9月7日は、シンガーソングライターの長渕剛が生まれた日(1956年)だが、作家、島木健作の誕生日でもある。
島木健作は、1903年、北海道札幌市で生まれた。本名は、朝倉菊雄。彼は2歳のとき、父親が没し、彼は苦学して、22歳で東北帝国大学に入った。
大学に入ると、すぐに学生運動に熱中しだした。各地の労働組合や、農民運動に参加し、日本共産党に入った。当時の左翼運動の考え方では、社会は資本家たちの支配階級によって支配されているので、被支配階級である学生、労働者、農民は一致団結して対抗しなくてはならないのである。運動中、朝倉は肺結核を発症して苦しんだ。
一方、彼が大学に入った年に、治安維持法が成立していた。この法律を根拠として、政府は1928年3月15日に、全国で日本共産党、労働農民党関係者の一斉検挙をおこなった。この「三・一五事件」で、24歳だった朝倉も検挙された。身柄を拘留され、裁判が進むなかで、朝倉は、26歳になる年に社会主義思想を放棄する旨を表明した。いわゆる「転向」である。有罪判決を受けて刑務所に服役し、結核の悪化に苦しんだ後、28歳のときに仮釈放された。
31歳のとき、自分の獄中体験や転向問題をテーマにした小説『癩(らい)』を発表し、「島木健作」として作家デビュー。
34歳の年に『生活の探求』を発表。この本は青年たちの心を強く刺激し、ベストセラーとなった。本を読んだ多くの学生が学業を放り出し、農村へ走った。それほど影響力のある、人を動かす力を持った本だった。
戦中も執筆をしながらも、肺結核に苦しみつづけ、1945年8月、敗戦の2日後に、鎌倉の病院で没した。41歳だった。
『生活の探求』は、東京の大学に入った主人公が、浮わついた学生生活に疑問を覚え、失望し、四国の実家に帰って、父親といっしょに農業をするという話で、家族や地域の人々といっしょに働くうちに、やがて、頭で考えたのでない、からだでつかんだ、地に足がついた思想が彼のなかに芽生えてくる。たしかそんな話だった。
その文章の平易さと、説得力は、独特のもので、当時の若者たちが心を動かされたのももっともだとうなずけた。読んで、文字通り心を動かされた。
ほんとうらしいウソのあふれた現代では、島木健作がなつかしい。
彼はきびしい時代に、つらいからだを奮い立たせて力作を書いた作家だった。彼の小説は、架空の話ではあるけれど、彼はまちがいなく、自身で汗を流して探求した「ほんとうのこと」を示そうとした。それが文章からはっきりと伝わってくる。
(2019年9月7日)
●おすすめの電子書籍!
『小説家という生き方(村上春樹から夏目漱石へ)』(金原義明)
人はいかにして小説家になるか、をさぐる画期的な作家論。村上龍、村上春樹から、団鬼六、三島由紀夫、川上宗薫、江戸川乱歩らをへて、鏡花、漱石、鴎外などの文豪まで。新しい角度から大作家たちの生き様、作品を検討。読書体験を次の次元へと誘う文芸評論。
●電子書籍は明鏡舎。
http://www.meikyosha.com
島木健作は、1903年、北海道札幌市で生まれた。本名は、朝倉菊雄。彼は2歳のとき、父親が没し、彼は苦学して、22歳で東北帝国大学に入った。
大学に入ると、すぐに学生運動に熱中しだした。各地の労働組合や、農民運動に参加し、日本共産党に入った。当時の左翼運動の考え方では、社会は資本家たちの支配階級によって支配されているので、被支配階級である学生、労働者、農民は一致団結して対抗しなくてはならないのである。運動中、朝倉は肺結核を発症して苦しんだ。
一方、彼が大学に入った年に、治安維持法が成立していた。この法律を根拠として、政府は1928年3月15日に、全国で日本共産党、労働農民党関係者の一斉検挙をおこなった。この「三・一五事件」で、24歳だった朝倉も検挙された。身柄を拘留され、裁判が進むなかで、朝倉は、26歳になる年に社会主義思想を放棄する旨を表明した。いわゆる「転向」である。有罪判決を受けて刑務所に服役し、結核の悪化に苦しんだ後、28歳のときに仮釈放された。
31歳のとき、自分の獄中体験や転向問題をテーマにした小説『癩(らい)』を発表し、「島木健作」として作家デビュー。
34歳の年に『生活の探求』を発表。この本は青年たちの心を強く刺激し、ベストセラーとなった。本を読んだ多くの学生が学業を放り出し、農村へ走った。それほど影響力のある、人を動かす力を持った本だった。
戦中も執筆をしながらも、肺結核に苦しみつづけ、1945年8月、敗戦の2日後に、鎌倉の病院で没した。41歳だった。
『生活の探求』は、東京の大学に入った主人公が、浮わついた学生生活に疑問を覚え、失望し、四国の実家に帰って、父親といっしょに農業をするという話で、家族や地域の人々といっしょに働くうちに、やがて、頭で考えたのでない、からだでつかんだ、地に足がついた思想が彼のなかに芽生えてくる。たしかそんな話だった。
その文章の平易さと、説得力は、独特のもので、当時の若者たちが心を動かされたのももっともだとうなずけた。読んで、文字通り心を動かされた。
ほんとうらしいウソのあふれた現代では、島木健作がなつかしい。
彼はきびしい時代に、つらいからだを奮い立たせて力作を書いた作家だった。彼の小説は、架空の話ではあるけれど、彼はまちがいなく、自身で汗を流して探求した「ほんとうのこと」を示そうとした。それが文章からはっきりと伝わってくる。
(2019年9月7日)
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