映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

「アドヴェンチャーランドへようこそ ~Adventureland~」

2009年11月19日 | 映画~あ~
2009年 アメリカ映画


1980年代後半、アメリカはペンシルバニア州の田舎町を舞台にした青春映画です。主人公ジェイムズは、コロンビア大学に進学しジャーナリズムを専攻することを楽しみにしていた矢先、両親から金銭的な援助は出来ないと告げられる。挫折感を感じながらも、夏休みの時間をアルバイトをしてすごすことにした彼が見つけたのは、アドベンチャーランドというものすごくしょっぼい、地元の遊園地。そこで個性豊かな同僚たちと出会い、同じゲームコーナーに勤務しているエムに恋心を抱くようになる。


新聞の映画批評のページ(英:デイリー・テレグラフ紙)で5つ星で紹介されていたので見に行ってきました。名前も内容も全く聞いたことが無かったのですが、何となく見てみたい衝動に駆られ2ヶ月ほど前に映画館で見ました。


80年代、アメリカ、青春映画…というと咽返るような青臭さに、見ているこっちが恥ずかしくなる、と言うようなイメージを持っているのですが、この作品はとにかくいろんな意味でバランスがよく一味違います。

まず、主人公のジェイムズのキャラクターが、抜群にいいのです。全然目立つタイプではないが、頭の回転が速く言葉選びがうまくて笑いが取れる。更に年齢の割りに冷静だけど冷めているわけではない。10代の若者が主人公の青春映画というと、目を覆いたくなるような情熱の強さと若気の至りとしか言いようがなくとにかく勢いだけで突き進む、と言うのが定説でそれが「こっ恥ずかしさ」の原因でもあると思うのだけど、この作品ではうまい具合に中和されています。だからと言って若者らしさが無いと言うのではなく、過剰すぎないのです。

映画の中に引き込まれて登場人物に感情移入をする類の映画ではなく、「ああ、この感覚!10代ってこんな感じだったかも」と見ている側は一歩ひいて冷静に、それでいて自分の人生経験の何かと重ね合わせたりして、どこか身近に感じられるような不思議な映画です。懐かしさを感じさせるような。


好きになったエムに隠し事があり、それに気づいたジェイムズ。エムの持つ闇の部分も、ジェイムズの若さゆえの不器用さも、過剰な演出をせず、しかしながら軽すぎることも無く、うまい塩梅で描かれています。


ジェイムズを演じているのは、ジェシー・アイゼンバーグ。ナイト・シャマラン監督の『ヴィレッジ』に出ていたそうですが、私の記憶の中ではあいまいです。しかし、この彼の演技力の高さは今後注目です。エムを演じているのがクリスティン・スチュアート。私は見ていませんが、『トワイライト』のシリーズに出ているそうです。また、ジョディー・フォスターの『パニック・ルーム』でジョディーの娘役を演じたのが彼女だそう。当時とは顔が違っているだろうし、ウィキペディア見るまで知りませんでした。


また、この映画の監督は、『スーパーバッド』の監督だそう。この映画も大好きで何度も見ていますが、同じく10代の若者主演の青春コメディーでもスタイルが全く異なっていると言うのが面白いです。この監督、10代の若者の心の揺れを描くのがものすごくうまいなぁと思います。しかもそれを「笑い」が中心となるはずのコメディーの中うまく描き出しているのだから驚きです。『スーパーバッド』はややグロい部分もあるので嫌う人も多い作品ですが、コメディー好きで見ていない方は是非!

そして脇を固めている俳優陣も本当に個性豊かで、最近サンドラ・ブロックと『プロポーザル』(まだ見ていないけど、ものすごく見たい)で共演していたライアン・レイノルズが重要な役どころで、遊園地の管理人は『スーパーバッド』で警官を演じていたマーティン・スタール(この読み方であってるのかしら?)。彼の存在で映画のコメディー部分が強化され、作品全体にメリハリが出ています。ほかにも、ジェイムズの幼馴染たちやエムの家族など、ちょい役なのだけれど個性がしっかりあって作品のスパイスになっているところも要チェックです。


日本での公開の予定は今のところなさそうですが、すっきりとした新しさのある青春映画でおすすめです。




おすすめ度:☆☆☆★


*日本では結局劇場公開されなかったようですが、DVDは発売されているようです。(2011年1月17日追記)

「レイチェルの結婚 ~Rachel Getting Married~」

2009年11月07日 | 映画~ら~
2008年  アメリカ映画


アン・ハザウェイ主演のドラマです。主人公キム(アン・ハザウェイ)は、薬物依存のためリハビリ施設に入所しているが、姉のレイチェル(ローズマリー・デウィット)の結婚式のために一時帰宅をする。しかし何年もリハビリ施設に入所しているキムと家族との間には溝があり、当然自分が花嫁の介添え人(メイド・オブ・オーナー)に選ばれると思っていたキムだったが、姉のレイチェルは別の友人に頼んでしまう。中毒患者である妹を信用できないのだ。


この映画の予告編を映画館で見たときの衝撃を、今でも忘れられられません。その予告編の中にいたアン・ハザウェイに、私の目は釘付けになりました。私の中のアン・ハザウェイのイメージが一瞬にして崩れ去ったほど。個人的にアン・ハザウェイはあまり好きな女優ではなかったのです。どの映画を見ても華やかで優等生で、何を見てもどんな役柄も同じ。きれいだけどそれだけ。そのうち消えていくだろうと思っていました。『プラダを着た悪魔』でも、頭がいい役のはずなのに、全然賢そうに見えなかったし(映画自体はそれなりにすきなのだけど)、「これは演技力による配役ではないだろう」と。それと前後して彼女の実生活でも彼氏が詐欺行為で逮捕とか、「やっぱり頭悪いんか…」と妙に納得したりして。女優としての奥深さを全く感じなかったのです(ああ、私ボロクソに言ってるわ…でも正直な感想です)。

それが、この『レイチェルの結婚』のなかのアン・ハザウェイはこれまでの役柄とは180度違う。同一人物とは思えないほど全く違う表情の彼女がそこにいました。私の中ではこの役が今までの彼女の映画の中で一番合っていると思います。華やかさの全く無い、むしろ汚れ役。ヤク中でセックス依存症に虚言癖まで併せ持つ最強の汚れ役です。そしてどの映画の中でも、「あたし、きれいでしょ?」とキラキラと輝いていたのに、この映画の中ではそんな星が瞬くようなキラキラ感は皆無。誰も触れられないような深い過去を背負った陰のある役に徹底的に徹していて、彼女のこの役にかける女優魂をまざまざと見せ付けられました。もう、文句のつけようが無い。各映画賞の主演女優賞ノミネート、文句なしです。


話が進むにつれ、キムの薬物中毒だけでは収まりきらない、もっと根深い問題がこの家族には潜んでいることが見えてきます。ヤク中であることが原因で起こしてしまった出来事が家族をどん底へ突き落とし、それから10年経っても彼女はリハビリ施設に入ったまま。自分を責めるけれども、ヤク中を克服することができない自分の弱さへの憤りとそれでもどうにもならないことへの無力感。もしかしたらその出来事を防げたかもしれないと自分を責め、家族から距離を置くようになった母親(デボラ・ウィンカー)。嘘だらけの妹を信用できず、責めたてる姉。それをどうにもできない父親(ビル・アーウィン)。誰もがその出来事に罪悪感と悲しみと、そして表立って触れられない後ろめたさを感じている家族の姿を、本当に丁寧に描いています。

すごく地味な作品で、暗くて、見るタイミングを間違えると落ち込みすぎてしまうんじゃないかと思うほどの作品ですが、とても丁寧に、そして実はなかなか分かち合えないけれど愛に溢れていて、いつまでも心に残る作品です。

この映画を見ながら、『普通の人々』(アメリカ映画1980年)を思い出しました。


とにかく、アン・ハザウェイの演技がすばらしいです。そして脇を固めている俳優たちもすばらしく、すべてがぴったりとパズルのようにはまった配役です。
そしてこの映画の監督はジョナサン・デミ。『羊たちの沈黙』の監督です。この映画の批評で「(監督作品の中で)『羊たちの沈黙』以来の最高傑作」評されたそうなのですが、異議なし!です。



おすすめ度:☆☆☆☆☆    抜群です。『愛を読む人』以来の衝撃です。