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私説三国志について、その天の華地の風

2024-09-28 16:16:00 | 読書

 江森備氏の私説三国志。

 北方三国志に次いで、積んでいた三国志作品を完読しました。
 北方三国志は読むのに1年くらいかかりましたけど、この作品は2ヶ月くらい。すげぇ面白かったです。


 1978年創刊され1995年に休刊となったJUNEという小説漫画の総合雑誌。
 掲載ジャンルは幻想ロマンや耽美。要はBLです。やおいブームの火付け、牽引してきた伝説的な雑誌で、その雑誌の中の企画。

 素人が作品を送ってプロ作家が評価する、小説道場という企画へ、当時素人だった作者・江森備氏が短編を応募。
 その短編が企画内で評価され、江森氏は雑誌でプロデビュー。

 1986年から連載開始、全9巻。
 BL雑誌発という異色の三国志です。


 三国志は色々な、重鎮と言われるような作家の方々が執筆されてますが、それに並ぶほど傑作と名高い作品。
 俺も噂はかねがね。買って何年も経ちましたがようやく読む気が起きた。

 9巻で読みやすかったすね。
 諸葛亮孔明が主人公で赤壁からスタートなんで、話もトントンと早かった。

 本当はもう1巻プラスで短編集が出てるらしいんですが。
 まぁ、読まんで良いかなw この全9巻で赤壁から諸葛亮の死までの一代記となってます。大満足の内容。

 まず1巻。
 いきなりこの作品の特色が一気に出ます。

 諸葛亮と呉の名将・周瑜がモホォの関係にw
 諸葛亮は子供の時、暴君・董卓の奴隷だったという衝撃設定。

 そのスキャンダルがバレ、周瑜に強請られて体を強要されてるという。
 正直、改めて考えるとよう分からん話の流れではあるわなw

 まぁ、日本の戦国時代にも小姓がいたり、古代中国にも勿論男色はあったとは思うが。
 諸葛亮は過去のトラウマがありつつMっ気もあって、周瑜に絆されていくんすね。

 でも、最終的に劉備への忠義を選んで、周瑜を愛していながら毒殺する。
 乙女心ならぬ孔明心で殺される周瑜w 今作の諸葛亮は終始こんな感じで周りを翻弄し続けます。

 ただ、内容自体は演義に沿った展開で、そない目新しくはなかったかな。
 周瑜孔明の関係のスタートダッシュくらい。1巻の時点だと、そこまでドキドキ感はなかった。


 2巻です。
 こっから話の毛色が変わっていく。

 こっからただのBLじゃなく、サスペンス要素。
 政争であったり、ドロドロとした人間関係が描かれていきます。

 赤壁後、諸葛亮に並び立つ天才軍師・龐統が劉備軍へ加入。
 龐統は劉備の養子である劉封を焚き付けて軍内に派閥を作り、諸葛亮と対立します。

 そう聞くと「え? 龐統って劉備の味方ちゃうの?」。
 大抵の人は感じると思うんですが。

 なんでそんなことになるかと言うと、この作品は龐統の呉スパイ説を採用してるから。
 一般的に、劉備を支える龍鳳の二軍師。しかし落鳳坡で敢え無く最後を遂げる非業の人として描かれる龐統。

 大概は劉備の忠臣としての登場ですが、実は劉備の味方になった訳ではなく、呉のスパイ。
 劉備の益州攻めを監視督戦するために来た呉の軍監や役人だったという、そういう説があるんすね。

 まぁ、源義経が実は生き延びてチンギスハンになったレベルで、根拠はないw
 とはいえ、辻褄が合ってない訳じゃないから、多少説得力のある珍説。

 それが今作には組み込まれてて、龐統は完全な呉側というよりかは周瑜の復讐やら諸葛亮への嫉妬だったり。私怨で動く。
 まぁ、結局、乙女孔明にサクッと殺されちゃうんですがw

 ただ、これが話としてよく出来てて面白いんよ。
 それに、そもそも今作は30年以上昔の作品ですからね。

 この珍説は俺も最近知ったくらいで。
 30年前のその当時からちゃんと正史やら資料を読んで、誰かが言う前から疑問や矛盾に気づいて創作に活かす。

 本当に、ただのBLじゃない。
 しっかり三国志への探求、地盤があってこその作品。

 マジでナメてました。お見逸れしました。 
 目から鱗というか、本当に目を見張る内容。2巻から、もうこの作品に首ったけですw

 
 3巻です。
 関羽との関係が良い感じに終わり、フェイメイの件があったとはいえ、もうちょい明るい展開になってくんかなと思ったら。

 この作品はそう一筋縄ではいきませんよw
 3巻は時が飛び、劉備の死に際からスタート。

 そっから益州占領を遡る、振り返っていく。
 龐統を暗殺した余波が広がり、話は次の政敵・法正との対立へ。

 今作の諸葛亮は演義の物語みたく人徳者でもなんでもないから、すぐ人と対立するw
 そういう俗っぽさ、生の感情がよく描かれてて、この作品の特色になってるんすね。

 弟・諸葛均が魏のスパイという、予想だにせん展開で話の複雑さ、底の深さも増し。
 3Pで魏延に犯されたり、忙しい乙女孔明ですw


 4巻です。
 夷陵の戦い、劉備の死を描いてます。

 ここまで関羽や張飛があっさり死ぬの、この作品くらいやろなw
 徐々に孔明の心が劉備から離れていく。樊城夷陵は結構な見せ場だと思うんですが、淡々と話が進む。

 諸葛亮の冷め具合を、文章で表してるんですかね。
 劉備の人称が王や皇帝になって、小説から劉備の文字が消えていく。ここは見てて悲しかったすね。


 5巻です。 南征、孟獲との戦い。
 2巻〜4巻はBLにサスペンスが乗り緊張感が続いてたが、5巻はちょっと気の抜けた展開でしたかねw

 ヘッポコ孔明の南蛮珍道中。
 犯された魏延となんかラブラブなってるし。新婚旅行ですか?w

 5巻中の諸葛亮は色々と腑抜けてて、読み始めはイラつきました。
 初っ端いきなり孟獲に捕まるし、行き当たりばったりなんすよね。

 筆者の作為と取るか、創意と取るか。
 フェイメイとの再会、孔明の情の部分を描き。

 諸葛亮のパブリックイメージというんか、人が想い描く天才軍師の姿を本格的に崩しに来てる。
 今までで一番イメージとの違和感があるかな。

 読む手は止まらないので面白いは面白い。
 けど、カッコいい孔明も見たいねえ。

 それでも5巻全体の創作は素晴らしい。    
 フェイメイことアシマは、造語ではなく本当にある言葉なんすね。

 雲南省・イ族の伝承に登場する精霊の名前なんだとか。
 細かいとこですが、本当に江森氏の三国志に対する知識造詣には脱帽するしかない。

 そのフェイメイに対する扱いも容赦ないw もう舌まで抜かれてるのにw
 祝融の最後も衝撃的。南征は演義の架空キャラばっかですが、そのキャラを活かして生き生きさせてる。

 読み始めは「ん?」と思ったけど。
 正に江森三国志。今のとこ一番面白いかった。


 6巻です。第一次北伐編。
 諸葛亮が自ら涼州へ潜入。隠密で魏を切り崩す、異色の北伐スタート。

 テイ族の阿里、千万など実在人物。徹里吉は架空。史実と架空を混ぜた展開。
 5巻から三国志をはみ出して、作者の独自解釈が目立ってきましたが、堂々と我が道を行く感じ。読者の心を一挙に掴む。ここら辺の切り込み具合はさすがの一言。

 廖立の話が出てきたんも意外。スルーされがちなエピソードやが。
 そっから泣いて馬謖を斬るへ。龐統スパイ説から孔明無能説の採用へw

 見ててヤキモキはするけど、諸葛亮の生の部分。
 別に神通力がある訳でもなく、ただの人間。失敗もする。天才の悪戦苦闘。

 もちろん諸葛亮のカッコいいとこは見たいんだが。
 今思えば、北方三国志は説得力がなかった。孔明を貶めきれてない。

 北方氏も男の子ですからw どうしても孔明をカッコよく描いちゃうんすよね。
 これは男ならしゃーないんすよ。三国志にカッコよさを求めたり。諸葛亮という人物へ愛着が湧いたり。本能のようなもんでしょ。

 でも、江森三国志は違う。諸葛亮を見る目が冷徹で現実的。
 諸葛亮の所業を凄惨なほど描く。リアリティと生の感情。息を飲む展開。
 
 姜維の怪しさが際立ち、サスペンスも戻ってきた。
 読む手がホント止まらん。腹が立つほどの傑作ですねw
  

 7巻です。
 宿敵である司馬懿や劉禅、諸葛亮周辺の話が多い。

 特に蜀内部の話。これ実際ありそうだもんなw
 徐々に諸葛亮の破滅が近付く。チリチリ落ちる砂時計を見てるかのような緊張感。

 それにしても徐庶のささくれ具合よw 味方やったやろお前。
 逆に司馬懿が諸葛亮へ親近感を持つって、なんか微笑ましくて面白い。

 孔明妹や諸葛亮の師匠・華紫陽など存在感のあるキャラが続々登場。
 終盤へ向け、話がどんどん進んでいってます。


 8巻です。李厳との政争です。
 俺の推し武将である李厳。丸々1巻分の登場とは豪華だ。

 まぁ、めっちゃこき下ろされてますがw
 いつか李厳を救済してくれるような作品が出てこないもんすかね〜。

 李厳の扱いは短いながら北方三国志の方が好きだ。
 李厳は諸葛亮に、馬謖同様、北伐敗戦の罪を押し付けられただけって説もあるから。

 諸葛亮による李厳の弾劾は、諸葛亮側だけの意見を抽出してる。
 諸葛亮の意見が蜀漢の史実として扱われてる。歴史は勝者が作る。要は言ったもん勝ち。

 今作の李厳は劉禅にせっつかれ諸葛亮の矢面へ嫌嫌立たされる苦労人、かといって出世やら我欲もありの凡人。
 諸葛亮に遊ばれるだけ、中々見せ場はあったんですかねw
 

 9巻です。五丈原の戦い。諸葛亮の死。
 対魏よりかは味方に殺される、悲壮な末路。

 史実の諸葛亮は病死ですが、今作の諸葛亮は劉禅から直で死を賜るという。
 読み進めるにつれ絶望感が深まる。この9巻は人の愚かさというか、読んでてムカつきますw

 あんな諸葛亮とはいえ、読んでてなんだかだ愛着が湧いてきますねw
 既存の三国志を逸脱する急展開。でも、何故か無理筋とは感じない。

 運良く逃げ果せるものの、付き従うは恋人・魏延のみ。
 司馬懿は遠い西の空へ、命の恩人を想う。

 北方三国志も馬超生存というオリ展開だったけど、「あったかもしれないな」とも。
 この江森三国志も。実際の諸葛亮が感じたことや考えたことは史実からは分からない。

 実際、史実もまるっと信用はできない。嘘や隠し事は絶対あるやろうから。
 三国志が1800年後の現代まで愛されてるのも、別に劉備や諸葛亮が偉大だったからじゃなく、読む手の想像を掻き立てる面白さがあるからなんでしょうね。

 実際のところは分からない。でも、もしかしたら。
 三国志は英雄譚ではなく、ただの恋物語だったのかもしれない。そう感じさせる、哀愁が残る作品。

 久々に長文レビュー書きましたw
 それだけの大作だったと思う。本当に面白かったです。

 では、また。



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