緑が深くなった5月は、山の春でもある。平地よりも少し気温が低く、日当たりも平地より少ない山の環境は植物の開花を平地より遅くする。その開花の時期は、たとえ平地で育ってもDNAに刻まれているため、変わらない。我が家の庭では鉢植えの山野草が次々に花を開かせている。小さな鉢で、冬には土だけになって、もう芽は出ないだろうと思っていたものまでが、芽を出し、大きく育って来る。それが一つや二つではないので、あらためて山野草と言う自然界に自生する植物の強さを感じる。鉢底の小さな穴から細い根を伸ばし、その下の地中にまで入り込んでいるものもある。中には鉢の中で育たないで、鉢の外の根から芽を出し、そのまま成長したものまである。そんな植物も動物と同じく水だけは欠かせない。細胞自体や土の中から栄養を吸収するためには水分の補給が必要だ。自然界だと雨水だが、庭では雨水だけでなく、水道水も使わざるを得ない。カルキの入った水道水は気がかりではあるが、そのまま使っている。睡蓮や布袋葵の花を見たいがために、それ用の少し大きい水鉢を庭に置き、中へは金魚も何匹か入れている。最初はメダカも入れたが、いつの間にかメダカはいなくなった。ひょっとすると金魚に食べられたのかも知れない。さすがにメダカや金魚を入れるために、水鉢の水はカルキ抜きを最初にやっておいた。旧居にいた時に手に入れた2000年前のハスを蘇らせた大賀ハスは一度だけ咲いて、ダメになった。仕方なく、昨年、また手に入れて庭においておいたが、ハスの葉が枯れて、これももうダメだと思っていた。冬が去って、春がやってきた頃、その専用の水鉢をよく見てみると、水中に小さく巻かれたハスの葉がいくつか見えた。今はもう丸い葉が水面に浮かんでいる。これから葉も大きく育って来るのだろうが、花を咲かせるまでに成長してくれるのか、まだ心配だ。赤い蕾を膨らませて来た山芍薬は、今朝見ると雨で花びらを一つ落としてしまったようだ。残念ながら白の山芍薬は今年は蕾を出していない。これからの楽しみは野生蘭の王者と言われる敦盛草だ。住田町産と少し色の濃い北海道の武徳産の2種類が葉を伸ばして来ている。山では敦盛草は草むらの中で自生しているらしく、日中の日射しを受け過ぎないように気を付けなければいけないようなので、白根葵の大きな葉陰において、雨にもあまり打たれないようにしてある。庭の山野草では最も貴重な山野草でもあるので、さすがに他の山野草より気を使ってしまう。釜石は広い岩手県でも沿岸部にある意味で孤立した小さな街で、都会のような文化的な施設はなく、地元の人は何もない街だと言うが、自然の豊かさに気付いていない。無精者でも植物はちゃんと育ってくれている。しかも、他では見られない山野草と言う可憐な花まで見ることが出来るのだ。
山野の落葉樹の側で咲くサルメンエビネ