八国山だより

ノーサイレントマジョリティ!ごまめの歯ぎしりといえど、おかしいと思うことはおかしいと自分の意思を発信しなければ

- 小川 勝の直言タックル

2013-02-11 11:43:02 | ニュース・時事
 以下は2月11日付け東京新聞「こちら特報部」のコラム「小川 勝の直言タックル」に掲載されていた「監督の本当の役割」という記事を転載したものです。


選手の心を動かすものは
 監督の暴力問題に関する報道を見ていると、頭に浮かんでくる1本の映画がある。米国の高校女子バスケットボールチームを7年間撮り続けたドキュメンタリー映画「ハート・オブ・ザ・ゲーム」(2007年)だ。

 ワシントン州シアトルにあるルーズベルト高校は、全米的な強豪校ではなかった。しかし10年ほど前、ビル・レスラー監督が就任すると勝ち始めた。監督の本職は大学で税金額を教える教師。バスケットボール好きが高じて高校の監督に応募し、採用されたのである。米国の高校では、このように外部の人材を1シーズン千ドル(約9万円)程度で雇うのが一般的なようだ。

 言うまでもないことだが、監督と選手の関係は日本とはまったく違う。試合に負けると、監督に文句を言う選手もいる。大きな試合に負けた後のロッカールームもそのまま撮影されているが、最初に選手たちが想いをぶつけあい、そのあとで監督が話し始める。基本的に、監督は選手の話をよく聞く。

 しかし、選手のわがままを許すかというと、そういうことではない。練習は厳しい。監督は長時間オールコート・ディフェンスをやり切るスタミナを選手たちに求め、厳しい走り込みを課す。すると、選手たちの中から「勝つための練習よ!」という声が上がって、全員が真剣に取り組み始める。

 自分で言った目標をやろうとせず、練習直前に私服で体育館に現れた選手には「7分後、着替えてここに来なければ退部したものと見なす」と言い渡す。暴力も罵倒もないが、監督は「誰を試合に出すか」という最終権力を的確に行使すれば、選手を動かすことができることを見せている。

 
 選手が意見を言うことを奨励し、話に耳を傾けることは、決して「わがままを許す」ことではない。それが、この映画を見ると理解できる。

 チーム内には人種問題もある。また、日本ではほとんど考えられないことだが、主力選手が妊娠して、子どもを産んでからチームに戻ってくるという思わぬ展開もある。それでもレスラー監督は、出産した選手が子どものために学業にも懸命に取り組み、学校に戻ろうと努力するかぎり、彼女の側に立って行動するのである。そして、ラストは感動的な州選手権優勝で映画は幕を閉じる。

 選手の人生に献身すること。それこそが監督の仕事だということが、この作品を見るとよく分かる。選手の心を真に燃え立たせるのが何なのかも分かる。暴力や罵倒もときには必要だという声を聞くたび、この映画を思い出すのである。(スポーツライター)







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