マッチを擦って
堅めに絞った新聞に火をつける
松や杉の葉を集めた上に薪を延べ
それをそっと差し込む
頃合いを見計らって
優しく団扇で火をあおる
焰は赤や朱に姿を変え
時々青く、緑に輝いた
そうして湯が沸けば
熱いのゆるいのと
五右衛門風呂を跨いだ
湯はご馳走だったころの
とおい昔の
まだ心に残る
その榾火の
温とさ
よ
雪待ちの空は
魚の腹の色で
粒状の何かしらが
鱗になって
ザワザワと
蠢いている
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/ff/b3639df3a6ccf4cfba91f4fe164374b1.jpg)
あんなに雲の底は
暗いのに
サンゴの授精のような
白く灰色のかがやきを
30㎞先の
山頂に見ることができる
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/9b/c81b87477e84eab288d0876f319dbb9f.jpg)
ああ
それは気配というものだよ
ゴムがちびた杖を大地に刺しながら
カタカタ老婆が笑う
今朝方うすら雪が積もったがね
あんた寝てたでしょ
その後は雨だった
図星だね
雪待ち顔の気配が
漂っている
そういうシーズンが来たと
コンビニのレジ横の
賀状の種種様々
赤いバイクの郵便局員が
「今日の分売れた?」
と言い合って
釣瓶落しの町を
すれ違っていく
来年の干支が
ふいにわからなくなった
自分に驚きながら
正月が来ることを
まだ
漠とであるが
感じてみる
山際すれすれの光が
影を際立たせ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/49/109dee5cc594a6234c4a4c0168f56dd3.jpg)
ため息のような吐息にも
影を作る
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/93/de60cae15962f4ab4fe41e54dc4a9621.jpg)
私の背丈には
もう届かなくなった冬の西日の
まだ空とビルの窓を染め
嗚呼
どうしようもなく
その消息が
知りたくて
この黄昏れた町を
走り出す
行き先も
見えなくなった
残照の
この空の下を