映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ ~No Time To Die~』

2022年01月10日 | 映画~な~
2021年 イギリス・アメリカ映画




公開が終わってしまう直前に、ギリギリ間に合いました。

コロナの影響で、公開が一年伸びてしまった本作品。
2021年10月にやっとお目見えとなりました。



この映画の公開をすごく楽しみにしていました。



が!



実は、この映画を観に行くのがすごくためらわれて…結局劇場公開終了ギリギリのタイミングに滑り込んだ次第です。




どうしてためらっていたかといいますと、理由はいくつかあります。

1.前回の『スペクター』が私好みではなかった。(感想はこちら

2.前評判、公開後の評価がとにかく良すぎた。

3.これまでの007映画での女性の描かれ方に強く疑問を持っていた。特に、『スペクター』ではその悪い部分が再び持ち出された印象があり、非常にがっかりした。

4.大好きな女優で脚本家であり監督でもあるのフィービー・ウォーラー=ブリッジが、ダニエル・クレイグの要請により脚本の見直しを行ったこと。だからこそ「絶対に良い映画になっていてほしい!」という思いが強くあった。





前置きが長くなりましたが、感想を一言で言います。


最高。




みなさんが本当にいい仕事をしてくれた。

前回の『スペクター』では、21世紀の西洋の先進国が作ったとは思えないほど昔のボンド映画そのままのセクシズム(女性蔑視,男性上位主義)を当然のものとして描いていて、言葉は悪いですが「胸糞悪かった」のです。もう007は観たくないとすら思ったほど。



しかし、今回の作品で、007は大きく書き換えられ、新たな時代に突入しました。



少なくとも、私の中ではこれまでのボンド作品とは完全に次元が違っていて、笑いあり、アクションあり、スリルあり、そして女性がただのお色気要員として登場するような箇所がなかったからこそ安心して観ていられました。


ダニエル・グレイグにとっては、これが最後のボンド作品。
これまで築いてきた彼のボンド像を、最後の作品で叩き壊し、新たな面を見せるというのは相当なギャンブルだったと思います。下手したら、全く別のキャラクターになってしまう、「ジェームズ・ボンド」ではなくなってしまう可能性のほうが高かったはずです。それは、ダニエル・クレイグのボンドだけでなく、007映画が何十年も受け継いできた「男性が憧れる男性像としてのジェームズ・ボンド」さえもぶち壊してしまう覚悟が必要でした。


しかし、実際はそれによりさらに多くの人を魅了し、ジェームズ・ボンドのファンを増やす結果となりました。
ジェームズ・ボンドの人間的な部分、ちょっと可愛くておちゃめな部分…「こんなボンド、見たことない!」「でも、余計に好きになった!」という人、多いです。


脚本の手直しをフィービーに要請したのは、なんとダニエル・クレイグ自身だったとのこと。

ちょうど007の25作目となる本作の制作に当たり、数年前に女性への性差別・セクシャルハラスメントに対する世界規模の反対運動「#Me Too」を受けて、プロデューサーもこの世界的な動きを映画に反映させるべきであるとの見解を発表。フィービーは手直しの際に、描かれているボンドはいまだに女性への扱いに問題があることを指摘し、"the important thing is that the film treats the women properly"(「この映画では女性を正当に扱うことが何より大切」)として大幅な変更を加えたとのこと。


実際の映画では、全く素人の私でさえ彼女が手な直ししたであろうキャラクター設定やセリフ、シーンなどを認識することができました。その変更は男性を糾弾するものではなく、「女性=男性より下」という扱いがなくなったということ。


そしてそのことで、個人的にはキャラクターの一人ひとりが以前よりもしっかりと「キャラ立ち」しているように感じました。
だって、「女性との比較」による強さ・有能さ、「女性を手懐ける」ことで表現していた男としてのセクシーさが使えないわけですから。性別を超えて、皆一人ひとりの存在が際立っていました。



今回の映画では、今まで以上にお客さんからの笑い声も多かったのも印象的でした。



この映画のヒットにより、これからの007のみならず、「女性=弱い存在、お色気要員」としてしか扱ってこなかった他の映画にも、それ以上に映画界全体にも大きく影響を及ぼすことになるのではないかと思います。




ちょっとセクシズムの点に集中しすぎてしまいましたが、内容もテンポもひとりひとりのキャラクターも抜群です。



また、ちょっとネタバレになってしまいますが、「日本的要素」も少し盛り込まれています。
もしかしたら、これは監督が日系アメリカ人のフクナガさんであることも関係しているかもしれませんが、ボンドの土下座の仕方がちゃんとしていて、日本人としてはそんな妙なところに感心しました。でもこういうちょっとした要素、すごく大事ですよね。昔、チャン・ツィイー主演の『SAYURI さゆり』を見たときに、日本人役の俳優たちの作法が目も当てられないほどひどく、映画自体に集中できなかったことがありましたから。


また、個人的にはQ(ベン・ウィショー)とCIAのパロマ(アナ・デ・アルマス)の二人の演技とキャラクターがすごく良かったなー。
パロマのような笑いを誘う(でも仕事できるしかっこいい)キャラクターって、007映画の中ではかなり珍しいのでは。



とにかく、最高に良かったです。
観はじめて20分で、「この映画は2022年の個人ベスト5には絶対に入る」と確信したほど。


そして、ダニエルのボンドはこれで最後ですが、次回の007も楽しみになりました。
次期ボンドは、一体誰なのか?





これまでの007シリーズの感想はこちら。

「007 慰めの報酬 ~Quantum of Solace~」
『007 スカイフォール ~Skyfall~』
『007 スペクター ~Spectre~』





最後に、私が大好きなフィービー・ウォーラー=ブリッジについて。日本の皆さんにももっと知ってほしい!
ぜひドラマシリーズ『フリーバッグ(Fleabag)』や『キリング・イブ(Killing Eve)』をご覧になってください。アマゾンプライムやNetflixにあるはず。双方とも彼女が脚本、監督を手掛けた作品で、それぞれが全然違うテイスト(コメディーと本格スリラー)。そしてどちらもとんでもなく面白くて中毒性があります。『フリーバッグ』の主役を務めているのも彼女。本当に多才な方で、ドラマも心の底からおすすめ。






おすすめ度:☆☆☆☆☆+α

『25年目の弦楽四重奏 ~A Late Quartet~』

2016年09月27日 | 映画~な~


2012年 アメリカ映画



これまでの数ヶ月間、どうも映画熱が冷め気味で、観始めても集中力が続かなかったり楽しめなかったりでした。この映画は、久しぶりにちゃんと観た一本。フィリップ・シーモア・ホフマンが出演しているというのが、この映画を選んだ一番の理由です。


カルテットを組んで25年のベテラン音楽家たち。素晴らしいバランスで美しい音楽を奏で続けてきた彼ら。しかし、メンバーの1人の体調に異変が生じたことから、ひとりひとりの胸の内、グループのバランス、私生活は舞台の上とは違った一面が表面化。



映画の感想の前に…この感想を書くために、日本の邦題を今回はじめて知ったのですが、ちょっと脱力どころではなくソファから落ちそうになりました。邦題の酷さは今に始まったことではありませんし、批判するのも今更な気もします。配給会社、映画会社でしっかりと話し合いを重ねた結果漬けられたタイトルなのでしょうが(…)、なんだか映画の良さを見事に半減しているようにしか感じられません。もし出演者を知らずに日本語のタイトルだけを見たら、私は多分この映画を見たいとは思いません。日本に限ったことではないかもしれませんが、小説の題名ってすごく大切です。芥川賞などの大きな賞の選考過程でも、題名の面白さ、引きつける力に関してはいつも言及されています。私は映画も同じく、作品として世に出すとき、特に特定のマーケットに向けてそれを打ち出すときに、そこに合わせたタイトルを現地の言葉で表現するのはものすごく責任重大なことである思っています。でもその責任の重大さに気づいていない人たち、もしくは会社がその任務を行っているように思えてなりません。



さて、あらためて映画の感想です。フィリップ・シーモア・ホフマンの演技を楽しむのに、いい作品でした。そして出演者たちのバランスが絶妙。誰か1人が抜きん出ているとか、誰かが誰かの影に隠れてしまうということがなく、それぞれの立場や一筋縄では行かない感情、人間の多面性が見事に表現されていて、どの役にも色あせがないことが素晴らしかったです。




そして、ここ数年お気に入りのイモジェン・プーツが出演していたのは嬉しい驚きでした。まだまだ20代の若い俳優なのですが、ただ与えられた役を演じているのではなく、「この子は本当にこういう性格でこういう感性の持ち主なんだろうな」と錯覚してしまうほど、その役の台本には細かく描かれていないであろう性格をしっかりと浮き上がらせる事のできる、類まれな俳優さんだと思っています。この映画の中では、「プロの音楽家を両親に持ち、自身もバイオリンの勉強をする学生で、子供の頃はツアーで忙しい両親に会えず寂しい思いをしていた」という役どころ。それが、例えば、彼女の笑い方、笑い声のトーン、そしてその状況をどうして面白いと思っているか、その笑いの裏にある彼女と登場人物との立ち位置…一つの笑いで、ここまで表現しているんです。


実は、私が彼女の演技に打たれたのは『A Long Way Down』というイギリスの映画だったのですが、この映画でも彼女の演技力の高さが光っていました。共演のベテラン俳優たちをもしかしたらちょっと食っていたのではないかと思うほど。この『A Long Way Down』は日本では公開されていないようで(2016年9月現在)、またあまり高い評価を得ていないようなのですが、私は大好きです!もう3回くらい見ています。



話をもとに戻します。
この『A Late Quartet』は、一応「コメディー」というカテゴリーになっています。映画を見てみると、あからさまに笑いを取りに行っている内容では決してありません。しかし、日常生活での人間の悲哀やその滑稽さ、心の葛藤や矛盾、感情の多面性など、一筋縄ではいかないところが、ほんの些細な日常のデキゴトの中に散りばめられていて、それがメンバーの体調不良をきっかけに表面化されます。道徳では割り切れない、どうにも出来ない人間の性やエゴたちです。それぞれの事象は、「映画やドラマでしか起こり得ないこと」ではなく、恐らく私達の誰もが多かれ少なかれ経験している、本人たちにとっては大事件…でも他人にとっては意外とよく聞く話…程度のこと。でも、だからこそ人間臭さとか面倒くささとか、同時に人間の可愛らしさが出ていて、登場人物たちが愛おしくなります。


私のお気に入りは、カルテットメンバー4人が抱えているそれぞれの問題が隠しきれなくなったあと、初めて4人そろっての練習の風景。ある者は自分に知らされていない何かがあることに気づき、ある者は衝撃の事実を伝えられ・・・こう書くと、本当に衝撃的でシリアスなシーンのように聞こえるかもしれませんが(当事者にとってはその通り)、赤の他人である私(や観客)は一歩引いてその4人のいざこざや衝突を眺めており、彼らが沸点を超えていく中で思わず発せられる映画の本文(と言うか物語自体)に関係のない本音ややり取りが物凄くリアルで、思わず声を上げて笑ってしまったほど。そこはベテランたちの競演(フィリップ・シーモア・ホフマン、クリストファー・ウォーケン、キャサリーン・キーナー、マーク・イヴァニール)だからこその抜群の間や駆け引き。そして台詞がすばらしい!特にこのシーンのシーモア・ホフマンを見て、「ああ、やっぱり私はこの俳優さん大好き!」と笑顔になりました。



最後の締め方もとっても粋でした。どんなに衝突しても難しさが合っても、お互いの才能はしっかりと認め合い尊敬しあっている関係が表現されていて、また反発しながらも両親の音楽家としての才能に憧れ愛している娘の姿もあり、静かでキザだけど、カッコいいエンディングだなと思いました。






おすすめ度:☆☆☆☆★

「21g」

2007年12月22日 | 映画~な~
いやーーーー、暗かったわ。

夫と娘を交通事故で失った女性
男性と幼い少女2人を車でひき殺してしまった男性
交通事故で亡くなった男性の心臓を移植された男性

2時間で登場人物3人の関係性をうまく描いているけど、始めの30分は意味不明に陥ります。過去と現在を行き来する手法はよく使われるけど、これはそれが激しい。あっちいったりこっちいったりで、本当になんのこっちゃわからない。ただ、その不透明さがあるからこそ、謎めいた雰囲気を出しているし、重いテーマを少しテンポがあるように見せる効果はあげられていると思う。


ショーン・ペンってどんな映画でも自身の個性が役柄を凌駕してしまっている気がする。何を見ても「ショーン・ペン」にしか見えないんだよな~、私には。 『カジュアリティーズ』は抜群やったけど。


シャルロット・ゲンズブールの存在が、いい感じに重い映画の中の息抜きポイントになっている。フランス語訛りのイギリス英語を話す彼女の透明感のある演技は、曲者ショーン・ペン(ある意味ほめ言葉)のいい緩和材に。彼女の存在が、アメリカの片田舎で起った「非日常」のドラマに、さらに「非日常」性を加え、映画に深みを出していると同時に、窒息しそうな重いテーマに新鮮な空気を入れる役割を果たしているような気がする。


もっと「21g」という数字にまつわる話が展開されるのかと思っていたけどそうではなく、たった「21g」という計量した重さと、人々が感じる「死」の重さとの違いを数字で表すことで際立たせている・・・のかな、と勝手に思ってます。


デル・トロの存在感やナオミ・ワッツの演技はさすが。

何度も見たいと思う映画ではなく一度で十分。



お勧め度:☆☆☆★

「ナイロビの蜂」

2007年09月20日 | 映画~な~
2006年5月に鑑賞。
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公開されたばかりの『ナイロビの蜂』を見に行った。ナイロビの蜂…ってどういうことだ?ポスターのデザインを見る限り、かなりべたな恋愛映画っぽいのですけど…と覚悟して見に行ったのだけど、かなり面白い映画だった。恋愛映画ではなく、社会問題を取り上げた映画。


もともとのタイトルは『The Constant Gardener』。それが何で『ナイロビの蜂』?と疑問だったのだけど、映画を見て納得…というか失笑。映画がすばらしいだけに、このタイトルはなしやろう、と涙を呑んでしまう。でも、すでに映画化される前に出版されている原作の題名が『ナイロビの蜂』だから、もうこれは仕方ないのかも。旦那(欧米人)も「ありえへん」と言葉を詰まらせる。


さて、主演はレイフ・ファインズとレイチェル・ワイズ。レイチェル・ワイズの存在感がすばらしかった。彼女の作品と言うと、『チューブ・テイルズ』が一番印象的だったのだけど、結構いろんな映画に出てるのね。コンスタンティンにも出てたのか。とにかく彼女の内面からにじみ出てくるような美しさに目が釘付けでした。

レイフ・ファインズは『シンドラーのリスト』や『イングリッシュ・ペイシェント』に出てた人。どうも私は『ロリータ(キューブリックのじゃなくて新しいほう)』のジェレミー・アイアンズと勘違いしていた模様。


画像を探していて気がついたのだけど、本来のポスターと日本版のポスター。ベースは同じなのだけど、一部違う。ポスター下部の銃を構えた男の影が、日本版にはない。これが有ると無いとではだいぶ受ける印象が違ってくる。いつも思うのだけど、日本の映画配給会社の広告の仕方って本当にへたくそだと思う。恋愛映画と見せかけたほうが動員数増えるのかな。

とにかく、レイチェル・ワイズの美しさに注目。
そして物語りもかなり面白く、考えさせられます。

お薦め度:★★★★☆

「ナイトミュージアム」

2007年09月20日 | 映画~な~
しばらくの間、最近1年で観た映画の感想をアップしていきます。
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ベン・スティラーの『ナイトミュージアム』を見てきました。アメリカ自然史博物館の展示品が、夜中になると動き出すというかわいい話です。中身はありませんが、素直に楽しめます。コドモに受けそう。ベンの作品にしてはやや大味ですが、細かい笑いがたまーーーに入ってます。

私、ベン・スティラー大好きですの。オーウェン・ウィルソンも好きですの。伝説の映画(私の中で)『Zoolander』に出会ってからというもの、彼の映画は見逃しません。見ていない人は見るように。なんならDVD貸し出しますから。


そういえば、オーウェン・ウィルソンはどうしているのでしょう?自殺未遂報道があって、驚きました。元気に銀幕復活してほしいです。あの人にしか出せない味がある俳優さんですから。


お薦め度:★★☆  子供連れには受けるはず。