釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

健康と幸福

2015-10-02 19:13:49 | 社会
日本では1981年に死亡率で癌が脳卒中を抜き第1位となって以来、癌による死亡率は増え続けている。では癌の発症率はどうか。OECD(経済協力開発機構)の2012年の統計を見ると、対10万人で世界のトップはデンマークの338.10人となっており、先進国ではフランスが2位で324.60人、米国が318.00人で6位、ドイツ283.80人で17位、イギリス272.90人で22位、日本は217.10人で30位である。つまり、先進国の中では日本は癌の発症はむしろ少ない。これを癌死亡率で見てみると、同じくOECDの2013年の統計では、対10万人で英国222.40人で11位、ドイツ204.80人で19位、フランス203.50人で20位、米国197.90人で23位、日本は179.00人で33位である。しかし、これら先進国にあって、欧米では毎年およそ5%ずつ癌死亡数が減っているのに対して、日本は唯一男女とも、癌の死亡数は増加し続けている。その理由を一般には高齢化によるとされる。しかし、同じく平均寿命が80才超えているドイツでも癌による死亡は減少している。医療制度が充実しているはずの日本でどうしてこのような現象が見られるのだろうか。癌は様々な要因で発生すると思われるが、やはり日常生活に関連している部分が大きいと思われる。特に戦後の日本人の食生活の変化は発癌にも影響していると考えられる。肉の摂取量は50年間で約10倍となり、脂肪分は約3倍にも増えた一方で、野菜や果物の摂取量は減り、米国を下回っていると言う。数日前スウェーデンの食品庁は米の摂取制限を勧告した。米には他の食品よりもはるかに高い濃度の発癌性のある無機ヒ素が含まれているためだと言う。東京大学大学院の小栗朋子氏の論文「日本人の無機ヒ素摂取量とその健康リスク」によれば、やはり日本人の一日無機ヒ素摂取量の90%を米とひじきから摂取している。スウェーデンの食品庁の精米調査では無機ヒ素含有量は最小値が0.03mg/kg、最大値が0.148 mg/kgとなっており、日本の農林水産省の『食品中に含まれるヒ素の実態調査』によれば、精米の無機ヒ素含有量は最小値が0.02mg/kg、最大値が0.26mg/kgで、平均値0.12mg/kgとなっている。スウェーデンは今回の勧告で大人は摂取量を減らし、週に6回までにするようにとしている。そして、6歳未満の子どもにはライスクッキーを食べさせないようにとする。先月29日までオーストリアのウィーンで開かれた欧州癌学会で、イタリアの研究機関連合ユーロケアが欧州29カ国の癌患者2,000万人超を対象にした調査結果を発表している。それによると、癌と診断されてから5年後の患者の生存率(5年生存率)は欧州で最も高いのがスウェーデンの64.7%であった。東京経済大学西下彰俊教授によれば、「スウェーデンはそもそも寝たきりになる人がほとんどいない。いたとしても、終末期ケアが行われる数日から数週間の短期間だけ」だと言う。また国際医療福祉大学大学院高橋泰教授によれば、「スウェーデンを始めとした北欧諸国では、自分の口で食事をできなくなった高齢者は、徹底的に嚥下訓練が行われますが、それでも難しいときには無理な食事介助や水分補給を行わず、自然な形で看取ることが一般的です。それが人間らしい死の迎え方だと考えられていて、胃に直接栄養を送る胃ろうなどで延々と生きながらえさせることは、むしろ虐待だと見なされているのです」と言う。スウェーデンの平均寿命は81.7歳だ。日本の83.1歳と大差はない。食事に対する注意と高齢者のライフスタイルの違いは癌の発生やその死亡率へも大きく影響しているように思われる。子供と暮らす65才以上の高齢者は日本は44.1%もいるのに対して、スウェーデンはわずかに4%しかいない。高齢者も独立して、暮らしを楽しめているのだろう。国連が4月に発表した「World Happiness Report 2015(世界幸福度報告書2015年度版)」では158カ国中スウェーデンは8位で日本は46位になっている。報告書では「幸福になるにはお金だけでは不十分で、社会の公正さや個人レベルでの正直、信頼、健康も必要である」としている。
大文字草

電力自由化も原発をかかえる限りコストは下がらない

2015-10-01 19:22:23 | 社会
来年4月1日から家庭用電力も自由化される。電力の自由化は世界的に1990年代に広がった。日本の1964年に出来た電気事業法は中央集権型のエネルギーシステ ムを前提に作られており、日本の高コスト構造、内外価格差を見直す方向で自由化が提起され、1995年の電気事業法改正に始まって、法人対象の電力自由化が開始された。2000年3月に使用規模が2000kW以上の事業者に限って自由化され、2004年4月には500kW以上に拡大。さらに2005年5月には50kW以上まで拡大されて来た。しかし、高コスト体制を改善するための新規電力業者の参入はシェアでわずか5%でしかなく、事実上は旧来の大手電力会社の地域独占が継続されて来ている。収益率のいい家庭用電力については東京電力が中心となり、自由化を阻んで来た。しかし、福島第一原発事故で東京電力は事実上経済産業省の管理下におかれ、家庭用電力も自由化が形の上では行われることになった。しかし、旧来の大手電力会社間の熾烈な競争は無論、新規の参入も期待出来ない。震災後、再生エネルギーへの期待が膨らんだが、電力会社と経済産業省は一体となり、再生エネルギーへの新規参入を実質的に制限している。特に日本では風力発電の場合は、28件もの法令に対し許認可を要し、その上で3~4年かかる環境アセスメントを受けなければなえらない。こうした手間が高コスト化を招き、新規参入を妨げている。電力は現在、発電と送配電を大手電力会社が握っており、欧米のような自由化が行われるには発送電分離、発電と送配電を分ける必要がある。電力を供給する企業と、電力を送り配する企業を別々にする。日本でも経済産業省は2020年にそれを行う意向だ。しかし、この場合も旧来の電力会社に送配電部門を子会社として、持ち株会社とすることを許す。形式的には分離するが、実態は旧来と変わらない。さらに、経済産業省の総合資源エネルギー調査会専門委員会は今年6月1日に2030年における電源構成の政府案を承認した。そこでは原子力が20~22%となっている。原発事故を受けて策定された「基本エネルギー計画」では、再生可能エネルギーを「最大限導入する」、原子力に関しては「可能な限り低減させる」となっていた。日本の原発は今48基で、そのうち2030年末で運転40年未満のものは18基しかなく、建設中の2基を加えても20基である。これらが70%の稼働率で稼働したとしても、2030年の予想総発電量1兆kWhの15%しか賄えない。原子力を20~22%とする政府案を達成するためには40年以上となる原発を稼働させるか、新規原発を建設する必要がある。福島第一原発事故は、2013年11月11日に自民・公明両党の東日本大震災復興加速化本部が政府に出した福島復興加速化案によれば、事故に伴う賠償、除染、汚染水処理、廃炉にかかる費用が10兆円を上回る。年間の国家予算の1割である。実際にはさらに費用はかさむだろう。原発堅持が前提であるため、本来であれば東京電力はこの事故だけで倒産する。しかし、この福島復興加速化案では政府がその費用に関与すべきとしている。要するに国民から徴収した税金を使えと言うものだ。原発を今後も維持する限り、例え形式上発送電分離を行っても日本の電力の高コスト構造は変わらないだろう。
藤袴(ふじばかま)