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「広がる 日本酒で乾杯条例」

2015-03-21 13:37:31 | 社会問題・生活
くらし☆解説 2013年10月11日 (金) 
合瀬 宏毅 NHK 解説委員
岩渕)食欲の秋とともに、日本酒がおいしい季節になってきました。こうしたなか日本酒で乾杯しようという条例が全国に広がっています。乾杯条例の背景について、合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員とお伝えします。
 

岩渕)日本酒で乾杯条例、どういうものですか。
 岩渕さんは食事をするときどんなお酒を最初にのみますか?涼しくなったとはいえ、とりあえずビールという人が多いと思います。
 日本酒で乾杯条例というのは、最初の乾杯を日本酒でやりましょうという条例で、各地に広がっているのです。
 
岩渕)そうなのですか?
 こちらご覧ください。
 

日本酒造組合中央会が纏めた日本酒乾杯条例が成立した自治体ですが、ここ1年で急速に広がっている。
今年1月に京都市で「清酒の普及促進に関する条例」が施行されたのをきっかけに、ことし3月には佐賀県鹿島市が「日本酒で乾杯を推進する条例」を成立させました。
さらに6月には、福島や石川、兵庫、など7つの自治体で次々と成立。何れも日本酒の名産地で、現在では13の自治体で日本酒で乾杯条例が成立している。
 
岩渕)そんなにあるのですか。
 こちらは今月、条例が出来た兵庫県姫路市の市議会です。地元の日本酒をもり立てて、観光の促進や地域活性化を目指そうというものです。
 地元の酒造メーカーは今回の条例で日本酒に関心を持ってくれる人が増えることを期待しており、乾杯用の容器なども作っています。
 
岩渕)日本酒が嫌いな人はどうするのですか?
 もちろんこうした条例、あくまでも行政や事業者、市民に普及への努力を求める内容で、罰則や強制力はありません。
 個人の嗜好を条例で決めるのはどうかという声もあり、宮崎県の都城市では、「酒を飲めない市民もおり、法律で勧めるのは良くない」という反対意見が出され、否決した自治体もある。
 
岩渕)しかしこうした条例、効果はあるのか?
まだ何とも言えないが、初の条例成立となった京都市では飲食店などに「日本酒で乾杯しておくれやす」という、こうしたポスターなどを貼り、観光客に訴えていますし、酒造組合は乾杯用の1杯目の日本酒をタダで提供したりして、客に呼びかけるなどの取り組みを行った。
その結果、京都のあるホテルでは、今年前半の消費量が前年の2割ほど伸びたとしている。
 

最初の一杯を日本酒で乾杯すると、あとも日本酒で、となることもあり、なにしろ外国人客が喜んでいるという。
 
岩渕)なぜこうした条例を考えたのでしょうか?
二つ理由があるのですが、まずは日本酒の消費低迷です。
 

これは日本酒の消費量ですが、1975年には170万キロリットルを誇った清酒の消費量は、年々数量を減らし、ここ数年は60万キロリットルと3分の一近くになっている。
その結果、地方の酒蔵も75年の3200カ所から、1700カ所と大幅に減少している。地域にとって酒造メーカーは重要な産業の一つですから、地域としてもこれを応援する必要があった。
 

岩渕)それほど落ちているのですか
政府系の銀行がレポートしているのですが、いくつかの原因がある。
いまはビールをはじめ、焼酎、ワイン、ウイスキーなどアルコールが多様化し、相対的に日本酒の地位が落ちてきている。
 また食生活も変わってきました。かつては和食中心で、合うお酒といえば日本酒でした。しかし私たちの食卓はすでに洋食中心で、日本酒はこれに十分対応できていない。
 
岩渕)確かにそうですね
さらに、日本酒のイメージの低下です。ワインやウイスキーなど洋酒には「おしゃれ」「格好いい」というイメージがある一方で、清酒については「オヤジくさい」「悪酔いしそう」などどちらかと言えばマイナスイメージが強い。
さらにパック酒など、低価格帯の商品が増えたことで、清酒全体のイメージが落ちたとしている。
ただ最近は、純米酒など品質を高め、おしゃれな容器に入った清酒も各地に増えてきていて、消費も少し持ち直していますよね。
 

岩渕)乾杯条例、他にも理由があるのでしょうか。
地域興しです。そもそも日本酒乾杯条例を最初に制定した京都市では、「京都には伝統産品がたくさんあるのになぜ日本酒だけ?」と反対する声が強かった。
ただ、日本酒を飲むためにはおちょこやとっくりが必要。日本酒の需要が伸びれば、地元の酒の器の清水焼にも注目が集まるし、日本酒に合うのはなんといっても和食。京都には京野菜があり、京漬け物や京料理も盛ん。日本酒を飲むときには和服を着て飲みたいという人も増えるかもしれない。効果は日本酒の需要拡大にとどまらない。
このように日本酒は日本文化を楽しむ入り口ともいえる存在で、日本酒を盛り上げれば、地域振興につながると議会も賛成に回った。
 

岩渕)経済の波及効果が期待されると言うことですか。
 そうです。最近条例だけでなく最近、食べ物による地域活性化の取り組みが増えている。
<VTR>
例えば佐賀県鹿島市では市内の6つの酒蔵を回りながら、酒や料理を楽しむ、酒蔵ツーリズムが大変な人気となっている。観光客は市内に点在する日本酒や焼酎の酒蔵を、巡回するバスに乗って回る。今年は二日間で5万人の客で賑わったと言います。
一方こちらは各地のご当地グルメを集めたB-1グランプリ。地域で愛されている料理を集めたこのイベントで、一旦優勝すれば、地域には観光客が押し寄せ、大変な経済効果があると言います。このため多くの地域がご当地グルメの発掘に取り組んでいる。
地元のお酒や食べ物が、地域活性化の大きな柱になってきているわけです。
 

岩渕)地域にとって大変なメリットがあるのですね?
 しかも自治体にとって取り組みやすい条件が揃っている。例えば食による地域おこしは、すでにそこにある地域資源を使った取り組みなので、お金はさほどかからない。
にもかかわらず、地域の認知度やイメージ向上につながり、地域への愛着向上という効果が期待できる。日本酒での乾杯条例はまさにその典型例。
さらに最近ではこうした動きに対する国の支援がふえてきている。
さきほど紹介した酒蔵ツーリズムなどは観光庁がクールジャパンの一つと位置づけていますし、農林水産省も食のモデル地域構築計画として補助金などを出して支援している。
 

岩渕)乾杯条例などの動き、今後も広がっていくのでしょうか?
 お酒など日本食文化は、気候風土に根ざした地域観光のコンテンツとして注目されてきていますし、様々な地域でいろんな食のイベントがあるのは消費者としても楽しい。
ただ最近は1カ所ヒットしたら同じような物が次々と出来て、違いがわからなくなっている。一過性ブームにならない、地域性をいかした多様な取り組みをやって欲しい。



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