釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

危うい楽観の中で

2019-12-28 19:17:33 | 社会
昨日の日本経済新聞は「株、米最高値はむしろ過熱警戒に 「大幅調整」の予兆シグナルも 」と題する記事を載せた。記事の中で、りそな銀行の市場分析者の「現在の米国の株価水準は企業業績では正当化できない」、「米連邦準備理事会(FRB)の金融政策を受けた流動性相場の色が濃い」との見解を載せ、「東京市場ではむしろ過熱を警戒する雰囲気を強め、足元の日本株の上値を抑えている面がある。」と書いている。日本国債の利回り(金利)もわずかずつ上がって来ている。米国でも日本でも格差が拡大している中で、特に米国の株価を始め資産価格が危ういほどに上昇している。同じ27日の東洋経済にノーベル経済学賞を受賞した米国のジョセフ・E・スティグリッツJoseph Eugene Stiglitzコロンビア大学教授の寄稿文が載せられている。「なぜ「資本主義」は輝きを失ってしまったのか」と題されている。「現在、アメリカなどの先進国で事態がいい方向へ進んでいないというが、それどころではない。世界中に不満が蔓延している。」「2008年の金融危機により、資本主義がかつて思われていたほど完全ではないことが明らかになった。資本主義は効率的でもなければ、安定しているわけでもなかった。その後の相次ぐ調査により、過去四半世紀の成長の恩恵を主に受けていたのは、最上層にいる人たちだということがわかった。」、「レーガン政権時代から、最上層の人々に有利な市場の再編が始まった。」と書いている。そして、40年前から「憂慮すべき2つの変化」が見られるようになったとして、「成長の鈍化と、大多数の国民の所得の停滞または減少」を上げている。「大多数の市民が望みながらも、手の届かないものになってしまっていた「中流階級」の生活を市民に提供する、より人間味のある経済」を実現させるために、「適切に設計され、十分に規制された市場と、政府や市民社会のさまざまな機関とが力を合わせるしか、新たな世界を切り開く方法はない。」とする。教授も「政治的には必ずしも簡単ではないかもしれないが」と書かれているように、現実には、こうした改革は容易ではない。結局は、かなり極端な衝撃が訪れることでしか、改革の気運は生まれてこないだろう。政府も中央銀行も、現在の歪みのある経済を、何とかクラッシュさせずに延命させようと懸命だ。しかし、その延命処置自体がさらに歪みを増強させている。そして、それが限界に達した時は、その反動はより激しくなる。経済はおそらく打ちのめされるだろう。改革が可能だとすれば、むしろその時だろう。ただ、衝撃があまりにも大きくなるため、経済の低迷は長期的になる可能性が強い。チェコ共和国プラハの、世界の経済、 政治、科学、文化の論考や分析を世界のメディアに配信している国際的なNPO、プロジェクト・シンジケートProject Syndicateが、23日に「The Crisis of 2020(2020年の危機)」と題した米国投資銀行モルガン・スタンレーのアジア部門の元会長であったスティーブン・ローチ Stephen S. Roach氏の記事を載せている。いずれの危機でも、それを予想したヒーローはいるが、危機の予想は至難の業だと先ず述べている。その上で、現代の世界には3つの脆弱性があるといい、「私が最も心配する脆弱性の源泉は過度に伸び切った中央銀行のバランスシートだ。」、「新たな固有のショック、または予想外のインフレ再加速と関係する金利上昇は、割高な米国株市場の急激な調整の可能性を高めるだろう。」、「失速速度に近づきつつある弱い実体経済」を上げている。この脆弱性の解決を、保護主義とポピュリズム、政治の機能不全が阻んでいるため、「実体経済、金融資産の価格、誤った金融政策。この3つのミックスにショックが加われば、2020年に危機がすぐやってくるだろう。」と警告している。

本年も訪問いただき有り難うございました


大陸から飛来したホオジロガモ(雄)



ミンスキー・モーメントが近付いている可能性

2019-12-27 19:20:52 | 経済
経済が安定しているように見える時、投資家は危険性はあるが、見返りが期待出来るものに投資しようとする。それでも、なお、安定しているように見えると、一層、投資が増え、株などの資産価格が上昇する。大きく上昇した時、危険性が発生すると、投資家は慌てて、資産を売ろうとする。一斉に資産が売られることで、債務超過の投資家が破綻する。この投資家に貸し付けをした金融機関も不良債権を抱え込むことになる。金融機関を助けるために中央銀行が救済に出る。この流れを指摘したのが、ワシントン大学で教授をしていたハイマン・ P・ミンスキーHyman Philip Minskyで、資産価格が暴落する時点を、ミンスキー・モーメントと称されるようになった。現在のように超低金利であれば、投資家は借金を増やしてでも株式などの資産への投資額を増やそうとする。そのため、資産価格は一層極端に上昇する。しかし、一旦、暴落が始まると、借金で投資した投資家は、我先に損失を少しでも少なくしようとして資産を売り急ぐ。そのため、暴落はより激しくなる。中国ではすでに2017年10月に、中国の中央銀行である人民銀行総裁が「ミンスキー・モーメントは必ずやって来る」と警告を発している。中国はリーマン・ショック以後、政府が不動産開発を推進し、それにより世界経済を牽引した。しかし、そのために、政府系企業を始め、民間企業も多額の債務により不動産投資を行って来た。不動産のバブルを生み出している。米国の資産運用、保険など幅広い金融サービス企業であるグッゲンハイム パートナーズ Guggenheim Partnersの、最高投資責任者(CIO)であるスコット・マイナードScott Minerd氏は、最近の顧客向け市場見通しで、「 A Minsky moment could be nearing as a period of financial distortions will eventually be unwound in a very violent fashion. (金融の歪みの期間が最終的に非常に暴力的な方法で巻き戻されるため、ミンスキー・モーメントが近付いている可能性がある)」と述べている。また、「Cracks have already started to surface in the corporate debt markets. 企業債務市場ですでに亀裂が表面化し始めている」とも述べている。米国中央銀行が、この1年で3回の金利引下げを行ったことで、2000年のITバブルを生み出した1998年と同様の環境の、バブルが最終的に破裂する前の1年以内にナスダック指数が2倍になった流動性主導のラリーを作り出した、としている。流動性は通貨量の増加を顕し、ラリーは上下に変動しながらも上昇して行くことを示す。米国は日欧に比べると、金利は高目であるが、それでも米国としては極めて低い金利であり、企業は特にその低い金利で社債の形で債務を大きく膨らませ、自社株買いで株価を押し上げて来た。企業業績の伸びを超える増加率で債務が膨らんでいる。株式も不動産も、デリバティブなどの金融商品も、全てバブル状態になっている。何らかのリスクが生じると、それを切っ掛けに、投資家の誰もが資産の売りに出る。米国の株式売買の6割はAI人工知能によるとされる。一旦、売りのスイッチが入れば、売りは一層激しくなる。返済不能の債務が増加し、不良債権が溢れるようになる。金融機関が巻き込まれる。何度も同じことが繰り返され、繰り返されるたびに、規模が拡大して行き、中央銀行がさらに大量に通貨を流して金融機関を救済することになる。政府もさらに債務を積み増して、財政支出を増やす。しかし、中央銀行も政府もすでにかなりやれることはやってしまっている。残された手段には限りがある。
今年も甲子川(かっしがわ)に遡上して来た鮭(婚姻色が出ている)

実体経済と乖離し過ぎた米国株価

2019-12-26 19:14:14 | 経済
連日過去最高値を更新し続けた米国株式市場について、大方の投資家は楽観的である。中央銀行FRBの低金利と実質的な量的金融緩和Q4に加え、米中貿易戦争の不確実性が一部低下したためである。米国大手投資ファンド運用会社のブラックストーンBlackstoneグループの副会長で、ウォール街の「ご意見番」と称されるバイロン・ウィーンByron R. Wien氏は、強気派でよく知られるが、「今後12か月、市場は順調だろう。現状の金利の下では市場は割高ではない。だから、まだ上がる余地がある。」と、米国メディアCNBCのインタビューで語っている。しかし、全米第3位の銀行、ウェルズ・ファーゴWells Fargo & Companyの株式戦略責任者クリス・ハーベイChris Harvey氏は、金融投資情報専門メディア、バロンズBarron'sで、「過去を振り返れば、チャンスとは心理が絶好な時にではなく、むしろ弱かったり悪かったりした時に訪れるものだ。だから、私たちは心配し、来年前半に5-10%の戻しを予想している。」と来年前半の5-10%の株式下落を予想している。多くの投資家が楽観派であるから、あれだけ連日株価が上昇した。弱気となっているハーベイでも高々5-10%の株式下落である。何兆ドルもの投資資金を扱う人でも、やはり人間であり、人間である限りは、どうしても目の前を見がちで、世の中の背後の動きや過去の流れを忘れてしまう。特に、株価が連日上昇などすれば、尚更だ。下のグラフは1996年を100とした米国の名目GDP(青)、マネーストックM2(赤)、株価(緑)それぞれの以後の推移を表している。名目GDPはおおよその実体経済を表し、マネーストックM2は現金通貨・預金通貨・準通貨・CD(譲渡性預金)などを合わせた経済全体に供給されている通貨の総量を表す。2000年過ぎまでは、GDPと通貨供給量の伸びが同じであった一方で、株価は急上昇し、2000年のITバブル崩壊で実体経済(GDP)の伸び率に向かって下落した。これを回復させるために中央銀行は通貨供給量を実体経済(GDP)の伸び率を上回って供給し始めた。これにより、株価は次第に回復し、ついには2000年のITバブルを上回る高みに至り、2008年のリーマン・ショックを迎える。やはり株価は実体経済の伸び率に向かって下落した。55%の下落であった。このリーマン・ショックの衝撃波は強烈で、中央銀行はいまだかってない増加率で通貨供給量を増加させて行った。このため一旦は落ち込んでいた株価も回復し、10年をかけて前人未踏の高みに上昇した。実態経済、GDPの伸び率からは大きく離れてしまっている。バブルとはグラフに見るように、実態を超えた株価をはじめとする資産価格の上昇を言う。この史上かってない株価もいずれ実体経済の伸び率、青線に向けて下落する。しかし、その時、リーマン・ショック直前の2倍の高みに至った株価は、リーマン・ショックを遥かに超える衝撃を世界経済に及ぼすことになる。中央銀行はさらに通貨供給量の増加率を上げることで対処しようとするだろうが、果たして、それほどまでに大量に通貨を経済に流して、ドルの価値を守れるだろうか。1996年からのグラフは、いかに中央銀行が世の中に通貨を大量に流しても、新たなバブルを生み出し、しかもバブルはさらに大きくなるばかりであることを示す。この間には米国政府債務も同じように増加し続けているのだ。米国資産バブルは崩壊すれば、回復は中央銀行の大量通貨や政府債務では不可能なところまで膨らんでしまっている。

10年後の日本

2019-12-25 19:18:52 | 社会
現在、世界の経済システムには大きな歪みがある。先進国の異常な低金利と巨大な債務に、新興国のやはり債務と先進国に依存した経済である。いずれは、これも大きな修正の時を迎えざるを得ないだろう。しかし、修正があっても、それで世界が駄目になるわけではない。特に、成長率がすでに落ちている先進国よりも、新興国は今後大きく変わって行く。国の経済規模は、一般に名目GDPで比較されることが多いが、今年10月、IMF(国際通貨基金)が発表した2018年のその順位は、1位米国20.58兆ドル、2位中国13.37兆ドル、3位日本4.97兆ドル、4位ドイツ3.95兆ドル、5位英国2.83兆ドル、6位フランス2.78兆ドル、7位インド2.72兆ドル、8位イタリア2.08兆ドル、9位ブラジル1.87兆ドル、10位韓国1.72兆ドルとなっている。ロンドンに拠点を置く、世界的な会計・コンサルト企業、プライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers )が、10年後の2030年の世界各国の経済規模を予想している。ただ、こちらは名目GDPではなく、購買力平価(PPP)を元にしたGDPとなっている。より実質的な経済規模に近い形となる。それによれば、10年年後は、1位中国38.01兆ドル、2位米国23.48兆ドル、3位インド19.51兆ドル、4位日本5.61兆ドル、5位インドネシア5.42兆ドル、6位ロシア4.74兆ドル、7位ドイツ4.71兆ドル、8位ブラジル4.44兆ドル、9位メキシコ3.66兆ドル、10位英国3.64兆ドルとなっている。フランスは11位3.38兆ドル、韓国14位2.65兆ドル、イタリア15位2.54兆ドルである。トルコ12位3.00兆ドル、サウジアラビア13位2.76兆ドルと浮上している。ただ日本の5.61兆ドルから、ブラジルの4.44兆ドルの範囲は、差が少ないため、10年後の実際の順位がこの範囲で動く可能性はあるだろう。名目と購買力平価の違いはあるが、単純に見ると、現在の中国の経済規模は、日本の2.7倍であるが10年後には、6.8倍になり、差は大きく開く。しかも、中国は米国さえも10兆ドル以上の差を付ける。中国も人口問題を抱えているため、以後は、徐々にインドに追い付かれ、2050年頃にはインドが世界一の経済規模となると考えられている。経済規模で最も重要なのが人口である。特に生産労働を担う人口の多さが重要になる。その人口が消費を支えるためでもある。現財の先進国はこぞって程度の差はあるが、高齢化と少子化の問題を抱えている。欧州に見られるように、移民で簡単に解決出来る問題ではないようだ。そして、日本はさらに大きな政府債務と維持不可能な年金制度をはじめとした社会保障制度があり、産業構造の転換がなされておらず、おそらく10年後の4位の位置は夢でしかないだろう。経済評論家の加谷珪一氏は、ニューズウィークNewsWeek紙日本版のコラムで連載記事を載せているが、8月27日のコラムで、「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」と題する記事を書いている。「数字で見ると今の日本は惨憺たる状況」として、「日本の労働生産性は先進各国で最下位(日本生産性本部)となっており、世界競争力ランキングは30位と1997年以降では最低となっている(IMD)。平均賃金はOECD加盟35カ国中18位でしかなく、相対的貧困率は38カ国中27位、教育に対する公的支出のGDP比は43カ国中40位、年金の所得代替率は50カ国中41位、障害者への公的支出のGDP費は37カ国中32位、失業に対する公的支出のGDP比は34カ国中31位(いずれもOECD)など、これでもかというくらいひどい有様だ。」と具体的な数字を上げている。「「衰退産業ばかりにしがみつく」結果をもたらしている。」として、「日本は後進国に転落したという事実を謙虚に受け止め、これを逆手に取って、もっと狡猾に立ち回る企業が増えてくれば、袋小路に入った日本経済にも光明が差してくるのではないだろうか。」と結んでいる。コラム中にも書かれているが、高度経済成長からバブル期を迎えた日本は「奢り」を持ち、その当時の意識だけがいまだに残っているのだ。しかし、「失われた30年」は確かに日本の多くを失わせて来たとも言える。

米国株価は最高値を更新し続けるが

2019-12-24 19:13:12 | 経済
昨夜の米国株式市場は、又も主要株式指標が最高値を更新した。S&P500は8日連続日中最高値を更新し、14日連続で記録的な日中最高値を更新した1998年3月以来のことだ。9日連続で上昇したナスダックも2017年7月以来の記録となる。米国第3四半期のGDP成長率が、わずか2.1%でしかない中でだ。カンザスシティ連邦銀行が出す製造業総合指数は、この4年間で最低でもある。住宅建設や純輸出が減少し、企業の在庫が蓄積されている。政府支出と債務に基づく個人消費が増えてのGDP成長である。米国は、リーマン・ショック後のこの10年間に大規模な金融刺激と巨額の財政赤字を伴う膨大な財政刺激によって、経済を支えて来た。これを可能としたのは、中央銀行によるドルの際限のない増刷である。実体経済を支えるために大量の通貨を発行した。1960年代、米国中央銀行はベトナム戦争の巨額の戦費とリンドン・ジョンソン大統領の「Great Society(偉大な社会)」のために、インフレ政策を推し進めた。フランスはじめ諸外国は保有するドルの価値が低下するのを恐れて、ドルと金(ゴールド)との交換を米国に迫った。米国財務省が保有するゴールドが瞬く間に減少した。金保有量が完全に枯渇する可能性があるという懸念が高まった。1971年8月15日、リチャード・ニクソン大統領はドルとゴールドの交換を停止した。この時、金は1オンス(1 トロイオンス = 31.1g)当たり35ドルであった。この時、すでに実際の市場価格は1オンスあたり45ドルになっていた。現在、ゴールドは1オンスあたり1450ドルを超えている。物価を表す指標は2つある。消費者物価指数とGDPデフレーター指数である。後者は国内で生産されるすべてのもの・サービスの価格が反映されるが、輸入品は含まれない。前者は消費者が購入する輸入品も含めたものを反映したものである。米国の1971年から2018年まで、消費者物価指数は40.5から251.1になっている。6.2倍である。一方、GDPデフレーター指数も5倍になっている。5〜6倍のインフレである。これをゴールドで見ると、1オンス=35ドルだと41倍であり、1オンス=45ドルだと、32倍である。米国財務省の金の保有量とは無関係に通貨ドルを印刷出来るようになって、その都度、政府や中央銀行の都合に合わせて、ドルを印刷し続けた。特に、2008年のリーマン・ショック後は、巨額のドルを印刷した。その結果、今ではドルの価値が30分の1以下に低下している。物価が10倍を超えて上昇すると、ハイパーインフレとされる。この時、通貨の価値は10分の1以下となる。つまり、米国では実質的にハイパーインフレになっていると見ることも出来る。個人・企業と政府の債務の増加でわずかな経済成長を維持し、過剰に印刷されたドルで株をはじめとする資産価格を上げ、巨大なバブルを作り出しているのが現在の米国である。資本主義の先端を行く米国が、これほど債務を積み上げても、わずか2%の経済成長しかなし得ない。日本など、経済成長率はさらに低い。政府債務をあれだけ積み上げてもである。先進国の経済成長率の低下は、現行資本主義の限界なのかも知れない。いずれにしても、バブルは必ず弾ける。あまりに巨大なバブルと債務が、資本主義に痛撃を与える日がやって来る。世界は大きな選択を迫られることになるだろう。

もっと借金を!

2019-12-23 19:13:29 | 経済
20日、政府は来年度予算を閣議決定した。予算は102兆6580億円で過去最大となり、8年連続拡大している。税収見込みを甘く見積もり、新規国債発行額を低く見せている。今年度予算も同じであった。税収見込みを実際の税収より4兆円も多く見積もっていた。しかも来年度はこれまでの最高の税収見込みである。景気後退が見えているにもかかわらず、税収が過去最高となると見積もっている。新規国債発行を減らしたと言っても、相変わらず30兆円を超える32兆円である。いくら借金を頼りに財政規模を大きくし、金融緩和を続けても、産業構造の転換や人口対策を行わない限りは、ただ負債を重ねるだけで、経済を浮揚することは出来ない。予算を拡大し続けて来たこの8年を見れば明らかだ。経済成長率は低迷状態から脱していない。19日に世界銀行は、「Global Waves of Debt: Causes and Consequences( 世界的な債務の波:原因と結果)」と題する報告を公表した。日本の一部のメディアがそれを報じてはいるが、いずれも時事通信の記事を利用したもので、発展途上国や新興国の問題であるかのような報じ方である。確かに世界銀行の報告は発展途上国や新興国の債務問題を重要視してはいるが、先進国を含めた世界の債務をも警告している。今月2日、Bloombergは「The Way Out for a World Economy Hooked On Debt? More Debt(借金に病みつきになった世界経済の解決法は?:もっと借金を)」 なる記事を載せている。18世紀のドイツの天才ゲーテは、臨終に際して、「もっと光を!」(Mehr Licht !)と言ったと言われている。英語だと「More Light」だろう。ブルームバーグ の記事はそれを意識して書いたと思われる。安い借り入れコストが世界の債務を新たな記録に至らせたとして、経済成長を復活させるためには、さらに多くの借入が必要だと最初に書いている。「10年に渡る楽に手に入るお金は、過去250兆ドルの政府、企業、家計の負債を世界に残している。これは世界の経済生産量のほぼ3倍であり、地球上のすべての男性、女性、子供に対して約32500ドルに相当する。」。国際金融協会IIFの報告が引用され、企業債務に関し、米国企業だけで今年の企業債務不履行の約70%を占めており、中国では、S&P Global Ratingsによると、国内市場で債務不履行に陥っている企業は来年記録を樹立する可能性が高いとしている。「国際決済銀行BISによると、いわゆるゾンビ企業-長期にわたって営業利益から債務返済費用を賄うことができず、成長の見通しを弱めている企業-は、先進国の非金融上場株式の約6%に達し、数十年ぶりの高さになっている。」。異常な金融緩和が、いわゆる「easy money(楽に手に入るお金)」を生み出し、債務を膨れ上がらせ、業績の良くないゾンビ企業を延命させている。巨額に達した世界の債務は、もはやさらなる債務の追加でしか維持出来なくなってしまっている。まさに日本の現状そのものである。世界の主要国はその日本を後追いしている。「Japanification(日本化)」と言われる所以だ。その日本は、先日も書いたように、日本銀行のマイナス金利と国債買い入れの持続がなければ維持出来ない状態になってしまった。しかし、この日本銀行の姿勢が、危惧通り政府の財政に対する姿勢を甘くさせている。かって、1930年代に高橋是清が、現在と同じく政府国債を日本銀行に買い取らせた。しかし、高橋はそこに歯止めをかけようとして暗殺され、その後、その日本銀行による国債買い入れが際限なく続けられ、敗戦で、政府は巨額の債務を抱える形となり、「払うべきは払う」として、預金封鎖や財産税で、国民から資産を奪って、債務の支払いに当てた。現在は、その当時よりも政府債務規模はさらに大きい。行き詰まりがいずれ近いうちに来るのは目に見えている。
世界銀行報告書より

日本銀行公表の資金循環

2019-12-21 19:14:52 | 経済
昨日の米国株式市場は主要株式指標が揃って又も、過去最高を更新した。企業利益が減少し、経済成長率は低下している中でである。米中貿易戦争の一部合意や借金による消費が好調だとしてである。まさに「根拠なき熱狂」と呼ぶにふさわしい高騰である。過去の経済成長率がずっと高かった米国よりもはるかに高い株価になっている。時価総額は米国GDPの1.5倍である。昨日は日本銀行が今年の第3四半期の資金循環を公表した。民間非金融法人企業の金融資産は1186 兆円で、負債は947兆円である。2008年のリーマン・ショック後から資産は着実に増えて来た。負債は概ね横這い状態である。資産の内訳を見ると、株式が387兆円、現・預金271兆円、対外直接投資141兆円、対外証券投資24兆円、その他116兆円となっており、株式保有が最大である。民間金融機関貸出は875兆円で、昨年第2四半期以後減少して来ている。民間非金融法人企業向け貸出が最も多く325兆円で、家計向けは266兆円となっている。政府負債を見ると、一般政府負債は1141 兆円で、その国債保有では、日本銀行が突出しており、メディアでも報じられたように、ついに500兆円の大台に載った。全国債の43.9%である。ついで、保険・年金基金が255兆円で22.4%、預金取扱機関(銀行など)150兆円13.1%、海外144兆円12.7%、公的年金43兆円3.8%、家計13兆円1.2%と続く。過去の国債保有の推移を見ると、預金取扱機関保有の国債を日本銀行が吸収していることが分かる。他は保有率が変わらないが、預金取扱機関の保有率が顕著に下がり、代わって、日本銀行の保有率が急上昇している。中央銀行がこれほど大量に政府発行の国債を保有しなければならない理由を、決して明かにしない。平時に日本銀行がこれだけの国債を保有したのは始めてのことだ。日本銀行は国債を市場価格以上の価格で買い取ることで、金利を押さえ込み、マイナス金利を維持している。このため、金利差で利益を得る銀行などの金融機関は利鞘が得られず、赤字転落する地方銀行が続出している。巨大銀行すら減収となっている。金融機関を疲弊させてまでマイナス金利を維持している。それで経済が好況になるのであれば、許されるだろうが、経済は悪化して来ており、政府が借金をさらに積み増してまで「経済対策」を打とうする状態だ。今月12日に公表された12月10日時点での日本銀行の営業毎旬報告を見ると、日本銀行の当座預金には392兆円も積まれている。単純に言えば、日本銀行は市中銀行が保有する国債を500兆円分買ったが、引き換えに市中銀行が得た500兆円は、利用先がないため、市中銀行は自分が日本銀行に持つ口座に392兆円を預けるしかない、と言うことである。金融緩和の目的は、世の中に貸付と言う形でお金を流すことである。しかし、現実には、世の中の経済状況がよくないため、借りてまでお金を使おうとしない。銀行は仕方なく日本銀行の当座預金として預けざるを得ない。わずかばかりの金利は付く。結局、日本銀行の金融緩和は、現実には何ら効果を発揮していない。にもかかわらず、延々と金融緩和を続けている。しかも、市中金融機関を犠牲にしてまで。そこまでして、国債保有を増やし続けているのは、政府を助ける目的以外にはないだろう。巨額の借金を抱える政府にとって、マイナス金利ほど有り難いものはない。政府が本来負担すべき金利を言ってみれば日本銀行が肩代わりして負担してくれているのだ。日本銀行も当面は痛くも痒くもない。ただ紙幣を印刷するだけである。しかし、そんな紙幣はいつか信用を失う時がやって来る。巨大な金融危機の火種は先進主要国にも新興国にもある。それが勃発すれば、政府はさらに国債と言う借金を増発し、日本銀行はそのためにさらに紙幣を大量印刷しなければならなくなる。その時が「円」の終わりになるだろう。「失われた30年」に、超低金利とわずかではあっても毎年物価が上がるため、国民の預貯金や保有現金の価値が下がり続けている。国民と金融機関が政府の犠牲になっているのが「失われた30年」の実態だ。戦後の英国がまさにこれを行った。本来の国の豊かさとは、国民の豊かさである。英国国民はその豊かさを奪われた。今ではすっかり大英帝国の面影はない。日本も同じ道を辿らざるを得ない。

世情に敏感な富裕層

2019-12-20 19:17:19 | 経済
日本の中央銀行総裁は、10月に訪米中のワシントンで「日本経済は著しく改善し、約15年ぶりにデフレでない状況 日銀は強力な金融緩和を続けていく」と言い、米国中央銀行議長は11月に、「米国経済は緩やかな経済成長が続くと見ており、現在の政策金利は適切」と語っている。今月に入り、企業利益の減少と言う事実を無視して、米国株価は連日史上最高値を更新し続けたり、日本の株価も先日、リーマン・ショック以来の最高値を付けた。しかし、いずれの国も実体経済は明らかに後退している。貿易戦争の影響もあり、米国では個人消費が落ち込んで来ており、貯蓄率が上がって来ている。大型小売店舗の閉鎖が全国に及んでいる。残された製造業も生産が落ちている。日本も12カ月連続して輸出が減少し、製造業に続いて非製造業も利益が減少している。勤労者の実質賃金低下だけでなく、大企業中心に人員削減も開始された。これまで、消費税増税のたびに景気は悪化しており、政府は「穏やかな景気回復基調」にあると言いつつ、大規模な経済対策を打ち出している。米国中央銀行も1月半ばまでに5000億ドルもの資金提供を打ち出している。日本銀行もわずか10日で1兆7000億円も国債保有を増やし、資産は581兆円になった。健全な経済であれば、中央銀行はこれほど大量に世の中に通貨を供給する必要などないはずだ。米国中央銀行FRBなどリーマン・ショックからの回復のために4兆ドルの通貨を供給した後、一旦は、その供給した通貨を減らし始めていたが、今再び供給量を増やし、4.5兆ドルになる。もちろん、国の経済規模を考えれば、日本の異常さは際立っている。中央銀行の異常な通貨供給と政府の債務積み上げを前提とした財政政策により、株式のような資産価格だけが上昇している。こんな状況に富裕層は警戒し始めている。先にすでに世界の三大投資家たちが現金保有を高めていることを書いたが、11月12日のブルームバーグは「世界の富裕層投資家、大規模な株売りに備える-UBSウェルス調査」と言う記事を載せている。富裕層投資家を対象に行った調査で、3400人を超える回答者の過半数が来年末までに大幅な相場下落を予測しており、回答者の60%は手持ちの現金積み増しを検討していると言う。投資可能な資産100万ドル(約1億900万円)以上を持つ投資家たちである。富裕層ほど、自分の資産を守るため、世の中の経済の動きには敏感である。現金での保有を高めることで、資産価格の暴落を避け、暴落した金融資産を買い込むことが出来る。当然、その後の資産価格の上昇を見込んでのことである。資産家はチャンスを見つけて、さらに資産を増やそうとする。しかし、次の株式の暴落は、これまでの暴落とは異なる。あまりにも金融規模が大き過ぎる。しかも、その大き過ぎる金融の崩壊を支えるだけの余地がすでに目一杯金融緩和している現状では、さらなる金融緩和の余地が残されていない。政府財政も然りである。巨額の財政出動を迫られるが、もはや政府財政にはそんな余地はない。日本も米国も事情は同じだ。ドイツ銀行の55兆ドルとも言われる金融派生商品が破綻すれば、経済の破壊力はさらに凄まじくなる。しかも、合意なき英国のEU 離脱は、それをもたらす危険が多分にある。ドイツ銀行の少なからぬデリバティブは、ロンドンの金融市場で約定されている。合意なく離脱すれば、約定は守られず、ドイツ銀行は破綻せざるを得なくなる。世界中の主要国・地域の中央銀行が際限なく通貨を発行し続けた結果が金融バブルを生み出した。その金融バブルが弾け時、さらに大量に通貨を発行して市場を救済しようとすれば、もはや通貨の価値を維持出来ないところまで来てしまっている。資本主義の本来の自由市場を、バブルの崩壊のたびに、中央銀行は異常な介入により歪めて来た。資本主義が持続するとすれば、どこかでこれを修正するしかないだろう。

苦境が活路を開く

2019-12-18 19:11:38 | 社会
1973年10月、イスラエルとエジプト・ シリアをはじめとするアラブ諸国との間で第4次中東戦争が勃発した。アラブの産油国を中心とする石油輸出国機構OPECは原油の供給制限を行い、輸出価格を大幅に引き上げたため、国際原油価格は3カ月で4倍にも高騰した。エネルギーの8割近くを輸入原油に頼る日本は、大きな打撃を受けた。いわゆる第1次オイルショックである。全国のスーパーからトイレットペーパーや洗剤が消えた。日本企業は、高騰した石油の使用量を減らさざるを得なくなり、省エネ技術に取り組まざるを得なくなった。この追い込まれた状況が、企業に省エネ研究開発意欲を掻き立てさせ、見事にそれを達成した。窮地に追い込まれたことが、逆に企業に活路を開かせた。世界をリードする日本の省エネ製品が生まれた。2017年からの米国の対中貿易戦争や今年の日本の韓国への半導体関連品の輸出制限はまさに中国と韓国に、オイルショック時の日本と同じ状況に追い込んだ。中国も韓国も自国開発せざるを得ない状況に追い込まれた。5Gで米国に直接敵視された中国のファーウェイHUAWEIの最新スマートフォンは、全て部品が自社開発のものになっている。調査会社Counterpoint Technology Market Researchによる2019年第3四半期の世界スマートフォン出荷台数は、韓国のサムスンが第1位で、第2位が中国のファーウェイとなっている。第3位のアップルとファーウェイは競合していたが、ファーウェイが大きく差を広げて、サムスンに迫っている。しかも第4位から7位までは、全て中国企業である。日本からの半導体材料が閉ざされた韓国には、台湾の環球晶円(グローバルウェーハズ)が進出して、11月22日から新工場が稼働している。日本はかって半導体でも世界トップの座を占めていたが、米国に強要されて、半導体産業が衰退した。しかし、半導体材料を提供していた、いわば下請け企業は生き残り、韓国にその材料を提供し続けて来た。今回の輸出制限で、この日本の優秀な半導体材料企業も潰されることになる。今月10日の日経ビジネスは、「「紅い半導体」の躍進で21年に中国が世界最大の装置市場へ」と題する記事を載せている。本部が米国カリフォルニア州にある国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の半導体装置の市場予測で、2021年には、中国が「韓国や台湾を抜いて世界最大市場に躍り出る」と言う。市場規模は164億4000万ドルである。台湾、韓国、日本と続くが、日本の市場規模は韓国の半分の72億2000万ドルでしかない。さらに米国はカナダと合わせても71億5000万ドルである。ITやAI、ロボットなど未来の産業の基礎となるものは、全て半導体にかかっている。戦略のない日本はせっかく世界1位の座を占めていたにも下かわらず、米国に言われるままに、生産を縮小している間に、韓国に1位の座を奪われてしまった。現在の韓国への半導体材料の輸出制限も中長期で見れば、韓国を利するばかりで、かえって、日本の残された優秀な半導体材料企業を衰退させる結果しか生まない。原発利権に浸った経済産業省が、財務省に代わって、政権の中心となってから、打ち出して来た経済政策は、日本の新たな成長産業にはなり難いものばかりである。むしろ、官民ファンドのような無駄使いが目立つだけである。

日本の実質賃金の「一人負け」状態

2019-12-17 19:12:47 | 経済
昨日の朝、民放TVで、「「一人負け」状態・日本の実質賃金・世界との格差」と題する番組が報じられ、ネットの一部で話題になっている。フランスのパリに本部を置くOECD経済協力開発機構が発表した1995年から2016年までの各国の実質賃金の推移をグラフ化したものが、番組で紹介されたようだ。1997年を100として、主要国では日本だけが100を割って、趨勢的に下がり続けて来た。2016年には89.7である。主要な他の国は全て1997年以来上昇を続けて来た。上昇のゆるやかな米国が2016年には115.3、ドイツは116.3、英国が125.3、フランスが126.4である。勤労者の所得の減少は、労働分配率の推移を見ても明らかである。労働分配率は、簡単に言えば、企業の儲けの何%が従業員に支払われたか、を表す。統計的には、財務省の「法人企業統計年報(金融・保険業を除く)」に基付く労働分配率と、内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」によるものの二つがあるが、一般には前者がよく用いられている。いずれでも確実に労働分配率は低下し続けている。一方、日本のその年の所得であるGDP国民総生産を見ると、1997年まで増え続け、1997年には537兆円であったが、以後下がり始め、多少の上下を繰り返し、2011年に491兆円で底を打ち、少しづつ上昇に転じ、IMF予想の今年のGDPは557.7兆円となっている。つまり、パイの量は少しづつだが増えてはいる。にもかかわらず、労働分配率が下がり続けている。それだけ、企業の取り分が多くなっていると言うことである。国内的には、わずかながら増えた国の所得のうち、一貫して企業の取り分を増やし続けて来た。日本のリーディングカンパニーであるトヨタが最高益を上げたのもうなづける。1990年代初頭のバブル崩壊後、収益が急減した企業は守りの姿勢に転じた。一種のトラウマともなったのだろう。この守りの姿勢が、産業構造の転換を排除してしまった。米国は1970年代で、製造業は日本とドイツに追い越され、1980年代には、産業構造を大きく転換して、良くも悪くも金融経済へシフトした。日本は、新興国と同じような製造業を維持し続け、大きく成長する新興国の製造業と苦戦を強いられた。家電も半導体も新興国に追い込まれた。自動車にしがみ付く現在、生産台数では中国に遥かに追いこされている。家電や半導体での失敗が顧みられていない。新興国と同じ製造業を維持する限り、負けは明らかである。特に、人口が遥かに多い中国には、間違いなく追い越されてしまう。こうした新興国との競走のために、企業は、賃金を押さえて来た。しかし、対外的な競争のための賃金抑圧が対内的には、消費の減少をもたらし、経済成長が抑えられてしまった。既存の産業だけで経済を維持しようとすれば、人口と賃金の面で、新興国には太刀打ち出来なくなる。政府も企業も既存企業の対外競争力のみに執着し、円安と賃金抑制を続けて来た。財務省が9月2日に公表した2018年の企業内部留保は7年連続して、過去最高を更新し、GDPに迫る463兆円となったが、企業はそれを溜め込むだけで、世界貿易の低下と国内人口減少のために、新たな投資へは投じることもない。こうした日本の産業を考えるだけでも、日本に未来がないのが見えて来る。