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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

10月8日・エルンスト・クレッチマーの「天才」

2013-10-08 | 科学
10月8日は、アルゼンチン大統領だったフアン・ペロン(1895年)が生まれた日だが、ドイツの精神医学者、クレッチマーの誕生日でもある。
自分は中学生のころ「自分は天才にはなれないものかしら」と、宮城音弥、ランゲ・アイヒバウムといった心理学者たちの本を読んで、天才について勉強した。そうしたら、天才と呼ばれている人たちの生きざまがおもしろくて、自分のことはどうでもよくなってしまったのだけれど、そんななかで、読んだのが岩波文庫のクレッチマー著『天才の心理学』だった。やはり、とてもおもしろかった。

エルンスト・クレッチマーは、1888年、ドイツのヴュステンロートで生まれた。シュトゥットガルトのラテン語学校を出て、クレッチマーは18歳のときから、チュービンゲン大学で、神学、医学、哲学を修めた。大学卒業後は、ヴィネンタール州立病院をへて、チュービンゲンのロベルト・ガウプ教授の助手となった。ガウプは、ドイツ精神医学界の一大潮流であるチュービンゲン学派の創始者である。
第一次大戦中は、軍医として兵役についたクレッチマーは、38歳の年にマールブルク大学の教授となり、58歳からはチュービンゲン大学へ移った。
1964年2月、チュービンゲンで没した。75歳だった。
著書に『ヒステリーの心理学』『体格と性格』『天才の心理学』などがある。

クレッチマーの名がよく引っぱりだされるのは、体型と気質の関係である。クレッチマーは臨床体験を通して、患者の体格と、その病気とに深い関係性があることに気づいた。
精神病でいえば、躁うつ症には肥満型の人が多いのに対して、分裂症(統合失調症)は細身型に多いといったようなことである。
そうした分析を踏まえて、彼は人間の体型を大きく三つに分けて、それぞれの気質をつぎのように提唱した。

「肥満型」躁うつ気質。社交的、親切、温かみがあり、躁のときはユーモア、うつのときは物静か。
「細身型」分裂症気質。非社交的、内向的、周囲に合わせづらい、神経質な夢想家。
「筋骨型」粘着気質。粘り強く、几帳面。秩序を重んじ、がんこ。ときに感情が爆発。

自分は中学生のころ、このクレッチマーの分類を知って、こう思った。
「すると、肥った人がダイエットしてやせると、だんだん人づきあいの悪い、神経質な人になっていくのかな」

また、クレッチマーは、天才と精神病の関係の研究でも有名である。岩波文庫にあるクレッチマーの『天才の心理学』(内村祐之訳)を読むと、偉業をなし遂げたえらい人というのは、みんな変人か病人ばかりみたいに見えてくるからおもしろい。
「ここでツェッペリン伯を想起してみよう。彼は多年ボーデン湖のほとりに住んで、飛行船作りに没頭し、飛行船を作っては失い、失っては作りしていた。(中略)彼は精神病院に収容すべきあわれな精神病者だとさえ思われていた。」
「ときどき彼(ディーゼル)は憂鬱になった。夜になると、彼は橋の上からセーヌ河を見つめ、自殺しようと考えた。」
「ライナー・マリア・リルケは、多年にわたって夢遊病者のように奈落の淵をさまよい、いつも分裂症性の破局の縁すれすれの所にあった。」
えらい人というのは、つくづく大変だなあ、と思う。というより、人が生きていくのは、誰でも精神がおかしくなりそうに大変なことなのだ。そのなかでも、凡人より、なにかことを成そうというえらい人は、それだけ大変でおかしくなってしまう、そういうことなのだろうと思う。
(2013年10月8日)



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