1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

10月24日・ブルーノ・ムナーリの問い

2017-10-24 | 美術
10月24日は、作家、渡辺淳一が生まれた日(1933年)だが、イタリアの芸術家、ブルーノ・ムナーリの誕生日でもある。ムナーリは絵画、彫刻、仕掛け絵本、家具や工業製品など、いろいろなものを作った人で、ひと言でいえば、前衛芸術家だった。

ブルーノ・ムナーリは、1907年、イタリアのミラノで生まれた。
20歳のころ、芸術家フィリポ・マリネッテが率いる未来派芸術運動に加わり、展覧会で作品を発表しはじめ「役に立たない機械」のいくつものバリエーションを発表した。
26歳のころには、仏国のパリで、シュールレアリスムの詩人であるルイ・アラゴンやアンドレ・ブルトンと会った。
28歳からグラフィック・デザイナーとして活動しはじめ、32歳のころからは出版社のブックデザイナー、雑誌のアート・ディレクターを務めるようになった。また彼は息子が生まれたことをきっかけに、子どものための仕掛け絵本も作るようになった。
30代以降、ムナーリは工業デザインを多く手がけるようになり、照明器具、灰皿、テレビ、コーヒーメーカー、おもちゃなど、さまざまなものをデザインした。
42歳のとき「読めない本」。44歳で「ぎくしゃくした機械」。52歳のとき「2000年の化石」を発表した。50代のころにはしばしば来日したムナーリは、美術評論家の瀧口修造と親交をもち、日本文化への造詣を深めた。そうして、世界各国で子どものための造形ワークショップを開催し、最後まで創作意欲を失わず作品を作りつづけた後、1998年9月、ミラノで没した。90歳だった。

米国の前衛芸術家にアレクサンダー・カルダーという人がいて、「モビール」と呼ばれる、大きな造形作品を作った。なかにモーターが入っていて、作品の部分がゆっくりとまわるものだった。
ムナーリの「役に立たない機械」は、これに似ていて、天井から細い糸で吊るされた棒や薄い板に、また糸で板が吊るされていて、風に吹かれて揺れ、まわる。それぞれの板は互いに触れ合わないように設計されている。
カルダーのほうは、
「彫刻が動いたらどんなに楽しいだろう」
という衝動が作品の前面で出ているのに対して、ムナーリのほうは、
「役に立つ、立たないとはどういうことか」
「機械とはいったい何か」
という問いを発することが、作品の存在意義になっていると思う。タイトルによって、作品が作品を見る者に、考えることを要求してくるのである。

前衛芸術は、それ以前の芸術、たとえばダ・ヴィンチの「モナ・リザ」や、フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」のような作品がもっていたたくさんの要素のなかの「謎」の部分だけを抜き出し、デフォルメ、図形化して作品にしたものである。
こういう前衛作品は、目先のにんじんに振りまわされがちな日常生活に、レモンのひとしぼりをふりかけてくれる。時折は、ムナーリの作品をながめ、ふだん考えていなかったことについて考える機会を、ぜひもちたいものである。
(2017年10月24日)



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