります。



実際に桁外れのお金持ちでエキセントリックな性格の方々がイギリスにはいます。
映画だからかなり強烈なキャラとして登場人物が描かれていますが、ある意味一般のイギリス人が思い描く「浮世離れした常識のないお金持ちのイメージ」そのままだったりします。(*もちろんお金持ち全員がこうではありません!)



全てが十分すぎる以上に与えられているフェリックス。
しかし、どこか満たされなさや常にチヤホヤされる現状に不満を持っています。
庶民(底辺)のオリバーの生活は彼にとっては「インスピレーション」という名の驚きの連続で、どんどんオリバーに興味を惹かれていきます。



風変わりで一人一人が強烈な個性を放つフェリックスの家族に、持ち前の読心術や賢さ、知的好奇心の高さや教養から、オリバーは一目置かれ、存在感を増していくのですが…。








表現されている内容は、風変わりという言葉では足りないほどにエキセントリックで、浮世離れした人々と、人間の欲望や変態性やサイコな部分を描いています。

強烈で極端で、そもそもの生活レベルが一般人のそれとは比較にならないのですが、ここで描かれる欲望や変態性って実はどんな人も多少は持っているものであるような気がしました。だからこそ、この映画の狂気じみた部分を笑いながら目が離せなくなってしまう(少なくとも私は、笑)。


オリバーの人の心を掴むテクニックは、あからさまに媚を売ったり褒め称えるものではなく、ピンポイントで相手が欲しい言葉や興味を差し出せる技術。これを見ている時に、ちょっと「頂き女子リリちゃん」を思い出したんですよね。人が欲しがっているもの、特に他の人がなかなか気づかなかったり与えにくいものに気づき、さりげなくそれを差し出せる。オリバーの場合は、気遣いやさりげない言葉、態度、眼差し、興味・関心の向け方や性癖にまで幅広く対応しているわけですが。



主演のバリー・コーガンが素晴らしいのは言わずもがな。
どちらかというと表情豊かなタイプの容姿ではないし、そこからは感覚を読み取りにくいと思うのですが、だからこそ醸し出せる不思議な存在感があり、この役に関しては淡々と周りの人を満たす行動を積み重ねていく様にぴったりで、彼以外の人がこの役を演じていたら全く別の映画になっていたと思います。



とにかく脚本、キャラクター設定が秀逸で、一人一人から目が離せませんでした。




個人的なお気に入りは、フェリックスのいとこのファーリー。
あの意地悪さったら!そして、叔父に金の無心をしなければならない屈辱を味わいながらも、超大金持ちの叔父家族にお金を恵んでもらう俺という立場をカラオケで披露(しかも歌がうまくて笑ってしまう!)したり、全く下手に出ないところが本人は明日の生活がどうなるかわからないというレベルで困っているわけではなく、寄宿学校(お金持ちが通う、年間の学費は数百万。叔父が出資)出身で金銭感覚はボンボンのまま…というのもとてもリアルだなと。



そしてフェリックスの両親を演じた、リチャード・グラントとロザムンド・パイク。
上流階級のアクセントで話し、家族の死を目の前にしても表向きは平常心を保ち続けるという狂気。こういう役を演じるためにリチャードがいるとすら思えてしまう。ロザムンド・パイクは、私の中では浮世離れしたエキセントリックな中産・上流階級を演じさせたら右に出るものはいないと思っていて、例えば『ゴーン・ガール』や『パーフェクトケア』のサイコパスがハマり役すぎて、この人こういう性格なんじゃないかとうっすら嫌悪感すら持っていたのですが、今回も期待以上の振り切りぶりで、嫌悪から称賛へ。手のひらを返さずにはいられませんでした。





執事もずいぶん独特な雰囲気だし、招待客らもちゃんと浮世離れした無礼さを携えていて、いちいち笑ってしまう。





正直なところ、どうしてオリバーはそれを執拗に求めていたのか、どうしてそれほどまでに手に入れたかったのはか私にはわからなかったし、喜びに声をあげたり笑顔を見せるわけでもなく、しかしソフィー・エリス=ベクスターのヒット曲『Murder on the Dance Floor』に載せて真顔で全裸で踊ったり、理由が明確にならない不透明さが彼の常人にはわからないずれ具合を表しているような気がしました。







ストーリだけでなく、セリフや家や色々なポイントがくまなく面白くて、大満足の作品でした。





おすすめ度:☆☆☆☆☆


『Spencer(原題 スペンサー)』

2021年12月22日 | 映画~さ~
2021年 イギリス・アメリカ・ドイツ・チリ映画




2021年12月に映画館で鑑賞。


この映画を一言で説明するなら、「サイコスリラー」だと思いました。

ドキュメンタリーや自伝映画ではなくとも、実在の人物をある程度の史実に基づいて描いた作品を「サイコスリラー」と説明しなければならないのは、ある意味とても悲しいものです。


ダイアナ妃の皇族としての生活、葛藤、苦しみ、人間関係などを描いた作品です。



スペンサーとは、ダイアナ妃の旧姓です。
プリンセスと、そうではない本当の自分(スペンサー)、素の自分の間での葛藤を表すのに良いタイトルだと思います。




主演のクリスティン・スチュアートはアメリカ人ですが、イギリス人のダイアナ妃を演じています。


彼女の英語の王室アクセント、すごく良かったです。



一般的に、アメリカ人がイギリス人役を演じるのはとても難しいと言われています。その理由の一つは英語のアクセント。
関西出身でない俳優が頑張って関西弁を話そうとしているようなもので、どうしても不自然になってしまう事が多いのです。逆に、関西出身の方が訛りなく標準語を話すように、イギリス人がアメリカ訛りで演じることは多々あり、違和感も少ない傾向があります。



クリスティンが今回話していたのは、「王室英語」です。

イギリス人が話す英語を一般的には「イギリス英語」といいますが、実はイギリスには標準語が存在しません。ですから、皆が皆それぞれの「訛り」があります。イギリスの王室の方たちが話す英語は「クイーンズイングリッシュ」(王室英語)といわれる独特の話し方。もちろん練習をして習得することは可能ですが、王室の者以外がこの英語を話すことはありません。話してはいけないわけではありませんが、多分「だいぶ変わった人」扱いされます。苦笑




その独特の王室英語発音ですが、クリスティンはすごくうまかったと思います。


そして、ダイアナ妃独特の話し方をしっかり表現していました。
さらにいうと、ダイアナの立ち振舞、走り方も本当にそっくり。



かなり独特な話し方なので、慣れない人が聞くとかなりわざとらしく感じるかもしれません。


しかし、ダイアナ妃の話し方って実際にこんな感じでした。







皇室という独特の「社会」で、皇太子妃という特殊な立場に立たされた彼女の人生。


この映画は、皇室批判ではなかったと思います。(今のイギリスのロイヤルファミリーに対する批判は大いにある)



長い歴史を持つ皇室ですから、風習も常識も異なります。
そこに溶け込んでいける人たちも大勢います。その存在自体が良い悪いというのがポイントではなく、さらにチャールズ皇太子の裏切りやカミラの存在、自分の子供時代など(映画では描かれていませんが、ダイアナは父親、義母と確執があった)の様々な背景により自分が自分でいられる場所をなくして行った一人の女性の姿を描いている作品です。




ちなみに、公開時は上のポスターが多く使われていましたが、こちらもいいですね(初めて見た)。






日本では、2022年公開だそう。

個人的には、ハリーとチャールズ役は、もう少し外見がにている人が良かったな、と。





おすすめ度:☆☆☆☆

『The Constitution (英題) ~USTAV REPUBLIKE HRVATSKE~』

2017年10月06日 | 映画~さ~
2016年 クロアチア映画



画像はこちらから http://www.latidofilms.com/the-constitution/



2017年9月にイギリスのロンドンで開催されていたインディーズ映画の祭典「レインダンス映画祭」にて鑑賞。

この映画祭の期間中、友人のお陰で幸いにも通し券を入手することが出来、映画祭にノミネートされている幾つもの作品を鑑賞させて頂ける機会がありました。

『The Constitution』はもともと特に興味は持っていたわけではなかったのですが、前日に行われた映画祭の表彰式で最優秀作品賞を含む主要3部門を独占した本作。「せっかくだし観てみようかな」と上映会に足を運んで大正解!大好きな1本となりました。


まだ日本で公開されていない作品なので、邦題がついていません。英語の題名である『The Constitution』とは、「憲法」のことで、この映画ではクロアチアの憲法を指します。


学校で教鞭をとるヴェコは、ゲイの男性。恋人を亡くしてからは、仕事と父親の看病をする生活。ある日、女装して街に出かけた際に若者グループに襲撃され重症を負う。その病院で、看護師で同じアパートに住むマヤと出会う。これを機に、マヤはヴェコと父親の世話を手伝うことに。その代わりに、警察官である旦那アンテがクロアチア憲法の試験に受かるために勉強を見て欲しいと頼まれます。こうして、同じアパートに住む4人が知り合いお互いの生活に関わるようになります。



多分、私にとってこれが初めて見るクロアチア映画でした。

上記の大まかな話の内容に加え、クロアチア人・セルビア人というそれぞれのルーツの違い、それによる差別意識、歴史認識の違い、セクシャル・マイノリティーへの偏見・差別・嫌悪、いろいろな愛の形や生活レベルの違いなどが絶妙に組み込まれていて、とても奥深く興味深いストーリーに仕上がっています。

こう書くと、すごく難しい映画なのでは…と思われそうですが、実はかなり笑わせてくれます!すべてを笑いにして全体を軽く、ということではなく、それぞれの問題や出来事、トピックに対してはとても真摯に描いていて、その中で見え隠れする人間の可愛さや滑稽さが笑いを誘うんです。


とにかく、出演者4人の演技、役柄、そして台詞回しが最高なんです!!!


全員がもれなくうまい。


一人ひとりが、それぞれのキャラクターの性格をしっかりと肉付けしたかたちで表現しています。台詞から伝わる情報のみならず、性格の設定や彼らの演技から伝わってくる人物像それぞれがたまらなく良く、それぞれがそれぞれに愛おしい!


そして、脚本も素晴らしかった。映画自体すごくテンポが良く、ムダがなく、だからといって遊びの部分はしっかり残していて、作品として本当にバランスが良いんです。


できることならもう一度見たい!DVDでたら買いたい!!!そのくらい好きな作品です。



今のところ日本公開の情報はありませんが、イギリスのレインダンス映画祭の最優秀作品賞、最優秀脚本賞はじめ、カナダのモントリオール映画祭、オランダの映画祭などでも様々な賞を受賞している作品なので(納得の受賞です!)、ミニシアター系映画館で、もしくはせめてDVDリリースしてくれたらと思います。


もし、鑑賞の機会がありましたらぜひ!心の底からオススメ!!!




☆☆☆☆☆

『ジャングル・ブック ~The Jungle Book~』

2016年05月14日 | 映画~さ~


2016年 アメリカ映画


ディズニーの最新作、ジャングル・ブックです。
正直ね、実写版と言ったってディズニー。声優陣が豪華とは言っても子供向けなんだろうなと思っていたんですよ。でも、わたくし間違っていました。


こんなに幅広い年齢層におすすめできる映画って、なかなかないです!



先程も少し触れましたが、この映画を見に行った理由はなんといっても豪華な声優陣。子供向け(だと思っていた)映画に、ビル・マーレイとベン・キングスレー、イドリス・エルバが出てたら無視できません。どんな子供映画になっているんだ?と興味を惹かれるというものです。それでもそれほど高い期待を抱いていたわけではなく、がっかりしても仕方がないかなと思いながら映画館に足を運びました。


大まかな話の内容はと言いますと、ジャングルで狼に育てられた少年が、同じくジャングルで生活するトラのシア・カーンに人間であるという理由で命を狙われることに。ジャングルの平和のためにも、ジャングルから離れ人間たちの住む村を目指すことにします。後見人である黒ヒョウのバギーラとともに村を目指して旅立ちましたが、様々な困難に見舞われます。


リメイクなので、話自体は特に新しいものではありません。アニメ版を見ていないのですが、知り合いによるとエンディングが異なるとのこと。


とにかく、登場人物・動物達がみーーーーーんないい!!!


もうね、映画館で見て正解。主人公モーグリを演じる男の子も、とても演技がうまく絶妙にかわいい!特にCGを駆使した作品なので、彼の撮影の殆どは俳優たちとの演技ではなくほぼ一人で行っていたということを考えると、彼の演技力の高さと完成度の高さは眼を見張るものがあります。彼が生まれたのが2003年(2004年という情報もあり)。もうね、びっくりしますよね。2000年代生まれの人達が、もう仕事しているなんて…。


そして動物たちのキャラクターデザインが美しいのです。私のお気に入りは黒ヒョウのバギーラなのですが、力強く美しい。もちろんCGなのですが、最近のCGってこんなにすごいのか、と普段はあまりCGとか特殊効果的なものは好まないのですが、そんなわたくしでさえ感嘆です。


そして、動物たちと豪華声優陣たちのマッチングが絶妙。お気に入りの黒ヒョウ・バギーラの声を担当したのは、Sirベン・キングスレー。落ち着き、威厳があり、そして聡明。実を言うと、ベン・キングスレーが出ている映画は数えるほどしか見たことがなく(ガンジーも未見)、オモシロイと思った作品に出ったことがなかったのですが(個人の感想です!)、これは私の中では彼の新たな代表作です!


悪役のトラのカーンはイドリス・エルバ。イドリス・エルバの映画は、もしかしたら『パシフィック・リム』しか見たことがないかもしれませんが、イギリスのテレビドラマやCMにも出ていて、コメディーからシリアスなものまで振り幅が広く、渋さもある…わたくし、褒め称えてますね(笑)。でも、本当にカッコいいんです。大好きなんです!


さらに、食いしん坊で怠け者のクマ、バルーの声はビル・マーレイ。このクマのキャラがビル・マーレイのイメージとぴったりで、このクマの声優がビルではなかったら映画の色がちょっと変わってしまうんじゃないかと思うほど。さらに、巨大ヘビがスカーレット・ヨハンソン、そしてオラウータンのボスがクリストファー・ウォーケンです。



よくぞあなた達、このオファーを受けてくれた!と嬉しくなる顔ぶれ+動物のキャラとぴったり!



もう一つ驚いたのは、この映画のトーン。色味もそうなのですが、五月蝿くないんです。もちろん音響は大きい部分もありますが、キャラクターのわざとらしい大げさなリアクションや無駄にキラキラした装飾など煩わしさがないのです。私の勝手なイメージもあるのかもしれませんが、アメリカ映画、特に子供も見られる作品だと、他の国民性にはないアメリカ独自の派手さ、大げささが全面に出ていることが多く、それが逆に邪魔をして楽しめない時があります。しかし、この作品は違います。物語の軸がしっかりしており、過剰だとおもわれる演出はかなり少なく、しっかりと話自体に集中できます。


もう一回映画館で観たいと思うほど良かったです。ブルーレイ出たら真っ先に買うわ。
ほんと、騙されたと思って、大人の方々もぜひ映画館に足を運んでみてください!こんなに純粋に楽しめるエンターテイメント作品はなかなか出会えません。声優陣の声を楽しむことはできませんが、お子様がいらっしゃる方は吹き替え版があればそれでも十分に楽しめます。もうもう、強烈におすすめ!!!



日本での公開は2016年8月11日から。夏休みまっただ中ですね。ぜひ観てみてください!





おすすめ度:☆☆☆☆☆+α (←久々です!)




画像はこちらのサイトから。
http://indianexpress.com/article/entertainment/hollywood/the-jungle-book-trailer-mowgli-is-back-with-his-army-of-wild/



『サイダーハウス・ルール ~The Cider House Rules~』

2016年01月24日 | 映画~さ~
1999年 アメリカ映画


最近、昔見たことのある映画を見返すことが多くなりました。というのも、当時の印象と今の年齢(30代後半)になって感じるものが大きく異なっていること、そして若いころにはよくわからなかった作品の深さなどをしっかりと味わいたいというのが理由です。

今回の『サイダーハウス・ルール』もその一つ。
恐らく、初めて見たのは2000年代前半、2001年ごろだったのではないかと思います。これを初めてみた時の印象は「自分勝手な金髪女に振り回される可哀想な孤児院出身の男」という非常に単調なものでした。当時大学生か大学を卒業したばかりの年齢の私には、この話の本当に表面しかわからなかったんだと思います。世の中は、すべてが黒白はっきり分かれているものと疑っていなかった若かりし頃の自分と、あの時よりはもう少し世間を学んだ今の自分とのギャップを、いろいろな映画を通して楽しんでいる最中です。




主人公ホーマー(トビー・マグワイヤ)は孤児院で育ち、父親代わりの医師ラーチのもと医学を学ぶ。医師免許を持っているわけではないので、ホーマーが医療行為に携わるのは違法行為。それでも、彼の腕の良さから孤児院ではラーチの右腕として生活をしていた。その孤児院では、違法ながら堕胎も行っており、望まない妊娠をした女性が数多く訪れていた。ある日、若いカップルが中絶のために孤児院を訪れる。それがキャンディーと恋人のウォリー。彼らとの出会いに、常に胸に持ち続けていた外の世界への憧れを刺激されたホーマーは、彼らとともに孤児院を出ることを決意。ウォリーの実家の家業であるサイダー醸造所で働くことになる。


さて、映画の感想ですが、いつものことながら完全に忘れていた部分が多く驚きました。まず、一番驚いたのは、キャンディー(シャーリーズ・セロン)の恋人役が、ポール・ラッドだったということ!以前『40男のバージンロード』の感想の中で触れたアメリカの俳優です。最近はアメリカのコメディー映画では彼が出ていない作品を探すほうが難しいのではないかというほどの売れっ子ですが、1999年の作品でソコソコ重要な役を演じるほどのキャリアがあったとは知りませんでした。ウィキペディアで見てみると、1993年から映画に出演しているとのこと(2016年1月24日現在)。キャリアの花が開くまで、結構下積みがあったんですね。ある意味初々しい彼を見て思い出したのが、1990年の『ステラ』という作品に、主人公の娘の彼氏というチョイ役で出ていたベン・スティラー。今のベン・スティラーからは想像できないほど、初々しくて青臭い感じ。それと同じ感覚を、『サイダーハウス・ルール』のポール・ラッドに感じました。個人的には、彼はコメディーよりももっと「普通の人」の方が安心してみていられるので、こういう役柄のほうがあってると思っています。


また、当時注目され始めていたシャーリーズ・セロンが、当時の私には「ただのきれいな金髪女優」でしかなく、そして恐らく…と言うか確実に映画の中での「男性依存の一人でいられない絶対悪」(当時の感想です)の印象が強かったからこそ、全然好きな女優ではなかったのです(若いって、単純…私)。これ、逆に言えば、そのくらい彼女の演技力が高かったということですよね。彼女自身と映画の中での役柄をリンクして見てしまったほどですから。そして、今の彼女の快進撃と言ったら!その後『モンスター』でアカデミー主演女優賞を受賞し、いまも新境地を開拓し続けていることを本当に嬉しく思います。あんなに好きではなかったのに、今では好きな女優の一人である彼女が出ていた作品だからこそ、もう一度見てみようと思ったのです。


主演のトビー・マグワイヤは、こういうちょっと世間ずれしている役が抜群にうまいと思います。ちょっと浮世離れしているというか。足元が地上から1.5センチ位浮いていそうなイメージを、いつも勝手に持っています。


この映画の背景は第2次世界大戦のさなか。つまり、1940年代。サイダー醸造所で働いている季節労働者たちは黒人。彼らが寝泊まりするのは母屋の離れなのですが、ここにホーマーが紹介され、彼らと共に働くことになったことを、季節労働者たちは「歴史的な出来事だ」と驚きます。舞台はアメリカ東海岸北部。南部とは異なり、黒人に対する差別意識は低い土地柄ではありますが、それでもどうしても職業によって人種が分かれているような状況下で、白人のホーマーが彼らと一緒に生活をし、同じ労働をするというのは、労働者の彼らにとっては衝撃だったのだと思います。逆に、そのことが大きな意味を持つものという認識をしていなかったホーマーやウォリー、キャンディーや彼らの家族たちは、本当に差別意識が殆ど無かったのではと思います。


やがて軍人であるウォリーに出兵命令が下り、彼がいない間一人の孤独に耐えられないキャンディーはホーマーと親密に。また、季節労働者たちも様々な問題や、暗い現実を抱えており、ホーマーは孤児院の外の「本当の世界」をここでの生活を通して学んでいきます。


15年以上前に見た時には、キャンディーは完全に「悪」だったのですが、今回見なおしてみて、正義でないにせよ悪とは言えないよなぁ…と、自分の見方、感覚、意見が年令によって変わっていくことの面白さを感じました。また、ラーチの死をきっかけに、孤児院へ戻る決断をするホーマー。外の世界を見て帰ってきた彼にも精神的変化がもたらされます。世の中の法律に照らし合わせればそれは完全に違法ですが、ラーチの医師を引き継ぎ、医師として孤児院で生活することを選んだホーマー。もしかしたら、私がこの15年と少しの間に学んだ「世の中とは完璧ではないことで溢れている」ということを、彼は孤児院から離れた1年の間に学んだのかもしれません。彼は孤児院で生活する子どもたち、看護婦たちに暖かく迎えられます。彼には帰る場所があったということ。そしてそれは、そこで生活する子どもたちにも一つの「希望」になったのではないかと思います。


最後になりましたが、ラーチ役のマイケル・ケインは、あの役柄が自然すぎて彼がそこにいて当然としか思えないほどで、他の俳優陣とは「肩の力の抜け具合」が完全に異次元レベルでした。これがキャリアがなせる技なのでしょうか。この役で、彼はアカデミー賞助演男優賞を受賞も、もちろん納得です。


何を正解とするのではなく、世の中や人生の、白と黒の間のグレーの濃淡を描いている素晴らしい作品でした。


この作品を楽しむには、ある程度の年齢と人生の経験が必要かもしれませんが(少なくとも私にはそうでした。苦笑)、静かで丁寧に作られた作品が好きな方はぜひ!



おすすめ度:☆☆☆☆★





画像はこちらより:http://www.imdb.com/media/rm512537088/tt0124315

『007 スペクター ~Spectre~』

2015年12月06日 | 映画~さ~
2015年 イギリス・アメリカ


日本でもこの週末から公開が始まった、007の最新作です。
あてくし、「スペクトル」だと思い込んでいたのですが、「スペクター」が正解なんですかね?ヤフーやグーグルで見てみたら、「スペクター」表記が多いようなので、それに倣ってみようとおもいます。

私がこの映画を見たのは1ヶ月ほど前なのですが、本国イギリスでも「ダニエル・クレイグの007史上、最高の出来」と大絶賛されての公開でした。もちろん映画館も大入りで、現在も絶賛公開中。


でも、「ダニエル・クレイグの007史上、最高の出来」かどうかと言われると、正直なところ意義ありと言いたい!


早速、感想に移らせていただきますが、わたくし個人的には断じて最高ではなかったです。もう、断然に前作『スカイフォール』の圧勝。

映画として観ている間は楽しめるんです。でも、スカイフォールが素晴らしかったのでどうしても比べてしまう。ダニエル・クレイグ以外のボンド映画は数本しか見たことがないので(ショーン・コネリーのもの)、いわゆる「007の形式美」(美女との絡みとかサービスシーン満載的な)をあてくしがどこまで理解しているかは正直なところ甚だ疑問なのですが、多分今回はいわゆる007映画の王道がいつもに増してふんだんにつめ込まれているんだと思います。もっとはっきり言うと、安っぽいシャレやわかりやすいサービスシーン(本編に全く関係のない美女たち)がとにかく多い。前回のスカイフォールでは、その配分が抑え気味で調度良かったんですよ(あくまで私個人の感想です)。それが、今回は胸焼け。

ただ、一般的なイギリス人にとっては、こういうわかりやすいお色気やシャレがあってこその007。決してただかっこいいだけのスパイ映画ではなく、しょうもないバカバカしさとか、世界中の美女をはべらすというわかりやすい「全世界の男の夢」を具現化することこそが007という映画の位置づけなので、胸焼けにはならないとのこと。ただ、ダニエル・クレイグの007の中で最高傑作かと言われると、同じく意義を唱えるひとも多く…いや、多いというか、私の周りで見た人たちは全員口をそろえて「前作のほうがいい」といいます。


そして、もう一つイマイチだった要因は主題歌!
今回はサム・スミスが主題歌を担当しているのですが、何度聞いても耳に残らない…。すいません、また前作と比べてしまいますが、アデルが歌ったスカイフォールのテーマ曲は、もう本当に、皆が口ずさんでいたくらい浸透していたんですよ。例えばスーパーの有線でこの曲がかかろうものなら、買い物客が自然と口ずさんじゃうくらいに。しかし、今回のテーマ曲はそこまでの市民権は得られていないのが現状。というのもね、難しすぎるんだと思うのですよ。スカイフォールが一度聴いたらサビの部分くらいはすぐに認識できるほど覚えやすかったのですが、今回のはもう何度聴いても覚えられない。良くも悪くも、引っかからないんです。更にぶっちゃけると、作曲したサム・スミス本人も「ちょっと音域を高くしすぎて、歌うのがしんどい」と認めているほど。本人もわかってるのなら仕方ないわよ…、と全く持って一般人な私も思うわけです。


それにしても今回の007は、いわゆる「お色気要員」の存在が個人的には目立っていたように思うのですが(モニカ・ベルッチ含む)、これが20年前なら多分そんな感想は持たなかったんだろうな、と自分のことながら思ったりもしました。時代の流れというのでしょうか。フェミニズムの台頭を感じた次第であるわけですよ。こんな適当な映画ブログでフェミニズムを語るのもどうかと思いますが(苦笑)、例えば20年前なら、ただのお色気要員、ボンドとのベッドシーンのためだけの「ボンドガール」を、なんとなくすっきりしない気持ちを持ちながらも「まあ、そういうもの」と流せたと思うのですが、2015年ともなるとそう簡単にも流せない風潮が強くなって来ているような気がします。これこそ個人的感想ですが、ダニエル・クレイグの007はそれ以前のものと比べると、こういうサービス要素って結構少なめだったと思うんです。でも、今回はサービス増量(もしくは以前の通常レベル)だったために胸焼け…というか、観ていてあまり気持は良くなかったというか。それも、私が前作ほど楽しめなかった原因の一つです。


関係ありませんが、「ボンドガール」ってボンド映画に出ている女性キャスト全員を指す言葉だってご存知でしたか?あたくし、「ボンドガール」=「映画の核心の握るメインの女性」だと思っていたのですが、違ったのです!女性キャスト全員というくくりなので、M(エム)を演じていたジュディ・デンチも、ただのお色気要員も全員がボンドガールのくくりなんですって!公開に先駆けてボンド映画特集がテレビで組まれていたのですが、ジュディ・デンチが言っておりました。

「『ボンドガールである』というのは、年齢に関係なくすべての男性を惹きつけるのよ。10歳の男の子でさえ、『007に出ている』というと、態度が変わるの!」と。

今回出演していたモニカ・ベルッチでさえ、ほぼ本編に関係のないチョイ役だったにも関わらず、ものすごく喜んでいましたし、話題にもなっていましたしね。「ボンドガール」力、恐るべしです。そういえば藤原紀香が以前から「夢はボンドガールになること」と言っていたような…本当にどうでもいいですけど。



ということで、12月4日から日本で公開の『007 スペクター』。
最高傑作では決してないと思っていますが(しつこい)、映画としてはもちろん楽しめます。特にダニエルのボンドを観ているひとはぜひ。



おすすめ度:☆☆☆ 


*画像はRotten Tomatoより

『ソーシャル・ネットワーク ~The Social Network~』

2011年01月17日 | 映画~さ~
2010年 アメリカ映画


お久しぶりでございます。放ったらかしでしたが、ちょうどいいタイミングで映画を見たので久々にアップさせていただきます。

『ソーシャル・ネットワーク』、ゴールデン・グローブ賞の最優秀作品賞取りましたね。ゴールデン・グローブの発表がその日の夜(アメリカ時間)だったとは知らず、有力候補だった2作品(もうひとつは『The King’s Speech』)をたまたま同日の発表前に見たのですが、さてアタクシ個人の感想はといいますと…。


イギリスで『ソーシャル・ネットワーク』が公開になった時、アメリカでの評判がすこぶる良かったので映画館に観に行こうと同僚たちを誘ったのですが、ことごとく拒否され結局見逃すことに。そして昼間に『The King’s Speech』(日本での題名が見つからず。『英国王のスピーチ』という名前になるかもですね。1月14日の時点では調べきれませんでした)を映画館に観に行き、その夜に同僚が持っていた『ソーシャル・ネットワーク』のDVDを鑑賞することに。(『The King’s Speech』の感想はまた別に掲載する予定です。)


では、率直に感想を申し上げましょう…。


面白くない。面白くなかったのよ。もうてんで、面白くないの。この映画、すごく良いレビューやおすすめ記事がたくさんあってすごく期待していたのだけど、もうビックリするくらい面白くない(注:あくまで個人の感想です)。内容が難しすぎるとか、私の英語力が追いつかないとかではなく、映画として面白い要素が全然見つけられなかったのよ。一緒にこの映画を見た2人も同意見。ちなみにイギリス人とフィリピン人でひとりはコンピューターエンジニアなので、英語や技術的な内容に問題がない人達。Facebookのことを知っていたらもっと楽しめるのか、と言われるとアタクシも一応人並みにはFacebookを使っているし、映画の登場人物として出てくるナップスターのショーン・ファニングについても知っていたし、知識不足というわけでもないと思うのよ。ただ、純粋にアタクシ好みではまったくもって無かったということ。

映画はご存知のとおり、FACEBOOKが出来るまでと仲間内での金銭の揉め事を描いていて、決してコンピューターの技術的な話をしているわけではないのね。基本的にそのサイトを取り巻く人間模様を描いたドラマなんだけど、ものすごくテンポが悪いのよ。始まってから1時間半は話の流れが凄く遅いの。出来事を忠実に映画に反映させようとしたのだろうけど、それで話のテンポが生まれず間延びな感じになってしまっていて、それって映画としてどうなんだろう…という疑問が。アメリカでの評判がすこぶる良かったから、アメリカ人には受ける感じの映画なのかしら。それともあのよいレビューはプロモーションの一環なのかしら…と大絶賛のレビューが存在すること自体が私たちには謎だったというのに、その映画が作品賞受賞。もう本当にアタクシ(たち)には訳がわからず。出演している俳優たちの演技も、主演のジェシー・アイゼンバーグ(『アドベンチャーランド』の彼ね)以外は特筆する必要もなさそうな感じ。ジェシーはうまかったわよ。ジャスティン・ティンバーレイクがショーン役で出ていたけど、別にジャスティンでなければならなかったという気もしないし。俳優陣らの演技が胸踊るほどに素晴らしかった『The King's Speech』と同じ日に観てしまったので、余計に比べてしまったかもしれませんが。

良い点を上げるとすると、ポスターにあった言葉は映画の内容を端的に表していていいなぁ、と感心いたしました。


“You don’t get to 500 million friends without making a few enemies”


イギリスでの上映は終わっているのだけど実はあまり話題にもならなかったくらい、注目度は高くなかったということも付け加えておきましょう。


ちゅーことで、話題作なので話のネタにはなるかもしれませんが、映画が面白いかと言われると…個人的には全然おすすめしません。



おすすめ度:★

*画像はいつもは映画のシーンを使用するのですが、この映画はポスターがすごく良いと思うので、そちらを使用しました。

*イギリスでは、ゴールデン・グローブ賞受賞後、再びいくつかの劇場で上映が再開されています。(2011年1月22日 追記)

「ザ・コーヴ ~The Cove~」

2010年10月08日 | 映画~さ~
2009年 アメリカ映画


ほぼ、というか完全に放置状態のブログになっていますが、忘れているわけじゃないんですのよ。映画も月に2~3本は見ているのだけど、どうにもこうにも感想を書く時間が…まぁ、言い訳はさておき、久々の記事です。


今年のアカデミー賞後、日本では『ザ・コーブ』というイルカ漁に関するドキュメンタリー映画の内容と上映の是否をめぐる議論が注目されていた。イギリスでは、3ヶ月ほど前にテレビで放映されて(スポンサーがホンダというのがちょっと皮肉で笑ってしまったけど)、見てみることに。

感想を端的に言うと、「予想通り」の映画。良くない意味で。確かに内容はショッキングで、これまで知らなかったことにも触れられていたけど、ドキュメンタリー映画として優れているかというと、私個人としてはそうは思わなかった。非難するべき矛先を完全に間違えているような。イルカ漁には日本のみならず諸外国の事情が絡んでいてもっと複雑な問題であるはずなのに、白か黒かの単純な善悪の概念でこの映画は作られていて、正直「この映画を作った人たち、関わった運動家たちは『日本での』捕鯨・イルカ漁をやめさせたいだけなのでは?(それでは何の解決にもならないのに)」と思えてしまうほど。「イルカを取ることは良くない。だから悪。」という幼稚園児のような思考しか見えてこなかった。どうして漁師たちがイルカ漁をすることで生計を立てられるのか。映画の中では表面的にその事実の一端を触れてはいるが、そこを掘り下げようという気は全く無いようだった。世界中のイルカショーを行っている娯楽施設が、日本からイルカを購入しているのだ。この映画からは、イルカ漁の残忍さ(これがこの映画で一番アピールしたい点だと思う)と娯楽施設でイルカショーをしているイルカたちの存在が全く結びついていない。この映画を見た人が、イルカショーを観に行くことを考え直すか・・・いや、殆どの人はそういう思考にはならないだろう。そもそもの問題はそこにあると思うのだけど。

念のために書いておくが、私はイルカ漁に賛同しているわけではない。むしろ反対だ。

日本にとっては、特にここ数年、シー・シェパードなどの過激派環境保護団体との衝突があり神経質にならざるを得ない内容で、社会問題に対して真面目に取り組 もうとする日本人気質もあり、日本国内では余計に注目が集まったのではと思う。では、イギリスではこの作品に関してどんな報道がなされたかというと・・・ ほぼスルー。取り上げるメディアはもちろんいたが、内容に対して大きく反応した記事ではなく、「こんな映画があるよ」という紹介程度だった。実際に見てみ ると、あくまで作品(映画)として見てみると、映画館での上映のために抗議するほどの作品ではないと思った。関心があるのなら、DVD鑑賞でも十分だと思 える映画。私はアカデミー賞の選定基準がわからないけど、どうしてこれが賞を取れるのかと首をかしげたくなるほど。イギリスのテレビで日頃放送されている ドキュメンタリー番組の方が、よっぽど質が高いと思う。それともノミネートされた他の作品がこれ以上にひどかったから、選ばれざるを得なかったとか・・・ と余計な事まで考えてしまう。アカデミー賞受賞作というと、ずば抜けて素晴らしい作品なんだと思い込む人もいるようだけど、すべての作品がそうであるわけ ではない。



この映画をみて、子供の頃何度か訪れた娯楽施設を思い出した。敢えて名前をかかせてもらいたい。愛知県にある南知多ビーチランドだ。ここの目玉はなんといってもイルカショー。私も子供の頃、イルカショーが大好きだった。イルカのおねえさん(調教師)になりたいと思っていたほどだ。それがある光景を目にしてその夢から覚めた。一番最後に南知多ビーチランドに行った日だ。私は小学校高学年、確か5年生だったと思う。イルカショーが行われる大きなプール以外に、園内にはイルカの体がちょうどすっぽりと収まる大きさのプール、いやプールというよりイルカ用の風呂といったほうが妥当だと思われるような水槽?があった。深さはちょうどイルカが入って背中までやっと水がかぶるくらい。すっぽりと収まる大きさのその水槽に一投のイルカが入れられていた。その水槽の名前は「タッチングプール」。来場者がそこで直にイルカに触れる様になっていた。

こんなに悲惨な光景を目にして、実際にその悲惨さに気がつく来場者がどのくらいいたのか。

イルカがすっぽりと収まるその水槽。イルカは身動きが全く取れないわけだ。泳ぐことはもちろん、人間の手に触れられることから逃げることもできない。おそらく、年をとってショーができなくなったイルカなのだろう。この光景に、なんとも言えぬ気持ちになった。当時11歳の私には的確にその気持ちを表現することはできなかったけど。その胸糞悪くなるような光景を見たのを最後に、南知多ビーチランドに行くことはなくなった。他の水族館はどうか知らないけど、こういう扱いはイルカのみならずどんアン動物に対してもして欲しく無い。南知多ビーチランドにこの「タッチングプール」が今はなくなっていることを祈るばかりだ。


話が脱線しましたが・・・

興味がある人は自分の目で確認すべき作品だと思います。ただ、観客の感情を煽るような作りなので、しっかりと自分の意見を持っていないと洗脳されるかも。


おすすめ度:★


画像は後ほど。

「ジュリー&ジュリア ~Julie & Julia~」

2010年01月11日 | 映画~さ~
2009年 アメリカ映画

実話を映画化したコメディー・ドラマです。フランス料理のレシピ本と彼女のフランスでの生活を綴った本を出版し、アメリカで人気を博した料理家ジュリア・チャイルドと、1年間で500以上ある彼女のレシピにある料理を作りブログに綴ったジュリー・パウウェルという別の時代に生活する2人の女性の生活を描いている。特に料理好きな人には興味深い映画なんじゃないかと思う。私もその1人で、この映画を見たいと思っていた。結局公開中に映画館に足を運ぶことはできず、今回飛行機の中で見ることができた。

率直に言うと、「がっかり」感が大きかった。全体的にというよりは、あるシーンによりものすごくがっかりさせられたと言う方が妥当なのだけど。

映画はジュリア・チャイルドが夫の仕事に伴いフランスに移住。そこでフランス料理に感化され、料理学校に通い、アメリカでフランス料理本を出版するまでが描かれている。また、ジュリーは現代のニューヨークに住む料理好きの女性。仕事に行き詰まりを感じていたところ、ボーイフレンドから彼女の趣味である料理を通じて自分を表現し、自信を取り戻しては?と言うアドバイスから、ジュリア・チャイルドの本にある524のレシピをすべて作ってみることに。さらにそれをブログでアップし、期限を1年と決めた。映画自体はジュリーのブログが軸になっており、映画の全体のリズムをつかさどるのもジュリー側。ジュリアはある種伝記のような感じで映画の中で紹介されているように感じた。

ジュリアの料理に対する情熱、、彼女の持つかわいらしさは彼女を演じるメリル・ストリープにより存分に表現され、所々にジュリアの人生の中の苦悩なども垣間見ることができる。また料理好きな人にとっては、映画に登場する料理の数々も見所。見ているだけで幸せな気分になる。

料理が存在感を発揮する映画と言うと、最近では『かもめ食堂』『めがね』などがあったけど、これらの映画とはまた違った存在感を料理たちが放っていて、それも印象的だった。

最初にも触れたけど、1つものすごくがっかりで、私としてはこの1シーンが映画全体を壊してしまっているといっても過言ではない部分が。それは現代のジュリーが恋人といっしょにテレビを見ているシーン。テレビではジュリア・チャイルドの真似をしたコメディアンが料理をし、誤って自分の指を切ってしまい当たり一面を血の海にするというもの。まな板に置かれた丸ごとの鶏肉も血だらけ。それを恋人と爆笑しながら見ているジュリー。

これ、面白いのか?仮にこのシーンが原作の中に盛り込まれていたとしても、必ずしも必要なシーンだとは思えなかったし、料理好きでブログをはじめたジュリーがこれに爆笑していると言うのに、ジュリーの人格を疑った。仕事に生き、成功している友達に後ろめたさを感じていたジュリーは、料理のブログを通じて自分を確立していく。彼女の料理好きは映画からよく伝わってくる。しかし、本当に料理好きならあんなコメディーを笑えるどころか胸糞悪くなると思うのだけど。それを「感性の違い」と言われればそれまでなのだけど、私はこのシーンを目にしてから一気に冷めてしまった。

救いなのは、このシーンがメリル・ストリープの登場シーンではなかったこと。これまで散々苦手意識を持っていたのだけど、『マンマミーヤ』から彼女を見る目が変わった(よい意味で)ので、ここで変に彼女のイメージをまた自分の中で変えたくなかったから。


あのシーンは本当に残念だったけど、メリル・ストリープもジュリーを演じたエイミー・アダムズも、ものすごくよかった。ブログの原作者である本当の(ちょっと言い方がおかしいけど)ジュリー・パウウェルは、ジュリー役にケイト・ウィンスレットを希望していたそう。確かにケイトでもいいなぁ…と思う。でもエイミーの初々しさが、「仕事は辛いけど、料理が生きがい!」みたいな素人っぽさをうまく表現していたように思います。


個人的には、あのシーンを除いては結構楽しめました。原作も機会があれば読んでみようかと思います。それでも、どうしても私にはあのシーンが許せなくて、がっかり感が強く残ってしまいました。と言うことで、



おすすめ度:☆☆


本当に料理好きなひとは、DVDで鑑賞する時はあのシーンを飛ばした方がいいんじゃないかと本気で思います。

「スラムドッグ$ミリオネア ~Slumdog Millionaire~」

2009年03月06日 | 映画~さ~
2008年 イギリス映画


インド・ムンバイのスラムに生まれ生活していた2人の兄弟と1人の幼馴染の成長を軸に、主人公が「クイズ・ミリオネア」に出演し大金を得るまでを描いた物語。


本当はベンジャミン・バトンを観に行ったのだけど、この日は「オレンジ・ウェンズデー」。イギリスではオレンジと言う会社の携帯を使用している人は、系列映画館で半額で映画を見ることが出来るのね。さらにアカデミー賞の後と言うこともあるのかないのか、チケット売り場は長蛇の列。結局映画の時間までにチケットは買えず、もう1つ見たかった映画『スラムドッグ・ミリオネア』がその15分後からだったのでこちらに変更。



クイズ・ミリオネアは全世界で放送されていて、スタジオのセットも音楽も、司会者の番組の進行の仕方も全く一緒。もともとイギリスの番組だったのね。へ~、知らなかったわ。インドでも放送されてるのね~。主人公のジャマールはこのクイズの回答者。もう少しで全問正解で賞金に手が届く。彼の足を引っ張ろうとするトリックにもめげず、彼は全問正解を果たす。「事前に問題と答えを知っていたのでは」と言う疑惑も湧くが、もちろんそんなわけはなく、すべてのこたえは彼がたどってきた人生の中にあった。



とにかく、違う。



監督はダニー・ボイル。『トレインスポッティング』のひとね。あの後ディカプリオの『ビーチ』やここ数年だと『28日後』とかで有名な監督。まぁ、『28日後』は見てないんだけど。今回の映画は彼のカメラワークの面白さ、疾走感がすばらしい。冒頭の子供たちが走り回るシーン(いや、映画全体で走り回ってるけど、特に冒頭)は最高。そしてインド独特の色使い。洋服や洗濯物の色だったり、街の風景だったり,埃っぽかったり、原色が押し寄せてきたり。「ビーチ」を見たときは、ディカプリオの名前と存在が大きすぎて、なんだか旨やけになった記憶があるんだけど、トレスポも今回のスラムドッグも、まだそこまで有名でない、もしくは全くの無名の新人たちを起用して思いきった演技をさせるのがものすごくうまい監督なんじゃないかと思う。



そう、俳優たちがものすごくものすごくいいの。子供時代から始まって現在に至るまでの時間、1人を3人の俳優が演じているのね。子供時代、青年期、そして現代。ジャマールとおにいちゃんのサリム、幼馴染のラティカも当然だけどそれぞれ3人が演じているんだけど、そのすべての俳優たちが、誰一人色あせることなく、見事にすばらしいのね!これって奇跡に近いと思うのよ。どんなにいい映画でも、脇役を含めてどこかにがっかりな誰かがいるものなのよ。それが全然ないの。お兄ちゃんは、青年期にジャクソンファイブ時代のマイケルに、そして現在に至ってはサミュエル・L・ジャクソンになっちゃうのね(謎・・・いや、私にはそう見えただけ)。良くぞ見つけてきたわね、とため息混じりにボイルにつぶやきたいくらい(何様?)。


主役のジャマールを演じたデイブ・デパールはイギリス人らしいわ。イギリスの『スキンズ』と言うドラマに出ていて人気があったとのこと・・・『スキンズ』は10代向けのドラマなのね。ブリストルと言う街が舞台で毎年やってるんだけど、見たことなかったわ。2008年の『スキンズ』には、『アバウト・ア・ボーイ』の子が出てたのは覚えてるんだけど。


この映画は構成上、時代が前後するのね。現在と過去を言ったり来たりするのだけど、それぞれの時軸がしっかりしているからか、全く話がぶれたりしないのね。


まさか「クイズ・ミリオネア」があんなに大々的に映画のテーマになるとは思っていなかったわよ。映画の名前からの憶測(スラム出身の人がお金持ちになる)以上の情報は全くなしだったから、いやーびっくりしたわ。



何となく『フォレスト・ガンプ』を思い出したのよ。映画の構成が。いや、全然違うんだけど、『フォレスト・ガンプ』は1人の男性の人生が、アメリカの栄光に見事に沿っているわけじゃない?この映画は、ジャマールの人生の中に、ミリオネアになるべく質問のすべての答えがあるわけよ。あ、フォレスト・ガンプは好きじゃないんだけどね。


スラムにの生活の現状、問題もきちんと描いていて、観ていられなくなる場面もあります。しかしそんな中でもイギリス映画が得意とするユーモアや笑わせどころもきちんと丁寧に作られていて、とにかくテンポのいい作品。非凡です。

ラティカが美しくて、ずっと彼女を見つめていたくなります。

最後のエンドロールまで目が話せません。あの物語の後に、このエンドロールは洒落が聞いていて最高です。ボイルさん、見直しました!



日本公開は2009年4月18日から。



おすすめ度:☆☆☆☆☆