1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

2月22日・ブニュエルの針

2017-02-22 | 映画
「ニャンニャンニャン」の2並びから「猫の日」の2月22日は、俳人、高浜虚子が生まれた日(1874年)だが、映画監督、ルイス・ブニュエルの誕生日でもある。

ルイス・ブニュエルは、1900年、スペインのアラゴン地方、カラダンで生まれた。17歳で、マドリードに出て、そのころ、詩人のガルシーア・ロルカ、画家のサルバドール・ダリらと友だちになった。
20代半ばのころ、ダリといっしょに話をしているうちに、夢で見た光景の話で盛り上がり、ついに二人で一本の短編映画を撮りあげた。それがシュールレアリズム映画の金字塔「アンダルシアの犬」である。
その後、スペイン、メキシコ、フランスと国を変えながら映画を撮りつづけ、「糧なき土地」「忘れられた人々」「昼顔」「哀しみのトリスターナ」「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」「自由の幻想」「欲望のあいまいな対象」などの作品を発表した後、1983年7月に没した。

まだDVDがなかった昔。東京の名画座でよくブニュエルの映画がかかっていた。そのころからのブニュエル・ファンで、「ブニュエル2本立て」などという新聞広告を見ると、せっせと名画座に足を運んでいた。

ブニュエルがダリと共同監督した「アンダルシアの犬」は、冒頭の有名な目をカミソリで切るシーンとか、アリがはいまわるシーンとか、最後の「春」の風景とか、夢にでてきてうなされそうな印象深いシーンが多い傑作だった。
初期の「糧なき土地」や「忘れられた人々」といった作品は、荒涼とした救いのないドキュメンタリー・タッチの作品で、こちらも忘れがたい。
カトリーヌ・ドヌーヴが、昼間だけ娼婦になる主婦を演じたブニュエル作品「昼顔」は、映画史に残る名作である。
「自由の幻想」は、ブニュエルらしさがもっともよく出た作品なのかもしれない。みんなでひとつテーブルを囲んで下着をおろして便器にすわり楽しく話しながら排泄をして、食事をするときはせまい個室に隠れてひとりこそこそと食べるという有名なシーンが入っているのは、この映画である。
「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」や「欲望のあいまいな対象」のような、皮肉とユーモアがきいたシュールレアリズム作品を観ると、なんだか自身を切られるような気がする。観ていて、胸に痛く響くものがあって、なんともいえない、苦い味が、みた後もずっと心のなかに残って、忘れがたい。

向こうがなぜかこちらをよく知っていて、「ほら、ここは感じるだろう?」と、こちらの弱みを針で的確に突いてくる。観る者の心の奥の、ほかの人がまず立ち入らない敏感なところに、ずかずかと入り込んできて、きれいな傷をつけてゆく。ブニュエルはそういう表現者である。
いまでも、ときどき、もっているブニュエル作品のDVDをときどき見返しては、胸が痛むのを楽しんでいる。ちょうど、サボテンをさわってみて「痛っ」と手をひっこめた後に、またさわってみようとする少年のように。
(2017年2月22日)


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