ねるまえとねおき

ねるまえみたいにいろいろ考える自分と、ねおきみたいになんもかんがえない自分の思ったことを、思いついたときにかきます。

遺伝子組み換え作物コンセンサス会議

2007-02-04 21:07:17 | 環境
 昨日と今日北海道札幌市で遺伝子組み換え作物のコンセンサス会議というものがありました。
これは、遺伝子組み換え作物について一般市民はどのような考えを持っているのか、また、さまざまな情報を与えられ、市民同士で議論した結果どのような考えになるのか。四回の会議を通して市民の提言を作成する会議です。

 僕は農学部で遺伝子を組み換えたり、操作したりする技術を学んでいます。この言葉を聞くと多くの方は少し引いてしまうかもしれません。やはり「遺伝子組み換え」という言葉になにか抵抗を感じてしまうのでしょうか。中学生のときにたまたま読んだ一般向けの科学書に書いてあったのは、「遺伝子組み換え植物を作れば、農家の苦労は減り、砂漠で育つ植物を作ることができ、石油の出る木がつくれるかもしれない。」たぶんこんな内容だったと思います。
今考えるとかなりこの技術をかっていた人が書いた本だったのかもしれませんが、それにしてもすごいと感心して、興味を持ちました。地球環境はひどくなる一方だと学校で洗脳されていたためかもしれませんが。
 大学に入ってみていろいろなことを学ぶと、そんな夢物語はほど遠いということがわかりました。砂漠を緑化しても、砂漠がなくなってしまうことはいいのか。農家の負担を減らして遺伝子組み換え作物を作っても、消費者が敬遠して買ってくれない状況では意味が無い。遺伝子組み換え植物を野外で栽培することで、遺伝子汚染が広がり、生態系を破壊してしまうのではないか。スーパーには「遺伝子組み換えダイズは使用しておりません」と印刷された豆腐が並び、その横では表示のされていない植物油が置いてあります。世の中の人々はなぜこのように拒否反応を持つようになってしまったのか、自分がこのままこの技術を研究していくことに意味はあるのか。そんな疑問を持っていた矢先、このような会議が開かれてることを知りました。この会議の存在を知ることができたのは、農学部のある先生のおかげでした。その先生は遺伝子組み換えという技術に希望を持ちながらも、世間には認められていないという現状を嘆き、この技術を多くの人々に知ってもらおうと対話を重ねる努力をされています。研究者という立場から、一方的にこの技術のよさを説くのではなく、どのような部分で反感をもたれているのかを非専門家の目線に立って考えるという試みをなさっています。すると、反対という意見の中にも、遺伝子組み換えということはよく分からないがなんとなく抵抗感があるという意見から、この技術は将来に希望をもつ有望なものであるが、今その作物を食べさせられることに抵抗があるなど様々なものがあるのです。ただ有用性を押し付けるように説明するだけで、その技術を利用する社会が抵抗感を持ってしまっては、技術の進歩、社会のどちらにとっても大きな損失となります。対話を通して、余計な回り道をせぬようにこの技術を有効に利用していくためにというのが、今回の会議が開かれた理由のひとつであると考えています。

 さて、その会議について話を戻します。
昨日は推進派、反対派、官、経済学者など、様々な方面の専門家がこの技術について持論を展開していました。僕は傍聴者としてその話を聞いていました。

 推進派の意見として、この技術による健康被害は今のところ確認されていない。今後の人口増加、途上国の先進国化などを考えると、この技術を利用した食糧生産の増加は必要である。遺伝子組み換え作物を食べることが原因で引きおこされると言われている様々な病気は、それが原因であるという根拠が薄い。
などがありました。現在の遺伝子組み換え作物には除草剤耐性遺伝子や害虫耐性遺伝子が組み込まれています。除草剤耐性遺伝子を持った作物を育てるとどういいのか。農家は雑草に対する農薬を撒く際に多くの植物が共通して生育できない農薬を少量撒くだけでいいのです。農薬の使用量が減ることは、生産者にとっても消費者にとってもいいことです。組み換え作物はその除草剤を分解して生きていける遺伝子を持っているので、何も無かったかのようにその作物だけ生きていくことができます。このため、遺伝子組み換え作物の種を売っている会社はその耐性遺伝子が分解できる農薬を必ずセットで売っています。こうすることにより、巨額の利益を得た企業はさらに世界の種子会社を買収して子会社化し、その土地にあった品種をもつ種子に薬剤耐性遺伝子を導入して、各地の農家に売ります。大規模化した数社の企業が市場を独占し、遺伝子組み換えは安全であるという研究をしている研究者に研究費を配ります。このような遺伝子組み換え作物を取り巻く現状は、消費者に不安を与えます。また、農薬の使用量減少のうたい文句に乗った生産者ですが、最初は減少した農薬使用量も耐性植物の出現によるためなのか、年々増加傾向にあるというデータもあります。

 これに対し、反対派の意見は安全性の評価が甘い。アレルギーの原因になる物質が予期せぬ形で遺伝子組み換え作物の中に生成されるかもしれない。現在の表示制度の不備、自然生態系への影響をもっと考慮すべきだなどがあります。

 確かにまだまだ分からないことが多くどんな危険があるか分からない技術ではあります。しかし、どのような技術にもデメリットは存在します。死ぬ可能性があるから自動車を社会から失くすことに賛同する人はどれだけいるでしょうか。電車も飛行機もそうです。放射能がもれるから原子力発電は行わないべきでしょうか。リスクを指摘するのは容易です。また、このような意見は平和で毎日食べ物にあふれた国に住んでいるからこそ言えるということもできます。日本はカロリーベースでの食糧自給率が40%前後でありこれは危機的な状況であります。現在日本が食糧を輸入している国も、人口増加が進み異常気象が続くと、いつ食糧輸入国に変わるか分かりません。いくらお金を積んでも、自国民を食べさせずに日本に食糧をおくるようなことはしないと考えるのが当然でしょう。明日の食べ物が無くなったときに組み換え作物だからアレルギーが出る、なんとなく気持ち悪い、環境への影響が心配と言って食べない人はどれだけいるでしょうか。現在、地球環境は予想を上回る速度で悪化し続けています。厳しい気象条件でも育つ作物を遺伝子組み換えによって作るということは、人が生きるか死ぬかとなったときにどのように評価されるのでしょうか。もし、途上国でこの技術が開発されていたら、世界は今とは違った方向に向かっていたかもしれません。

 このように、この技術は単に遺伝子を組み換えた作物を作るということだけではなく、経済や、倫理、人類の未来など、本当に複雑な問題を含んでいます。今回の会議に出たからと行って簡単に結論が出るとは思いませんが、真剣に考えるための材料となったことはとても良かったと思います。問題から目を背け、受動的になるようになるのを待つだけではなく、能動的に考えて生きたいと思いました。

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