ヒヨちゃんが行く!

松本市在住「大平滋子」の写真と詩のブログ

へちまのへ

2014-08-08 | ピープル



天邪鬼の竜太はハイと言ったことがない
だって
やっぱり
でも
ちがう
が口癖で朝から晩まで
二階の窓から這い出ては
屋根瓦の上から町を見下ろしている

大ホラ吹きの竜太はデキナイと言ったことがない
それはそうだ
これはこう
あれはおれのだ
あれもおれがした
が口癖で朝から晩まで
母ちゃんが軒下から眼をはって
イイカゲンニオシと怒られている

盆も近くなってヘチマの蔓が
竜太のいる二階の屋根瓦まで這い上がってきた
黄色い花が咲いている
オレの大きさに比べたらなんて小せえ花なんだ
へ、へちまのへ!
竜太は吐き捨てるように毎日ヘチマに悪態をついていた

秋になっても竜太は相変わらず屋根の上である
悪態をつかれたヘチマは頬をぱんぱんにふくらませて
腹など破裂せんばかりの勢いで育っている
へ、ヘチマのくせにでかい顔しやがって
虫の居所のわるかった竜太は一番でかいヘチマを蹴っ飛ばし
その勢いで屋根から落ちた

へ、へいちゃらさ
竜太は落ちた直後こそ大きな口を利いていたが
だんだんあちらこちらが痛み出し
これは大事かもしれないと生まれて初めて落ち着かない心地になった

医者が来た
やせたジジ医者だった
曇った牛乳瓶の底のような眼鏡越しに
のう、竜太 おまえが蹴飛ばしたヘチマがえらくでかくての
その上におまえが落ちたものだから
ヘチマはバラバラに砕けてしまったわけだ
だがな ヘチマが砕けてくれたお陰で
命に別状はない
まあ これからはヘチマをととさま、かかさまと思って
大切にすることだな




傷が癒えたのは一週間ぐらい後だった
自分がつぶしたヘチマの真白な種がまだ道に残っていた
拾っても 拾っても 拾いきれない数の種だった
へ、ヘチマのへ
文句を言いながら種を大切に懐にしまってみた




※ 下の画像の小さいオレンジの粒々がヘチマのめしべ 種がたくさんなるわけだ

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