万事休す
西川攻(さいかわおさむ)の小説
☆孤高24
--闘うは、われ、ひとりなり--
万事休す
抗がん剤治療が出来ないまま数ヶ月が経過したある日、ひさかたぶりにCT等、いくつかの検査が実施され、そして遂に、その結果が出た。
恐れていた事が的中、「肝臓癌が再発し、大腸にも其の疑いが強い」との主治医の診察判断がなされた。
更に、 肝癌摘出手術後、間もないのに、早くも転移再発するからには、「他の臓器にも・・」との良からぬ事態が現実となる懸念も出てきた。
其の有無の確認の意味からもぺットCT検査も受けるべく県立癌センタ-にも出向くことになった。
一連の数々の検査結果は、今のところ、大腸癌と肝臓癌に留まり、他の臓器や脳、骨髄には転移再発等はしてないとのことであった。
問題は、この様な間断なく矢継ぎ早な癌・蔓延化の進捗状況下で果たして、
更なる危険を犯してまで敢えて大手術に踏み切るべきか、はたまた、
死期を覚悟して、その間だけ、自己納得の日々を送り、静かに終末日を迎えるべきか。
一難、去って、また一難の非情な闘病の現実に対し、如何に対応したらよろしいものか、裕樹も、主治医も迷って言葉に窮していた。
将に「万事休す」に陥ってしまったのである。
一週間後、結論を出すべき両者の話し合いの日がやってきた。
「・・・。」
「・・・。」互いに向い合ったまま重苦しい無言の刻が暫し流れようとしていた其の時、先ず,裕樹から口火を切った。
「今まで何度も死の局面にあった自分の命を救ってくださったのは先生のお力だと思っております。
以前にも申上げて参りました、私の命は、先生に預けていることは今回も変わりありません、先生の御指示に従います。」
「では私の意見を云います、正直、いずれかにすべきかいろいろ思案いたしました。
然し西園寺さんの社会復帰の意欲の強さと、
今尚すこぶる元気なことを考え手術に踏み切る方に賭けてみようと思います。いかがですか?」
「はい、判りました、手術よろしくお願いします。」
更に裕樹は一呼吸、間をおいてから、主治医の目をジ-ッと見つめ、そして静かに一語一語噛み締める様に言い放った。
「僕が先生に命を預けるのは、永眠するために預けるのではなく、永眠しないために預ける訳ですので、そのへんのところを踏まえられまして然るべくよろしくお願い申し上げます。」
かくして、来年1月入院、2月始め手術と、日程も其の時、明らかにされた。
この日を機に、平静さを装う外見上の泰然自若の態と異なり、裕樹の心の形相は急速に変化、明らかに、使命的野心達成の鬼と化していった。
今冬にも解散はある。しかし、次期も衆院選は不出馬とならざるを得ない闘病のまっ只中にあたる。
寧ろ不毛で無意味な現行の選挙、些事にいつまでも関わりあう時間とエネルギ-を無駄にする等の従来の如き愚行は、既に裕樹の頭の中からは完全に消え失せてしまっていた。
”兎にも角にも、もう時間が無い、急がなければ”との立場から「一気に天下を執る!」戦略の一点に集中していた。
其の手段として先ずは、廃頽堕落の既成政治家・政党とは格段と、大きく根源的に異なる、万民が渇望の真意を吸引できる意表を突く強力なインパクトある真の新党結成への着手が愈々急務となってきた。
之により、日本国中に大旋風を巻き起こすことからスタ-トし国民の決起を促す。
自らの死を賭けた使命達成の方途は、最早、これ以外は考えられなかった。
同時に、裕樹は予期した。
今冬の次期衆院選の結果政権交代は必至となり来夏の参院選も、自民党の圧勝がよそうされ、ほぼ単独長期政権に近い形となる。そしておそらくその結果の3年後は衆参同時選挙となる。
肝心なのは、大勝負を賭けるのは、この期間にある。
”国民が国家”の
理の大国日本創設をめざし、
「来夏からの3年の間に全てを賭ける!
それまではどうしても死ぬわけにはいかない、何としても生き抜かなければ・・・。」と、
改めて意欲と野心を自らに奮い立たせ、専心せんと必死の思いを募らせる、西園寺裕樹であった。
次回は
「真剣勝負に挑む心組み」
です。
平成25年10月1日
西川攻(さいかわおさむ)でした。