釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

戦略なき突撃

2018-11-06 19:15:03 | 経済
日本は太平洋戦争で敗けた。米国太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツChester William Nimitzは「日本は戦闘の先っぽではアメリカに勝ったが、戦略では無為にして負けた」と語り、敗戦直後、米国海軍士官は「日本海軍ばなぜ同じ手を繰返して、そのつど叩きのめされたのか」と問うている。短期決戦で勝敗を付けるとして始まった米国との戦いはニミッツの言った通り、戦略がなく、同じ手を繰り返すしかなかった。1941年12月8日の日本軍による真珠湾攻撃により米国との戦いが開始されたが、それから80年近く経った現在も日本は何も変わっていないように見える。戦略を持たず、ただ短期決戦での勝利を期して、ことに臨む姿勢は同じだ。現在の財務省出身の官僚である黒田東彦日本銀行総裁は、2013年4月から「2%の物価目標」を掲げて「異次元の金融緩和」に突入した。翌年には「異次元の金融緩和」がその目標を達成出来ないことが明らかとなったにも関わらず、その後5年以上も延々と「同じ手を繰り返し」ている。大量の国債と株式の購入と言うまさに「異次元」と言うよりも、むしろ「禁じ手」を使った手法を繰り返し、太平洋戦争中と同様に、株式では米国のヘッジファンドに完全に日本銀行の動きを読まれて、利益をヘッジファンドに貢がされている。年6兆円まで拡大した株式購入を、今では止めるに止められなくなってしまった。もはや「2%の物価目標」など達成出来ないことが明らかであっても、引くに引けない状況になってしまった。そのツケはいずれ必ず手酷い形で国民が払わされることになる。島国の独善的な官僚体質はいつまで経っても変わらないのだろう。自分たちが最終的な責任を取れるならまだしも、決して自分たちは責任を取らない。『日銀バブルが日本を蝕む』の著者、藤田知也氏は「結果論でいえば、異次元緩和の最大の失敗は、大規模緩和を始めたことよりも、想定どおりに2%を実現するのが困難だとはっきりした14年時点で、日銀や政府が現実を直視せず、緩和を強めれば次こそ実現できるとかたり続け、無理筋の強行路線を推し進めたことにある。」と述べている。そして「ささやかで庶民には実感の乏しい「日銀バブル」は、いよいよ限界に近づきつつある。そのツケがいつ、どう回ってくるかは見通せないが、はっきりしているのは、問題を先送りするほど払わされるツケは大きく膨らんでいくということだ。」と結んでいる。日本の財政法第5条は、日本銀行による政府発行の国債の直接引き受けを禁じている。太平洋戦争中は、日本銀行は直接引き受けをやっていた。国債の直接引き受けを中央銀行が行えば、政府の財政に対する姿勢が放漫になり、政府債務を際限なく積み上げてしまうからだ。しかし、現在日本銀行が行なっていることは実質的に、直接引き受けと変わらない。国債市場が枯渇するほどに日本銀行が市中金融機関の保有する国債を買い込んでしまっている。新規発行分の国債は、ほぼ全量日本銀行が買い取っている。ETFを通じた日本銀行の株式購入は、リーマン・ショックによる景気低迷を支える目的で2010年に開始され、2011年の東日本大震災で、非常事態への対策として買い入れ額が増額された。非常事態とは言えない2013年からはさらに買い入れ額が1兆円、3兆円、6兆円と増額され、この10月には単月で8700億円にも達しており、過去最高額となった。10月31日現在の日本銀行営業毎旬報告を見ると、保有国債は467兆円、保有株式は23.7兆円である。日本の経済の現状は、こうした異常な中央銀行の「政策」で支えられたものだ。しかし、いずれやって来る株式の暴落による日本銀行の損失は、誰が補填するのか。形の上では政府が中央銀行に資金注入することになるだろう。しかし、財政赤字の政府には本来そんな余裕はない。新たに国債を発行して、その資金で注入せざるを得ないだろう。この時の国債の購入は誰が行うのか。まさかここでも日本銀行になるのか。果たして、そんな日本の国債、ひいては日本の通貨「円」への信認は維持出来るだろうか。