今夜はえらく静か。
誕生日にいただいた日本酒と、これもまたいただいたお土産で早くから飲み始めた。
お酒が弱くて嫌だと言う方が居る中で、浴びるように飲まないと酔えないのも辛いのだよ。
少しボーッとしてきた。
憧れのあの彼女が見えてきた。
弱気になっているのかな…。
幼い頃の私は体が弱く、チビで華奢で、学校も休みがちだった。
ちょっと下を向くと先生に“しんどいの?”って聞かれた。
親しい友達もいなかった私は、学校が嫌いだったので、よくそれを利用した。
黙って頷くと、保健室で寝ていてよかった。
何もかもから、理由をつけて逃げていた。
そんな私だから友達なんかいやしない。
しかし友達がいないのはそれほど辛くはなかった。
独りで空想にふけったり、編み物したり手芸したり、本を読んでいるのが好きだった。
そんなある日、担任の木下と言う若い女教師がクラスの女子をグループ分けをした。
いつもキャアキャア言ってる女子と、そうでない子に分けられた。
大人しい子と一緒なのは構わないが、中には不潔っぽい子もいた。
それが許せなかった。
人から見て私はそう見えるんだと思った。
屈辱だった。
それからの私は、転勤する親の都合を生かして少しずつ自分を変えてきた。
大阪の寝屋川でのこと。
小学四年の時、転校してきた私に執拗に意地悪する男子がいた。
キツネのような細い子で柴田君と言った。
今考えると好意かもしれないが、幼稚なちょっかいが迷惑だった。
心から馬鹿にしていた。
ある日、放課後の掃除していた。
いつものように完全無視していた私に、彼が飛び蹴りをしてきた。
そんなの全く平気だったけど、ちょっと脅かしてやろうと声を出して泣いてみたのだ。
周りは傍観。かばってもくれない人ばかりだったっけ。
傍観者はカスだ。
すると、どこからか私の前に立ちはだかった人がいるではないか。
彼を責めた。そして突き飛ばした。
体の大きな彼女に突き飛ばされて彼は吹っ飛んだ。
彼女の名前は楠山春美さん。
クラスでも明るくて華やかで人気者だった。先述したように、身長も高く少し太めなくらいだった。
大輪の向日葵のような人で、憧れていた。
その日、彼女は私を家に呼んでくれた。
私は幸町。彼女は帰り道に通る豊野町。
暗くなるまでホッピングで遊んだ。
それから仲良くなっていったものの、私が転校することになったのだ。
“ずっと仲良しだよ”
そうは言っても、子供同士。いつしか連絡は途絶えてしまった。
彼女の面影を追いかけ、彼女みたいになりたくて、体力もない私が中学ではテニス部に入った。
上手くはならなかったが、体力がつき、
食も増えて、身長も急に伸びた。
頑張るにも体力が要る事が分かった。
そこに生来の負けず嫌いが加担して、私は人から見て“冴えない子”から抜け出した。
あれからどれくらい経ったのやら。
人は変われる。
ただ、自分にかけたプレッシャーが強すぎて、私は別人になった。
私の中には二人の自分がいる。
やっちさんと康子ちゃん。
康子はやっちさんが大好きで、何でも凄く依存している。やっちさんの影で守られている。
強くて、決断力あって、私の前を歩いていて、頼れるお姉さん。
そんなやっちさんも限界があるみたいで、たまに深酒をする。疲労した自分を失うために。
そして彼女は意識を失う。
私だけが取り残される。
恐ろしく子供のままの私だけになって、どうして良いか分からず、その場に崩れてしまう。
努力して得たものは大きい。
経験も人脈も財産も。
でも、人には限界がある。
体力も精神も命も。
SNSを始めて、最初に探したのは“楠山春美さん”
結婚されたのか?そう言うサイトは見ないのか?見つからない。
今どこにいるんだろうか?
まだ大阪にいるのだろうか?
彼女に会いたい。
ずっと長い間探している憧れて止まない人。
いつまでも向日葵のままで…