映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

ネット不調。

2009年03月24日 | Weblog
家からネットに接続できなくなってしまいました。おそらく使用しているルーターに問題があると思うのですが、復旧のめどが立ちません・・・ええ、イギリスですから。何もかもがスムーズにはまいりません。

今後の感想文の予定は

カレンダー・ガールズ
ジュノ
俺たちのフィギュアスケート
フライド・グリーン・トマト
パプリカ
・・・

「ヴェラ・ドレイク ~Vera Drake~」

2009年03月11日 | 映画~は~
2005年 イギリス映画


50年代のロンドンが舞台。夫と2人の子供たちと慎ましやかに生活する労働者階級の女性ヴィラ。働き者で穏やかな性格から誰にでも好かれ、信頼される彼女。そんな彼女が突然逮捕される。金儲けでもなんでもなく、ただ困っている若い女性を助けてあげたいがために行っていた中絶行為だが、医師免許を持っているわけでもなく、法に触れたのだ。



公開当時、イギリスで賛否両論を引き起こしたと言うこの映画。被告となったヴィラの有罪が確定したところで映画は終わります。この映画に心が救われるような要素は皆無です。どこまでも暗い。でも闇雲に見ている側を落ち込ませようとしているのではなく、これが当時の労働者階級の人々の生活。わざと明るく描いたり、過剰に暗く描いているのではなく、淡々と、当時の空気や彼らの生活、人生の辛さを描いた作品。…と解説してくれたのは、一緒にこの映画を見ていたイギリス人。私もこの映画を一人で見てたら、「何が言いたいんだ」とその意図を汲み取れずにいたと思います。


中絶を選んだ若い女性たちというのもいろいろで、快楽のためにセックスをし子供を宿して、中絶なんかいとも簡単に考えている中産階級の娘もいれば、生活のための売春が原因だったり、男性に強制されたと言う男尊女卑時代を象徴した背景も。ヴィラは、彼女らから一銭たりともお金を受け取ることなく、ただ「困っている若い女性を助けてあげたい」という一心で、誰もやりたがらないこの「仕事」を始める。


決して裕福ではなく、日々の生活だって余裕があるわけでは全くない。一生懸命働き、その日その日を生きる彼らの生活。息子は仕立て屋として腕が立ち、娘の結婚が決まったところだった。家族がその幸せをかみ締めている最中に、突然警察が現れる。

調べの中で友人だった女性が、彼女が中絶を施した女性やその家族から金銭を受け取っていたことも発覚した。彼女には一銭だって入ってはこなかったのに。押収された証拠品の中には、チーズおろしとピンク色の石鹸(殺菌効果が高いと言われる当時特有のものらしい)。若い女性たちに優しく親身になって行った結果が逮捕、そして有罪。



公開当時の論争の様子を知る由はないが、金儲けでも何かやましい理由があるわけでもなく、ただ女性たちを助けたいと言う思い、そして実際に救われた女性たちが大勢いたこと、それなのに判決は全く容赦のないもので救いようのない話の展開に賛否が分かれたのではないかと思う。


ヴィラを演じた女優(イメルダ・スタウトン)の演技もすばらしく彼女が演じたヴィラの「人柄」が更に見ている側を落ち込ませる。「どうにかしてヴェラを救うことはできないわけっ?」と言葉にできないほどのやきもきとした感情に襲われます。このやるせなさ。救いのなさ。でもこれが、当時の労働者階級の人々の現実。この女優さん、たくさんのイギリス映画に出演している方なのだそうですが名前を知りませんでした。『恋におちたシェイクスピア』に出ていたと聞いて「ああ、あの人っ!」と衝撃です。ほかにも『チキン・ラン』で声優としての出演や、『ハリー・ポッター』とものすごく出演作が多いです。


たった今ウィキペディアを見るまで知りませんでしたが、この映画、マイク・リーの監督作品だったのですね!この映画は、マイク・リーの子供のころの記憶や思い出と結びついているのだそう。実は最近、マイク・リーの作品で気になってるものがあってDVDを買おうかどうか迷っていたところだったのです。彼の作品は『秘密と嘘』しか観たことが無いのですが、何せ中学生、高校生の時だったので楽しめた記憶も物語の内容もさっぱり覚えていません。もう一度観てみたいなぁ。そしてさらに驚いたのが、この映画が日本で公開されていたと言うこと!マイク・リーの作品なら、小さい映画館で上映されていたのでしょうね。たまたまテレビでやっていたので見たのだけど、この映画の名前も全然きいたことありませんでしたわ、あたくし。



見ていて楽しい映画ではないし、見るタイミングを選ばないと気持ちが落ち込んで大変なことになるような作品。それでもこの映画がいいと思うのは、イギリスの社会に生きる人々の生活の一編を、飾り立てることなく正面から見据えた作品であると思うから。私たちが普段テレビで目にする、おしゃれなロンドンの街並み、王室の生活とはかけ離れた、しかしこれも本当のイギリスの一面であることを認識するのに役立つ一本だと思います。



おすすめ度:☆☆☆★


「スラムドッグ$ミリオネア ~Slumdog Millionaire~」

2009年03月06日 | 映画~さ~
2008年 イギリス映画


インド・ムンバイのスラムに生まれ生活していた2人の兄弟と1人の幼馴染の成長を軸に、主人公が「クイズ・ミリオネア」に出演し大金を得るまでを描いた物語。


本当はベンジャミン・バトンを観に行ったのだけど、この日は「オレンジ・ウェンズデー」。イギリスではオレンジと言う会社の携帯を使用している人は、系列映画館で半額で映画を見ることが出来るのね。さらにアカデミー賞の後と言うこともあるのかないのか、チケット売り場は長蛇の列。結局映画の時間までにチケットは買えず、もう1つ見たかった映画『スラムドッグ・ミリオネア』がその15分後からだったのでこちらに変更。



クイズ・ミリオネアは全世界で放送されていて、スタジオのセットも音楽も、司会者の番組の進行の仕方も全く一緒。もともとイギリスの番組だったのね。へ~、知らなかったわ。インドでも放送されてるのね~。主人公のジャマールはこのクイズの回答者。もう少しで全問正解で賞金に手が届く。彼の足を引っ張ろうとするトリックにもめげず、彼は全問正解を果たす。「事前に問題と答えを知っていたのでは」と言う疑惑も湧くが、もちろんそんなわけはなく、すべてのこたえは彼がたどってきた人生の中にあった。



とにかく、違う。



監督はダニー・ボイル。『トレインスポッティング』のひとね。あの後ディカプリオの『ビーチ』やここ数年だと『28日後』とかで有名な監督。まぁ、『28日後』は見てないんだけど。今回の映画は彼のカメラワークの面白さ、疾走感がすばらしい。冒頭の子供たちが走り回るシーン(いや、映画全体で走り回ってるけど、特に冒頭)は最高。そしてインド独特の色使い。洋服や洗濯物の色だったり、街の風景だったり,埃っぽかったり、原色が押し寄せてきたり。「ビーチ」を見たときは、ディカプリオの名前と存在が大きすぎて、なんだか旨やけになった記憶があるんだけど、トレスポも今回のスラムドッグも、まだそこまで有名でない、もしくは全くの無名の新人たちを起用して思いきった演技をさせるのがものすごくうまい監督なんじゃないかと思う。



そう、俳優たちがものすごくものすごくいいの。子供時代から始まって現在に至るまでの時間、1人を3人の俳優が演じているのね。子供時代、青年期、そして現代。ジャマールとおにいちゃんのサリム、幼馴染のラティカも当然だけどそれぞれ3人が演じているんだけど、そのすべての俳優たちが、誰一人色あせることなく、見事にすばらしいのね!これって奇跡に近いと思うのよ。どんなにいい映画でも、脇役を含めてどこかにがっかりな誰かがいるものなのよ。それが全然ないの。お兄ちゃんは、青年期にジャクソンファイブ時代のマイケルに、そして現在に至ってはサミュエル・L・ジャクソンになっちゃうのね(謎・・・いや、私にはそう見えただけ)。良くぞ見つけてきたわね、とため息混じりにボイルにつぶやきたいくらい(何様?)。


主役のジャマールを演じたデイブ・デパールはイギリス人らしいわ。イギリスの『スキンズ』と言うドラマに出ていて人気があったとのこと・・・『スキンズ』は10代向けのドラマなのね。ブリストルと言う街が舞台で毎年やってるんだけど、見たことなかったわ。2008年の『スキンズ』には、『アバウト・ア・ボーイ』の子が出てたのは覚えてるんだけど。


この映画は構成上、時代が前後するのね。現在と過去を言ったり来たりするのだけど、それぞれの時軸がしっかりしているからか、全く話がぶれたりしないのね。


まさか「クイズ・ミリオネア」があんなに大々的に映画のテーマになるとは思っていなかったわよ。映画の名前からの憶測(スラム出身の人がお金持ちになる)以上の情報は全くなしだったから、いやーびっくりしたわ。



何となく『フォレスト・ガンプ』を思い出したのよ。映画の構成が。いや、全然違うんだけど、『フォレスト・ガンプ』は1人の男性の人生が、アメリカの栄光に見事に沿っているわけじゃない?この映画は、ジャマールの人生の中に、ミリオネアになるべく質問のすべての答えがあるわけよ。あ、フォレスト・ガンプは好きじゃないんだけどね。


スラムにの生活の現状、問題もきちんと描いていて、観ていられなくなる場面もあります。しかしそんな中でもイギリス映画が得意とするユーモアや笑わせどころもきちんと丁寧に作られていて、とにかくテンポのいい作品。非凡です。

ラティカが美しくて、ずっと彼女を見つめていたくなります。

最後のエンドロールまで目が話せません。あの物語の後に、このエンドロールは洒落が聞いていて最高です。ボイルさん、見直しました!



日本公開は2009年4月18日から。



おすすめ度:☆☆☆☆☆