釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

冤罪の疑いのまま逝った人

2015-10-05 19:13:36 | 社会
1961年に三重県名張市で起きた毒物が混入したぶどう酒により5人が亡くなった、いわゆる名張毒ぶどう酒事件の犯人とされ死刑が確定していた奥西勝死刑囚が昨日八王子医療刑務所で死亡した。無実を訴え続けて40以上収監されていた。一審の津地方裁判所は3年後に「自白」は信用できないとして奥西さんに対し無罪を言い渡したが、控訴審の名古屋高等裁判所は、1969年、「自白」は信用できるとして無罪を破棄した。5回に渡る再審請求を名古屋高等裁判所は棄却し、1993年にさらに名古屋高裁が異議申立の棄却したため、弁護団が最高裁に特別抗告したが、1997年に最高裁が特別抗告を棄却し、1998年に6度目の再審請求を行ったが、やはり名古屋高裁が棄却、弁護団の異議申し立ても1999年に名古屋高裁は棄却し、再び特別抗告したがこれをも2002年に最高裁は棄却した。本年5月には9回目の再審請求を名古屋高裁にしていた。この事件もやはり自白が重視され、名古屋高裁は「普通の人は自分が死刑になりかねない重罪で自発的 にうその自白をするわけがない」とし、「取調べ時間の長さからいっても虚偽の自白をする可能性は低い」と述べ、「自発的な自白は当然ながら信用性が高い」とまで言い切っている。しかし、この事件でも意見書を出した『なぜ無実の人が自白するのか DNA鑑定は告発する』の著者の一人である米国ノースウエスタン大学ロースクールのスティーブン・ドリズィンSteven Drizin教授によれば、米国で虚偽自白による冤罪の明らかとなった125の事件について研究調査した結果、殺人事件が101件を占め、81%にもなっていることが分かった。殺人事件では警察が早い解明に迫られ、ベテランが自白をなんとか得ようとするために虚偽自白が発生しやすいと言う。無実の人ほど、若い人ほど警察に従いやすいと言う。米国では平均的な取調べ時間はだいたい2時間から6時間ぐらいの間だが、殺人事件では,取調べ時間は平均で6時間以上になり,24 時間ぐらいにわたる場合もあり、虚偽自白に結びつく確率・リス クは,取調べ時間が6時間を超え るとかなり高くなり、取調べ時間が6時間を超え て 24 時間ぐらいまでの間にかなり 多くの虚偽自白がなされ、これだけで73%に達する。同教授は「取調べ 時間の長さが虚偽自白を生み出すリスク要因の一つである」とする。そして、日本では取調べ時間が米国以上に非常に長く、長 い取調べの結果,多数の虚偽自白が生まれているのではないか、と言われる。日本では最大23日間も被疑者の身柄を拘束して、その間、毎日のように朝から晩まで取調べをするというシステムがあり、先進国の中でも異例だと言う。著書では被疑者に警察が心理的圧力を加える手法が述べられている。科学的とされるDNA鑑定も古いものは誤りもあり、再度最新のDNA鑑定をする必要があるが、日本では警察はほとんど最初の鑑定で血液の全量を使ったとして、最新のDNA鑑定が出来なくなっている。同教授は「自白という証拠は,それが誤った方向に働くならば, それ自体が司法手続をおとしめる,あるいは腐敗させる最も大きな潜在的な力をもって いる」と述べている。戦後の刑法学の基礎を築いた東京大学名誉教授で、元最高裁判所判事でもあった亡くなった団藤重光氏は1976年の最高裁判決の波崎事件で、冤罪の可能性がある被告人に対して死刑判決を出したことへの後悔から、死刑廃止を訴えるようになった。あまりにも長い日本の取調べ時間は被疑者に心理的な疲れをもたらし、虚偽自白をもたらしやすい。取調べの可視化が叫ばれているが、遅々として進まず、警察、検察、裁判所の自白偏重も改まることがない。冤罪は今後も増えて行く。団藤氏は「人間の終期は天が決めることで人が決めてはならない」と言っている。
孔雀草(くじゃくそう)

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