西川攻のブログ

西川攻が日本を斬る!!

小説☆「孤高」 21 ―闘うは、われ、ひとりなり- 西川攻著  

2013-07-30 23:33:00 | ☆ 小説「孤高」

「北方四島一括返還こそ最優先課題!」

 

 

西川攻(さいかわおさむ)の小説

   ☆「孤高」21

 -闘うは、われ、ひとりなり

 

 

 

 赤坂で著名な一流料亭の出先であるその店は西武池袋デパ-ト8階にあった。

 ボックス席で占められている店内で、特別に一室だけある八畳間の座敷へと案内された。

 裕樹と純子は、閑寂枯淡の粋を尽くした部屋に着くや否や、やっと腰をすえ、互いに冷静にむかえ合うことができた。

 正座した純子は、裕樹を見つめ「西園寺さん、お身体は・・お身体はきつくはございません?!」といかにも心配そうな表情を籠めて気遣った。

 

「菊川さんとこうして再会できたせいか、全身を蝕もうと企んでいたがん細胞全てが吹っ飛んだみたいだ。

 これは、僕の知らない間に女性としてより美しくより賢く成長した菊川純子女史なればこその神通力の成せる業としか思えません!

「そんなぁ・・!」と、照れ恥じらいながら、純子はなぜか頬が少しづつほてっていくのを感じた。

 先刻待ち合わせた改札口で、逢うことができた瞬間、突発的に固く固く両手で、初めて握手。

 裕樹のぬくもりが、余韻が残って、純子の心をときめかせていた。

   そんな二人の初々しく仲睦ましい安堵の心を見極めたかのように、

「では・・西(さい)ちゃん、少しお待ちになっててくださいねっ!」

  和服姿がいかにも似合う仲居と思われるその女性、一条千賀子は、裕樹にやさしく微笑み語りかけた.

 そして純子のまえで膝まつき深々と一礼して部屋を去った。

 凛とした折り目正しい彼女の立ち居振る舞いにおもわず魅入っていた純子は、

「おきれいな方ですね・・・。でも、でも・・今確か西(さい)ちゃんとおっしゃっておられましたよ?」と淡い嫉妬をまじえて殊更小さな声で裕樹に囁いた。

  然し裕樹はその問いには一切触れず、敢えて遮る様に

「菊川さん、あらためまして・・3年前の逆境を救っていただき本当にありがとうございました。

 お蔭様で意欲も信念も萎えることなく再起をめざし勇気を以って今日まで生き抜くことができました。」と、

  とりとめも無い会話から一転、真顔になって心から謝意を体全部で表現した。

  余りにも実直で真剣な裕樹のその態度に困惑した純子は

”自分が思い及ばないところで言語に絶する、どんなにか大変な日々の連続だったに相違ない”と

 裕樹が葛藤した3年間の無念を類推した。

 裕樹が体感したであろう苦悶のひとつひとつが、わがことの如く心に「グサリッ!」と突き刺った純子は、胸の痛みを抑えることができなかった。

 

 折しも丁度そのとき店内から静かに流れもれてきた曲「愛のコンチェルト」が奏でる切なく美しい響きがいかにも純子とマッチ、女ごころを高揚させ躍動させた。

 如何ともなし難いほど込み上がる涙ぐまんと高まる感情を、吹っ切ら無ければ、との思いに駆られ、純子は必死に本論に戻すべく話を進めた。

 「一年前に国会詰めの報道記者をやめ新聞社に辞職願いを提出した決定的な理由は、西園寺さんが出馬断念の記者会見で訴えられておられた内容をその時、漸く理解出来、実感したからです。

 「とくに西園寺さんが強調されておられた、➋西園寺裕樹は次期衆院選に出馬するまでには真の新党結成を実現します!の文中で

 

 "今尚、正しい競争原理を全く無視したまま不公正極まる不毛な異常格差選挙が強行されてます。

 その結果有為な人材ほど政界のとばくちで排除され、未来永劫に真の政治家誕生がますます困難となっております。

 それに呼応して、既得権益にとっぷりと漬かった卑怯者の血が全身に流れてしまった能力なき自己保身の権化と化した小粒政治家・政党に永田町はすっかり占拠された感なしとしません。

 言い替えれば自力で解決できない悪しき集団に居座られ、政治の根本が機能停止に陥っている実情にあります。

 上乱れれば下乱れます。

 我利我利亡者が群れる国権の最高機関たる国会は、不作為責任を一切負わないまま政治ごっこに終始する廃頽堕落の巣窟に堕した感を否定することはできません。

 かくして危機感無き無能政治家国家日本丸沈没へと、悪しきシナリオは確実に加速します。

 大切なことは、国難の真っ只中の今、之が国家国民に及ぼす被害の甚大さは極めて深刻であり従来の比ではありません。

 取り返しのつかない事態を回避すべく、私たちは一刻も早くこの大事に気付かなければならない責務があります。

 未来無き政治の現状を刷新すべく、我々が、草莽決起すべき到来の時が将に、今なのです!

 その為にも国民の政治意識改造がいよいよ必要不可決となって参りました、”

 

 との西園寺さんの会見時のこの件(くだり)を想起したとき既に、充分すぎるほど私自身も記者として国会で日々活動する内にその事は次第に強く肌で感じるようになっておりました。

 そんなところに身をおく自分が如何に馬鹿馬鹿しく、大局を失う愚かな事かを悟り、辞めることを決断致しました・・・。

 私、離れていて西園寺さんのことをあらためて深く想い、考えました。

  いち早く的確に今日を予測し先見の明を以って中央政界の実態-限界-危険を端的に廃頽堕落の現状と見抜き断じた西園寺さん。

 之を解決せんと実に苦節30年に亘って政治啓蒙活動と言う苦難の道一途に挺身してこられた西園寺さん。

 だからこそ、癌に侵襲され、幾たびも死の淵を彷徨っていても

存命のうちに、急がなければ・・・。”との

 政界刷新にむけての意欲が旧に倍して逆に燃え盛り、持ち前の使命的野心は微動だにせず、些かも揺れ動くことが無かったんだと・・・。」

 

 裕樹は自分のことを是ほどまでに深くおしはかって想いを寄せてくれる申し分なく聡明な女性は嘗ての雪乃以外にはいなかったことに気付いた。

 しかし純子に対する熱き想いは、その事は頑なに黙すべきことと心に誓っていた。

 

 ”彼女だけは決して不幸にしたくない、もう男女の関係にはもっていくべく自分のときは過ぎたんだ”と裕樹は心の中で納得すべく呟いてもみた・・

そして努めて冷静になって自論を展開し続けた。

 「敗戦の直後に自刃・東京裁判で絞首刑などにより一、二流と目された日本のリ-ダ-の多くがこの世を去ってしまいました。

 爾来、67年になる今日まで,解決すべき政治上の根本問題は何一つ為されておりません。

 今の日本政治家が三、四流と酷評されてる根拠はまさしく茲にあると思います。

 菊川さんは、国会で記者として今の政治家連中と多く折衝した経験から彼らをどう捉え,どう評価しています?」

 

「西園寺さんが緊急提言<<北方領土返還こそ、戦後政治の総決算!>>のブログでご指摘のとうりです。

 返還がいまだに実現できていないことは日本国民として自主自立の心と誇りを削ぎ、世界各国からはそのへっぴり腰外交が見透かされ、尖閣や竹島問題を誘引するに至ったと思います。

 敗戦前後の余りにも唐突で虚を突いて強奪した挙動に対しては寧ろ露国内の見識層を中心に「北方四島一括返還すべき論」が根強く底流を占めているやに仄聞しております。」の

 純子の発言に応えるように裕樹は

「固有の北方領土はロシアに強奪されたまま、拉致により日本の主権と国民の基本的人権も北朝鮮に蹂躙されたままです。

 にも拘らず、この解決を見据えて国際世論を主導することも、刺し違えても・・、の決死の覚悟を以って正義を貫かんとする行動の片鱗も既成政治家・政党からは全く窺い知る事はできません。

 確かに本当のところ、日本には政治家は一人もいなくなってしまったのです。

 ことほど左様に全てその場しのぎの手法で詐言を弄し国民を騙し続けて来たのが実体です。

 近年、政治家の不作為責任はあらゆる分野に波及し目に余る度合いはますます高まる一方です。

 加えて、二島返還論や引き分け論を俎上に上げること自体、露国政府のぺ-スに嵌ることすら認識し得ない。

 之が今の政治家の姿です。

 従っておそらくなにをやっても、今のメンバ-の誰がやっても進展なぞ望むべくもありません。

 既成の政治家政党は総退陣すべきが、所謂、身を切ることなのです。 

 これ以上、彼らの未来無き政治の継続を看過することはできません!

 

 要するに、予見能力も使命感も勇気も信念も欠落してしまった彼らが果たして明日の国家国民のためにできる事などひとつもある訳がありません!」

 

 純子は熱気あふれる裕樹の語り口調に接し健康回復の早さと怖れるべきその生命力の強さに驚愕した。

 ”退院してまだ三日目なのに・・西園寺さんと言うこの人は不死鳥そのものだわ!

 時、将に天下大乱・・・。

 

 うっかりするとこの人は、本当に一気に天下を執ってしまうかもしれない!"と密かに思った。

 そして改めて”私が西園寺さんを必ず何とかしなければ”

との想いを益々深く心に育んだ。

 

 元来、裕樹・純子共に <男が男であった時代、女が女であった時代> を誰よりも強く志向していた。

 そもそも男女の特質や素晴らしさを創りだす原点はそこにありとの確信を抱いていた。

 

 そんなこともあって確かに、この機に、純子は今までと違った決意と覚悟に裏打ちされ生まれ変わり、更に一段と逞しく大きく飛躍していた。

 

「西園寺さんが、志半ばで朽ち果てる事などありません!

 私がそんなことにはさせません。

 

 

 西園寺裕樹さんの使命達成は、菊川純子の生涯を賭けた夢です!」

 心の中で叫んだ。

 

 

 

 次回は、「人間としての使命」です。

 

 

平成25年7月30日

西川攻(さいかわおさむ)でした。