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旧ソ連を歩いて:(6)地元評論家が読み解くウクライナ情勢

2014年07月04日 | 国際 ヨーロッパ

2014年07月03日

ウクライナ最高会議(国会)での就任式を終え、記者団に手を振るポロシェンコ大統領=キエフで2014年6月7日、真野森作撮影
ウクライナ最高会議(国会)での就任式を終え、記者団に手を振るポロシェンコ大統領=キエフで2014年6月7日、真野森作撮影

 選挙で大勝したポロシェンコ新大統領の誕生を経ても、情勢安定化が見通せないウクライナ。キエフの政治 評論家とモスクワの軍事評論家に現状と今後の展開を読み解いてもらった。政権内部の「戦争派」と「現実主義派」、困難な政府軍の勝利−−。複雑な構図が浮 き彫りとなった。

   ◇

■ウクライナの政治評論家、ミハイル・ポグレビンスキー氏

=政治研究紛争問題キエフセンター所長。キエフ市議を経て、歴代政権で内政顧問などを務める。6月20日に書面で質問に答えた。

 −−ウクライナ情勢の今後は?

 可能性の幅はとても狭い。敵対の日々が続いており、東部や南部をウクライナ領にとどめたまま平和を取り戻す可能性は低くなりつつある。

 現政権は明確に二つの党派に割れている。「戦争派」と「現実主義派」だ。現実主義派は、東部・南部の反 乱者たち(親露派勢力)やロシアとの合意が不可避だと理解している。だが、西部や中部、キエフを中心に社会で広い支持を有する戦争派が優位を占めている。 緊張を加熱させ、戦争へと導いているメディアも戦争派を支持している。さらに、米国など国際レベルでも支持を得ている。

 こうした条件において、ポロシェンコ大統領らに代表される現実主義派が取り得るどんな譲歩も、戦争派と彼らの支持者によって子細に検討される。背信やテロリズムへの譲歩ではないか、と。

 この結果として、政権は、お互いが本質的な譲歩を行う平和的解決案を反乱者たちへ提示できないでいる。 ポロシェンコ氏の平和構築プランは希望を与える内容も多少は含むが、極めて不明瞭だ。さらに紛争の両者間に信頼が欠けており、国際的な仲裁者が必要だ。  軍事対立が早期に解決する公算は今のところ極めて小さい。大統領が世論を抑えて戦争派への支持を弱めることに成功するという、ほのかな希望はある。だが、 今のところ、彼はそのために十分な努力をしていない。

 戦闘における質的な変化を想定することもできる。例えば、ウクライナ軍が優勢になるとか。だが、これは紛争終結を意味しない。単にゲリラ戦など異なる形になるだけだ。

ポロシェンコ大統領の就任式に参加したバイデン米副大統領。米国から持ち込んだ専用リムジンの最後部座席から記者たちを眺めていた=キエフで2014年6月7日、真野森作撮影
ポロシェンコ大統領の就任式に参加したバイデン米副大統領。米国から持ち込んだ専用リムジンの最後部座席から記者たちを眺めていた=キエフで2014年6月7日、真野森作撮影

 −−ポロシェンコ氏は「良き大統領」として、5年間の任期を全うできるだろうか?

 任期を務めあげるチャンスはさほど大きくない。彼の前には二つの大きな障害物がある。長引く戦闘と経済危機だ。戦闘が数カ月や数年にわたって長引けば、それは敗北に等しい。平和を実現させるべくポロシェンコ氏に投票した人々も、彼に勝利を期待した人々も失望させる。

 一方、深刻な経済情勢は国の社会状況に悪影響を及ぼし、反政府的なムードを促進していくだろう。それは、クーデターという結果になるかもしれない。彼の政治的ライバルたちも抜かりはしないだろう。

 もし、彼が両方の課題を解決したならば……。対立する両者が共に「勝利」と言い得るような和平を達成 し、経済成長の芽生えを与えられたならば……。その暁には彼は良き大統領となる。明白なのは、ロシアと前向きな関係を構築しなければ、彼にチャンスは一切 ないということだ。

   ◇

■モスクワの軍事評論家、アレクサンドル・ゴルツ氏

=旧ソ連国防省機関紙「クラスナヤ・ズベズダ(赤い星)」の記者と解説者、主要週刊誌「イトーギ(総括)」の軍事・政治解説者などを歴任。インタビューは6月20日に実施した。

 −−ウクライナ情勢の今後は?

 これは大きな問題だ。この数カ月、みんな予測に失敗している。我々の分析は論理的な根拠に基づいていたが、ロシアの政策は非合理的な要素に基づいていた。それは誇りや劣等感などの感情だ。今、東部の情勢は非常に変わりやすい状態にある。

 未知の要素が三つある。第1に、ウクライナ軍が十分な軍事力や軍事資源を有しているかはっきりしない。 第2は、武装集団の戦闘継続の意思だ。第3には、ロシアの立ち位置だ。ロシアは国境沿いに軍部隊を派遣しているが、理由は不明だ。東部侵略にはとても足り ない。おそらく心理的プレッシャーが目的だろう。未知の要素があるため、今後しばらくの展開を予想するのは難しい。

 ウクライナの政権側は、(ポロシェンコ大統領の)平和構築プランを実現する前に軍事面で可能な限りの優位を確保しようと望んでいる。だが、これは致命的な誤りだ。第二次大戦以降、このようなタイプの紛争を勝ち得た者はいない。

 −−ロシアの立ち位置をどう見るか?

 プーチン大統領は、ロシアにとっての真の脅威は(2003年以降グルジア、ウクライナ、キルギスの旧ソ 連諸国で起きた)「カラー革命」だと信じている。プーチン氏の目標はウクライナ国内に無秩序状態を保ち、ロシア国民と旧ソ連諸国民に見せつけることだ。 「見よ。全てのカラー革命は内戦に終わるのだ」と。これが戦略的目標なのだと思う。

 −−ロシアは無秩序状態を保つために、武装集団を支援しているのか?

 間違いない。多くの人間が義勇兵と称してロシアから現地入りしている。ただ、東部の武装集団に加わったロシア人は、クリミアを制圧した武装勢力と は明らかに異なる。クリミアに関しては専門家は即座に「軍事のプロフェッショナルだ」と判断した。行動や武器の扱いから明白だった。今回参加している人々 は軍務経験者の可能性は高いが、プロではない。

 武装集団側の重火器の量は限られている。対空ミサイルを保有しているのは明らかで、これらがロシアから入ってきた可能性は極めて高いが、限定的だ。そして、こうした兵器には特別な訓練が必要で、扱えるのは限られた人々だけだ。

ドネツク中心部での親露派集会で演説に臨む指導者のプシリン氏(奥)。自動小銃で武装した民兵が何人も警護に立っていた=ウクライナ東部ドネツクで2014年5月24日、真野森作撮影
ドネツク中心部での親露派集会で演説に臨む指導者のプシリン氏(奥)。自動小銃で武装した民兵が何人も警護に立っていた=ウクライナ東部ドネツクで2014年5月24日、真野森作撮影

 −−それでも、ウクライナ軍が勝利するのは難しいのか?

 間違いない。武器の質ではなく、作戦の出発点が問題だからだ。こうした市街戦では武装集団は必ず一般市民を「人間の盾」に用いる。そのため、軍部隊は全火力を投じることができなくなる。流血の惨事が起きれば容易に非難の的となりうるからだ。

 −−ロシアの国営テレビは最近、現地でのロシア人記者の死亡を繰り返し報じ、親露派指導者による支援要請も報じている。世論に影響を与えるのではないか?

 これらの全てのヒステリックなプロパガンダ・キャンペーンは、政権によって統制されており、必要ならいつでも停止できる。親露派指導者もロシアが間違いなくコントロールしている。

 −−親露派への支援を続けると欧米諸国は制裁に踏み切るのでは?

 そんなにタフではないだろう。欧州はロシアと深い経済関係がある。制裁は必ず自らの経済にも跳ね返る。簡単な選択ではない。

 −−ロシアが東部へ侵攻しなければ、欧州は制裁を欲しない?

 そう考えている。ロシアの戦略はある種のバランスだ。侵攻の可能性をギリギリ見せつつ、侵攻はしない。

 −−プーチン大統領の戦略は現在、成功している?

 彼の個人的観点からすれば成功しているだろう。国民の支持は劇的に向上し、大部分の国民は政策を支持している。だが、長期的に考えるとこうした政策は全て、ロシア経済の悪化を意味する。遅かれ早かれ、国民は日常生活上の問題を政策と結びつけ始めるだろう。

 −−ウクライナではポロシェンコ大統領が長期政権となりえるか?

 ウクライナは今、とても深い危機にある。政治、経済、軍事、すべてだ。おそらく、原因はヤヌコビッチ前大統領が構築した政治システムにある。彼は「汚職の国」の大統領だった。ポロシェンコ氏が手にしているものは、ヤヌコビッチ政治の結果だ。特に経済は完全に破壊された。

 −−ポロシェンコ氏は自国経済を欧州経済に統合しようと望んでいるが、成功するだろうか?

 神のみぞ知るだ。欧州との連合協定は移動や貿易面で多くの有利な点を与える。だが、同時にこれは挑戦でもある。ウクライナの工業は大部分がロシア 市場を向いてきた。欧州がウクライナ製のヘリや船のエンジン、ロケットやミサイル技術を買うだろうか。ウクライナ経済を欧州経済に結合するには何年もかか る。難しい挑戦だ。

 −−北大西洋条約機構(NATO)に関しては?

 ウクライナがNATOに加盟するチャンスは全くない。93年にNATOは特別なルールを導入し、加盟する国は全て満たす 必要がある。その条件の一つが「領土紛争を抱えていないこと」だ。ウクライナはロシアのクリミア併合を認めることはないから、NATO加盟のチャンスもな い。NATOや欧州諸国、米国の軍部隊をウクライナ領内に展開するチャンスもない。だが、これは良いことだ。最悪なのは、ウクライナ領内でロシアと NATOの軍事紛争が起きることだからだ。

午後11時を前に夕暮れを迎えたキエフの独立広場。ここでの反ヤヌコビッチ政権デモが長引く政治危機の始まりとなった=キエフで2014年6月7日、真野森作撮影
午後11時を前に夕暮れを迎えたキエフの独立広場。ここでの反ヤヌコビッチ政権デモが長引く政治危機の始まりとなった=キエフで2014年6月7日、真野森作撮影


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