た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

WHITE OUT  ~白馬八方尾根スキー場~

2019年03月19日 | 断片

 リフトに乗った時から、異常はわかっていた。

 名木山ゲレンデで味わっていた快適なコンディションが嘘のようであった。山肌を滑り来る巨大な霧にリフトごと囚われたかと思うと、あっという間に別世界になった。前を向けないほどの猛烈な吹雪である。三月とはとても思えない。真冬の嵐である。気温は一気に十度下がり、我々三人はリフトのポールにしがみついて、なすすべもなくガタガタと震えた。前方のリフトが風で左右に揺さぶられているのが見える。このままではリフトが止まる、と思った。事実我々が乗っている間に二度ほど、あまりの強風のために一時停止した。それでもなんとか終点までたどり着き、我々三人はパノラマゲレンデの上に降り立った。

 しかしいったいどこに、そのゲレンデがあるのだ?

 何も見えなかった。我々は完全に選択を誤った。大自然は一層勢いを増したかのように、横殴りにゲレンデを吹き飛ばしていた。視界は五十メートルもない。危険だ、止めましょう、と同行の二人に呼びかけようとしたら、そのうちの一人の背中が吹雪に消えた。滑走を始めたのだ。

 手遅れだ、行くしかない。

 滑ると言っても、足元の雪が舞い上がるほどの強風で、スキー板のコントロールすらままならない。ずり落ちるようにして数十メートル下がったら、暴風はいよいよ勢いを増し、竜巻の中心に巻き込まれたような状態になった。もはや自分の足下すら見えない。完全なるホワイトアウトである。

 考えていることすら掻き消す轟音。体ごと持っていかれそうな暴風。全身に突き刺さる氷雪。

 一体どの方角に進むべきかも覚束なくなり、怖くて尻もちをついた。動けない。冬山の遭難とはこうしてなるのだろう、と頭の片隅で思った。しかし降りなければならない。何としてでも。二人が心配しているだろう。そもそも彼らは無事なのか?

 一ターン、二ターンしたら立ち尽くす、といったこわごわした滑り方で、ようやく比較的風の弱い地点まで降りて来た。視界が徐々に回復する。

 遠くにかすかにヒュッテが見えた。助かったのだ───。

 

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