真の新党結成を急げ!
<無能政治家国家からの脱出>
西川攻(さいかわおさむ)の小説
☆「孤高」26
--闘うは、われ、ひとりなり--
” いくどとなく死の淵を彷徨(さまよ)い、
刻一刻と迫りくる死を前に、
今、なお、果たさなければならない使命が・・?
だったらなぜ、なぜ、もっと!もっと!
早くから再会しょうとは思われませんでしたの・・。
西(さい)ちゃんたら!
ンもう、わたし知らないから・・・。”
と、待った無しで切迫した激闘の日々を送ってる裕樹への思いをあらためて胸の奥深く巡(めぐ)らせ、おもわず心の中で叫んだ。
その瞬間、期せずして、、さすがに気丈な千賀子ではあったが、その目には次第に涙がこみあげてきた。
こらえることができず、感極まって更には、嗚咽などによって取り乱すまいと必死に堪えるのが精一杯であった。
無常にもそんな女性であるが故の健気(けなげ)な感情の起伏をも、遮断するかのように「あっ」という間に千賀子を乗せた新幹線は目的地、京都に到着した。
裕樹との言語不要の時空をも超越した阿吽(あうん)の絆は、先般の30余年ぶりの再会によって熱き青春時をよびもどしていた。
そして冒頭の如く思いの丈(たけ)を心で叫んだ言葉・内容とは裏腹、寧(むし)ろ逆に一途な愛しさを甦らせ、再燃させていた。
そもそも裕樹と千賀子の関係は、互い各々が抱く夢を達成するまでは・・、との謂(い)わば、「孤独の賭け」を誓い合って別れた特殊な間柄ではあった。
が、しかし、怯(ひる)むことなく死へのカウントダウンを覚悟の上、自己の人生を全うせんとの裕樹の鬼気迫る壮絶な姿と、貫く使命感の強さに接しおもわず感涙した一条千賀子がそれに応えんと起した行動は実に素早かった。
蓋(けだ)し、文字どうり一世一代の大いなる決断を胸に秘め、余命の全てを賭して今尚、挑み続ける裕樹の積年の使命的野心を成就させるために速やかに動かざるを得ない、居ても立ってもおられない心境に陥ってしまったからである。
30余年の空間があったにも拘らず、永久不変の恋とも云うべき、奇異で斯(か)くもドラマチックな二人の熱烈な関係がスタ-トしたのは・・・。
裕樹が代議士秘書になったばかりの自信過剰と傲慢(ごうまん)さが目立った24歳のときであった。
当時、政権を担っていた党主要派閥の長や大幹部20名(一見、場違いとさえ思われる若すぎる裕樹も代理出席)の宴席が赤坂の某料亭で秘密裏に開催されていた。
一方、周囲から新進気鋭の芸姑として大いなる期待をされ当日デビュウする千賀子も赤坂芸者・千鶴香と名乗り、お座敷勤めの初日であった。
偶然か、必然か、奇しくもその日その席が裕樹とのはじめての会話、出会いの場となった。
「今は、秘書に過ぎませんが、いずれは政権を担って、自分の思いどうりの色にこの国を変えて見せます!変えなければなりません。」
「西(さい)ちゃん、あっ!馴れ馴れしっくってごめんなさい、さきほどお名刺を交換させていただきましたので早速そう御呼びさせていただきますね。
アノ、私ね!芸者として今晩初めてこの席に足を踏み入れた途端、西ちゃんお一人だけが私の目を釘付けにしてしまいましたのよ。
だって、あえて語らなくてもお顔の表情から秘めてはいるもののギラギラする野心みえみえ。
更にご列席のお偉いさん全てに対して、恰(あたか)も小物を見下(みくだ)しているかのような途轍なき逸材ぶりが、透(す)けて見えたんですもの・・。
で、瞬時に、この人こそ、”只者(ただもの)ならぬお人!”と思い込み確信してしまったんです。
表現し難いなんともいえない強烈なオ-ラが全身から漂っているんですもの、当初から言わずもがなです、わたしには、すぐわかりました。
でも、今日ご出席の先生方全員、西ちゃんのように、お「近い将来は・・」と虎視眈眈、天下執りをめざしておられる面々とお聞きしております。
其の中であからさまに、剥(む)き出しの、”やはり”と思いました、、そして同時に、半面、失礼ですがまだ若いな-っとも・・」
「そんなことより、周りの所謂(いわゆる)お偉いさん方の眼も、僕と君のお酌のやり取りをみて苦々しい形相でジ-ッと釘付けになってるみたいだよ。」
「あら、そうですの、お叱りが・、大変!今日が初めてのお座敷ですのに」
「そうだよ、先刻からとぎれることなく嫌な視線を感じる、早くセンセイ方のほうに、おもてなしを集中してよ!飲んでいても気が楽じゃない、はやく、はやく!
チョッと!その前に、一言、言葉を返すわけではないけれど、察するに、僕よりも君のほうが遥かにまだまだ若く未熟だ、もっと勉強してください、千鶴香おねえ様」
その言を聞き思わず「クスッ」と笑い、より一層裕樹に関心を深め嬉々として、淡いがあきらかに艶(なま)めかしい眼差(まなざ)しで誘いを籠(こ)めるかの様に、かるくウインクし、
「あら、西ちゃんに早くも一本やられましたわ、ひとまわりお酌したらまた来ます、では、」
裕樹は立ち上がった彼女のスラ-っとしたうしろ姿や、お酌に廻る際の会話をはじめとする折り目正しい立ち居振る舞い・筆舌に尽くし難いうなじの美しさにすっかり魅了されていた。
単なる芸者としてのそれとは異なり、いかにも気品と気高さを醸し出す一連の動きが凛としていた。
「育ちの良さ」と「生まれついての天性」が合した所産に相違ないと裕樹は思った。
確かに、他の芸子とは明らかに、理屈なしにその美しさは群を抜き、見事さを際立たせていた。
したがって、頭脳明晰・回転力の早さも加わって、後に、赤坂芸者ナンバ-ワンとして一世を風靡するまでに成長するのにそれほどの時間を要しなかった。
<過去は兎(と)も角、話を現在・本論に戻そう>